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20 歴史学者のモリミアと、箱庭師の弟のモリシュ。
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それから4日後、シャーロック町に俺をしつこく誘ってきた歴史学者とその弟がやってきました。
初日は流石に引っ越しに時間が掛かるだろうと思いましたし、その日はメンテナンスも入っていたので家に居ませんでした。
ミルキィは介助人形の依頼で自分の家にいたのもありますが――。
「ただいま帰りました」
「あるじー」
「おかえりー」
「んとねー? ずっとねー? そとでねー?」
「まってたひといたよー」
「え? 待ってた人がいたんですか?」
「うん、そうー」
「えらそうなひとだったね」
「ていのうが! っていってたね」
「おれがくるとはわからないのか!! っていってたね」
「あ――……」
その一言で理解しました。
歴史学者である引っ越してきた彼――【モリミア・ポマー】が来ていたようです。
入り口には「町にてお仕事中」と張り紙をしていたんですが、文字が読めなかったんですかね。
「まぁ、今日はもう遅いですし明日にでも伺いますよ」
「それがいいかもねー」
「えらそうなおひとだったー」
「いがぐりなげたかったね」
「「ね――」」
「やめなさい、地味に痛いから」
そう言いつつメテオとマリシアがいない事に気づくと、二人は今人形保護施設にいるらしく大事な話でもしているのかなと思いながら食事を作る事にした。
マリシアは一応料理を作れるように作っているけれど、作れるのがミートパイだけで、他の料理は壊滅的だ。
うーん、しっかり料理が出来るように色々練り上げた筈だが、やはりチートな古代の力が使える分、何処かしらに穴が出来るんだろうか。
性格もランダムだし、憧れの年上の優しいお姉さんを作ろうとして大失敗です。
無論、ミルキィにはこの事は死んでも言えませんが。
そんな事を思いつつチーズシチューを作っているとミルキィが帰宅して、同時にメテオとマリシアも帰ってきた。
「皆さんお帰りなさい」
「ただいま」
「ミルキィはお仕事進みましたか?」
「ええ、介助用人形は壊されにくい傾向があるから作る時は安心するわ」
「それは何よりです。マリシアやメテオは何をしてたんです?」
「ワシのようなデフォルメ人形を作れる才能が欲しいとエミリオに泣きつかれてのう」
「エミリオは可愛いものに目がないんだとさ」
「確かにメテオは可愛いですが……男の子の人形ですよ?」
「あ奴はオスでもメスでも可愛ければなんでもよしのタイプじゃったな。大変危険じゃ」
「メテオが危険と言うくらいですから相当ですね」
「服を脱がされそうになったから私の谷間に入れたら流石に諦めてたよ」
「どちちらも賢明な判断です」
メテオは身の安全の為に今後マリシアの胸の谷間に居ることを決めたらしく、これにはエミリオが「反則だ!」と叫んでいたらしい。
反則でもなんでもないのだけれど、一応エミリオも女性の人形とはいえ谷間に手を突っ込むのは躊躇われるらしい。
「そうそう、俺がメンテに行ってる間に例の歴史学者たちが来ていた様でして」
「ほう?」
「一応玄関に町に仕事に行く事を書いて貼って行ったんですが、文字が読めない方だったんですかねぇ」
「傲慢そうな歴史学者だね。私の知ってる歴史学者ってトーマくらいだから、他の歴史学者って知らないんだよね」
「俺も知りませんが、少なくとも集中するとそこ一本に絞ってしまう癖はありそうです」
「ふむ」
とは言え、俺もハッキリと歴史学者と言えるだけの結果は出していませんし、なんとも宙ぶらりんなものですね。
学会等で大きな発表をすれば、それだけで歴史学者としては名の通るものにはなるんでしょうが……古代遺跡の謎を追いかけていく歴史学者は多いものの、そのほとんどが失われた技術であったりする為、まだまだ未知数な部分が大きいのです。
――故に浪漫がある。
「今の歴史学者って、二つに分かれるだろう?」
「ええ、実際現場に行けるのなら、そこでの検査や調査をする考古学者と、古代文字を追い続ける歴史学者といますね」
「まだ見ぬお宝を求めるトレジャーハンターもいるんだっけ?」
「それは祖父の時代ですね。今は殆ど取られ過ぎて何も残っていないと言う話ですし、トレジャーハンターは今の時代廃業してるでしょう。そうでなくともコウさん達のいるボルゾンナ遺跡……人形保護施設に入りたがるトレジャーハンターがいるのなら見てみたいです」
入れる入り口は一つだけ。
そこをちょっとでも刺激すれば的確に人を襲うビームで人が真っ二つ。
そのビームを回避するだけの技術は今の時代にはなく、ウッカリそのビームが火薬につけば大爆発。
お陰で両親が死んだ訳だが、それについては人形たちが悪い訳ではない。
彼等は彼らの理由があって自分たちを守ろうとしていたのは確かだ。
それを否定は出来ない。
特に、当時の政府を思えば人形たちの行動の方が正義だ。
「何はともあれ、明日は家にいますかね……件の歴史学者さんがお見えになるかもしれませんし」
「それなら私もいようかねぇ」
「ワシもマリシアに隠れて様子を見るかのう」
「面倒くさい人間っぽいわね」
「歴史学者とは変わり者が多いですからね」
「「「言えてる」」」
今、誰を見て反応したんでしょうね?
