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28 突然の王弟殿下の訪問話に驚き、礼儀を欠いた相手に牽制し、人形保護施設に案内する

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 王弟陛下が面会に来ると聞いた時、珍しく俺は口から珈琲を吹いた。
 行き成り大物だな……と思ったと同時に、やはり国王が仕事をしていないのだと理解し、溜息が零れる。
 この国は今の国王になってから衰退の一途が激しい。
 決めねばならない法案、決めねばならない事案が全く進まないのだ。
 それでも王弟殿下と王妃様が頑張っているお陰で他国から舐められる事は無いが、それでも芳しくは無かった。
 ――故に、西の大陸から目を付けられたんだが。


「明日は大変な事になりそうですね」
「なんじゃ、ほうほう。王弟殿下がお越しになるのか」
「明日はお陰で静かに過ごせそうです。今日来ていた面子は消えて貰いますが」


 そう、今日は今日で大変だったのだ。
 沢山の考古学者たちが会わせて欲しいと詰め掛けてきたが、「ローダン侯爵様からの紹介状はお持ちですか?」とハッタリで口にすると全員が口を閉じた。
 彼らの名前はしっかりノートに記載させて貰い、ローダン侯爵に連絡済みだ。
 確かに目新しい事、知りたい事への好奇心とは大事な事だ。
 だが、好奇心に殺されることがあってはならないと俺は思う。

 ダーリンさんはああ見えて軍人人形。そして山茶花さんは護衛人形。
 当時の軍部や護衛人形はとても強いと言うのは言うまでもないのだけれど、彼らに狙われれば首など簡単に飛ぶだろう。


「はい、これで最後」
「ありがとう御座います。俺が出ると連れて行こうとする輩がいますからね」
「全く、私を護衛人形として作って置いて良かったねぇ」
「ええ、本当に」


 そう、マリシアは俺の護衛人形だ。
 剣は使わないがナイフ、もしくは体術での護衛が得意とするように作られている。
 ミルキィもいる事から、作り替える時に完璧な護衛人形として作り直したのです。


「まぁ、ワシは愛玩じゃからのう」
「可愛らしいお爺様がいる事は大事ですよ」
「ふぁっふぁっふぁ!」
「ま、アンタは可愛いくらいで丁度いいよ。他の人形達の総括も出来るから安心だし」
「総括と言えば、牛用とブタ用となると、匂いは兎も角として肉として持って来て欲しい所じゃな」
「それは言えてますね。明日交渉してみます」
「生肉類はトーマのアイテムボックスに入れて置けば腐らんにしてものう」
「現物は困りますよね。ブタや牛はデカいですし。ヤギくらいで充分ですよ」


 そう言って溜息を吐き、部屋の電気を消してから箱庭へと戻る。
 玄関を開けて物色されたとしても特に取られて困るものは魔道具しかないので、それだけは箱庭に持って行きリビングに置いて料理の用意を始める。
 ミルキィは俺が帰ってくると抱きついてきたが、何でも此処で人形を作ると調子がいいらしい。
 恐らく魔素が影響しているんだろうと語り合ったが、黒カレーを使った焼きカレーを作ると皆で美味しく頂く。
 チーズタップリで旨味もアップだ。


「それで、明日は王弟殿下が来られるの?」
「ああ、それとローダン侯爵様と、考古学大臣の……ロンダ様だ」
「ロンダ様って余り良い噂聞かないわよね」
「そうだな……お若い頃とはいえ、人形師のレベルを下げた一人でもあるからな」
「老害って言われてる一人でしょう?」
「ある程度の年齢になったら定年で良いとおもうんだよな。正直改革を進めるにしても老害が邪魔をしていたら全く事が進まない」
「何でも利権絡みよね。嫌だわ」
「貴族なんて金絡みがあってナンボの生き物だろう?」
「それは言えてるけれど」
「シャルロットはそういう人たちはバッサリ切るからな……そういうのが嫌いなんだろう」


 そう、あの中でアンクとプリポ、シャルロットはその手の人間にはとても厳しい。
 自分たちが苦労してきた事があるからだろうが、気持ちは理解できる。
 俺は自由でいたいからこそ、もぐりの人形師で居させて貰っているし、人形は作れないと断言している。
 作れる事を隠しているだけではあるが、正直応用人形が作れても性格がランダムだと怖すぎて……。
 それでも――。


「ミルキィ用に護衛人形を作ろうかと思ってるんだけど、どうです?」
「そうね、いると安心だわ。人形を送り出す時だけでもいてくれるといいけど」
「なら護衛人形を作りましょうか。見た目はどんな感じがいいです?」
「背の高い美人な男性がいいわ! こう、見目麗しいっていうか、一瞬女性と見間違うっていうか!」
「んん――……ミルキィは変わった趣味なんですね」
「それで肉体派なの! 燃えるわ!!」
「そうですか……凄く美人な人形を作ってあげますよ」
「ありがと~!」
「ついでに料理を作れたらいいんですけどね。護衛人形に料理は難しいですからね」
「悪かったね。獲物の解体なら得意だけど」
「そこは性格じゃな。人形の性格によっても変わってくじゃろうよ」
「それもそうですね」


