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141 冒険者から聞いた、ダンノージュ侯爵領の薬局問題。

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――ライトside――


ダンノージュ侯爵領の冒険者は、基本的に地下神殿をメインに活動しています。
そこは湿気と熱さとの戦いで、冬になればダンジョンとダンジョン外との気温差に体調を崩す冒険者が後を絶たないのだとか。
と言う事で、今店は酷い状態です。


「道具店サルビアで【耐火の護符】と湿気対策の【除湿の護符】が売りに出てるってよ!」
「これからは毎日売ってくれるらしいぞ!」
「まとめ買いしなくても毎日売ってくれるってのは、ありがたいな! まぁ、まとめ買いするんだけどさ!」
「皆さん護符は一人一種5個までにお願いします!!」
「護符は一人一種5つまでにお願いします!!」


必死に授業員の方々が呼びかけているけれど、護符は飛ぶように売れる。
ついでに飛ぶように売れているのが――洗剤です。


「待て待て待て!! 箱庭産の洋服用洗剤、これ本当に汚れが直ぐ落ちるのか!?」
「ああ、アタシも使ってるけど泡切れも良くって洗濯する時間は短縮できてるよ」
「ロキシー姐さん! この食器用洗剤はどうなんだ?」
「うちの飲食店では全部で使ってる奴だよ。油汚れも直ぐ落ちて泡切れ良し!」
「俺も買うぜ!」
「ちょっとパーティ共有で買えないか聞いてくる!!」
「パーティ共有だとコラァ!!」
「俺達もパーティ共有で買うぞ!! 商品が消える前に買え!!」
「洗剤類は在庫も沢山あるから落ち着きな!!」


嗚呼……ロキシーだけでは抑えきれぬ冒険者の勢い。
きっと王太子領でもこの戦争が行われているに違いない。
長くても収まるのに5日は掛かりそうだ……。
こんな時、ナインさんが居れば皆さん少しは落ち着いてくれるんだけれど。
そう思い時計を見ると、ナインさんがよく来る時間帯が迫っていた。
そして――いつもより早い時間にナインさんは現れた。


「凄い人だな。今日はセールか?」
「鳥の瞳のナインだ」
「今日も来たのか」


はい、私が居る時は毎日来てもらっています。
何が目的かは分かりませんが、こういう時はとても頼りになるナインさんです。
他のメンバーも見えますから、色々今日も買って行かれるのでしょう。


「こんにちはナインさん。今日から護符の売り出しが始まったんです」
「護符? 前に私が言った言葉を覚えていてくれたのか」
「はい! そこで箱庭にいる錬金術師さんたちが、【耐火の護符】と【除湿の護符】と言うものを作りまして。【除湿の護符】は地下神殿の湿気を消す護符だそうです」
「「「「「おおおおおおおおお……」」」」
「また、これからダンノージュ侯爵領では寒さが一気にやってきます。それで洗濯や食器洗いが辛いと思いまして、泡切れも良く汚れも直ぐ落ちる箱庭で皆さんが使っている洗剤などの販売も始めました」
「ふむ、私たちもパーティで買おう」
「有難うございます。ところで、ダンジョンとの気温差はこれで無事かと思うんですが、やはり外に出ると寒いと思いまして、マントの様なポンチョと呼ばれる服の販売を始めるようです。ほっかり肌着に使われている布地で作っているので着ているだけで暖かいですよ」
「それはいい。男女用であるのかい?」
「はい。販売は近々行われます。その際、洋服屋にての販売だそうです」
「それは良い事を聞いた。秋から冬にかけてはやはり寒くてね」
「風邪を引かれたら大変ですものね。それと、水筒の話ですが……こちらのポスターを見てください」


そうナインさんに言うと、他の冒険者達もナインさんの目線にあわせてポスターを見た。


「ロストテクノロジーで作られた水筒です。大きさは結構ありまして、かなり丈夫だと聞いています。また、中は保温と保冷が出来まして、24時間それらは持続します」
「凄いな……まるで夢の水筒じゃないか」
「販売は来週中ですがお値段は金貨1枚と結構お高いです」
「ふむふむ」
「そこで、我が商店街では、買ったものに応じてポイントをつける【ポイントカード制度】を導入することにしました。3枚つづりの魔法の紙で作られたものなのですが、カードの1枚目溜まって使えば、少し安めのアイテムと交換。2枚目が溜まればロストテクノロジーで作った水筒と交換。全部溜まれば、冒険者ならば絶対に欲しいであろう、アイテムボックスと交換となります」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」
「ズルをしないように魔法の紙を使いますので、名前の記載は必要ですが。商店街で商品を買い、スタンプを貯めれば豪華賞品ゲットです!」
「素晴らしいな! ポイントさえ貯めてしまえば、最高はアイテムボックスか!」
「そうなります。商店街の商品でしたらどれでもスタンプが押せますよ。冒険者の方々は銀貨10枚につきポイント1枚と言う感じです」
「冒険者ならばアイテムボックスは誰でも欲しいものだ。それにこの水筒……金貨1枚でも安く感じてしまうな」
「そう言って頂けると嬉しいです」
「ここにいる冒険者も聞いたように、サルビア商店街のものを銀貨10枚でポイント1つ貰えるそうだ。貯めたポイントカードで最高アイテムボックス! こんなに嬉しいことは無いだろう?」
「「「「はい!!」」」」」
「ポイントカードの導入は来週からだ! 皆シッカリ覚えておくように!」
「「「「了解です!!」」」」


――流石ナインさん!! 冒険者の皆さんを纏め上げるには最適な人ですね!
お陰で場が落ち着きました!!