思わず振り返ると全員顔を背けられましたが……俺は変わり者ではない筈です。
少なくとも祖父母たちよりは……。
「言っておきますが、良識人ですよ?」
「そうだね」
「そうじゃな」
「そしてとってもお人よしだと思うわ」
「お人よしって……誰かさんの世話をしていたら、気づいたらそうなって居ただけでしょう?」
「お陰で幸せだから文句のつけようもないわ!」
「むう……ごまかそうとしてません?」
「してないです」
「なら良いですが」
こうして夜は塩フランスにガーリックチーズ、更にチーズシチューを作ってチーズ尽くしで食べた晩御飯は大変美味しく、このレシピは料理用ノートに書いておこうと思いながら皆と会話しながら食べ、夜はシャーロック町にある家で夫婦二人仲良く眠りました。
そして翌朝、食事を終えて各自持ち場に戻り諸々整理をしていると玄関を強く叩く音が聞こえマリシアが溜息を吐く。
「全く……こんな時間に下品にドアを叩きつけるのは何処のどいつだい!?」
そう言って箒を手にドアを開けると、二人の男性が目に飛び込んできた。
一人は丸眼鏡をかけた青銀色の長い髪を一つに纏めたいかにも歴史学風の男性と、少し眠たげな顔をした同じ色の髪に天然パーマなのかゆるいぼさっとした髪をした男性が。
「どちら様?」
「え、あ? え!? トーマ・シャーロックは女性だったのか!?」
「は? 私はマリシア、トーマの人形だよ」
「人形? それにしては性能が」
「どうしたんですマリシア」
「アンタに客だよ」
性能がどうのと言われる前にと声を掛けると、俺はマリシアの隣に立った。
まだ二十歳とあって彼等よりは幼さの残る顔だが、二人はキリッとした顔をすると俺を見つめてくる。
「貴様がトーマ・シャーロックか」
「そうですが」
「俺が君の依頼人であった、モリミア・ポマーである。こっちは弟のモリシュ」
「箱庭師のモリシュでぇす」
随分と気の抜けた喋り方をするな。兄弟で全然違うタイプのようだ……。
「君が何度も王都に来るように命じているのに全く動かないので此方から出向いてしまったではないか!!」
「無茶を言わないで下さい。俺は新婚ですよ? 妻との生活もありますし、こちらでの仕事もあるんですから」
「本当に結婚しているのか!? 結婚適齢期にはまだ随分と早いようだが!?」
「あー煩いねぇ。トーマはちゃんと人形師の可愛い嫁さんを貰ってるよ」
「む、そうだったのか。それは大変失礼した」
「年上女房ぅ~? きみってぇ……意外とそっち系なんだねぇ~?」
「どっち系でしょう?」
「んふふ」
あ、駄目だ、弟さんとは合わないかもしれない。
俺は即座にそう感じ取る事が出来た。
「しかし、兄弟が二人と言う事はお父様やお母様は」
「無論、罰金を払っているさ」
「やっぱり」
「でもでもぉ~。俺思うだけどさぁ。なーんで子供増やしただけで罰金な訳ぇ? おかしくね?」
「それがこの国と言うものだ」
「生き辛いよなぁ~?」
「そうですね、それには同意します」
「それは兎も角として、俺は君と話すのをとても楽しみにしていた! 君の知識は王都で神童と呼ばれた俺と同じレベルかそれ以上。是非話をし合いたい」
「まぁ、今日だけでしたらいいですよ。俺も忙しいので」
「では家に上がらせて貰う!」
そう言うと部屋に入ってくる二人……貴族が見ても楽しい事なんてないだろうにと思いつつも、俺はお茶の準備に取り掛かったのだった。
初日は流石に引っ越しに時間が掛かるだろうと思いましたし、その日はメンテナンスも入っていたので家に居ませんでした。
ミルキィは介助人形の依頼で自分の家にいたのもありますが――。
「ただいま帰りました」
「あるじー」
「おかえりー」
「んとねー? ずっとねー? そとでねー?」
「まってたひといたよー」
「え? 待ってた人がいたんですか?」
「うん、そうー」
「えらそうなひとだったね」
「ていのうが! っていってたね」
「おれがくるとはわからないのか!! っていってたね」
「あ――……」
その一言で理解しました。
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入り口には「町にてお仕事中」と張り紙をしていたんですが、文字が読めなかったんですかね。
