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105 酒場の親父と箱庭のレベルアップ
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――カイルside――
酒場の主人と今後の話をしようとしたその時、俺が口を開けるよりも先に酒場の主人が俺をジッと見つめて口を開いた。
「今後の話っていうと? 俺は嫌だぜ、これからも困っている奴らを守ってやりてぇ」
「分かっています。ですが店が出来ないと言うのは問題でしょう」
「分かっている。それが今のところ目下の問題だ。客が来ない酒場ってのもな。だが煩くすると保護した奴らが落ち着けねぇ。少しでも配慮して静かにしてやりたいんだ」
酒場の主人――ジューダスはそう言うと鍛え抜かれた胸を押さえ口にする。
「此処に保護されてくる奴らは、皆、今にも自害しそうな顔をしてきやがる……。実際自殺しようとした奴らだっている。何度も医者に走った事だってある。そんな奴らを見ると、少しでも守ってやりてぇって思うんだよ」
「ジューダスさん……」
「頼むカイル、俺がこの保護と言う仕事をしたいんだ。今更やめろなんて言わないでくれ」
「言いません。ですが、商売の在り方と言うのを考えてはどうでしょう」
「というと?」
「正直言います。店が狭かったんです」
「ん?」
「新店舗の前に作った、モーニングをやっている『カフェ・サルビア』が狭いんです。それで、カフェでは余り大きな声で喋る方はいらっしゃいませんので、こちらの酒場を使わせてもらっても構わないでしょうか。無論、賃貸として酒場及びジューダスさんを雇わせて頂きたい」
「つまり、俺はダンノージュ侯爵家に雇われるってことか?」
「そうなりますが……嫌でしたら、」
「そいつはいいな! 給料は弾んでくれよ!」
二つ返事でジューダスさんは笑顔で答えた。
直ぐに決めていいのかと問いかけると――。
「ダンノージュ侯爵家に雇われるならそれに越したことはねぇ。しかも店をしながら保護活動も出来るならそれに越したこともねぇ。それに、俺は独り身だ。これを機会に嫁さんが見つかるかもしれねぇ!」
「そ、そうですか」
「何より、俺も一度だけイルノから聞いたが、決まった時間でしか商売をしないだろう? 朝8時から夜9時までだったか? それだったら、夜の見回りもしている俺でも休む時間が作れるってこった」
「夜の見回りもしてくれていたのか」
「心配でな」
「じゃあ、給料は弾まないとな!」
酒場には道具店サルビアが出来た時からずっと世話になりっぱなしだった。
今もそうだ。
酒場を今後俺がまるっとジューダスごと雇い、『カフェ・サルビア二号店』に出来れば、こっちで用意した店員がジューダスの寝る時間を確保してくれるかもしれない。
それに、『カフェ・サルビア』なら静かな状態で商売も出来る。多少お喋りがあったとしても上までは聞こえにくいだろう。
「俺もついに、酒場主人からカフェ主人か……オシャレになっちまったな!」
「はははは! 副店長はこっちで用意するよ。あとは仕事をしてくれる人たちもね」
「そうしてくれると助かるぜ。店内の改装や厨房の改装が必要なら」
「こちらでやらせて貰うよ。店内の改造中は、ジューダスはゆっくり休んでくれ」
「悪いな、今日は良い話が聞けて良かった。久しぶりに店を早く締めて眠らせて貰うよ。つっても、何時保護された奴が来てもいい様にそこの騎士たちには居て貰うがな」
「ああ、暫くゆっくり休んでくれ」
「ありがとよカイル。本当にサルビアの花言葉通りのやつだなお前は」
そう言うと俺の肩を叩き、隈だらけの目元なのにいい笑顔を見せてくれたジューダスに、俺は苦笑いが零れた。
――サルビアの花言葉は、【家族愛】。
きっと、家族の一員になったのが嬉しいんだろう。もっと早くすれば良かったと後悔する。
「今後もよろしくなカイル!」
「ああ、今後ともよろしくなジューダス」
そう言うと俺は箱庭へと戻った。
すると、先程保護された総勢17人のうち、乳児を除く16人は『破損部位修復ポーション』のお陰もあってか、表情も明るい。