 その性格こそが一番の問題なんですが……完全ランダムですし。
 思わず溜息を吐いたけれど、夜はミルキィと一緒に護衛人形を作る事となった。
 背は高すぎると問題なので、モデル体型くらいの男性にして……髪は若草色のストレートロング、少し目尻の下がった落ち着いたグリーンの瞳に泣き黒子付きの顔をイメージして作り組み立てていく。
 服は明日の昼買いに行くとして、組み立てまで終わると人形を椅子に座らせておきました。


「名前はヘロスにしようかしら?」
「ヘロスですね」
「見目麗しい男性が出来たわね……目を閉じてても美人が眠ってるみたい」
「そういう希望を出したのは貴女でしょう?」
「後は性格ランダムが待ってるのね……」
「何が出ても文句は言わないで下さいよ……ミルキィと一緒にいて違和感のないタイプを選びたいですがこればかりはランダムです」


 こうして明日の昼に人形の服を買いに行くことにしてその日は早々に風呂に入って休み、翌朝早めに起きて朝食を作り、洗濯物をミルキィに頼んで箱庭の外に出て自分の家に到着すると、今の所家は荒されていないようだ。
 紅茶を飲みながら待つ事数十分後、ローダン侯爵が現れ食器を台所に置いて挨拶をすると、ローダン侯爵様にロンダ伯爵、そして王弟殿下が現れた。


「朝早くにすまないな。こちらは王弟殿下でモリミア様のお父上だ」
「初めまして。トーマ・シャーロックと申します」
「うむ、君も考古学者だと聞いている。君のお陰で歴史的一歩が踏み出せた。礼を言う」
「そちらは考古学大臣のロンダ伯爵ですね、初めまして」
「そんな事より早く案内せんか!! この役立たず!!」


 その言葉に俺は笑顔でローダン侯爵様を見つめると、頭を抱えてロンダ伯爵に声を掛けた。


「トーマ殿に礼を欠いてはならぬと伝えた筈ですが」
「ぐっ」
「それが出来ないのでしたらお引き取りを」
「そうですね、別に必要な人材ではなさそうですし」
「き、貴様! そんな事を言えば貴様の考古学としての発表等潰すことは容易いんだぞ!」
「だそうですが、人選誰が為さったんです? 責任問題ですよ」
「王弟の命令である。ロンダ伯爵は帰って貰おう」
「なっ!」
「君は必要ない人間のようだ」
「こんな下事モノ言う事など!」
「彼がいないと古代文明の扉は開かない。君はその彼に何と言った?」
「あ……」
「私知ってる、こういう奴の事を【老害】っていうんだよね」
「ろ、ろろ、老害だと!?」
「大臣と聞いて呆れますね。違う方を早急に新しい大臣に沿えた方が良いのでは?」


 そう俺も言うとロンダ伯爵は顔を真っ赤にし「そんな事はどうでもいい!! 早く連れていけ!!」と叫んだが、着いてきていた護衛に捕えられ扉を通って戻されていた。
 すると――。


「馬鹿でー? あんなのが大臣かよ、マジうっけるー?」
「モリシュさん」
「朝すっごい弱いんだけどぉ~。欲しいの買って貰えるから頑張る事にしたぁ」
「これからよろしくお願いしますね」
「いいよ~? トーマの事、俺嫌いじゃねぇし~。一人抜いたなら俺行ってもいいかなぁ?」
「良いのではないでしょうか。ただ、箱庭をあの施設と繋げるのだけはやめてくださいね」
「りょうか~い。兄貴には内緒にできないよねー? まーいっかー」


 と、こうして急遽モリシュが参加する事となり、家に入ると玄関に門番が立って見張り、地下に落ちると、三つある扉のうち左端にある扉に入ると、そこは既に人形保護施設の俺用に用意された部屋で。


「えー? 行き成り個室?」
「ここは皆さんから俺の部屋用にと貰った所です。食材を渡してきますので暫く待って下さい」


 そう言ってドアを開けると俺が来たのが分かるブザー音が鳴り、ドスドスドスと走ってくる音が聞こえるとダーリンさんがエプロンを付けてやってきた。


「おはようございますダーリンさん」
「おはようございますトーマさん。おお、新鮮なミルクですね」
「ええ、今日の絞りたてですよ」
「それは大変美味しいでしょう。腕が鳴ります」
「ふふっ! ああ、お客様をお連れしてます。どちらに連れて行きましょうか」
「ああ、それなら案内しますよ。少々お待ちください」


 と、俺と軍用人形であるダーリンさんが会話しているのを呆然と見ている王弟殿下とモリシュ。
 そんなに驚く事だろうかと思っていると、エプロンを脱いだダーリンさんが後ろの三人を見て頭を下げてから「おはようございます。良い朝ですね」と口にした為、驚きつつも「初めまして!」と挨拶なさるが――。


「ささ、先ほどご飯も食べ終わって皆さんマッタリ休憩中なんですよ。今なら色々とお話も弾むでしょうからご案内しましょう」
「ダーリンさんのご飯美味しいですもんね」
「トーマさんのご飯も中々に美味しいですよ」
「そうでしょうか? やはり年季が違うと思うんですが」
「ははは!」


 と会話しながら歩いていた為気付かなかったが、ローダン侯爵様も多少驚きつつ、他二人は本当に心底驚いていた事に、全く気が付いていなかった。
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