召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

うどん五段

文字の大きさ
上 下
129 / 132
第五章 崩れ行くテリサバース宗教内部と生まれ変わるテリサバース教会。

129 テリサバース教会の法王への裁判が始まった。⑤

しおりを挟む
「って事になったわ」
「「「ロスターナ凄いな……」」」


 あの権力にしがみ付いていた男が、その権力も立場も捨ててロスターナを選んだ。
 これにはジュノリス王を含め、その場にいた皆が言葉を失った。
 最後まで権力にしがみ付くと思われたあの法王が――……。
 ニノッチに様子を見に行かせ法王が、ロスターナが会いに行かないだけで無気力に過ごしていると聞いた時は「おいおい本当かよ」と思ったが、法王はガッツリとこちらの罠とも知らずロスターナに御熱になってしまった。


「取り敢えず朝5時とは伝えたけれど、どうする?」
「そうだな、ロスターナにはまた演技をして貰おうか」
「と言うと、どんなシナリオかしら?」
「まずロスターナと法王が時間通り合流する事にする。しかしそこに王国騎士団が現れて法王を裁判所へと連れて行く。理由は殺人未遂罪だ。それをロスターナの前で伝え、ロスターナは口を押えて驚く」
「ふぅん……良いじゃない?」
「法王の事だから言い訳をすると思うが、兵士たちに無理やり連れて行かされる途中に、ロスターナはそれでも法王に縋ろうとする。それこそ法王の名を呼びつつ何かを叫ぶとかな」
「ええ、それで?」
「そこで兵士に突き飛ばされた振りをして悲痛な声を上げる。無論聞こえるようにな?」
「ふふ……っ 面白いわね、ええ、そうするわ」
「そこで、小さな変更はあるかも知れないが、一旦会うのは終わりだ。その後――」


 そう言って説明すると皆は俺を見て「えげつないな」「容赦と言う物もありませんな」と言われたが、俺は笑顔で「罪には罰が必要ですから」と言ってのける。


「ロスターナの名演技、期待してるよ」
「ふふ、任せて頂戴。一等美しい演技を見せて、あ・げ・る♡」
「さぁ、断罪ショーの始まりだ!」


 舞台は整った。
 法王を連行する騎士団長にも事情を説明し、ロスターナの事を理解して貰えた。
 朝の四時には聖女ハルゥ様もお越しになり、着々と準備は進んでいく。
 外は小降りの雨がシトシトと降っている。カナエの勧めでロスターナには水に強い化粧品を使って再度化粧をし直している。
 断罪時間まであと僅かだが、騎士団たちも準備を進めている。


「しかし、アツシは本当にエゲツナイ事を考えたものだな」
「そうでしょうか?」


 振り続ける雨の中、外を見つめている俺にジュノリス王が声をかけて来た。
 そもそも、俺のカナエを奪おうと言う最初の考えを許すつもり何て毛頭ない。
 俺としてはトコトンまで追い詰めたい所なのだが……相手の方が先に再起不能になる方が早そうな気がしてきた。


「最後まで精神が持ってくれれば、もっと楽しいんですけどねぇ」
「やれやれ、ワシですらゾッとする内容だぞ? 同じ男として同情する」
「まぁ、同情は兎も角、手酷くやるのが目的ですからね。その上で守れる命があるなら守れる方向で向かう。水野たち治療師には後で教会にてスタンバイして貰う手筈にもしていますし、地下に捕らわれている人数も奴隷紋の有無もわかりませんからニノッチとニノスリーに加えて、ニノとニノツーにも来て貰うつもりです」
「まぁ、許される事では無いのは確かだな」
「ええ、徹底的にテリサバース教会の腐敗は潰します」


 王家の影の情報では、金持ちの貴族家出身の神父やシスターたちは悲鳴を上げてテリサバース教会の信者を辞めて逃げているのだと言う。
 元々仕事のない、仕事が出来ない貴族の次男や三男、嫁の貰い手が無い貴族の女性たちや、愛人などに産ませた婚外子が集まっていた場所でもあったのだが、今の教会に巻き込まれたくないと考えた親が連れ戻すパターンもあるのだとか。

 ドンドン人が少なくなっているテリサバース教会に、今度は聖女が戻ってくる。
 その代わりに、法王はいなくなる。
 実質、テリサバース教会は聖女が回していく事になるのだ。
 その手伝いを申し出たのは――、ロスターナだった。
 なんと聖女ハルゥとロスターナは恋仲になっていたらしい。
 ハルゥの一目惚れらしいが、ロスターナにとってもハルゥは一目惚れの相手だった。
 ハルゥは今16歳、ロスターナは19歳。歳の差は少しあるが教会の立て直しに時間がかかるだろうし、丁度いいだろう。ロスターナは未成年に手を出しはしないだろうからな。
 菊池とテリアの方が不安は大きいが……それはまぁ置いておくとして。


