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第一章 要らないと言うのなら旅立ちます。探さないで下さい。

40 月末の給料渡しと、土地買いと、隣国の消えた勇者の噂と、陛下への謁見が迫る。

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 こうして夕方になるまで各自色々と動き回り、夕方5時、最初に店が閉まる化粧品店にて給料を手渡すことになるのだが――。


「こんなに頂いて……宜しいのですか?」
「初めての店で色々苦労を掛けさせてしまいましたので」
「ありがとう御座います。いや――、妻に何か買って行かないとな!」
「うちの従業員は、ストレリチア各店で買い物する際は3%オフですよ。但し銭湯は割引なしです。疲れが取れると評判なので是非ご利用下さい」
「くう!商売上手!」
「色々買いたいけどまだまだ貯めなきゃ」


 と、給料を貰った皆さんは嬉しそうにしていた。
 その後もお菓子店、酒屋、銭湯と続き、全員に給料を渡し終えると、次は拠点の皆だ。
 一人ずつ丁寧に給料を手渡すと、ジャラリとした音と重さに嬉しそうな顔をする子供達。
 ダグラスとエリーナの給料も多く、嬉しそうにしていた。
 本日入ったばかりのロスターナは、子供のお小遣い程度気持だけだ。


「子供たちは休みの日にダグラスやエリーヌに付き添って貰って街で買い物をしてもいいし、貯金しておくのもアリだぞ」
「俺は貯金します」「私も」
「シュウとナノは貯金か。テリア達は?」
「私も一先ず貯金かな」「俺も貯金する。将来必要になるかもだし」「うんうん」
「子供たちは皆堅実だなぁ」
「ソコがこの子たちの良い所よ」
「俺も使わないぞ。奴隷がこんな大金貰えるなんて聞いたことがない。金が貯まったら俺は俺自身を買い戻す。奴隷紋も消すつもりだ。」
「そうね。奴隷になったのは自業自得だし、私もそうするわ。」
「…………」
「えーっと!私はココに来たばかりだから貰えただけでラッキーだわ!」
「ふふふ」
「よし!じゃあ給料の話はここまでだ。俺は今から商業ギルドに行って仕事を片してくるから」
「だったら俺は護衛だ。もう『ストレリチアのアツシ』なんだから護衛の一人は着けておけ。」
「そうだな。じゃあダグラス、すまないが」
「おう」
「行ってきます」


 そう言うとダグラスと一緒に商業ギルドに向かい、丁度リウスさんが帰るところに出くわしてしまい、ならばと仕事を一つしてくれることになった。
 俺が借りている土地を全て買い取ると言うものだったが、リウスさんは笑顔で頷いて売買契約書を持ってきた。


「家のある場所と、化粧品店、銭湯にお菓子屋に酒屋の土地ですね」
「はい、お願いします」
「全部で金貨1,500,000枚になりますが、一括で大丈夫ですか?」
「出せますね、余裕です」
「おお、流石はボルドーナ商会を抜いただけある」
「いえいえ、今回は運が良かっただけです。ボルドーナ商会にはこれからもお世話になりますから」
「業務提携していましたね。良い事です」
「ええ、とても良い縁を結べたと思います。こちらお納めください」


 そう言うと数名の社員さんが金貨を数えてくれて、ピッタリある事を確認し、売買契約書にサインと血印を押した。
 昔は金貨の上があったらしいが、偽物が出回ったりでなくなって、今は金貨が一番上のお金らしい。
 なので、時間が掛かっても数えるのが普通なのだそうだ。
 皆が出払ってから、リウスさんは目を閉じて語りだした。


「しかし、レアスキルとは本当に凄いのですね。素晴らしい才能だ」
「そうですね」
「実は、女王陛下が貴方にお会いしたいと言うお話です」
「俺に、ですか?」
「恐らく獣人の避難所についての話があるのだと思います」
「なるほど」
「その時に、シルクのパジャマをサイズ一式持って行くのをお勧めします。手に入らなかったそうなので」
「え、来てらしたんですか?」
「使いの者を出したそうですが、売り切れたそうで」
「ああ」
「予定では明後日の朝10時にとの事ですが」
「伺います。ですが私は礼儀も何も知りません。私一人で大丈夫でしょうか?」
「私とボルド氏が付き添います。カナエさんも御一緒に」
「分かりました」


 そう言って帰る支度を始めたその時だった――。


「オスカール王国で、勇者の一人が行方不明だそうです」
「……」
「どこかの国に行ったのか、その行方は定かではないそうです。精神的に不安定だったそうで、国では『心を病んで死んだ』ことにしたそうです」
「そうですか。なんとも不名誉な事ですね」
「ええ、本当に。ですので、もし仮にこの国に流れ着いたのなら、それは奇跡です。この先幸せになる権利はあると思います」
「ええ、それは思います」
「慌てないのですね?」
「あちらの商業ギルドでもお世話になりましたので、多少の噂話は耳にしています。」
「ははは。肝が据わってらっしゃる。そこも、我々が貴方に期待する所なのです。獣人を受け入れる度量も計り知れない。実にこの国に相応しい人材でしょう。陛下もその事を十分に聞いて理解していらっしゃいます」
「ですが、俺一人で何処までやれるかは不透明ですよ」
「やれるだけやってみましょう。今はそれしかないですしね」


 そう言って微笑んだリウスさんに俺も苦笑いし、その足で外に出てダグラスと歩いていると、ダグラスは言いにくそうに口を開いた。


「俺は、アンタみたいな男に獣人を纏めて欲しいと思う」
「と言うと?」
「獣人のダングル王国は知ってるか?あの国の今の王は、偽物だ」
「……」
「数年前、当時の国王夫婦が殺された。犯人は国王の弟で、そいつが今の国王だ。前国王には幼い子供がいたが、国王夫妻が殺された時に行方不明になった。子供たちが生きているのか、死んでしまったのかも判らない。そういう経緯があってあの国には強いリーダーが必要なんだ」
「俺はそこまで強くはないぞ」
「いや、アンタは心が強い」
「そうかな? 今でも商売だけで手一杯なのにか?」
「ボルドーナ商会は各国に支店はある。だが、本店は一つに絞って冒険しない」
「………」
「だが、アツシは違う。チャレンジを怖がらない所がある」
「無謀とも言うかもしれないぞ?」
「だが、そこに着いて行きたいと思う獣人はきっと多い」
「だとしたら、名誉なことだけれどな」


 何は無くとも明後日。
 女王陛下との謁見で色々決まるだろう。
 準備に追われる可能性もあるが、此処から獣人の避難所まで車で直ぐだ。焦ることは無い。
 それに、獣人達にも暮らしと言う物がある。
 国の援助や炊き出しだけでは足りない事も多いだろう。
 まずは安定した生活――、衣食住だな。そして仕事をして金を得る。
 施されている生活は命を握られているのと同義。支援がなくなれば途端に生きられなくなる。だからそこから脱却する必要がある。人であろうと他の生き物であろうとそれは同じハズだ。


「やれるところまではやってみる。頑張れる所まではな」
「俺も手伝えるところは手伝おう」
「ああ、皆で頑張ろう」


 そう言って一緒に拠点に帰ると、子供たちはもう寝ていて、女性陣二人が丁度お風呂から出た所だったので、カナエに「明後日女王陛下との謁見な。スーツな」と伝えると目を見開いて驚いていた。
 俺も苦笑いしたが、覚悟を決めた顔で「分かりました」と口にする。
 明日は菊池の事がある為、ダグラスとカナエに補充組として頑張って貰うと言うのも伝え、俺達も風呂に入り眠りについた翌日――。



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