リディアも俺を見つけて駆け寄ったその時だった。
箱庭が――ズズズ……動いたんだ。
空間が歪み、一体何が起きているのか分からない。
だが、箱庭が動いているのが足元に伝わり、それが何を意味するのか俺達には解らなかったが、揺れた箱庭は次第に揺れが収まり、空間の歪みがパン!と音をたてて消えた途端――。
「箱庭が」
「進化したのかしら……?」
目に広がる光景に思わず立ち止まる俺とリディアの姿がそこにはあった。
それでも、ハッと我に返ると、俺達は目の前に広がる光景に息を呑んだ。
出入り口から出てきた俺達は、何時も薬草園と染料になる花を見て心を和ませていたのに、それが丸ごと消えていた。
その代わりに、目の前に広がるのは、大小の池と、物を沢山広げても10人が作業できるほどのスペースにどうやってできたのか休憩所が建っており、後ろの海も広がっていた。
では、畑や薬草園と花々は何処へ行ったのか。
それは、池がある場所まで行くと、上に伸びる太い道、右手には上下で太い道が二つ出来ており、何時も山へ向かう道は更に太い道になっていた。
リディアと共にまずは上にある太い道を進むと、大規模の採掘場が出来ており、リディアと共に驚いた。
次に右手にあった上の太い道を向かうと、辺り一面農作物の畑が出来上がっていた。
今までよりも更に広くなった畑を見て、リディアは「ドームの中と外くらいかしら」と訳の分からない事を口にしていた。
ドームとはなんだろうか……。
更にもう一つ下の道を行くと、リディアがドームと言ったのと同じ広さの薬草園と染料園が出来上がっていた。
最後に山に登る道を進むと、分かれ道が出来ていて、炭焼き小屋が全部で5つ出来ており、更に別の場所には陶芸師が使う窯が6つも出来ていた。
山は、更にレベルアップしたとしか言えない。
木材の種類が増えていた。
「お……おぉ……」
「えっと……レベルアップしたと言うことよね?」
「レベルアップの瞬間に立ち会うとは思わなかったけど、凄いレベルアップしたな」
「住居エリアはどうなったのかしら!」
「急ごう!!」
こうして俺とリディアは急ぎ走って住居エリアへとむかったのだが――。
酒場の主人と今後の話をしようとしたその時、俺が口を開けるよりも先に酒場の主人が俺をジッと見つめて口を開いた。
「今後の話っていうと? 俺は嫌だぜ、これからも困っている奴らを守ってやりてぇ」
「分かっています。ですが店が出来ないと言うのは問題でしょう」
「分かっている。それが今のところ目下の問題だ。客が来ない酒場ってのもな。だが煩くすると保護した奴らが落ち着けねぇ。少しでも配慮して静かにしてやりたいんだ」
酒場の主人――ジューダスはそう言うと鍛え抜かれた胸を押さえ口にする。
「此処に保護されてくる奴らは、皆、今にも自害しそうな顔をしてきやがる……。実際自殺しようとした奴らだっている。何度も医者に走った事だってある。そんな奴らを見ると、少しでも守ってやりてぇって思うんだよ」
「ジューダスさん……」
「頼むカイル、俺がこの保護と言う仕事をしたいんだ。今更やめろなんて言わないでくれ」
「言いません。ですが、商売の在り方と言うのを考えてはどうでしょう」
「というと?」
「正直言います。店が狭かったんです」
「ん?」
「新店舗の前に作った、モーニングをやっている『カフェ・サルビア』が狭いんです。それで、カフェでは余り大きな声で喋る方はいらっしゃいませんので、こちらの酒場を使わせてもらっても構わないでしょうか。無論、賃貸として酒場及びジューダスさんを雇わせて頂きたい」
「つまり、俺はダンノージュ侯爵家に雇われるってことか?」
「そうなりますが……嫌でしたら、」
「そいつはいいな! 給料は弾んでくれよ!」
二つ返事でジューダスさんは笑顔で答えた。
直ぐに決めていいのかと問いかけると――。
「ダンノージュ侯爵家に雇われるならそれに越したことはねぇ。しかも店をしながら保護活動も出来るならそれに越したこともねぇ。それに、俺は独り身だ。これを機会に嫁さんが見つかるかもしれねぇ!」
「そ、そうですか」
