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12 異世界では【敵】だと判断したら(上)

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マイケルさんから聞いた、この国の現状。
一言で言えば、【レディー・マッスル】のギルドがあるからこそ、他国から攻め込まれることなく何とか成り立っている。
言い換えれば、ギルドが別の国に移動してしまえばこの国は直ぐにでも植民地になっても可笑しくは無いのだ。
それを理解が出来ないのか、それとも見て見ぬふりをしているのか、女王陛下とマリリンの元婚約者である王配と言うのは余りにも愚かすぎだろう。

さて、まずは集まっている貴族がどう動くか。
有名な商人も呼ばれていると言うし、相手次第ではあるが、交渉次第でギルドは更に潤う事になるし、マリリンの名も更に盤石なものになる。
この国の貴族たちが集まり、その場で毎回行われてきたマリリンへの嫌がらせ。
それも、今回で終わりにする。
切れる縁ならばサッサと切ってしまうのが早いし、何より早朝マイケルさんの素晴らしい書面と一緒に、各国にマリリンの結婚は通達済みだ。
無論――今から向かう場所にも通達は行っている。
「知らぬ、存ぜぬ」は通用しないのだ。
城に到着すると、大きな門が開き馬車は城の中へと入っていく。
此処まで来る途中の街中も観ていたが、街中の状況と城の煌びやかさが、余りにもアンバランスに感じる。
国民からの血税で国のトップが好き勝手している……と言う典型的な姿と言えば解りやすいだろうか。


「随分とこの国のトップは愚かなようですね」


笑顔で口にしたカズマにマリリンは驚き、ジャックとマイケルは強く頷いた。


「さて、城の中は敵陣と思っていいでしょうが……マリリンは幸せそうに微笑んで僕の隣に立っているだけで構いませんからね? 他は僕とマイケルさんとでやり合います」
「本当に大丈夫なのか……?」
「僕は、勝ち戦しかしませんよ」


そう言うと馬車は止まり、城への入り口へ到着したようだ。
先にジャックさんとマイケルさんが降り、次にカズマが降りるとエスコートするようにマリリンに手を伸ばした。
無論、現れたマリリンに城の者たちは驚きを隠せないでいたが、マリリンは幸せそうにカズマの隣に立ち、彼女の歩幅に合わせて会場へと歩いていく。
――この異世界には存在しない極上のシルクドレスに身を包んだマリリンは美しく、短い髪であったとしても、その両耳には美しい宝石のついたイヤリング。
そして、その宝石に合わせたネックレスは光り輝いていた。
靴に関しても厳選したマリリンの足に合う光沢ある美しい物を履いており、会場に入るなり視線が一斉に集まり会場はざわついた。

貴族たちが近寄らないのは、今までマリリンにしてきた仕打ちの性か、それとも何かしらの派閥があるのか……。それでも、一部の貴族はマリリンの許へやってきては、ドレスは何処で手に入れられたのか、その宝石は何処で? 等と、マリリン自身を褒めることは一切無く、単純にマリリンが着ている全てが羨ましくてたまらないだけのようだ。
だが、そんな質問に対してマリリンが口にする言葉はただ一つ。


「これらのドレスも靴も化粧も宝石も、全て夫からのプレゼントですよ」
「夫……ですか?」
「あら、まだ女王陛下から通達がきていないのかしら? 早朝に各国の王家に私の結婚の報告を致しましたのに」


幸せそうにカズマの細い腕に手を通すマリリンに、貴族の女性たちは顔を引き攣らせていた。無論、中には猛者もいて「わたくしにもマリリンさんが着ていらっしゃるようなドレスや宝石を紹介して頂けません?」と聞いてくる輩もいたが――。


「申し訳ありません。私は愛しい妻を美しくして差し上げたくて用意したので、他の女性を美しくする事は妻に失礼ですから出来ません。やはり夫ならば、愛しい妻を更に美しくするために頑張るものでしょうし、あなた様の旦那様はそんな事もして下さらない甲斐性なしなのですか? ……お可哀そうに」


