上 下
226 / 274

226 足がかりになる為の店作りと、マリシアの涙と。

しおりを挟む
こうして始まった王都での商売への活路。
アラーシュ様に話したところ、「体験型は実に結構。今までにない商売になるだろう」とお褒めの言葉を頂き、「何時頃人は育つか」と言う問いに、せめて半年はかかる事を告げると、半年後に大きな屋敷をダンノージュ侯爵家で購入することが決まりましたわ。
また、その足掛かりとして子供向けの店を最初にオープンさせることを告げると、アラーシュ様は満足げに頷いておられましたわ。

子供と言うのは貴族でもそうですけれど、お金が掛かるものですわ。
特に貴族ならば教育、習い事、ドレスや靴等多岐にわたるでしょう。
そこは前世とあまり変わりは無いのかしら?

また、屋敷の半分は、わたくしたちの商売の売り上げから出すことになりますが、元々が儲かっている為に大きな痛手などには一切なりませんでしたの。
金銭関係に関してはライトさんがキッチリとしてくださっていた為、有り余るほどの金貨があった事に、こちらが驚いたほどですわ。


「毎日黒字って最高ですよね」


そう言って微笑むライトさんの笑顔は、とても幸せそうでしたわ……。
赤字にならない様に気を引き締めなくては!!!

そして、美女三人には王都での洋服関係専門として今後は活動して貰う事になりましたの。
といっても、売るのは専業の方を雇うとして、貴族用の子供の服を大量に作って貰う事にしましたわ。
無論、デザインは大量に作っておいたので見せると、今までにない華やかなドレスに――。


「身も心も踊り狂うわ!!」
「こんな愛らしい服を作っていいの!? 作っちゃうわよ!」
「お坊ちゃんの服もまた良いじゃない!!」


と、概ね好評だったことにホッとしましたわ。
私の考えた子供服と言うのが――前世流行っていた少女たちに絶大なる人気を博したアニメの衣装だったり、男の子向けには同じように前世流行ったアニメの衣装をイラストにしてだしたのだけれど、どれも了承を貰えて良かったわ。
やはり煌びやかな服装と言うのは目を引くのよね。
そう言えば――……一つ確認をしなくてはならない事があるわね。
そう思い、久しぶりにブレスレットを使ってカイルに話しかけると、驚いた様子だったけれど話をすることが出来ましたわ。


「カイル、アカサギ商店で聞いて来て欲しい事があるの。反物と呼ばれる布地はないかしら?」
『分かった、丁度今から話し合いだから聞いてくるよ』
「助かりますわ。それがあると衣装が更に広がりますの」
『そんなにか? 分かった、手に入ったら全部買い取りでいいのか?』
「ええ、高額な物でも構いませんわ」


こうして、わたくしは前世の祭りや祝い事の日に着ていた、『浴衣』『着物』を思い出したの。
男性なら『着流し』『甚平』『作務衣』とあるわね。
これを着こなした貴族なんて早々居ないんじゃないかしら?
確かにこの世界にある【当たり前のドレスや衣装】と言うのはよく目にするけれど、『和服をアレンジ』と言うのは聞いたことも無いわ。
そう、花魁風なんてのもあるし、太夫のような衣装だって珍しいわ。
そんな事を考えながらも、今度は彫金師及び付与師の元へ向かい、図案を手に説明しながらオルゴールと共に渡すと、彼らは頷いてオルゴール付きの宝石箱や、宝石付きの化粧箱を作ってくれることになりましたわ。それに髪留めや手鏡もお願いできたことでホッとしたわ。
貴金属や宝石に関して、彫金師に勝る物はいませんし、付与師には子供向けの付与アクセサリーを頼んだことで、まずは一安心ね。


「後は子供向けの化粧品だけれど……」


無論無添加でしか作らないけれど、色付きリップは色合いをピンクからオレンジ、赤系をメインに多めに作り、アイラインやチークなんかも作って、軽く白粉程度の抑えるのがベストよね。
洗顔に関しては専用のものを使えば直ぐに落ちるようにしておけばいいし、子供用の洗顔は泡タイプのものにしましょう。

