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166 新しい薬師雇用と料理担当主婦の雇用と、忙しいカイル。

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――カイルside――


一体何度目になるだろうか、ダンノージュ侯爵領の商業ギルドに通うのは。
そう思ったが、俺の登場にいち早く動く職員たちは慌ただしい。


「カイルさん聞いてください! 薬師が10人集まりました!」
「なんだって!?」
「皆さんドミノさんと同じ理由で辞めた若い方々です。本日丁度お越しになってまだいらっしゃいます」
「直ぐに話し合いをします。それと、料理が出来る子供が幼い主婦でも、ある程度年齢のいった主婦の方でも構いません。料理が出来る女性を雇いたいと思っています。人数は30人欲しいんですが、何人登録されていますか?」
「お話が終わるまでに精査して起きます」
「問題のありそうな女性は要りませんので。それと、幼い子供が居る方がいらっしゃれば、子供は託児所に預けて働いて貰います。宜しいですか?」
「分かりました、直ぐに手配します。面接は何時になさいますか?」
「今から集められる人数が居ればまず第一陣で。無理なら明日第二陣でも構いません。合計30人は雇いたいと思っています」
「畏まりました。直ぐに」
「では、薬師の所に案内してください」


こうして、まだ残っていると言う薬師10人の元へと急ぐと、皆椅子に座ったままの彼らの前に俺の登場と、驚いているようだった。
確かにドミノと同じ年齢の若い薬師たちだらけで、一番下は成人したばかりだろうか。


「運よく本日商業ギルドに来ることになりまして。初めましてカイルと申します。皆さんはドミノさんをご存じですか?」
「知ってます、同じ職場で働いていました」
「そうですか、では、皆さんはドミノさんと仲良くしていらっしゃいましたか?」
「ドミノが店を止める時、ついてこいって言われたんですが……その後の仕事を考えると抜け出せず。でもやっぱり無理だったので辞めてきたんです」
「今はドミノに着いて行けばよかったと後悔してます」
「分かりました。皆さんの薬師スキルはドミノさんと同じくらいでしょうか?」
「ボクは一番低いです……薬師見習いなので」
「薬師見習いでも構いませんよ、箱庭には10歳位の薬師見習いがいますから。では、皆さんは薬師として箱庭に雇われる事に不満が無ければ、神殿契約後、ダンノージュ侯爵家の箱庭で雇わせて頂きたいと思いますが如何でしょう」
「「「「「「お願いします!」」」」」」


皆即答だった。
それにしても薬師が10人。
やっぱり箱庭には神様がいるんじゃないか??


「では、こちらの神殿契約書をシッカリとお読みになりサインを。また、皆さんの大事なものがあればサインが終わり次第着替えなどの必要な物を取りに行き、また商業ギルドに戻ってきていただければ、俺の用事が終わり次第箱庭に連れて行けますが?」
「お願いします」
「必要な道具を取りに行くだけなので」
「では、その様に。彼らを別室で待たせてもらっても?」


そう担当の方に聞くと了承を得られたので、彼らが戻ってきたら別室で待ってもらうようにしておこう。
神殿契約書もシッカリと読んでサインをした彼らの書類を担当の方に渡し、神殿に持って行って貰う事にすると、一人一人に握手を交わし、自分たちの必要な物を取りに外へと駆けていった。
ドミノと言う前例があったからこそ、彼らもダンノージュ侯爵家を信頼してくれているのだろう。


その後、もう一人の担当が駆け寄ってくると、今から早くて30分後に15名の主婦が、その後1時間の間に子連れの主婦が15名やってくる事になり、人柄次第では全員を一気に雇えそうだとホッとする。
だが油断は禁物だ。
どんな人材がいるかは分からないのだから。

その後30分、本当に久々の休憩を味わった後、集まった15名の主婦との面談の開始となった。
最初に集まったのは子育てが丁度終わった年齢の方々で、人柄は俺の勘では悪い人はいなさそうだ。
癖が強い人も見当たらないと思う。


「では、まず。あなた方には神殿契約を結んでもらう事になるのですが、そちらも皆さん了承して貰えると言う事で宜しいでしょうか」
「「「「はい」」」」
「また、ダンノージュ侯爵の箱庭の仕事の内容も知っていらっしゃいますね?」
「はい、料理を担当して欲しいと言う事でしたので」
「長年主婦をしていますが、料理作りには慣れています」
「それは大変心強いですが、基本的にレシピ通りに作って頂くことになります。アレンジはなしでお願いしますね」
「「「「「はい」」」」」
「皆さんに作って頂くのは、箱庭料理と呼ばれる箱庭限定……とは言いませんが、そう言った料理です。覚えて貰う事は沢山ありますが、その分給料も弾ませて頂きます。注意点は、他の方々と喧嘩をしない、いじめをしない、仲良くする事。また子供や老人に対して優しくしてくださることと、まだスプーンを上手に持てない子供も多いので、その補助をお願いしたいです。そこまでやって貰って、月の給料は銀貨30枚」
「銀貨30枚も頂けるんですか?」
「ええ、箱庭料理を作る事、当たり前ですが争いをしない事、そして、幼い子供達への食べる時の補助もあるのですから。ただ、箱庭で働く際の得点として、空き時間に洗濯をして頂いても結構です。洗剤はこちらが持ちますし、干す場所も提供します」


