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第一章 要らないと言うのなら旅立ちます。探さないで下さい。

17 従業員への説明も終わり、お試しに食べて貰って感想も貰い、いざ明日からお店オープン!

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 ――商業ギルドマスターside――


 私、リウス・ノーザンがノスタルミア王国の首都ミスアーナで商業ギルドマスターになって早30年。
 久々に素晴らしい商品を持ってきて下さったアツシ様とそのお弟子様に、今後もこの首都を拠点として貰うべく色々便宜をはかり、尚且つレアスキルがどんなものか……やはり気になりましてね?
 現在アツシ様にお貸しする三人のやり手従業員を引き連れ、空き地だった場所に着くとそこには見た事もない立派な豪邸が建っていました。
 思わず眼鏡がずり落ちましたね。
 驚きです……。
 あの小さな箱のような、多分乗り物でしょうが……アレは何でしょう。不思議です。
 そして奥に目をやると、女性が好みそうなデザインのお洒落なお店。
 外は鏡張りで中は見えませんが、なんともまたお金のかかるデザインなことか。
 小さく咳き込み、私はアツシさんの豪邸のドアをノックしました。
 すると――。


「おはようございますギルドマスター」
「おはようございますアツシ様、素晴らしい建物ですね」
「ありがとう御座います。こちらの家とあちらの店舗、あと小屋みたいなので動きそうなのは俺のレアスキルなんです」
「なんと!?」


 驚いているとアツシさんの服装に目が行きました。
 ビシッと決まった高級そうなスーツに赤いネクタイ!
 ネクタイピンに付いているのは……ダイヤではありませんか!!


「お待たせしました」
「では、店の方にご案内します。皆~お留守番頼んだよ~」
「「「「はーい!」」」」


 どうやらお子さんを雇っているのか、二人の子供なのか……判断はつきませんが、元気な子供の声がしました。
 それにアツシさんのお弟子さんの格好も素晴らしい!!
 正に仕事のできる女の格好です!
 首に光るあれは……ダイヤじゃないですか!?
 驚きを隠せないでいる私を放置して、店の戸を開き中に入ると愕然としました。
 中規模な店内だと言うのに明るく、商品は見たことがない物ばかりです!!
 ああああっ!!!
 外から見たら鏡だと思っていたのに、中から見ると外が透けて見える!?
 これは夢でしょうか!?


「驚かれたでしょう? 特別なガラスを使っているんです」
「ええ、お、驚きましたよ」
「店内の軽い紹介をする前に、そちらのお三方に挨拶を。俺はアツシと申します。こちらが助手のカナエ。二人でこの店の準備をある程度終わらせました。お三方はこの店の店員をして下さると言う事で間違いないでしょうか?」
「はい……」
「間違い……ありません」
「ですが……」
「ああ、気になるものがあったら食べてください。試食は大事です」
「「「「え!?」」」」


 アツシさんの言葉に思わず固まる私達一同。
 お値段を見ればどれだけ高い商品か分かります。
 それを食べてみろとは……。


「あ、そ、そうですね。その前に挨拶を致します。わたくし、セバスディと申します。この三人の中では一番偉い立場になりますね」
「では、仮の店長と言う事になるのでしょうか」
「そうですね。オーナーはアツシ様ですので」
「分かりました。セバスディさんよろしくお願いします」
「私はアンネと申します。食べ物を中心にとお受けしております」
「ありがとう御座います。と言う事は、アンネさんは俺の担当ですね。ここにあるお菓子や飲み物は俺が用意したので」
「そ、そうなんですね!?」
「はい! 折角ですし後で試食してみましょう」
「ひゃい……」


 もうここでうちの精鋭の従業員が倒れそうです。
 どうか持ちこたえなさい!!


「私はマルシャリンと申します。女性担当と聞いておりますが」
「あ、私の商品担当ですね? 覚えることが山ほどありますが大丈夫でしょうか?」
「メモします」
「ありがとう御座います。ちなみに中央にあるこのマネキンのパジャマですけど、売れると思います?」
「触っても?」
「ええ、どうぞ」


 そう言ってマルシャリンがその布地を触ると……フラッと後ろに倒れそうに!!