「まぁ、今日はもう遅いですし明日にでも伺いますよ」
「それがいいかもねー」
「えらそうなおひとだったー」
「いがぐりなげたかったね」
「「ね――」」
「やめなさい、地味に痛いから」
そう言いつつメテオとマリシアがいない事に気づくと、二人は今人形保護施設にいるらしく大事な話でもしているのかなと思いながら食事を作る事にした。
マリシアは一応料理を作れるように作っているけれど、作れるのがミートパイだけで、他の料理は壊滅的だ。
うーん、しっかり料理が出来るように色々練り上げた筈だが、やはりチートな古代の力が使える分、何処かしらに穴が出来るんだろうか。
性格もランダムだし、憧れの年上の優しいお姉さんを作ろうとして大失敗です。
無論、ミルキィにはこの事は死んでも言えませんが。
そんな事を思いつつチーズシチューを作っているとミルキィが帰宅して、同時にメテオとマリシアも帰ってきた。
「皆さんお帰りなさい」
「ただいま」
「ミルキィはお仕事進みましたか?」
「ええ、介助用人形は壊されにくい傾向があるから作る時は安心するわ」
「それは何よりです。マリシアやメテオは何をしてたんです?」
「ワシのようなデフォルメ人形を作れる才能が欲しいとエミリオに泣きつかれてのう」
「エミリオは可愛いものに目がないんだとさ」
「確かにメテオは可愛いですが……男の子の人形ですよ?」
「あ奴はオスでもメスでも可愛ければなんでもよしのタイプじゃったな。大変危険じゃ」
「メテオが危険と言うくらいですから相当ですね」
「服を脱がされそうになったから私の谷間に入れたら流石に諦めてたよ」
「どちちらも賢明な判断です」
メテオは身の安全の為に今後マリシアの胸の谷間に居ることを決めたらしく、これにはエミリオが「反則だ!」と叫んでいたらしい。
反則でもなんでもないのだけれど、一応エミリオも女性の人形とはいえ谷間に手を突っ込むのは躊躇われるらしい。
「そうそう、俺がメンテに行ってる間に例の歴史学者たちが来ていた様でして」
「ほう?」
「一応玄関に町に仕事に行く事を書いて貼って行ったんですが、文字が読めない方だったんですかねぇ」
「傲慢そうな歴史学者だね。私の知ってる歴史学者ってトーマくらいだから、他の歴史学者って知らないんだよね」
「俺も知りませんが、少なくとも集中するとそこ一本に絞ってしまう癖はありそうです」
「ふむ」
とは言え、俺もハッキリと歴史学者と言えるだけの結果は出していませんし、なんとも宙ぶらりんなものですね。
学会等で大きな発表をすれば、それだけで歴史学者としては名の通るものにはなるんでしょうが……古代遺跡の謎を追いかけていく歴史学者は多いものの、そのほとんどが失われた技術であったりする為、まだまだ未知数な部分が大きいのです。
――故に浪漫がある。
「今の歴史学者って、二つに分かれるだろう?」
「ええ、実際現場に行けるのなら、そこでの検査や調査をする考古学者と、古代文字を追い続ける歴史学者といますね」
「まだ見ぬお宝を求めるトレジャーハンターもいるんだっけ?」
「それは祖父の時代ですね。今は殆ど取られ過ぎて何も残っていないと言う話ですし、トレジャーハンターは今の時代廃業してるでしょう。そうでなくともコウさん達のいるボルゾンナ遺跡……人形保護施設に入りたがるトレジャーハンターがいるのなら見てみたいです」
入れる入り口は一つだけ。
そこをちょっとでも刺激すれば的確に人を襲うビームで人が真っ二つ。
そのビームを回避するだけの技術は今の時代にはなく、ウッカリそのビームが火薬につけば大爆発。
お陰で両親が死んだ訳だが、それについては人形たちが悪い訳ではない。
彼等は彼らの理由があって自分たちを守ろうとしていたのは確かだ。
それを否定は出来ない。
特に、当時の政府を思えば人形たちの行動の方が正義だ。
「何はともあれ、明日は家にいますかね……件の歴史学者さんがお見えになるかもしれませんし」
「それなら私もいようかねぇ」
「ワシもマリシアに隠れて様子を見るかのう」
「面倒くさい人間っぽいわね」
「歴史学者とは変わり者が多いですからね」
「「「言えてる」」」
今、誰を見て反応したんでしょうね?