「時にライトくん、少々商談の話があるんだが宜しいかね?」
「分かりました。奥へどうぞ」
「今日は店が忙しいからアタシは店にいるよ」
「有難うございます」


こうして、ロキシーには店を任せ、奥の商談スペースへと向かうと、ナインさんは両手合わせて頭を下げました。
一体どうしたのかと思うと――。


「ライトくん、ダメだったら断っていいんだが」
「はい」
「水筒を是非、売り出しが始まったら5本取っていてもらいたい。予約しておきたいんだ」
「5本も……ですか? 確かに1日50個で様子は見ようとは思ってましたが」
「ライト様、ダンノージュ侯爵領の冒険者に取って、水のあるなしは命のあるなしに関わる程に重要な事なのです」
「護符があっても、人間と言うのは戦いの最中喉が渇きます」
「特に、地下神殿の下に潜る冒険者程です」
「なるほど……」
「それに、ダンノージュ侯爵領の冒険者はそれなりに財産を持っています。直ぐに売り切れるでしょう」
「それで……。分かりました、本日はとても助けて頂きましたので、5本予約品としてお取り置きします」


これも何かの縁でしょう。
それに、地下に潜ることが多い鳥の瞳にとって死活問題なのでしょう。
快く承諾すると、「やはりライトくんは素晴らしい人だ」とナインさんに褒められました。


「出来れば薬局も商店街に出来れば、最高なのだが、」
「薬局出来ますよ。薬師がいらっしゃいますので」
「「「「なんだって!?」」」」


そんなに食いつくような話題だっただろうか……。


「ダンノージュ侯爵領の薬局がどんなものかは存じ上げませんが、箱庭には薬師が9人、薬師見習いが1人います。彼らは常に薬を作っているので、解体エリア前の店があると思うのですが、そちらの内装が終わり次第、最初に薬局を作る事になっています」
「素晴らしい……」
「一つ教えて頂きたいのですが、ダンノージュ侯爵領の薬局とはどんな感じなのでしょうか?」
「一言で言えば」
「金儲けしか考えてない連中の巣だな」
「金儲けしか考えていない連中の巣……ですか」
「ちゃんとした効果のない薬」
「のど飴といって渡されたのど飴の効果の無さと不味さ」
「子供の薬嫌いが加速する」
「そんな薬局だらけだ」
「なるほど……うちの薬師見習いの子とは大違いですね」
「と言うと?」
「箱庭は、保護されたお年寄りや保護された女性達が多くいます。中には子連れの女性も無論いらっしゃいます。彼らの為に、薬師見習いの子は仕事が終わると一時間お年寄りや子供達への薬を用意しているのですが、子供が飲みやすいようシロップを作ったり、お年寄りが誤飲しないように服薬のゼリーを作ったりしてくれていますよ」
「神かな?」
「いや、天使かも知れませんよ」
「天使なら目の前にいる」
「そうでしたね」
「ラキュアス君と言って、私と同じ年齢の子なんです。今は薬師のお兄さんたちに教えてもらいながら薬を作る為のスキルをあげていらっしゃいます」
「頑張り屋なんだな……」
「彼の作った商品も薬局に出し、彼も薬局で働く予定でしたから」
「なるほど、商店街にいる天使が二人になるのか」
「素晴らしいですね」
「その際は、是非お薬を買ってみて下さい。身体を壊さないのが一番ですが……」
「「「「「優しい……」」」」」


何故か皆さん涙を流しながら微笑んでいらっしゃいますね。どうしたんでしょう。


「本当は今日、建築師さんのもとへ向かい、店を見に回る予定だったんですが、予想外に商品を売る事になったので行けなくて」
「確かに、護符やアイテムがあれば売れに売れるだろう」
「時間を見て、私だけでも建築師さんの元へ向かい、話をつけてこようと思います」
「ダンノージュ侯爵のお孫さんは本当に頑張り屋だな」
「兄には負けます。本当に走り回っていらっしゃいますから」
「ははは、確かにカイルくんの多忙さは凄そうだ」
「では、水筒5つの予約と言う事で宜しいですね」
「頼んだよ」
「はい!」


こうして、鳥の瞳メンバーから頭を撫でられつつ商談は終わり、店に戻るとなにやら店の忙しさが落ち着いて、護符がとにかく売れている様子。


「どうしたんですか?」
「ポイントカード制度」
「ああ」
「それを狙って買いに来るって言う冒険者が多くって、今は護符が大量に売れてる」
「では、その間に私は王都から来ている建築師さんの元へ行ってきます。早く残りの店も綺麗にして動きたいですから」
「アタシも着いて行くよ」
「お願いします」


――その後、建築師さん達には会う事ができ、話をすると暫く暇だからと言う事で雇われてくれることになり、各店舗を見て回り店のイメージを伝えつつ話すと、明日から工事に入ってくれることになりました。
伐採師さんたちも木材の調達にくるそうで、明日からまた忙しくなりそうですね。
最後に空き地を綺麗にすると言ってくれたので、過ごしやすそうな空き地が綺麗に生まれ変わりそうです。
空き地と言うよりも、小さな公園くらいの大きさはありますが……。
植物を植えたら見栄えも良くなりそうだなと思ったので、リディア姉さんに聞いてみようと思ったその日の夜――。
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