「大丈夫ですかマルシャリンさん!?」
「な、なんという極上の肌触り! これは何ですか!?」
「え、これはシルクで出来たパジャマです」
「シ、シルク!! 滅多にこの国にも入ってこないシルクですって!?」
「そうなんですね。仕入れ先は言えませんが、このシルクのパジャマ売れると思います?」
「注文が殺到しますよ!?」
「良かった! 売れるみたいで安心しました!」
「お値段も納得です……っ!」
「こちらは今は予約販売になっておりまして、商品をお渡しするときにお金を頂いて下さいね?」
「分かりました……」
「それからこちらの化粧品なんですが」
「け、化粧品!?」


 と、マルシャリンは目を白黒させて、試しに使ったりと忙しそうです。
 これは、これはもしや。


「アツシ様、少々宜しいでしょうか?」
「何でしょう?」
「ええ、この店は三人では到底店を回せないと思いますので、追加で二名程連れて来ても?」
「ええ、構いませんが」
「急いで行ってまいります」


 そう言うと私は全力で商業ギルドに戻り、ナモシュとセモシュを呼びました。
 慌てた私の尋常ではない声に、私が育て上げた双子を呼んだのです。


「「どうしましたギルドマスター」」
「緊急事態です。二人は直ぐに別の店担当になって貰います」
「「え」」
「この国で革命が起きるかも知れません。覚悟はありますか!?」
「か、革命!?」
「一体何が……」
「覚悟がないなら仕事に戻りなさい」
「いえ、覚悟はあります」
「僕もです」
「では、お二人共着いてきなさい」
「「はい!」」


 こうしてもう一度ダッシュしてアツシ様のお店に着くと、やはり双子も呆然としました。
 マルシャリンは必死にメモ帳を開いてメモしていますし、アツシさんはセバスディとアンネにお菓子の説明をしています。


「アツシ様、お待たせしました。新しい従業員二人です」
「初めまして、僕はナモシュと申します。セモシュの双子の兄です」
「初めまして、ボクはセモシュ、ナモシュの双子の弟です」
「初めまして、俺はアツシと申します」
「ではセモシュさん、貴方はマルシャリンさんとペアで店を回しなさい。ナモシュはアンネとペアでお願いします」
「「畏まりました」」
「では、皆さんが集まった所で二階の応接室でお菓子の食べ比べでもしましょうか?」
「良いですね。飲み物も気に入ったのを持って行って貰っては?」
「そうしようか」
「な、何でもいいんですか? 飲み物一つにお菓子一つ」
「どうぞ」
「では……私はチョコレートを貰います!」
「私はクッキーを!」
「出来ればセバスディさんには、大人用にと思って用意したワインとチーズを召し上がって頂けたらと思いますが駄目でしょうか?」
「店の商品ですので確かめるのが良いでしょう。頂きます」
「僕はアーモンドチョコを」
「ボクは~……この袋に入ったお菓子を!」


 こうして一人ずつお菓子を選び、飲み物も夏でも冬でも冷たいんでしょうか……飲み物も選んでから二階に上がり、応接室でお菓子を開け、各自飲み物も準備し、ゴクリと喉を鳴らします。


「では、どうぞ。試食してみてください」
「ではお言葉に甘えて」


 そうセバスディが一礼し、開け方を聞いて開けてそのままラッパ飲みと言う貴族にあるまじき飲み方でワインを飲むと――。


「うまい!!!!!!」


 と、言う耳がキーンとなる程の大声が出ました。
 セバスディ、貴方そんな大声出せたんですか!?


「これは、これは美味いですよ!?」
「良かったです。是非チーズと一緒にどうぞ」
「では遠慮なく……これは……っ」
「どうなんです?」
「素敵なマリアージュですね……」
「良かったです」


 そこでマリアージュが完結しちゃってますよ!?


「なんて贅沢な味……」
「アーモンドがカリッと蜜も掛かってるのか甘いのに、それを包み込むチョコがまた美味しい……」
「クッキーが私の知ってるクッキーと違う……至高の食べ物です」
「このお菓子病みつきになる……パリパリしてるのにしょっぱくて甘い。禁断の味だ」


 その後飲み物でも同じ効果が出ましてね。
 ええ、私も実はセバスディと同じものを選んでしまいましてね。
 お酒、好きなんです。


「ンン! これでよく解ったでしょう? 革命が起きると」
「「「「はい」」」」
「では、明日までに追加分の物をレジ横奥の方に番号を書いて置いておきますので、無くなり次第また補充してください。それと、あの扉はうちの物しか通れませんのであしからず」
「レアスキル故にですね?」
「そうですね」
「マルシャリンさんとセモシュさんは、シッカリとこれから復習しておいてくださいね」
「「頭に叩き込みます」」
「ナモシュ、貴方もですよ」
「はい、アンネ様……」
「そう言えば店の名前は何ですか?」


 そう聞き返すと、アツシさんは笑顔で――。


「『ストレリチア』です!」
「なるほど、素敵な花を店の名前に選びましたね」


 その言葉にアツシ様は笑顔で答え、その笑顔こそが――花の由来かも知れませんね。


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