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261 負けられぬ戦い。②
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――アラーシュ視点――
「大丈夫なのかリディア! ノジュの言っていた後ろ盾は薬師や薬剤師を多数輩出している、ドルマン伯爵家だぞ!?」
そう叫んだナジュ王太子に、ワシは血の気が引いていく感じがした。
リディア……大丈夫なのか……?
古い時代から常に優秀な薬師や薬剤師を排出し続けた名門中の名門。
そのドルマン伯爵家と戦うなど、勝てるか否か――。
「ドルマン? ああ、粗悪品の」
「「「粗悪品?」」」
「ドルマン伯爵家の薬って、うちの薬師が言うには手抜きが多いんですの。ドルマン製と言う名前だけで、薬の効果はうちの薬師の方が上の上ですわ。それに、その程度の薬しか作れぬような伯爵家しか後ろ盾がないなんて可哀そうですわね?」
「「「リディア……」」」
「さ、人が居ない内に話をしましょう。箱庭の薬師たちはあらゆる方々が出している薬も研究の為に調べているのですが、ドルマン程度なら話にならないのは先ほどお話した通りですわ。ですが――何を持ってくるかまでは分かりませんわ。そこでこちらも起死回生と言う意味も込めて薬を作ろうと思いますの。無論、既に案も作り方も分かっているものですが……アラーシュ様には一度、お話したことが御座いますわよね?」
その一言に、メリンダ事件の前に確かにあった、あの『薬』を思い出した!
「――アレか!!」
「何だ!?」
「お爺様なんの話です!? 本当に勝てるだけの価値のある薬ですか!?」
「それは……」
「「「それは!?」」」
「男性の頭皮に関するお悩みを解決する薬……禿げを治す薬ですわ」
そうリディアが笑顔で答えると、ナジュ王太子殿下とカリヌ、そしてカイルまでもが固まった。
それもそうだろう。
禿に悩む貴族や平民は頭皮にポーションを掛けるのが普通なのだ。
頭を洗う時もポーションをタップリと使い、念入りに手入れをするのが普通なのだが――。
「あああ……あるのか? ハゲを治す薬」
「ありますわ」
「本当に?」
「ええ!」
「そんな奇跡にも近い薬……聞いたことが無いぞ?」
「ありますの。出来ますの。即効性が無いのが辛い所ですけれど、ありますのよ」
「「「……」」」
「でも、それだけだとインパクトに欠けますから『破損部位修復ポーション』と『エリクサー』もあれば十分かしら? もう少しインパクトが居るかしら?」
「「いやいやいやいや」」
「では、次のパーティーが一か月後なら、その間じっくり時間を掛けて作れる薬を作りますわ! 『ラストエリクサー』なんてどうかしら?」
「「「伝説の薬!!!」」」
「あら? あちらも本気で来るんでしょう? でしたらこちらも本気を出さねば申し訳ないのではなくって?」
「ドルマン伯爵家が自信を無くして仕事を放棄するレベルだぞ!!」
「気にしませんわ。喧嘩を売ってきたのはノジュ姫殿下ですもの。あんな礼儀知らずが、ナジュ王太子殿下やナカース王国の足を引っ張るなんて見るのも嫌ですわ! ですから、徹底的に潰します。やりますわ」
「カイル、止めてくれ!! 伝説級が何本もあったらとんでもない事だぞ!」
「諦めてくださいナジュ王太子殿下! リディアを怒らせたのが運の尽きです!」
うむ、うむ!!!
これこそが、これこそがダンノージュ侯爵家に嫁ぎし娘の気概よ!!
これ位の気概が無ければ、ダンノージュ侯爵家の嫁は務まらぬ!!