後はそうね……ニキビ肌に悩む子供も多いと思いますの。
ニキビが嫌で家に引き籠るなんて、あってはならない事ですわ!
ニキビの為の洗顔やケアー用品も一式作るのは大事ですわね!
女の子は生理が始まる頃からニキビに悩み始めますもの……私も経験があるから分るわ。
男子も思春期に入ると悩みやすいと聞きますし、これはロングセラーになる予感がしますわ。

後は男性用、子供用アイテムとして、汗を拭うとスッとするウエットティッシュなんかも良いかもしれないわね。
汗を掻きやすい男児にこそ必須アイテムですわ!
女性なら油とり紙かしら? ちょっと和風なイメージのものが作りたいわ。でも花模様は必須よね。


それらを纏めてノートに書いたところで、昨日集まった女性達が集まり、休憩所にてまずはネイルの講習から始まりましたわ。
今回はわたくしも新しい店舗で忙しいと言う事で、急遽ヘルプで王太子領にあるネイルサロン・サルビアから三人のネイリストが集まってネイル講座が始まっているようですわ。
無論、道具は昨夜のうちに全て作っておきましたから、彼女達にはアイテムボックスと同時に渡してありますわ!

白熱したネイルのお話がされている中、フォルが訪れ、ファビーとロニエルも訪れ、弟子三人も訪れると、ノートに書かれたアイテムの多さにファビーはわたくしとフォルを交互に見ていましたけれど――。


「これは、錬金術で作れないんですか?」
「作っても良いけれど工程がとても長いの。それに子供が使うものならどうしても不純物を100%取り除けるロストテクノロジーが使い勝手が良いのよ」
「ボクは男子が使いそうなモノでしたら今は作れそうです。女性が使うものはスキルがまだ足りないようで」
「じゃあ、男子用はフォルに任せたいわ。それとフラフープはフォルにも作れまして?」
「はい、色も種類も豊富にあります」
「ではそちらも作っておいてくださる? 後は子供用も作っておいてくれると助かるわ。託児所でも使いたいし、箱庭の子供達用にも使いたいの」
「分かりました」
「それと、こんなものも作ってみたから子供達に遊ばせようと思いますわ」


そう言って鞄から取り出したのは――レトロな竹馬。
缶で出来たのと、竹製を作っておいたので、子供達が自由に遊べるでしょう。


「此処では馬は飼えませんから、代わりに竹馬と呼ばれるものと、その代わりとなる物を作りましたの。子供の運動機能を高めるアイテムの一つですわ」
「面白そう――!」
「転んでも下は砂地ですし、滅多な事では怪我はしませんね」
「そうね、わんぱく盛りが箱庭には多いから丁度いいかなと思ったの」
「仕事の合間にリディア様は子供達の遊び道具も作っているんですか?」
「そうよマリシア。子供の元気は原動力と言っても過言ではないわ。子供が元気なら悲しい事も立ち直れる力を貰えるのよ?」
「悲しい事も……ですか」
「人生は山あり谷ありですわ。偶に休憩所があるくらいで、良い事も悪い事も交互にやってくるの。悪い事が起きた時は、少し冷静になって、自分と物事や相手との距離を見るのも大事だったりするのよ?」
「自分と、相手との距離ですか?」
「そう、どっちが優れているかなんて、たいした問題ではないのよ。子供は全員先生だもの。それに気が付かない者、自分と相反する人と仲良くするのは無理な話だわ。私だったら切り捨てるもの。それに、人に対して上下と言うのは命に対して失礼ですわ。確かに貴族の上下関係は大切ですけれど、わたくしはそう言う世界は嫌いですの。人は平等で在れともいませんけれど、他人を見下す人間は大嫌いですわ」
「まぁ、リディア姉はそうだよね。ボクもだけど」
「私も見下されてきた方だから、リディア姉の気持ちわかるわ」


そう語るのは元スラム孤児だったファビーとフォル。
彼らは見下される事の辛さを誰よりも知っている。
そして、元スラム孤児だった子供達は全員……誰よりもその辛さを知っている。


「子供に対して、どっちが優れている、どっちが劣っていると言うのは無いの。劣っていても劣ってなくとも我が子。それを分からない親にはなりたくはないわね」
「……リディア様は理想の母親になりそうですね」
「そうありたいと思うわ」


そう言って皆にノートを見せていると、マリシアはホロホロと涙を零し始めたわ。
一体どうしたのかしら……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

処理中です...