「もう直ぐ五時ね。こっちの準備はOKよ」
「俺の方も準備は万全だ」
「ワシも何時でも出れる。だが法廷が始まるのは昼からだぞ」
「その間、法王は苦痛の時間となる訳ね……良いじゃない?」


 そう言ってクスクス笑うロスターナは女悪魔のような顔をしている。
 美女が悪そうに笑うとああなるんだな。


「私の男優魂みせてあげる。真髄って奴をね」
「期待してるぞ、ロスターナ」
「ええ、任せて頂戴」
「じゃあ行くか」
「ええ!」


 こうして朝五時を時計が差すと、俺は偽の荷物を持ったロスターナを連れて瞬間移動で商業地区の方へと飛んだ。
 そこからロスターナが走って行くと言う演出なのだ。
 映画を撮るにも演出と言うのは必要だろう?


「後は頼んだぞロスターナ。俺達もすぐに行く」
「ええ、今からが本番よ」
「ああ!」


 こうしてロスターナは人気の無い雨の降る中、テリサバース教会へと駆け出した。
 フードを深くかぶり、その後ろ姿は想い人を迎えに行く女性にしか見えない。


「頼んだぞ、ロスターナ」


 そう口にすると瞬間移動で城の兵士詰め所に飛ぶ。
 俺の登場に出番だとガチャッと整列した彼らを見て俺は叫ぶ!


「これより殺人未遂罪でテリサバース教会の法王を捕える! 皆ついてくる様に!」
「「「「はっ!!」」」」


 さぁ、断罪を始めよう。
 俺とジュノリス王を殺そうとした罪。
 俺からカナエを奪おうと思っていた罪。
 聖女ハルゥに今までしてきた罪も全て何もかも、愛するロスターナの前で断罪しよう。

 降りしきる雨の中マントを深くかぶり刀を腰に差しテリサバース教会へ走る。
 ドアが開きロスターナと法王らしき爺が出て来た。
 ――さぁ、始まりの合図だ!!!


「待て!!」
「きゃっ!」
「ロスターナ!」


 俺は走り去ろうとしたロスターナの腕を優しく掴んだ。
 怯える表情のロスターナと驚愕した様子の法王。その法王に目線を向け声を張り上げる!

「貴様法王だな!? 王家への殺人未遂容疑にて逮捕する!」
「なっ!」
「なんですって!?」
「法王を牢に連れていけ!! どうせ昼から裁判だ、裁判所の牢にぶち込んでおけ!!」


 武装した騎士団が素早く法王を掴み縄で縛りあげていく。
 顔面真っ青で「ロスターナ!」と叫ぶ法王と、何とか法王に手を伸ばそうとするロスターナ。


「邪魔だ女! 退け!!」
「きゃあああ!!」
「ロスターナァァァアア!!」
「法王様、法王様ぁあ!!」


 そう悲痛な叫びをあげるロスターナに笑いが出そうになるのを堪え、俺は声を張り上げる。


「この娘も連れていけ! 邪魔する者は同罪とみなす!!」
「来い!!」
「私に触らないで!! 法王様、法王様助けて!! いやぁあああ!!」
「ロスターナに触るな! やめろ、やめろおおおおお!!!」


 こうして縄に繋がれる振りだけ、まぁ緩~くロスターナには縄を付けて雨の中、直ぐ近くの【法律裁判所】へと歩いて行く。
 何度もロスターナの名を呼ぶ法王は暴れたりと大変だったようだが、牢にぶち込まれると流石に色々自分のしてきたことが頭を巡ってきたのだろう、顔面蒼白だ。


「貴様の罪、逃げられると思うなよ」
「せ、せめてロスターナだけは! あの娘は何もしていない!! 何も知らないのだ!!」
「ならば是非とも教えてやらねばならんな! 貴様の悪事の数々を!」
「やめろ……やめろ止めてくれ……頼むっ! 頼むぅ―――!!」


 そう言って石畳の上で土下座する法王を鼻で笑いマントを翻して俺は去る。
 ロスターナは牢には入れていない。別室にて待機中だ。
 雄叫びを上げる法王の声が響き渡る中、鉄のドアは閉まり静かになった訳だが――此処で第一段階。
 法王も想い人であるロスターナとこんな目に遭うとは思っていなかった事だろう。


「名演技だったぜ! ロスターナ」
「ンフフ」
「次もよろしく頼む」
「任せて♡」


 こうして俺達は裁判が始まるまで束の間の休みを取ったのだった。
 その頃――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―  “賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。  だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。  当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。  ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?  そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?  彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?  力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

処理中です...