「孫は、大変素敵な相手と結婚したのね、アラーシュ」
「ああ、実に素晴らしい嫁を貰ったようだ。ダンノージュ侯爵家は安泰だな」
「ええ、本当に」
そう語り合うワシとミーヤとは別に――。
「リディア、本気なのか? 本気でラストエリクサーを作るつもりなのか?」
「ええ、肝心のアイテムは売れないものを投げ込んでいる、例の鞄にありますし」
「一体どれのなんだ!? クリスタルゴーレムの腕か? 核か? それともドラゴン系のアイテムなのか!?」
「待てカイル、そんなものがホイホイでちまうような採掘場なんてあるのか!? そんなアイテムがあったら何で城に献上しないんだよ!!」
「欲しいんですか? なら俺から差し上げましょうか? 良いよな? リディア」
「ええ、クリスタルゴーレムシリーズなら宜しいのでは? アレよく掘れますし」
「そんな考古学者が喜びそうなアイテムを、お茶でも出しましょうか的に言われてもっ!」
「ドラゴン系は色々使いたい素材なのでごめんなさいね?」
「そう言えば薬師たちが作りたいっていう薬にドラゴンの素材がいるんだったか。ナジュ王太子殿下、ドラゴンは勘弁してくださいね」
「「―――クリスタルゴーレムシリーズってなんだよおおおおおお!!!」」
ナジュ王太子殿下とカリヌの混乱の雄叫びが響いたところで、肩から息をしながら自分を落ち着かせようとする姿に、ワシとミーヤは何度も頷いた。
そうだ、そうだとも。
ワシもリディアやカイルから聞くたびに、二人が帰ってからよく叫んでいたものだ。
規格外なのだよ、リディアは。
そう、全てが規格外なのだ。
それを一々混乱して叫んでいては、この先やっていけぬと思ったのは何時だったか……。
懐かしい事だな……本当に。
「それでは、こちらが出す薬は」
「ええ、禿を治す薬に破損部位修復ポーション、それにエリクサーとトドメのラストエリクサーで行こうと思いますわ」
「そうか……ちゃんとやれそうか?」
「ええ! お任せくださいませ。一か月後、立派な薬を手に決着をつけにきますわ」
「頼もしいなリディアは。カイルよ、その間リディアの為に出来うる限りの事をするように」
「はい!」
「それと、次のパーティーでクリスタルゴーレムシリーズをナジュ王太子殿下に、ダンノージュ侯爵家の忠義の品として渡すと良い。あっと言わせるならば、顎が外れそうなほど驚かせてやろうではないか!」
「はい!!」
「ふふふふふ、ダンノージュ侯爵家に喧嘩を売ったノジュ姫殿下の顔が今から楽しみですわね」
「全くだな!」
「……ダンノージュ侯爵家……コワイ、色々コワイ」
「だが、これ以上にない味方だ。敵だったらと思うとゾッとするが……」
こうしてワシ等も話し合いが終わったところで、箱庭経由で各自戻り、ワシは心の底から笑いながらミーヤと酒を飲み交わした。
本当に一か月後が楽しみだ。
「決戦は今から一か月後……実に楽しみだな、ミーヤ」
「ええ、本当に」
憂いは必ずリディアが吹き飛ばすだろうと思うと、美味しいワインが何時も以上に美味しく感じた夜だった――。
「大丈夫なのかリディア! ノジュの言っていた後ろ盾は薬師や薬剤師を多数輩出している、ドルマン伯爵家だぞ!?」
そう叫んだナジュ王太子に、ワシは血の気が引いていく感じがした。
リディア……大丈夫なのか……?
古い時代から常に優秀な薬師や薬剤師を排出し続けた名門中の名門。
そのドルマン伯爵家と戦うなど、勝てるか否か――。
「ドルマン? ああ、粗悪品の」
「「「粗悪品?」」」
「ドルマン伯爵家の薬って、うちの薬師が言うには手抜きが多いんですの。ドルマン製と言う名前だけで、薬の効果はうちの薬師の方が上の上ですわ。それに、その程度の薬しか作れぬような伯爵家しか後ろ盾がないなんて可哀そうですわね?」
「「「リディア……」」」
「さ、人が居ない内に話をしましょう。箱庭の薬師たちはあらゆる方々が出している薬も研究の為に調べているのですが、ドルマン程度なら話にならないのは先ほどお話した通りですわ。ですが――何を持ってくるかまでは分かりませんわ。そこでこちらも起死回生と言う意味も込めて薬を作ろうと思いますの。無論、既に案も作り方も分かっているものですが……アラーシュ様には一度、お話したことが御座いますわよね?」
その一言に、メリンダ事件の前に確かにあった、あの『薬』を思い出した!
