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189 ファビーの箱庭(下)
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湯船へと通じる引き戸を開けた時――正にパラダイスとしか言いようがありませんでしたわ。
ヒノキの大きなお風呂に、大きな泡風呂、サウナまで完備されていて、奥には各種の香りが楽しめる二人まで入れるお風呂が三つ、更に出入り口付近には水風呂まで用意された完璧としか言いようのない温泉に感動しつつも、奥には露天風呂!
寝ながら入れる浅瀬の温泉が長く続き、奥には打ち湯まである始末。
休憩所まで兼ね揃えたそこは、正に天国としか言いようがなく、笹の揺れる音に癒され、打ち湯の音に癒され……。
「間違いなく、売れますわ」
気が付けば、頭でソロバン弾いてましたわ。
これ程素晴らしい日帰り温泉宿は、他に例の無い、素晴らしい箱庭でしょう。
冒険者から庶民にまで通い詰めるであろう温泉を考えると、銀貨2枚のパスポートで一カ月入り放題ならば、庶民も手が出しやすいかしら?
いいえ、此処は強気に銀貨3枚でも良い気がしますわ。
庶民の方は銀貨2枚、冒険者は銀貨3枚、貴族ならば銀貨50枚でどうかしら?
「素晴らしいわファビー。貴族用との違いはもしかして脱衣所?」
「はい、脱衣所だけです。貴族のドレスはとても大きいものが多いですし、一人は見張りがつくでしょうから、大きめの籠を用意して、そこに着替えを入れて頂こうかと」
「それはアリですわ。一カ月通い放題のチケットをお出しして、庶民なら銀貨2枚、冒険者なら銀貨3枚、貴族なら銀貨50枚で売れますわ!!!」
「私の箱庭は商売に向いていますか!?」
「ええ!」
「良かったです! 大好きな温泉がお金になるなんて!!」
「ファビーの温泉宿は特別ですわ! カイル、大々的に宣伝してからのオープンに漕ぎつけましょう!」
「分かった。だがどちら側で運営するかだな、王太子領向けか、ダンノージュ侯爵領向けか」
「そうですわね……一カ月毎に交代していくのはどうかしら?」
「それなら良さそうだな。営業時間は朝10時から夜9時までにするとかにして客の入りを良くしておいて、男女交互に日にちをずらしつつ、日の曜日は休日にしていって、一カ月経ったら交代して別の領へ」
「じゃあ、来月オープンに向けて後2週間ですね。その間にリディア様はウォーターサーバーの設置、カイル様は入り口で一カ月チケットの販売と、チケットの確認者の計6人を最低雇えば何とかなります」
「それで行きましょう! フォル、その間に必要備品を揃えるのは貴方に任せるわ。ドンドン作ってみて頂戴ね」
「はい!!」
「後は温泉の入り方なんかを分かりやすく書いてあるのがあると助かるんだけれど、サウナも使い方を間違えたら大変ですし」
「分かりました! 分かりやすいものを作って配置しておきます!」
「ファビーも頑張ってね!」
「はい!」
こうして、懐かしい笹の音と川のせせらぎを後ろ髪引かれる思いで箱庭から出ると、二人は早速必要な物についての話し合いに入り、わたくしはカイルと共に休憩所に行く最中、暗くなり始めた空を見上げつつ、自分に残った仕事を考えましたわ。
ネイルサロン設置の為の家具作り、今回はオシャレな店という感じも残しつつ、実用性を兼ね揃えたネイルサロンを作る為にも、木目調の美しい机と椅子を用意しましょう。
「所でカイル、パティシエは見つかりまして?」
「ああ、シッカリと見つけてきた。神殿契約を行っているから明日からお菓子の研修に入れそうだ」
「では、ガーゼとママの店の店員は?」
「そっちも雇えることになった。備品の確認はこちらがしないといけないが」
「ふむ……となると、店の内装をキッチリ終わらせないといけませんわね。お菓子の店には弱冷蔵完備のショーウインドーは大きめに。お菓子を置く棚も用意しましょう。ガーゼとママの店は白を基調とした棚を作って子供向けのオモチャに粉ミルクに紙おむつなど商品も置いて、お菓子の家は後日オープンですわね。牛丼屋はもう直ぐ出来ると聞いていますから、そちらの人員確保も必要ですわ」
「取り敢えず開けそうなのは、ガーゼとママの店くらいか」
「そうですわね。後は現役冒険者のナインさんたちが箱庭に来られて、テント一式をどうみるのかも気になりますわ」
「ナインなら今日の夜来るらしいぞ」
「分かりましたわ。ではカイルには一つお願いが」
「ん?」
「大きなテントの組み立て手伝って下さいませ」
女性一人ではとても組み立てることのできない、わたくしが知っている上でもっとも大きなテント――災害時のテントを作りましたけれど、背丈の低いわたくしやお年寄り達ではくみ上げることが出来ませんでしたわ……。
そこで、広場に到着すると空気ベッドだけが転がっており、子供達が余程気に入って遊んだのだろうというのが伝わりましたの。
子供に掛かれば何でもオモチャなのは仕方ないですわね!