悲しそうに。
憐れむように。


そんな瞳で見られた女性達はカズマ達から去っていった。
つい、得てしまった悪意を知ることが出来るスキルの所為で、相手の言葉が如何に巧妙な悪意と欲が含まれているのか感じ取れるようになってしまっているようだ。
商売するには最高のスキルだな~と思っていると、盛大なラッパの音が鳴り、女王陛下と王配が登場したようだ。

今現在、誰よりも最先端のドレスを身にまとい。
今現在、誰よりも優れて希少価値の高い宝石を身に着け。
今現在、誰よりも美しさに気を使っているであろうこの国のピエロ。
そして、そのピエロの隣で張り付いた笑顔で立っている王配。

―――さて、どう料理をしてくれようか。





「皆の者、よくぞ参られました。本来ならばもう少し早めに行う予定だったのですが、やはり何かと忙しい【レディー・マッスル】のギルドマスター様の予定が合わず、やっと開くことが出来ましたわ」


なるほど、世界各国から依頼を受けて忙しいマリリンを軽視した発言……。


「しかも驚いたことに、レディー・マッスルのギルドマスター、マリリンさんはご結婚されたのだとか!! 奇特な男性に出会えた事は大変喜ばしい事ですわね!!」


声高々に口にする女王だったが、貴族の誰もがその言葉に賛同が出来ないでいる。
可笑しいとやっと悟った二人は周囲を見渡し、その視線を避けるように貴族が道を開け、この世界では絶対に手に入れる事など不可能な、それでいて、女王が着飾っているドレスも宝石もかすんでしまう程の物を身に着け、幸せそうにカズマの隣で微笑んでいるマリリンを見た二人は驚愕したのち、歯を食いしばった。


「マ……マリリン貴女……っ」
「お久しぶりで御座います女王陛下。暫く愛しの夫と旅行に出ていた為、帰宅するのが遅れたことを謝罪致しますわ」


見事に女王陛下の方が宝石もドレスも質が悪いとしか言いようがない。
まぁ、カズマのいる世界のもので、出来うる限り一級品を用意したのだから当たり前なのだが。


「そちらの少年は?」


まるで見下すように口にしたマリリンの元婚約者である王配にカズマが軽く会釈すると、スキル交渉術で対応する。


「お初に御目にかかります。マリリンの夫、カズマと申します。どうも幼く見えるようですが、これでも17歳ですよ」
「マリリンよりも年下ではないか! ははっ マリリンは彼を脅しでもして結婚でもしたのかい?」
「何を仰います。私の方からマリリンを口説き落としたのですよ。ええ、とても苦労致しました」
「「は?」」


周囲はカズマの言葉を聞き逃すまいと、声も出さずにやり取りを見つめている。


「この様な場で惚気るのも失礼やもしれませんが、今日は結婚の報告もありますから構いませんよね? ええ、彼女のように強く、彼女のように優しく清らかな女性は他にいらっしゃいませんから、他の方に心を持っていかれない様に必死でした。強いマリリンも素晴らしく魅力的ですが、やはり夫としては妻を美しく着飾りたいと言う欲も御座います。ですので、マリリンが身に着けている服もアクセサリーも、私の方から一式全てをプレゼントし、身に着けて頂きました。独占欲丸出しなのはお許しください。何せ、まだ結婚して間もないもので、加減がきかないのですよ。これほどまでに魅力的な女性なのですから致し方ない事ですよね?」
「もう……カズマったら」


頬を染めて照れるマリリンを見た女王と王配は、カズマとマリリンを交互に見つめ、周りの貴族たちはカズマの口にした言葉を信じられずにいた。

――本来であれば、マリリンはこの場で笑いものにされるべき存在であった。

それがだ。
若く、何より財力もあり、あのマリリンに一途の夫と言う存在は、周囲にとっては驚き以外の何物でもないのだ。
しかも、世界的有名な冒険者であるマリリンの結婚と言う報告の場である。
この事に関しては、例え女王であっても場を咎めることは世界の法に反する為、顔を真っ赤に染めて歯を食いしばっていても、文句をいう事は出来ない。
すると――次はジャックとマイケルが話し始めた。