「――アレか!!」
「何だ!?」
「お爺様なんの話です!? 本当に勝てるだけの価値のある薬ですか!?」
「それは……」
「「「それは!?」」」
「男性の頭皮に関するお悩みを解決する薬……禿げを治す薬ですわ」
そうリディアが笑顔で答えると、ナジュ王太子殿下とカリヌ、そしてカイルまでもが固まった。
それもそうだろう。
禿に悩む貴族や平民は頭皮にポーションを掛けるのが普通なのだ。
頭を洗う時もポーションをタップリと使い、念入りに手入れをするのが普通なのだが――。
「あああ……あるのか? ハゲを治す薬」
「ありますわ」
「本当に?」
「ええ!」
「そんな奇跡にも近い薬……聞いたことが無いぞ?」
「ありますの。出来ますの。即効性が無いのが辛い所ですけれど、ありますのよ」
「「「……」」」
「でも、それだけだとインパクトに欠けますから『破損部位修復ポーション』と『エリクサー』もあれば十分かしら? もう少しインパクトが居るかしら?」
「「いやいやいやいや」」
「では、次のパーティーが一か月後なら、その間じっくり時間を掛けて作れる薬を作りますわ! 『ラストエリクサー』なんてどうかしら?」
「「「伝説の薬!!!」」」
「あら? あちらも本気で来るんでしょう? でしたらこちらも本気を出さねば申し訳ないのではなくって?」
「ドルマン伯爵家が自信を無くして仕事を放棄するレベルだぞ!!」
「気にしませんわ。喧嘩を売ってきたのはノジュ姫殿下ですもの。あんな礼儀知らずが、ナジュ王太子殿下やナカース王国の足を引っ張るなんて見るのも嫌ですわ! ですから、徹底的に潰します。やりますわ」
「カイル、止めてくれ!! 伝説級が何本もあったらとんでもない事だぞ!」
「諦めてくださいナジュ王太子殿下! リディアを怒らせたのが運の尽きです!」
うむ、うむ!!!
これこそが、これこそがダンノージュ侯爵家に嫁ぎし娘の気概よ!!
これ位の気概が無ければ、ダンノージュ侯爵家の嫁は務まらぬ!!
「孫は、大変素敵な相手と結婚したのね、アラーシュ」
「ああ、実に素晴らしい嫁を貰ったようだ。ダンノージュ侯爵家は安泰だな」
「ええ、本当に」
そう語り合うワシとミーヤとは別に――。
「リディア、本気なのか? 本気でラストエリクサーを作るつもりなのか?」
「ええ、肝心のアイテムは売れないものを投げ込んでいる、例の鞄にありますし」
「一体どれのなんだ!? クリスタルゴーレムの腕か? 核か? それともドラゴン系のアイテムなのか!?」
「待てカイル、そんなものがホイホイでちまうような採掘場なんてあるのか!? そんなアイテムがあったら何で城に献上しないんだよ!!」
「欲しいんですか? なら俺から差し上げましょうか? 良いよな? リディア」
「ええ、クリスタルゴーレムシリーズなら宜しいのでは? アレよく掘れますし」
「そんな考古学者が喜びそうなアイテムを、お茶でも出しましょうか的に言われてもっ!」
「ドラゴン系は色々使いたい素材なのでごめんなさいね?」
「そう言えば薬師たちが作りたいっていう薬にドラゴンの素材がいるんだったか。ナジュ王太子殿下、ドラゴンは勘弁してくださいね」
「「―――クリスタルゴーレムシリーズってなんだよおおおおおお!!!」」
ナジュ王太子殿下とカリヌの混乱の雄叫びが響いたところで、肩から息をしながら自分を落ち着かせようとする姿に、ワシとミーヤは何度も頷いた。
そうだ、そうだとも。
ワシもリディアやカイルから聞くたびに、二人が帰ってからよく叫んでいたものだ。
規格外なのだよ、リディアは。
そう、全てが規格外なのだ。
それを一々混乱して叫んでいては、この先やっていけぬと思ったのは何時だったか……。
懐かしい事だな……本当に。
「それでは、こちらが出す薬は」
「ええ、禿を治す薬に破損部位修復ポーション、それにエリクサーとトドメのラストエリクサーで行こうと思いますわ」
「そうか……ちゃんとやれそうか?」
「ええ! お任せくださいませ。一か月後、立派な薬を手に決着をつけにきますわ」
「頼もしいなリディアは。カイルよ、その間リディアの為に出来うる限りの事をするように」
「はい!」
「それと、次のパーティーでクリスタルゴーレムシリーズをナジュ王太子殿下に、ダンノージュ侯爵家の忠義の品として渡すと良い。あっと言わせるならば、顎が外れそうなほど驚かせてやろうではないか!」
「はい!!」
「ふふふふふ、ダンノージュ侯爵家に喧嘩を売ったノジュ姫殿下の顔が今から楽しみですわね」
「全くだな!」
「……ダンノージュ侯爵家……コワイ、色々コワイ」
「だが、これ以上にない味方だ。敵だったらと思うとゾッとするが……」
こうしてワシ等も話し合いが終わったところで、箱庭経由で各自戻り、ワシは心の底から笑いながらミーヤと酒を飲み交わした。
本当に一か月後が楽しみだ。
「決戦は今から一か月後……実に楽しみだな、ミーヤ」
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