そう言うと皆がワアっと声を上げて喜んだ。
仕事で疲れて帰って、更に洗濯なんて嫌だろうしな。


「箱庭では、朝、昼、晩の食事の他に、二回のオヤツ時間と言うのが設けられています。オヤツ時間には子供達の食べるお菓子や、食べ盛りの男の子用のものも用意するので大変なんですが、大丈夫そうですか?」
「私は8人の子供を育てました。大丈夫です」
「私も5人の子供を」


そう言って皆さんが口にするのは、子沢山苦労したと言う事だった。
ならば子供相手の内容は大丈夫だろう。
また、ご年配の相手も慣れていると言っていたので、一安心だな。


「では、皆さんを採用と言う事にします。神殿契約を読んでサインをして下さい。仕事は道具店サルビアが開いたらそこから来て頂けたら助かります。朝8時に道具店サルビアは開くので、それに合わせて仕事に来て下さい。また体調が悪い時は薬師も箱庭にいるので見て貰って下さいね」
「箱庭の薬師なら安心ね」
「そうね、湿布とか買えるかしら」
「薬師の小屋は、仕事終わりの6時から7時までの間は店として開いていますよ」
「助かります」
「私たちもこの年になると……ねぇ?」
「でしたら、着替えを持ってきていただければ、皆さんと一緒で良ければ疲労回復効果の高い温泉に入ってから帰ると言うのも手ですよ」
「「「「「宜しいんですか?」」」」」
「入る時のマナーは守って頂きますが」
「「「「「是非お願いします!!」」」」」


こうして、手厚い保証……と言えるかは分からないが、皆さんを納得させることが出来た為、明日の朝から仕事に来てもらえることになった。
話が終わったころ入れ替わりで第二陣の子供を持つ母親たちが15人入ってきて、子供も小さい子から少し大きな子まで様々だ。


「では面接を始めますが、此処に来た皆さんは神殿契約を結んで頂けると言う事で宜しいですね?」
「「「「「はい!」」」」
「また、お子さんは託児所で預かる事で宜しいですね? こちらが託児所のしおりになっておりますので、必要な物は必ず持ってきてください」
「「「「はい!」」」」


母親たちの声が大きいのも無理はない。
子供達が大いに騒いでいる為、俺も腹から声を出して話している。
先程の少し年配の女性達に話した通りの内容を語り、皆が喜んだところで神殿契約を結ぶことになり、契約が終わった後、ギルド職員が神殿契約書を手に立っている。


「それでは、皆さんは明日の朝8時、道具店サルビア経由で箱庭に行く事になりますので、遅れないように来てください。子供も一緒に連れて来て頂ければ託児所に連れて行きます! 自分や子供の調子が悪い時は、箱庭の薬師がみてくださいますのでご安心を!」
「「「「はい!!」」」」
「帰宅する際、子供と一緒に温泉に入っても構いませんので! 着替えを持ってきてくださいね!」
「「「「有難うございます!!」」」」
「話は以上です!」


未だかつて、商業ギルドでこれほどまでに子供が来たことがあっただろうか。
多分ない。
騒がしいが心地よくもある元気な子供達の声を聴きながら、明日から30人の主婦が料理人として働くことが決まりホッと安堵した。
そして、時計を見るとそろそろ夕方の時間。
別室で待っていた薬師たちを連れて箱庭に向かい、今は空いている独身アパートが無いので家族用のアパートで過ごして貰う事にし、更にドミノ達との再会で薬師たちは喜びあっていた。


「詳しい説明はドミノから聞いてくれ。仕事も多いからな」
「分かったぜ」
「明日から新しい主婦の皆さんが食事作りに来るが、仲良くしてくれよ」
「おう!」
「じゃ、俺はリディア達が待っているから急いで出かけてくる」


そう言うとダッシュで箱庭から王太子領のジューダスの酒場まで向かうと、既に牛丼が出来上がっていた。


「お疲れ様カイル!」
「悪い、遅くなった!」
「おう、今から食べるところだぜ!」
「カイルお疲れー」
「私たちも美味しく頂こうとしていた所だよ」
「ナナノも」
「ハスノも」
「お恥ずかしながら、丼ものと聞いて」
「同じく」


どうやら、雪の園の面子と朝の露の面子が全員揃っているようだ。
椅子に座ると、つゆだく牛丼がドンと置かれ、リディアから「お疲れ様」と労いの言葉をかけられた。
確かに今日は疲れた……。
だが、目の前には牛丼だ!!
ジューダスもワクワクしているのが伝わってくる。


「それでは!」
「「「「いただきます!!」」」」


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