上 下
127 / 132
第五章 崩れ行くテリサバース宗教内部と生まれ変わるテリサバース教会。

127 テリサバース教会の法王への裁判が始まった。③

しおりを挟む
 ロスターナは本当に頑張ってくれた。
 大好きなハルゥの為に、身を削ってくれたのだ。
 盗聴器を忍ばせて話を外で聞きながら、あの法王を見事落とし切った!!


「こっちだ、ロスターナ」
「今行くわ」


 ぼそぼそっと話ながら闇夜に隠れてロスターナの手を取ると直ぐに瞬間移動する。
 そしてコッソリと俺の執務室へと戻ると、そこにはジュノリス王と宰相であるフィリップ。カナエとランディールとメルディールが待っていた。


「しっかりあの法王を落とし切ったな! 本当に無理をさせてすまない!」
「ええ、とっても気持ちが悪いけど、とっても遣り甲斐のある仕事だと思うわ。ふふ、私に最後はゾッコンだったわねぇ……本当、あのクソ爺どう料理してやろうかしら……」


 目が据わっているロスターナに思わず恐怖でゾクリとしてしまったが、無理をさせたのはこっちだ。甘んじてその溢れ出る怒りを受け止めようと思う。
 しかし、提案したのは俺だったが本当に即ロスターナに落ちてくれた法王。
 これで暫くの間は地下にいる人間の命も無事な筈だ。
 俺達の食事に毒を混入したリンの家族もまだ助かってくれていると良いが……。


「あの爺、ハルゥがいない癖に教会にあたかもいるように言うのよ? 信じられる?」
「まぁバレたら不味い案件だからな」
「あんな爺の元にいたと思ったら……ハルゥが可哀そうすぎるわ!」
「しかし、この状況に陥っても聖女の事はどうにかなるとでも思っているんですかねぇ? 教会に聖女がいないと分り、国民に伝われば事だと言うのに」
「ロスターナ、悪いが明日は聖女の事を中心に聞いて来てくれないか?」
「ええ、気分が悪くなるけど仕方ないわね。後で徹底して潰してやるわ」
「ニノッチ、ロスターナが襲われた際に備えて製薬魔法で無味無臭の意識を失う薬を作れるか?」
「ツクレルヨ ナグラナイヨウニ スルノ タイヘンダケド 我慢シテ ロスターナ マモルヨ!!」
「ありがとうニノッチ! 蹴り飛ばせば早いんだけど、まだ蹴り飛ばす時期じゃないものね、我慢するわ!!」


 ウサギ獣人のキックか、相当痛そうだな……思わずロスターナのアスリートのような足を見て遠い目をしてしまう。
 今回頼む際、ロスターナは一つ条件を付けた。それは『法王に対して一撃は足で入れたい』と言うものだった。
 ハルゥから色々聞いて行くうちに相当頭に来たらしい。
 しかもカナエまで狙っているとなれば怒りは完全に怒髪天だったようで、「アツシさんのカナエちゃんまで狙うなんて許せないわ!!」と、美人の怒り顔はとても迫力があった。

 だが、初日はまずロスターナにゾッコンになって貰う事が目標だったが、本当にあっと言う間に落としてくるロスターナも凄い。
 元々美人な顔立ちだが、化粧をして身だしなみを整えると絶世の美女となり、法王を数分で虜にしてしまうのは「流石ロスターナ……」と思わず呟いてしまった程だった。
 あらゆる男性のハートを奪い地獄に落としてきたロスターナだからこそのやり方だったのだ。後で男性だと分れば法王の心はポッキリ折れそうだ。


「次回の法廷ですが、聖女様を連れてこなかった場合どうしましょうか」
「もし寝込んでいると言うのなら見舞いに行くと言って慌てさせてやろう」
「いいですね、王族の見舞いともなれば断れない」
「ハルゥはずっと小さな物置部屋で過ごしていたと言っていたわ。そんな所にあなた方を連れて行くとは思えないけれど」
「カモフラージュの部屋になるだろうが、直ぐに用意できるのかね」
「治療師も連れて行こう。そこで治療するふりをして本物ではないと慌てて貰えれば問題ない」
「ですが、聖女様の顔を見た事がある治療師はいるんですか?」


 そう俺が問いかけると渋い顔をされたので、それなら――と水野の事を話した。
 最初にハルゥ様を保護したのは水野だ。
 その上で城の治癒師の恰好をさせて演技をして貰おう。


「それは名案だな。だがそんな咄嗟の演技など出来るか?」
「水野なら出来ますよ」
「カナエのお墨付きです」
「そうか。そのミズノと言う女性には頼めそうか?」
「事情を話せば必ず」
「その時は盛大に狼狽えて貰うとするか」


 こうして着実に法王を追い込みつつ、ロスターナに依存していく様に仕向けて行く
 追い込まれる度にロスターナに甘やかされ、甘く囁かれ、今の法王の座にしがみ付くのか、それとも――。
 何方にせよ地獄しか待っていない。次の日の夜も同じ時間にロスターナは法王の元に向かい、沢山褒めて、沢山甘えさせ、沢山誘惑して、押しては引いての駆け引きをさせてギリギリラインを攻めさせた。


「明日とても大変だと思うけれど、私、応援してるわ……」


 そう言って頬にキスでもしそうな程の近くで囁いて去って行くロスターナに、最早二日で骨の髄まで落ち切った法王。
 頭の中は半分は明日の裁判の事で、半分はロスターナが占めているだろう。
 まともな判断が出来ようがない。
 こうして二回目の裁判が始まった訳だが、碌に言い訳も考えられない頭だったのか「あー」や「うー……」と言葉を詰まらせる回数が増えた。
 明らかにロスターナの影響だな。そう思うと俺は内心ガッツポーズをしたくなった。


「時に聞くが、聖女様が寝込まれたと言う話だが」
「は、はい。そうです!」
「では、王家から見舞いに行こう。そして王家の主治医に見て貰おうと思う。良いな?」
「え!?」
「この国の一大事だ。聖女様が寝込まれてしまわれたのならば見舞いに行くのが道理。そして一刻も早く治って頂く事も大事な事だ。なぁ? 王太子よ」
「その通りですね。腕利きの俺の治療師を連れて行きますので、直ぐに手配いたします」
「は、はひ……」
「どうした? お主も顔色が優れないが、お主も診てやろうか?」
「めめめめめ……滅相もあ、ありません」
「そうか、では直ぐに裁判を終えて王家より聖女様の見舞いに向かおう。これにて閉廷! 刻は一刻を争う! 直ぐに聖女様の為に動くのだ!」


 こうして顔面蒼白で法廷兵士に連れられて行く法王を他所に、居もしない聖女の為に『王家より倒れた聖女様への見舞い』と言うイベントが始まった。
 無論昨夜のうちに水野は来て貰っている為、王家の治癒師の恰好で待って貰っていたのだが――、さてさて、法王はどういう手を使ってくるだろうか?
 一応形ばかりに薬の入ったカバンを手に俺達は馬車に乗り込みテリサバース教会へと向かったその頃――。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...