思わず振り返ると全員顔を背けられましたが……俺は変わり者ではない筈です。
少なくとも祖父母たちよりは……。
「言っておきますが、良識人ですよ?」
「そうだね」
「そうじゃな」
「そしてとってもお人よしだと思うわ」
「お人よしって……誰かさんの世話をしていたら、気づいたらそうなって居ただけでしょう?」
「お陰で幸せだから文句のつけようもないわ!」
「むう……ごまかそうとしてません?」
「してないです」
「なら良いですが」
こうして夜は塩フランスにガーリックチーズ、更にチーズシチューを作ってチーズ尽くしで食べた晩御飯は大変美味しく、このレシピは料理用ノートに書いておこうと思いながら皆と会話しながら食べ、夜はシャーロック町にある家で夫婦二人仲良く眠りました。
そして翌朝、食事を終えて各自持ち場に戻り諸々整理をしていると玄関を強く叩く音が聞こえマリシアが溜息を吐く。
「全く……こんな時間に下品にドアを叩きつけるのは何処のどいつだい!?」
そう言って箒を手にドアを開けると、二人の男性が目に飛び込んできた。
一人は丸眼鏡をかけた青銀色の長い髪を一つに纏めたいかにも歴史学風の男性と、少し眠たげな顔をした同じ色の髪に天然パーマなのかゆるいぼさっとした髪をした男性が。
「どちら様?」
「え、あ? え!? トーマ・シャーロックは女性だったのか!?」
「は? 私はマリシア、トーマの人形だよ」
「人形? それにしては性能が」
「どうしたんですマリシア」
「アンタに客だよ」
性能がどうのと言われる前にと声を掛けると、俺はマリシアの隣に立った。
まだ二十歳とあって彼等よりは幼さの残る顔だが、二人はキリッとした顔をすると俺を見つめてくる。
「貴様がトーマ・シャーロックか」
「そうですが」
「俺が君の依頼人であった、モリミア・ポマーである。こっちは弟のモリシュ」
「箱庭師のモリシュでぇす」
随分と気の抜けた喋り方をするな。兄弟で全然違うタイプのようだ……。
「君が何度も王都に来るように命じているのに全く動かないので此方から出向いてしまったではないか!!」
「無茶を言わないで下さい。俺は新婚ですよ? 妻との生活もありますし、こちらでの仕事もあるんですから」
「本当に結婚しているのか!? 結婚適齢期にはまだ随分と早いようだが!?」
「あー煩いねぇ。トーマはちゃんと人形師の可愛い嫁さんを貰ってるよ」
「む、そうだったのか。それは大変失礼した」
「年上女房ぅ~? きみってぇ……意外とそっち系なんだねぇ~?」
「どっち系でしょう?」
「んふふ」
あ、駄目だ、弟さんとは合わないかもしれない。
俺は即座にそう感じ取る事が出来た。
「しかし、兄弟が二人と言う事はお父様やお母様は」
「無論、罰金を払っているさ」
「やっぱり」
「でもでもぉ~。俺思うだけどさぁ。なーんで子供増やしただけで罰金な訳ぇ? おかしくね?」
「それがこの国と言うものだ」
「生き辛いよなぁ~?」
「そうですね、それには同意します」
「それは兎も角として、俺は君と話すのをとても楽しみにしていた! 君の知識は王都で神童と呼ばれた俺と同じレベルかそれ以上。是非話をし合いたい」
「まぁ、今日だけでしたらいいですよ。俺も忙しいので」
「では家に上がらせて貰う!」
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