カイルに指示を出しながら、慣れないなりに15分もあれば大型テントは完成し、中に空気ベッドを入れて、テント用品一式を置くと準備は万端ですわ!
気になる子供達には、「それは今日商品になるか見るものですから、触らず見学だけですわよ」と伝えると、ワクワクした様子で、近くで見たりしていましたわ。
前世では災害の多い日本でしたから、家族の多かったわたくしの家では、父が災害用の大きなテントを購入したり、災害時でも火を使えるようにキャンプ用品を用意してましたの。
それを思い出して作ってみましたけれど、良い感じですわね。
そしてその夜――王太子領のSランク冒険者組がピリピリした中、ダンノージュ侯爵領のSランク冒険者、鳥の瞳のナインさんを始めとする5人が集まりテントの実用性について話し合う事になりましたわ。
もし売る事になれば破格の値段が着くでしょうが、果たしてどうなりますかしら!
ヒノキの大きなお風呂に、大きな泡風呂、サウナまで完備されていて、奥には各種の香りが楽しめる二人まで入れるお風呂が三つ、更に出入り口付近には水風呂まで用意された完璧としか言いようのない温泉に感動しつつも、奥には露天風呂!
寝ながら入れる浅瀬の温泉が長く続き、奥には打ち湯まである始末。
休憩所まで兼ね揃えたそこは、正に天国としか言いようがなく、笹の揺れる音に癒され、打ち湯の音に癒され……。
「間違いなく、売れますわ」
気が付けば、頭でソロバン弾いてましたわ。
これ程素晴らしい日帰り温泉宿は、他に例の無い、素晴らしい箱庭でしょう。
冒険者から庶民にまで通い詰めるであろう温泉を考えると、銀貨2枚のパスポートで一カ月入り放題ならば、庶民も手が出しやすいかしら?
いいえ、此処は強気に銀貨3枚でも良い気がしますわ。
庶民の方は銀貨2枚、冒険者は銀貨3枚、貴族ならば銀貨50枚でどうかしら?
