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11 色々乗り越えつつの入籍日。

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 半月後、色々な仕事は舞い込んできたが、無事古代書を翻訳して全ての本と一緒に送った。
 無論魔道具からだが。
 すると翌日手紙が来ていて『城で働かないか』というお誘いがあったので『近々結婚致しますのでお断りさせて頂きます』と送りその日は終わった。
 更に次の日『結婚するのなら尚更稼ぎの良い王都へ来るべきだ』と来たので『妻も私も今住んでいる町が好きなのと、既に家も用意した為難しい。申し出は有難いですが辞退させて頂きます』と返した。
 すると『埒が明かないので調査団でそちらに行った時スカウトする』と来たが『何度言われましてもお断りします』と返してそれから連絡は途絶えた。


「しつこい人でしたね」
「トーマ君が王都に行ったらどうしよう……別居になっちゃう?」
「嫌ですよ。絶対行きません」
「だよね!!」
「それより、今日は【花の月】のお祭りですよ。お揃いの花を頭に飾らねば」
「私、赤の花を頭に飾りたいたいわ!」
「恋人同士なら薔薇ですね、行きましょう」


 こうして花冠を買う列に並び、「近々結婚するので赤いバラの花冠を」と言うとお祝いされて手渡され、俺空ミルキィに、ミルキィは俺の頭に花冠を乗せてくれた。
 一年に一度のお祭りだが、春が来る訪れを楽しむのだ。
 この【花の月】の中盤になれば春一番吹き荒れる辛い時期が来るわけだが、今回からは村に家を持てたので買い物は楽になる。
 それだけでホッとするし、その間は家に閉じ籠る事が多い為、外を出歩く人もいないのだ。


「花の苗を買ってきて良いですか?」
「ええ、花の種でもいいわね」
「ええ、出来れば折れにくい花が良いですね。両親の墓参りに行くので」
「春一番が吹く時に?」
「そうです。その時になるとボルゾンナ遺跡も警備の人も休みになって人がいなくなると聞いているので」
「なるほど。警備がいると出来ないものね、私もいっていい?」
「危険ですよ?」
「大事な事だから」
「ありがとう御座います」


 こうして手を繋ぎ町を歩いてくと、ミルキィは村長の娘と言う事もあって良く声を掛けられる。
 そして俺もそれなりに声を掛けられる。
 結婚適齢期でもないのにミルキィと結婚するからだろう。
 この国では結婚適齢期じゃないのに結婚すると言う事は、それだけ相手にゾッコンであるという意味合いもあり、「一刻一秒でも早く結婚したい」と思っていると歩きながら話しているようなものらしい。
 事実なので俺は気にせず歩くが、ミルキィは顔を赤くしながら対応していたりしていました。


「なんだかここまでトーマ君との結婚を祝われると恥ずかしいわね」
「何を言うんです? 今日はテリサバース教会で入籍式でしょう?」
「ひゃぃ……」
「これでやっと貴女は俺のものですね?」
「そ、そうね」
「今夜が初夜になりますが?」
「ひゃああっ!!」
「ふふふ」


 この日の為に男性避妊具を王都から定期便で配送を頼んでいるので大丈夫だろう。
 子供は早く欲しいけれど、まだまだ収入が安定してからが望ましいですからね。
 定期便は何時でも止めることが出来て、再開も直ぐ出来る為助かります。
 そんな事も考えつつ顔を真っ赤に染めて二人歩いていると、町長であり義父となったファーボさんと出くわした。


「おお、ミルキィ! トーマ君!!」
「お久し振りです」
「お久し振りお父様。もう勝手に新居に家具を入れて~~!!」
「お前達が何時でもこっちに来れるようにしたんだよ~~。寝室もみたかい? 気に入ってくれた?」
「まぁ、とても大きなベッドでしたね」
「是非使ってくれ!!」
「そうですね、あちらは何かと気を使うので」
「そうなのかい?」
「まぁ少々訳アリで」
「ふむ、では是非使ってくれ!」
「ありがとう御座います。それと入籍式は午前中のうちにでしたね」
「そうだね、11時には入籍式を終えると良い」
「そうします。後1時間ですね」
「うう……緊張して屋台料理が食べれないわ……」
「では、さくっと入籍式を終わらせて食べますか?」
「それも捨てがたい……」
「ですが、一度行ってみたい所があるので是非一緒に。それから行きましょう」
「では恋人最後のデートを楽しんでくれ。また手紙を送るよ」