「カズマ様はマリリンを口説き落とすために、見たこともない上質な砂糖や塩、そして胡椒等の調味料だけに留まらず、美しさを保つためのアイテムまで無償でギルドに大量にプレゼントしてくださいましたよ」
「さらに言えば、今まで飲んだこともないような素晴らしい茶葉等もですね」


この言葉に女王は目を見開き、貴族たちは息を呑んだ。


「ええ、あれには驚かされました。そう言えば以前、マリリンが一時帰宅した際のカズマ様からのプレゼントは実に素晴らしい物でしたね。見たこともない美しい、それこそ、夜空に輝く星を美しい色に染めたかのような砂糖菓子、それと……」
「ああ、見たこともない程に美しいバラを細工した角砂糖……それに添えられた、マリリンを想う熱烈な手紙付き。何ともこちらが照れてしまう程の、粋な計らいでした」
「いえいえ、あの程度のプレゼントしか出来なかった自分を今も恥じております。もっとマリリンに相応しい物があったのではないかと、あの後色々と調べ回ったものですよ」
「ははは、ご謙遜を」
「あの程度の事しか出来なかったのですから情けない事です。ですが、その時の苦い経験から今回はあらゆる手を使い、愛しい妻の為に頭の先からつま先まで、私の愛で染めてしまいました」
「良かったじゃないかマリリン!」
「そ、そうですわね……なんだかとても恥ずかしいですわ」


広場全体が甘い空気……というか、カズマの余りにも信じられない程の財力に、貴族たちのプライドは複雑骨折並みにへし折られた。
それは無論、この国の女王と王配も同じだ。
きめ細かい美しくなった肌に、化粧だって信じられない程に良い物を使っているのが遠めでも分かるほど。
まるでゴリラのようなマリリンが、美しい女性にさえ見えてくる程の洗練された品。
何より――それだけの財力を持っている上に、マリリンよりも若い男が、他の美しい花々には目もくれず、マリリンだけに熱い視線を向けていると言う現実。
幾ら結婚の報告と言え、女王陛下と王配のプライドは許すことが出来なかった。


「ま、まぁ確かに美しい装飾品だとは思いますわ。けれど、そう言ったものは女王にこそ献上すべきことでは御座いませんの?」
「そうだね、異国の物ならば尚更だよ!!」
「それに、ギルドで使っていると言う美容品も献上すべきではありませんの? 全く、世界屈指のギルドと言えど、粗悪な冒険者の集まりですものねぇ? 当たり前の事がお解りにならないのかしら? 嫌だわ、野蛮な輩ばかりで」
「全くだね!!」


一般的に、名高い人物へ対する結婚報告に対し、女王や王配が口にしたことは、国際法に違反し、尚且つ世界からどれだけの非難がくるかわかったものではないのだが――。


「申し訳ございません。確かにこの国の【住民】や【市民】そして【貴族】ならば、その必要があったでしょう。ですが……私はレディー・マッスルのギルドマスターの夫であり、私自身も冒険者です。確か、冒険者は国に対する忠誠心、及び、献上品と言う規約は無かったはずですし、献上品を持ってくるなどと言った暗黙の了解と言うものもないはずです。よもや……この国の女王陛下ともあろう方が! その王配ともあろう方が! 中等科で習う当たり前の知識をご存じないなんて信じられません! 此処に御集りの貴族の方ですら知っている当たり前の内容ですよ!?」
「「――!!」」


カズマの少々演技も入っていつつも、スキル交渉術により周囲の視線と疑惑を上手く使うことが出来た。
さぁ、次は第二ラウンドだ。

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