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第五章 崩れ行くテリサバース宗教内部と生まれ変わるテリサバース教会。

123 法王は事態を飲み込んだ途端、速やかに動き出す。

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 ――法王side――


 聖女であるハルゥが姿をくらませて三か月経った!!
 奴隷の癖になんて生意気なのだ!!
 戻ってきたら思い切り折檻せねば……そう思いながら、ワシはこの最近貴族たちから入る金が余りにも少ない事にも苛立っていた。
 それだけではない!!

 今日は月に1度の法王からの有難いお言葉を貴族たちに伝える日だと言うのに、誰も教会にいなかったのだ!!
 言葉を話した後は金貨が毎回振ってくるように貰えていたと言うのに、貴族が一人もいない!
 それどころか一般人すらも!!
 どうなっている!?


「ええいクソ!!」
「恐れながら法王様にお伝えしたいことが」
「なんだ!!」


 そう言うと、若い神官は「申し上げにくいのですが」と口にし、三国で広がった噂を、この日初めて知った。
 いや、噂ではない。
 実際ワシがしようと計画していた内容が全て流れていたのだ!!
 噂はジュノリス大国にも入り込み、今では知らぬ者すらいないのだと言うではないか!!


「なっなっ!!」
「それだけではありません。先ほどジュノリス王より出廷せよと言う命令が」
「しゅしゅしゅ……出廷だと!?」
「はい、それも数回に渡り調べるとの事で……かなり陛下の怒りが強いのだと思います」
「むぐぐぐぐっ!!」
「法王様、法律裁判所への出廷命令が下されております」
「その出廷は何時だ!」
「明後日だと」
「ええい、悠長な事はしておられん! 直ぐに用意したメイドを呼んで来い」
「は!!」


 そう言うと、秘密裏に教会の地下で作っていた毒薬の瓶を持ってくると、瓶を袋に詰めて椅子に座り溜息を吐く。
 何としても明後日までに邪魔な陛下と王太子を殺さねば!!
 城に忍び込ませるためにシスターを一人奴隷にして王城のメイドにしたのだ。
 城の内部も知りたかったと言うのもあるし、あのカナエと言う娘の事を色々知りたかったからな。
 何せワシの子を孕む娘だ。色々知っておいて損はない。
 こうして呼び出したメイドに薬を持たせ、王と王太子の飲み物や食べ物全てに混入しろと命令し送り出した。

 ――これでいい。
 明日にはジュノリス王と王太子の死亡で国は大慌てだ。
 幸い聖女の服はある。
 葬儀の時は誰かに聖女のフリをさせ参列し、ワシがジュノリス大国の王になり輝かしい未来を視たと語らせればいい。
 そうすればワシこそがこの国の王となる!!
 噂が事実であっても、ワシに出廷等させようとする邪魔者は消え去るからな!!
 ドキドキする心臓を抑え椅子に座り、しかし何故三国から噂が流れて来たのか分からない。
 何処か一つならばそこに役立たずのハルゥがいるのが分かるのに、三国とあっては……。

 ああ、イライラする。
 そう言えば今日は三国の貴族から贈り物が届く日だ。
 ノスタルミア王国の貴族たちは非常に美味な酒や菓子を贈ってくる。
 昼にはボルドーナ商会が持ってくるだろう。
 それまで一休みでもするか。

 その後、ワシは自室へと戻り「ボルドーナ商会が来たら起こせ」と言うと自堕落に寝て過ごすことにした。
 今日の昼にはジュノリス王と王太子の死が公表されるだろうが、それまではグッスリと……。そう思い眠りについたのだが、目が覚めると夕方になっていた。
 少々寝すぎたか?
 しかし、ボルドーナ商会が来たとも、ジュノリス王たちが死んだとも連絡が来なかった。
 どうなっているのかと思い今朝の神官を呼ぶと、神官は恭しくワシに頭を下げた。


