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124 清いからこそ分からない事と、清いからこそ脆い事と。

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――ライトside――


元を辿れば――彼の娘、ジュリアが殺されたことで全ての歯車が狂ったのでしょう。
ジュリアと言うストッパーが無くなった事で、奪われたことで全てを憎むように、無念を晴らすようにダンノージュ侯爵領のこの街の道具屋のトップに立ち続けた。

壊せるモノは壊し。
奪えるモノは奪い。
脅せる者は脅し。

そうやってトップにやっといられるような道具屋だった。
唯それだけですが、失ったものは戻ってくることは無く、彼は多方面から恨まれる事になっても、そのやり方を今に至るまで辞めることは無かった。

相手を潰すのなら弱点から。
それは分かります。
ですが、それが人の命だとしたら――この街の人の命とはそんなに安い物なのかと疑問に思います。


「ロキシーには嫌な思いをさせましたね」
「いいや、気にしてないよ。でも良かったのかい? この仕事はカイルがやるべき事だっただろう?」
「ええ、ですが兄はとても忙しい方ですから、私のスキルを使って情報を引き出さねばどうしようもない部分もありましたので」
「そうかい」
「ロキシーは、私がスキルを使う時に、瞳が変わるのは御嫌いですか?」
「それ、スキルを使ってたのかい? 気が付かなかったよ。まぁ確かに警戒はしたくなる色合いにはなるけれど、それがスキルだと言うのなら別にいいんじゃないのかい?」
「良かったです。貴女に嫌われたら生きていけませんから」
「大げさだねぇ」


そう言って笑うロキシーの声にホッと息を吐けた。


「ですが、酒場の主人以外にも繋がりがやはりありましたね。これは兄に報告しましょう」
「冒険者が魔物を肉に卸すための皮剥ぎ屋。冒険者ギルドの受付のフォリスナルト。後は彫金師に付与師たちだね」
「もっと繋がりがあるかと思いましたが、確かに大元である倉庫番と懇意にしていれば他所は生活が苦しくなりますね」
「しかし、ダンノージュ侯爵家に調べさせたといっても、何時行ってきたんだい?」
「ロキシーが寝ている隙にコッソリと。前もって調べて貰っていたんです」
「準備が良い事で」
「何か仕掛けてくると分かっている相手に対し、指をくわえて待っているのは性に合いませんから」


そう言うと書類を纏めて鞄に入れると、ロキシーと並んで牢屋を出た。
空は既に暗く、月明かりすらない夜だった。

道具屋の店主の娘、ジュリアはこんな夜亡くなったそうだ。
妻を流行り病で亡くし、一人で娘であるジュリアを育ててきた道具屋の店主は、彼女が成人を迎える誕生日に殺されたと書かれてあった。
その死に方は余りにも無残だったと。
道具屋の店主の気が狂ったのはその頃であると書かれていた。


「人の命とは、安くは無いのですけれどね」
「だが、命は安いと思っている輩は多いさね。自分の命も安いとか言いながら、意固地になってまで自分の命だけは守ろうとするのが人間だよ」
「ええ、解かっています。大いなる矛盾ですね」
「そうだね」


そう言うと私は歩き出し、ロキシーも不思議そうにはしていたけれど一緒に歩いてくれた。
街には沢山の冒険者が今もお祝いムードで酒を飲んでいたり、話をしていたりと賑やかだ。


「何故人は、命が安いと思うのでしょうか。死はとても身近にあるのに」
「恰好つけたい。ってのもあるだろうけれど、邪魔なら死んでも問題ないって考えが根強いんだろうね」
「邪魔なら人の命は安いんですか?」
「そう言う輩は山のようにいるさね」
「私には分からない感覚です。きっと、一生理解出来ないのでしょうね」
「それは、ライトが清らかである証拠だよ。大事にしな」
「ええ、大事にさせて頂きます」
「でも、アンタもショックじゃないのかい? アンタの年齢であの尋問はキツイかっただろう?」
「そうですね……寧ろ、悲しかったです」


人を狂わせるのは、常に大事なものを奪われた瞬間だ。
それは、己のプライドであったり、己の最も大事にする物であったり、人であったり――。


「道具屋の主人も……大事な人を奪われなければ、まともな人生を歩めたんでしょうね」
「ライト……」
「兄がダンノージュ侯爵を継いだ時、その様な悲しい事が減る事を祈ります。その為に私が必要であれば、無理をしてでも成しえます」
「それじゃぁ、アンタが無茶しない様に、隣で見張って居ようかね」
「頼りにしています。では、箱庭に帰りましょうか」
「ああ、一緒に帰ろう」


そう言うとロキシーは私に手を差し伸べ、私は微笑んでその手を取った月明かりのない夜。
けれど――もしロキシーを奪われるようなことがあれば、私も変わってしまうのだろうと理解出来た夜でもあった……。
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