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151 酒場の主人との提携と新たな酒場の在り方。
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――ロキシーside――
そう言うと、今まで静観していたカイルが手を振りながらアタシの元へと歩み寄った。
居ると分かっていたが、あの二人がいる中でカイルの存在を知らせるのは得策ではなかったからね。
「ロキシーの人を見る目は確かだぞ。新しい酒場の店主、名は?」
「ゴーンと申します」
「ではゴーン氏、中で話を聞きましょう。皆様方もお騒がせ致しました」
そうカイルが深々と頭を下げると、拍手喝采で何故かアタシの名が叫ばれる。
悪い気はしないが、何とも複雑だ。
ゴーンは大柄な男だが、まさか不敬罪で死刑も視野に入れた上で、でも商売に行き詰まり行動したことを話してくれた。
ダンノージュ侯爵領のライトの婚約者に襲い掛かったのだから、それは仕方ない事だろう。
だが、アタシはタダの婚約者ではない。
ライトの護衛も兼任している元Sランク冒険者だ。大柄の男が襲い掛かってきても、投げ飛ばすくらい簡単な事だった。
「アタシは王太子領では、元Sランク冒険者なんだよ。ライトの護衛も兼ねた婚約者さ。そのライトは今、鳥の瞳のナイン氏が一緒に護衛として向かっているから店番をしていた。そこに三人がやってきた。アタシにはなんの被害もないから罪に問われる事もない」
「それは……じゃあ俺の方が殺される可能性の方が高かったんですね」
「まぁ、ロキシー相手にタメ張ろうとすれば、相手は同じSランク冒険者か、Sランクのボスが必要だろうな」
「い……命拾いを……しました」
「あはは! そう怯えなさんな。折角サルビア全体のオーナーであるカイルが来て居るのに、話したいことはサッサと話さないと、忙しいからと消えちまうよ?」
「それは困ります! カイルさん、どうかお力をお貸しください! 酒場を失いたくはないんです!」
「ええ、話は聞いていましたよ。ですが、本当に裏の繋がりなどは消えたのかまでは、」
「裏の繋がりなどありません。信用できないのでしたら、俺にダンノージュ侯爵家の紐を付けて頂いても結構です」
――紐とは、神殿契約の隠語でもある。
神殿契約をしてでも、嘘偽り無い身の潔白を言いたいのだろう。
カイルもそこまで言われると息を零し、アタシを見つめて苦笑いをしていた。
「分かりました、業務提携しても良いでしょう。ですが、紐は付けさせていただきますよ」
「それで構いません。俺には幼い娘がいるんです。母親は……他に男を作って居なくなりました。娘を育てる為にも金が要ります。なんでもします。お願いします」
「娘さんが余程大切なんだねぇ。だったら、これから先無茶をするんじゃないよ? アンタが短気を起せば娘さんが一人になっちまうからね」
「う……そうさせて頂きます」
「では、こちらの神殿契約を読んでサインをお願いします。それさえ守って頂けるのでしたら、幾らでも業務提携して構いません」
「あああ……ありがとうございます!! 有難うございます!!」
そう言うと神殿契約の内容をシッカリと読んだ後、サインを入れるゴーンにアタシは確かにコイツには紐が必要だと思った。
この男は精神が脆いのだ。
それに、娘一人と言う家庭環境も関係してくる。
カイルもそれを解って居ながら神殿契約と言う紐を付けることで、縛りを付けたのだろう。
そして、現在の酒場の状況を詳しく聞いていくと、どうやら冒険者の出入りが少なく、何とか人を増やそうとしているが効果が無いのだそうだ。
出している料理も教えてもらったが、確かにそれでは売り上げは伸びないだろう。
ましてや、焼肉店が出来れば間違いなく潰れる未来しか見えない。
その事を伝えると絶望した表情をしていたが、彼は酒場と言うものに強い拘りは無いらしく、出来る仕事なら飲食業ならばやりたいと思っているのだとか。
「俺のスキルは調理師です……。スキルは低いかも知れませんが、料理に誠実でありたいと思っています。ですが、我々の考える料理ではサルビアの店に太刀打ちは出来ません」
「でしょうね」
「アタシもそう思うよ」
そもそも、料理の提案はリディアちゃんだ。あの子を超える人間がいるのなら見てみたい。
「もし、サルビアの傘下に入れて頂けるのでしたら、どんな料理屋でも構いません。やらせて頂きたいのです」
「ふむ……どう思うロキシー」
「アンタの婚約者に相談すればその日の内にネタは生まれると思うけど?」
「だが酒場は結構な広さがあっただろう? 一つの料理屋として絞るには勿体ないと思うんだ」
「そうだねぇ……」
「ゴーン、一旦箱庭に持ち帰ってうちの参謀と話し合ってみようと思う。多分直ぐに返事が出来るとは思うが、明日まで待てるか?」
「はい」
「あと、厨房はどれくらいの広さがある」
「一般的な酒場と同じ大きさよりも若干広めの厨房でしたら」