「どれ、ボルドーナ商会が持ってきた品を見せて貰おうか」
「それが、今日はボルドーナ商会は来ておりません」
「なん……じゃと? では城からは?」
「いいえ? 今朝話した出廷命令以外は何も」
「!?」
「それより大変なのです! 今や外を歩けばテリサバース教会の者とわかると石を投げつけられたり唾を吐き捨てられたり……あの噂は間違いだらけだと言うのに、何故我々がこのような酷い目に遭うのでしょう!?」
「む、むう。そ、そうだな」
「外ではジュノリス大国から出て行けと……我々が何をしたと言うのです! 法を犯す等あってはならない事だと言うのに!」
「むう……」


 そう言ってさめざめと泣く若い神官に、溜息を吐きながら心の中では「鬱陶しい者だ」と呟いた。
 噂の出所は分からないが多分ハルゥだろう。
 何処かの国で囲われ噂を流したのだろうな。
 だが、そんな事が出来る者などいるのだろうか?
 今やあちらこちらから行商人はやってくる。そのうちのどれかに乗って行ったのかも知れない。

 しかし、テリサバース教会と言えばこの島国のたった一つの宗教。
 それを蔑ろにするなど……この島国の人間は腐っている!
 そもそもジュノリス王が法の番人と言うのも昔から気に入らなかった!!
 法王がいるのだからワシが法の番人でなくてはならぬのに!
 前々からオスカール王に色々な薬草を作らせ、王太子の死後ジュノリス王が種なしになるようにオスカール王に薬を届けさせたのに、ソックリな異世界人を王太子などにしおって……。

 毒薬を持って行かせたメイドもメイドだ!
 メイド自身は瓶の中身を知らないし、ジュノリス王たちに悪意など抱いていないのだから、悪意探知でも流石に探知出来ないはず
 それに無味無臭の毒薬だ、危険察知10なければ気が付かないだろう。
 そんな化物がいる筈もないのだ。
 必ずジュノリス王と王太子は死ぬ!
 例え今日が駄目でも明日ならば!!
 即死させるだけの毒だ、助かりはしない!!
 何度となく実験して作る事が出来た毒だからな!


「神官よ、そう嘆くでない」
「法王様……」
「今の国のあり方こそが間違いなのだ。テリサバース教会はそれを正して行かねばならん」
「と、言いますと」
「うむ……そうだな。一つ言える事は、法の番人は二人もいらぬと言う事だな」


 そう、二人も必要ない。
 ワシだけで充分。
 サッサと王位とその『法の番人』と言う名もワシが貰わねば。


「し、しかし、ジュノリス王は法の番人に相応しく、孤児院を建て、老人達の終の棲家を作り上げました。文字の読み書きや計算の出来ぬ者の為に学校と言う物まで作りました。あれこそ法の番人としての人に対する慈悲ではありませんか?」
「はははははは! 金を持っておらん者に慈悲を掛ける? そんなものは偽善だ」
「ぎ、偽善」
「偽善では腹は膨れんぞ?」


 そう言って笑いながら立ち去ると、ワシが王になった暁にはその三つを真っ先にぶち壊してやろう。
 金のない物は亡き縋り奴隷にし、死にゆく者は実験台にする。
 それこそ命の使い様と言う物だろう?
 若く美しい娘ならば近くに置き、そうでないものは下働きのように働かせるのも、また使い様だ。
 そんな当たり前の事も分からぬ神官が最近は特に多い。


「指導のし直しじゃな」


 外から聞こえる喧噪はワシの耳では聞こえぬが、どうせ行き場のないストレスをたった一つの宗教であるテリサバース教会にぶつけているのだろう。
 今は存分にぶつけるがいい。
 だが、倍にして返してやろう。


「ひっひっひ……ひぁっはっはっはっは!!」


 声を上げて笑いつつ豪華な夕食を食べ、ゆったりと広い風呂に入り眠ったが翌日もジュノリス王の死が伝えられなかった。
 明日には出廷だと言うのにあのメイド、しくじったのではないだろうな!?
 まぁワシとしか話をしないと言う命令を入れ込んである。
 犯人は分かるまい。
 奴隷の証を消せるものなど早々いないのだし、その液体を作れるのはテリサバース教会のみだ。
 ワシは安全。
 ワシは狼狽えることはない。
 そう自分に言い聞かせその日は眠りにつき、翌朝出廷命令に溜息を吐きながら馬車に揺られ、城の前にある【法律裁判所】へと向かうのだった――。
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