 そう言うと町長とあってあっちこっちに引っ張りだこのようです。
 そこでミルキィを連れて坂を上り、一本の共同墓地でもあり、この村の象徴でもあるレッドウッドの前に立つと、花を購入してレッドウッドに備える。
 高く聳える一本のレッドウッドは、このシャーロック村の象徴だ。
 そこでなら亡くなった故人とも会話が出来ると言われており、手を合わせて祖父母と両親に結婚の挨拶をする。
 そして、マリシアを何とかして保護施設に連れて行くので、守って欲しいという願いも。


「よし。そこの展望台から村を観ましょう」
「そうね、此処は神聖な場所だから少し緊張が解れたわ」
「それは良かったです」


 そう言って柵で下に落ちないようになっている展望台へと向かうと、マリシアの手を取り跪いてこう口にする。


「生涯大事にすると誓います。今日入籍式をして是非妻になって欲しい」
「ちょっ!」
「返事を頂けますか?」


 突然始まったプロポーズに周囲はどよめき、俺達をジッと見ている人たちは多かったが、ミルキィは顔を真っ赤にして「末永くお願いしましゅ!」と叫ぶと一斉に拍手が鳴った。
 ギュッと抱き締めると最早大歓声で、皆さんに頭を下げてお祝いしてくれたことに御礼を言うと、ミルキィを連れて歩き出す。
 無論、此処にいるという事はミルキィが町長の娘である事も皆さん知っている。
 知っている上で、俺がどれだけ惚れていて結婚を望んでいるか【事実である】として伝えたかったのだ。
 口さがない輩はミルキィが年下の俺を誑かした等言う輩も多い為、その言葉を払拭する意味も込めている。

 その足でテリサバース教会に行き、入籍式を行い寄付金を支払うと、「神はあなた方夫婦を祝福し、喜ばれる事でしょう」と言われて終わったので、その足でやっと屋台料理を食べる事になったのだが――。


「私達……夫婦?」
「ええ、誰が何と言おうと夫婦です」
「そっか……そっか――!! 私の都合のいい夢じゃないのよね?」
「キスして起こしましょうか?」
「起きてます!」
「残念です」
「でもそっか……えへへ……ふ……うう……」
「えっ! どうしたんです!?」


 急に泣き出したミルキィに思わず慌てるとギュッと抱き着いてきたので周囲の人も驚いていましたが、彼女が言うのはずっと恋をして実らない恋だと思って諦めようとした日も多かったのだと語る。
 自分が年上だからきっと無理だと、自暴自棄になっていた時期もあったらしい。
 そんな言葉を聞かされたら――そんな熱烈な言葉を聞かされたら……ギュッと強く抱きしめてしまう。


「俺はもう、貴女の夫ですよ」
「うん、うん!」
「安心出来ないなら今直ぐ初夜を」
「よ、夜じゃないから!」
「残念ですね?」
「もう」
「でも、もう安心ですね? お互い離れず浮気せず過ごしていきましょう」
「そっちの心配だけは無いので安心してください」
「ええ、俺もないので安心してください」


 こうして落ち着いたミルキィと一緒に屋台を食べ歩きし、幸せな時間を過ごしたその日は、正に夜も幸せに満ちていてのはいうまでもなく――。
 朝、町にある家のベッドで目覚めるとミルキィはグッスリ眠っていたので先にシャワーを浴びて身体を生活魔法で乾かし、服を着替える。
 流石に今日ばかりはマリシアも「二人で朝まで過ごしてきな」と言われているので、二人分の朝ごはんを作り、ミルキィを起こす。
 流石に自分の状態に悲鳴を上げそうになっていたが、苦笑いしつつお風呂に入って貰い、ゆっくりとした朝を迎えることが出来た。