「ああ、だからあんなに大きいのか。分かった。それも伝えておこう」
「あの、出来ればでいいんですが!」
「何だい?」
「……何時も一人娘を部屋で遊ばせるだけしか出来ません。もし可能であれば、娘を箱庭で過ごさせてもらう事は可能でしょうか」
「それは、箱庭師に聞いてみないと分からないが多分許可は下りると思うぞ」
「有難うございます」
「じゃあ、一旦この問題は持ち帰るが、明日のそうだな……朝一に店に来てもらえると助かる。無論娘を連れて来ても構わない。売り上げはマイナスが出るだけだろうから今日は閉めて、娘と時間を過ごしてやるといい」
「有難うございます」
「安心しな、うちの商売の神様は強いから」
そう言ってリディアちゃんを思い浮かべて笑うと、ゴーンはやっと笑顔を見せてくれた。
その後、ゴーンは酒場へと戻り娘と過ごすのだろうが、彼と入れ替わるようにライトがナインに護衛されながら戻ってきた。
「兄さん来ていたんですね」
「ああ、少々野暮用があってな」
「そうでしたか。お店で何かありましたか? ロキシーが凄かったと皆さん話してましたが」
「ちょっと喝を入れないといけない野郎が二名来ただけだよ。直ぐ帰ったから問題は無いしね」
「そうでしたか。それと、大口依頼です。宿屋協会から急ぎで250セットのほっかりシリーズを頼まれました」
「だと思った。急いで作って貰っているから、来週中旬には500セット持っていけるぞ」
「良かったです。全部で500セットの注文でしたから」
「ははは、先手で作っているのかカイル君」
「お久しぶりですナインさん。忙しくてすみません」
「なに、ライトくんの笑顔が見れるだけでも俺にとっては癒しになるから助かってるよ」
「そうなんですね。まだ当面忙しくてダンノージュ侯爵領はライトに任せきりになると思いますが、何かあればライトを守って頂けると助かります」
「分かった。承ろう」
「では、急ぎの案件が入ってしまったので俺は此れで。ライトとロキシーは店を頼む」
「行ってらっしゃいませ」
「あいよ」
こうして、問題が一つ片付けば更に新しい物が飛び出すサルビアは刺激が多い。
刺激が多いと言う事は、ひらめきも起こりやすいと言う事だ。
「では、残りの時間も頑張りましょう!」
「了解」
「では、俺は見回りに行ってくる」
「いってらっしゃいませナインさん、今日は有難うございまいた」
ライトの天使の笑みに鼻を伸ばしきったナインが店を出ていき、後は何時も通りの商売だったけれど、あの二人が逆恨みする可能性も視野に入れて今後は店を回さないとね。
アタシはアタシで頑張るとして、さてさて……酒場はどうなるのか、楽しみだねぇ。
そう言うと、今まで静観していたカイルが手を振りながらアタシの元へと歩み寄った。
居ると分かっていたが、あの二人がいる中でカイルの存在を知らせるのは得策ではなかったからね。
「ロキシーの人を見る目は確かだぞ。新しい酒場の店主、名は?」
「ゴーンと申します」
「ではゴーン氏、中で話を聞きましょう。皆様方もお騒がせ致しました」
そうカイルが深々と頭を下げると、拍手喝采で何故かアタシの名が叫ばれる。
悪い気はしないが、何とも複雑だ。
ゴーンは大柄な男だが、まさか不敬罪で死刑も視野に入れた上で、でも商売に行き詰まり行動したことを話してくれた。
ダンノージュ侯爵領のライトの婚約者に襲い掛かったのだから、それは仕方ない事だろう。
だが、アタシはタダの婚約者ではない。
ライトの護衛も兼任している元Sランク冒険者だ。大柄の男が襲い掛かってきても、投げ飛ばすくらい簡単な事だった。
「アタシは王太子領では、元Sランク冒険者なんだよ。ライトの護衛も兼ねた婚約者さ。そのライトは今、鳥の瞳のナイン氏が一緒に護衛として向かっているから店番をしていた。そこに三人がやってきた。アタシにはなんの被害もないから罪に問われる事もない」
「それは……じゃあ俺の方が殺される可能性の方が高かったんですね」
「まぁ、ロキシー相手にタメ張ろうとすれば、相手は同じSランク冒険者か、Sランクのボスが必要だろうな」
「い……命拾いを……しました」
「あはは! そう怯えなさんな。折角サルビア全体のオーナーであるカイルが来て居るのに、話したいことはサッサと話さないと、忙しいからと消えちまうよ?」
「それは困ります! カイルさん、どうかお力をお貸しください! 酒場を失いたくはないんです!」
「ええ、話は聞いていましたよ。ですが、本当に裏の繋がりなどは消えたのかまでは、」
「裏の繋がりなどありません。信用できないのでしたら、俺にダンノージュ侯爵家の紐を付けて頂いても結構です」
――紐とは、神殿契約の隠語でもある。
神殿契約をしてでも、嘘偽り無い身の潔白を言いたいのだろう。
カイルもそこまで言われると息を零し、アタシを見つめて苦笑いをしていた。
「分かりました、業務提携しても良いでしょう。ですが、紐は付けさせていただきますよ」