「素晴らしいわファビー。貴族用との違いはもしかして脱衣所?」
「はい、脱衣所だけです。貴族のドレスはとても大きいものが多いですし、一人は見張りがつくでしょうから、大きめの籠を用意して、そこに着替えを入れて頂こうかと」
「それはアリですわ。一カ月通い放題のチケットをお出しして、庶民なら銀貨2枚、冒険者なら銀貨3枚、貴族なら銀貨50枚で売れますわ!!!」
「私の箱庭は商売に向いていますか!?」
「ええ!」
「良かったです! 大好きな温泉がお金になるなんて!!」
「ファビーの温泉宿は特別ですわ! カイル、大々的に宣伝してからのオープンに漕ぎつけましょう!」
「分かった。だがどちら側で運営するかだな、王太子領向けか、ダンノージュ侯爵領向けか」
「そうですわね……一カ月毎に交代していくのはどうかしら?」
「それなら良さそうだな。営業時間は朝10時から夜9時までにするとかにして客の入りを良くしておいて、男女交互に日にちをずらしつつ、日の曜日は休日にしていって、一カ月経ったら交代して別の領へ」
「じゃあ、来月オープンに向けて後2週間ですね。その間にリディア様はウォーターサーバーの設置、カイル様は入り口で一カ月チケットの販売と、チケットの確認者の計6人を最低雇えば何とかなります」
「それで行きましょう! フォル、その間に必要備品を揃えるのは貴方に任せるわ。ドンドン作ってみて頂戴ね」
「はい!!」
「後は温泉の入り方なんかを分かりやすく書いてあるのがあると助かるんだけれど、サウナも使い方を間違えたら大変ですし」
「分かりました! 分かりやすいものを作って配置しておきます!」
「ファビーも頑張ってね!」
「はい!」
こうして、懐かしい笹の音と川のせせらぎを後ろ髪引かれる思いで箱庭から出ると、二人は早速必要な物についての話し合いに入り、わたくしはカイルと共に休憩所に行く最中、暗くなり始めた空を見上げつつ、自分に残った仕事を考えましたわ。
ネイルサロン設置の為の家具作り、今回はオシャレな店という感じも残しつつ、実用性を兼ね揃えたネイルサロンを作る為にも、木目調の美しい机と椅子を用意しましょう。
「所でカイル、パティシエは見つかりまして?」
「ああ、シッカリと見つけてきた。神殿契約を行っているから明日からお菓子の研修に入れそうだ」
「では、ガーゼとママの店の店員は?」
「そっちも雇えることになった。備品の確認はこちらがしないといけないが」
「ふむ……となると、店の内装をキッチリ終わらせないといけませんわね。お菓子の店には弱冷蔵完備のショーウインドーは大きめに。お菓子を置く棚も用意しましょう。ガーゼとママの店は白を基調とした棚を作って子供向けのオモチャに粉ミルクに紙おむつなど商品も置いて、お菓子の家は後日オープンですわね。牛丼屋はもう直ぐ出来ると聞いていますから、そちらの人員確保も必要ですわ」
「取り敢えず開けそうなのは、ガーゼとママの店くらいか」
「そうですわね。後は現役冒険者のナインさんたちが箱庭に来られて、テント一式をどうみるのかも気になりますわ」
「ナインなら今日の夜来るらしいぞ」
「分かりましたわ。ではカイルには一つお願いが」
「ん?」
「大きなテントの組み立て手伝って下さいませ」
女性一人ではとても組み立てることのできない、わたくしが知っている上でもっとも大きなテント――災害時のテントを作りましたけれど、背丈の低いわたくしやお年寄り達ではくみ上げることが出来ませんでしたわ……。
そこで、広場に到着すると空気ベッドだけが転がっており、子供達が余程気に入って遊んだのだろうというのが伝わりましたの。
子供に掛かれば何でもオモチャなのは仕方ないですわね!
カイルに指示を出しながら、慣れないなりに15分もあれば大型テントは完成し、中に空気ベッドを入れて、テント用品一式を置くと準備は万端ですわ!
気になる子供達には、「それは今日商品になるか見るものですから、触らず見学だけですわよ」と伝えると、ワクワクした様子で、近くで見たりしていましたわ。
前世では災害の多い日本でしたから、家族の多かったわたくしの家では、父が災害用の大きなテントを購入したり、災害時でも火を使えるようにキャンプ用品を用意してましたの。
それを思い出して作ってみましたけれど、良い感じですわね。
そしてその夜――王太子領のSランク冒険者組がピリピリした中、ダンノージュ侯爵領のSランク冒険者、鳥の瞳のナインさんを始めとする5人が集まりテントの実用性について話し合う事になりましたわ。
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