「何より、俺も一度だけイルノから聞いたが、決まった時間でしか商売をしないだろう? 朝8時から夜9時までだったか? それだったら、夜の見回りもしている俺でも休む時間が作れるってこった」
「夜の見回りもしてくれていたのか」
「心配でな」
「じゃあ、給料は弾まないとな!」
酒場には道具店サルビアが出来た時からずっと世話になりっぱなしだった。
今もそうだ。
酒場を今後俺がまるっとジューダスごと雇い、『カフェ・サルビア二号店』に出来れば、こっちで用意した店員がジューダスの寝る時間を確保してくれるかもしれない。
それに、『カフェ・サルビア』なら静かな状態で商売も出来る。多少お喋りがあったとしても上までは聞こえにくいだろう。
「俺もついに、酒場主人からカフェ主人か……オシャレになっちまったな!」
「はははは! 副店長はこっちで用意するよ。あとは仕事をしてくれる人たちもね」
「そうしてくれると助かるぜ。店内の改装や厨房の改装が必要なら」
「こちらでやらせて貰うよ。店内の改造中は、ジューダスはゆっくり休んでくれ」
「悪いな、今日は良い話が聞けて良かった。久しぶりに店を早く締めて眠らせて貰うよ。つっても、何時保護された奴が来てもいい様にそこの騎士たちには居て貰うがな」
「ああ、暫くゆっくり休んでくれ」
「ありがとよカイル。本当にサルビアの花言葉通りのやつだなお前は」
そう言うと俺の肩を叩き、隈だらけの目元なのにいい笑顔を見せてくれたジューダスに、俺は苦笑いが零れた。
――サルビアの花言葉は、【家族愛】。
きっと、家族の一員になったのが嬉しいんだろう。もっと早くすれば良かったと後悔する。
「今後もよろしくなカイル!」
「ああ、今後ともよろしくなジューダス」
そう言うと俺は箱庭へと戻った。
すると、先程保護された総勢17人のうち、乳児を除く16人は『破損部位修復ポーション』のお陰もあってか、表情も明るい。
リディアも俺を見つけて駆け寄ったその時だった。
箱庭が――ズズズ……動いたんだ。
空間が歪み、一体何が起きているのか分からない。
だが、箱庭が動いているのが足元に伝わり、それが何を意味するのか俺達には解らなかったが、揺れた箱庭は次第に揺れが収まり、空間の歪みがパン!と音をたてて消えた途端――。
「箱庭が」
「進化したのかしら……?」
目に広がる光景に思わず立ち止まる俺とリディアの姿がそこにはあった。
それでも、ハッと我に返ると、俺達は目の前に広がる光景に息を呑んだ。
出入り口から出てきた俺達は、何時も薬草園と染料になる花を見て心を和ませていたのに、それが丸ごと消えていた。
その代わりに、目の前に広がるのは、大小の池と、物を沢山広げても10人が作業できるほどのスペースにどうやってできたのか休憩所が建っており、後ろの海も広がっていた。
では、畑や薬草園と花々は何処へ行ったのか。
それは、池がある場所まで行くと、上に伸びる太い道、右手には上下で太い道が二つ出来ており、何時も山へ向かう道は更に太い道になっていた。
リディアと共にまずは上にある太い道を進むと、大規模の採掘場が出来ており、リディアと共に驚いた。
次に右手にあった上の太い道を向かうと、辺り一面農作物の畑が出来上がっていた。
今までよりも更に広くなった畑を見て、リディアは「ドームの中と外くらいかしら」と訳の分からない事を口にしていた。
ドームとはなんだろうか……。
更にもう一つ下の道を行くと、リディアがドームと言ったのと同じ広さの薬草園と染料園が出来上がっていた。
最後に山に登る道を進むと、分かれ道が出来ていて、炭焼き小屋が全部で5つ出来ており、更に別の場所には陶芸師が使う窯が6つも出来ていた。
山は、更にレベルアップしたとしか言えない。
木材の種類が増えていた。
「お……おぉ……」
「えっと……レベルアップしたと言うことよね?」
「レベルアップの瞬間に立ち会うとは思わなかったけど、凄いレベルアップしたな」
「住居エリアはどうなったのかしら!」
「急ごう!!」
こうして俺とリディアは急ぎ走って住居エリアへとむかったのだが――。
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