「それで構いません。俺には幼い娘がいるんです。母親は……他に男を作って居なくなりました。娘を育てる為にも金が要ります。なんでもします。お願いします」
「娘さんが余程大切なんだねぇ。だったら、これから先無茶をするんじゃないよ? アンタが短気を起せば娘さんが一人になっちまうからね」
「う……そうさせて頂きます」
「では、こちらの神殿契約を読んでサインをお願いします。それさえ守って頂けるのでしたら、幾らでも業務提携して構いません」
「あああ……ありがとうございます!! 有難うございます!!」
そう言うと神殿契約の内容をシッカリと読んだ後、サインを入れるゴーンにアタシは確かにコイツには紐が必要だと思った。
この男は精神が脆いのだ。
それに、娘一人と言う家庭環境も関係してくる。
カイルもそれを解って居ながら神殿契約と言う紐を付けることで、縛りを付けたのだろう。
そして、現在の酒場の状況を詳しく聞いていくと、どうやら冒険者の出入りが少なく、何とか人を増やそうとしているが効果が無いのだそうだ。
出している料理も教えてもらったが、確かにそれでは売り上げは伸びないだろう。
ましてや、焼肉店が出来れば間違いなく潰れる未来しか見えない。
その事を伝えると絶望した表情をしていたが、彼は酒場と言うものに強い拘りは無いらしく、出来る仕事なら飲食業ならばやりたいと思っているのだとか。
「俺のスキルは調理師です……。スキルは低いかも知れませんが、料理に誠実でありたいと思っています。ですが、我々の考える料理ではサルビアの店に太刀打ちは出来ません」
「でしょうね」
「アタシもそう思うよ」
そもそも、料理の提案はリディアちゃんだ。あの子を超える人間がいるのなら見てみたい。
「もし、サルビアの傘下に入れて頂けるのでしたら、どんな料理屋でも構いません。やらせて頂きたいのです」
「ふむ……どう思うロキシー」
「アンタの婚約者に相談すればその日の内にネタは生まれると思うけど?」
「だが酒場は結構な広さがあっただろう? 一つの料理屋として絞るには勿体ないと思うんだ」
「そうだねぇ……」
「ゴーン、一旦箱庭に持ち帰ってうちの参謀と話し合ってみようと思う。多分直ぐに返事が出来るとは思うが、明日まで待てるか?」
「はい」
「あと、厨房はどれくらいの広さがある」
「一般的な酒場と同じ大きさよりも若干広めの厨房でしたら」
「ああ、だからあんなに大きいのか。分かった。それも伝えておこう」
「あの、出来ればでいいんですが!」
「何だい?」
「……何時も一人娘を部屋で遊ばせるだけしか出来ません。もし可能であれば、娘を箱庭で過ごさせてもらう事は可能でしょうか」
「それは、箱庭師に聞いてみないと分からないが多分許可は下りると思うぞ」
「有難うございます」
「じゃあ、一旦この問題は持ち帰るが、明日のそうだな……朝一に店に来てもらえると助かる。無論娘を連れて来ても構わない。売り上げはマイナスが出るだけだろうから今日は閉めて、娘と時間を過ごしてやるといい」
「有難うございます」
「安心しな、うちの商売の神様は強いから」
そう言ってリディアちゃんを思い浮かべて笑うと、ゴーンはやっと笑顔を見せてくれた。
その後、ゴーンは酒場へと戻り娘と過ごすのだろうが、彼と入れ替わるようにライトがナインに護衛されながら戻ってきた。
「兄さん来ていたんですね」
「ああ、少々野暮用があってな」
「そうでしたか。お店で何かありましたか? ロキシーが凄かったと皆さん話してましたが」
「ちょっと喝を入れないといけない野郎が二名来ただけだよ。直ぐ帰ったから問題は無いしね」
「そうでしたか。それと、大口依頼です。宿屋協会から急ぎで250セットのほっかりシリーズを頼まれました」
「だと思った。急いで作って貰っているから、来週中旬には500セット持っていけるぞ」
「良かったです。全部で500セットの注文でしたから」
「ははは、先手で作っているのかカイル君」
「お久しぶりですナインさん。忙しくてすみません」
「なに、ライトくんの笑顔が見れるだけでも俺にとっては癒しになるから助かってるよ」
「そうなんですね。まだ当面忙しくてダンノージュ侯爵領はライトに任せきりになると思いますが、何かあればライトを守って頂けると助かります」
「分かった。承ろう」
「では、急ぎの案件が入ってしまったので俺は此れで。ライトとロキシーは店を頼む」
「行ってらっしゃいませ」
「あいよ」
こうして、問題が一つ片付けば更に新しい物が飛び出すサルビアは刺激が多い。
刺激が多いと言う事は、ひらめきも起こりやすいと言う事だ。
「では、残りの時間も頑張りましょう!」
「了解」
「では、俺は見回りに行ってくる」
「いってらっしゃいませナインさん、今日は有難うございまいた」
ライトの天使の笑みに鼻を伸ばしきったナインが店を出ていき、後は何時も通りの商売だったけれど、あの二人が逆恨みする可能性も視野に入れて今後は店を回さないとね。
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