「さて、これからの話だが心して聞いて欲しい」
「ん? どうしたの?」
「春一番が吹いたら警備の兵士がいなくなるだろう? その隙に花を供えるのは無論なんだが」
「うん?」
「マリシアを施設に戻してやりたい」
「……どういう事」


 そう不思議な顔をしたミルキィにこれまでの敬意や内容を事細かに伝えると、彼女は暫く考え込んでから「なるほどね」と口にする。


「一か八かの賭けよね」
「そうなる。だが多分……マリシアがいれば大丈夫なはずだ」
「保障がない事だわ。でも、放っても置けないのよね」
「そうだな……。俺の考古学者というか、古代遺産に関する情熱も後押ししてるともいえる。ミルキィにそこまで、」
「着いてくわ」
「ミルキィ」
「夫婦だもの。貴方の事はしっかり見ておかないと」


 そう言ってフワッと微笑んだミルキィに、俺は彼女の手を握り「ありがとう」と口にする。
 出来た妻だとも思う。
 巻き込んですまないとも思う。
 だが――ついて来てくれる事を選んでくれてありがとうとも感謝した。


「君が俺を選んでくれて良かった」
「ふふっ! でも本当に施設内に入れたらどうするの?」
「色々調べたい事や聞きたいことはあるが、流石に古代の遺跡だ。驚くことの方が多いとは思うが、ピリポやアンクと話をしてみたい」
「そう、行く日にマリシアの魂の魔素を移動させるのね」
「ああ」
「覚悟を決めて行きましょう。それに本来のマリシアの話も興味があるもの」
「そうか……」
「きっと色々上手くいくわ。そう願いましょう?」
「――そうですね!」


 そう言って思い切り背伸びするとミルキィの頬にキスをし、お昼前までゆったりとした時間を過ごし、夜は今後こっちで過ごすとして、昼間は何時もの家で過ごすことが決まった。
 そして俺の家に到着するとムッツリスケベはニマニマしていたのでデコピンし、メテオとマリシアは「お腹空いたね~」と言いつつ結婚祝いにとミートパイを焼いてくれていた。


「ま、こんな時にしか作らない特別な料理さ。結婚おめでとう」
「ありがとう御座います」
「ありがとうマリシア!」
「それと、マリシアに話があるんだ」
「なんだい?」
「実は――」


 と、ミルキィに話した通りの事を伝えると、暫く考え込んだ後「構わないよ」と言われた。
 ただし条件付きだ。


「ただし、見た目は変わっても全然構わないけど、この私を作っておくれ。性格もキッチリとね」
「それは、古代魔法を使えば可能だが」
「私と言うマリシアはこの生活を気に入ってるんだ。二人の子供の世話をするのだって楽しみだったのに……その楽しみを奪わないでおくれよ?」
「分かった。必ずマリシアを作る。その為にはマリシアの核をその時取り除かないとな」
「ああ、必ずね」
「となると、先にマリシアを作った方が良いか、見た目の好みとかある?」
「この感覚で慣れてるからねぇ。見た目は弄ってもいいし、そうだね、アタシはトーマと同じ黒髪になりたいね。それにアンタと同じ金の目が良い。トーマは集中すると瞳孔が赤くなるのは不思議だけど、そこまで一緒にしろとは言わないからさ。後色白にちょっと憧れるからアンタの女バージョンで作っておくれよ」
「ええ、分りました。作りましょう」
「え! トーマ君の女性バージョン!? それ大丈夫なの!!」
「何故です?」
「変な虫つかない?」
「蹴り飛ばしてやんよ!」


 という事で、箱庭になるがマリシアの身体を作る事となった。
 春一番が吹くまであと少し――先にマリシアを新たな身体で動けるようにしておかねば。
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