【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段

文字の大きさ
上 下
105 / 274

105 酒場の親父と箱庭のレベルアップ

しおりを挟む
――カイルside――

酒場の主人と今後の話をしようとしたその時、俺が口を開けるよりも先に酒場の主人が俺をジッと見つめて口を開いた。


「今後の話っていうと? 俺は嫌だぜ、これからも困っている奴らを守ってやりてぇ」
「分かっています。ですが店が出来ないと言うのは問題でしょう」
「分かっている。それが今のところ目下の問題だ。客が来ない酒場ってのもな。だが煩くすると保護した奴らが落ち着けねぇ。少しでも配慮して静かにしてやりたいんだ」


酒場の主人――ジューダスはそう言うと鍛え抜かれた胸を押さえ口にする。


「此処に保護されてくる奴らは、皆、今にも自害しそうな顔をしてきやがる……。実際自殺しようとした奴らだっている。何度も医者に走った事だってある。そんな奴らを見ると、少しでも守ってやりてぇって思うんだよ」
「ジューダスさん……」
「頼むカイル、俺がこの保護と言う仕事をしたいんだ。今更やめろなんて言わないでくれ」
「言いません。ですが、商売の在り方と言うのを考えてはどうでしょう」
「というと?」
「正直言います。店が狭かったんです」
「ん?」
「新店舗の前に作った、モーニングをやっている『カフェ・サルビア』が狭いんです。それで、カフェでは余り大きな声で喋る方はいらっしゃいませんので、こちらの酒場を使わせてもらっても構わないでしょうか。無論、賃貸として酒場及びジューダスさんを雇わせて頂きたい」
「つまり、俺はダンノージュ侯爵家に雇われるってことか?」
「そうなりますが……嫌でしたら、」
「そいつはいいな! 給料は弾んでくれよ!」


二つ返事でジューダスさんは笑顔で答えた。
直ぐに決めていいのかと問いかけると――。



「ダンノージュ侯爵家に雇われるならそれに越したことはねぇ。しかも店をしながら保護活動も出来るならそれに越したこともねぇ。それに、俺は独り身だ。これを機会に嫁さんが見つかるかもしれねぇ!」
「そ、そうですか」
「何より、俺も一度だけイルノから聞いたが、決まった時間でしか商売をしないだろう? 朝8時から夜9時までだったか? それだったら、夜の見回りもしている俺でも休む時間が作れるってこった」
「夜の見回りもしてくれていたのか」
「心配でな」
「じゃあ、給料は弾まないとな!」


酒場には道具店サルビアが出来た時からずっと世話になりっぱなしだった。
今もそうだ。
酒場を今後俺がまるっとジューダスごと雇い、『カフェ・サルビア二号店』に出来れば、こっちで用意した店員がジューダスの寝る時間を確保してくれるかもしれない。
それに、『カフェ・サルビア』なら静かな状態で商売も出来る。多少お喋りがあったとしても上までは聞こえにくいだろう。


「俺もついに、酒場主人からカフェ主人か……オシャレになっちまったな!」
「はははは! 副店長はこっちで用意するよ。あとは仕事をしてくれる人たちもね」
「そうしてくれると助かるぜ。店内の改装や厨房の改装が必要なら」
「こちらでやらせて貰うよ。店内の改造中は、ジューダスはゆっくり休んでくれ」
「悪いな、今日は良い話が聞けて良かった。久しぶりに店を早く締めて眠らせて貰うよ。つっても、何時保護された奴が来てもいい様にそこの騎士たちには居て貰うがな」
「ああ、暫くゆっくり休んでくれ」
「ありがとよカイル。本当にサルビアの花言葉通りのやつだなお前は」


そう言うと俺の肩を叩き、隈だらけの目元なのにいい笑顔を見せてくれたジューダスに、俺は苦笑いが零れた。
――サルビアの花言葉は、【家族愛】。
きっと、家族の一員になったのが嬉しいんだろう。もっと早くすれば良かったと後悔する。


「今後もよろしくなカイル!」
「ああ、今後ともよろしくなジューダス」


そう言うと俺は箱庭へと戻った。
すると、先程保護された総勢17人のうち、乳児を除く16人は『破損部位修復ポーション』のお陰もあってか、表情も明るい。
リディアも俺を見つけて駆け寄ったその時だった。


箱庭が――ズズズ……動いたんだ。
空間が歪み、一体何が起きているのか分からない。
だが、箱庭が動いているのが足元に伝わり、それが何を意味するのか俺達には解らなかったが、揺れた箱庭は次第に揺れが収まり、空間の歪みがパン!と音をたてて消えた途端――。


「箱庭が」
「進化したのかしら……?」


目に広がる光景に思わず立ち止まる俺とリディアの姿がそこにはあった。
それでも、ハッと我に返ると、俺達は目の前に広がる光景に息を呑んだ。
出入り口から出てきた俺達は、何時も薬草園と染料になる花を見て心を和ませていたのに、それが丸ごと消えていた。
その代わりに、目の前に広がるのは、大小の池と、物を沢山広げても10人が作業できるほどのスペースにどうやってできたのか休憩所が建っており、後ろの海も広がっていた。
では、畑や薬草園と花々は何処へ行ったのか。
それは、池がある場所まで行くと、上に伸びる太い道、右手には上下で太い道が二つ出来ており、何時も山へ向かう道は更に太い道になっていた。

リディアと共にまずは上にある太い道を進むと、大規模の採掘場が出来ており、リディアと共に驚いた。
次に右手にあった上の太い道を向かうと、辺り一面農作物の畑が出来上がっていた。
今までよりも更に広くなった畑を見て、リディアは「ドームの中と外くらいかしら」と訳の分からない事を口にしていた。
ドームとはなんだろうか……。
更にもう一つ下の道を行くと、リディアがドームと言ったのと同じ広さの薬草園と染料園が出来上がっていた。
最後に山に登る道を進むと、分かれ道が出来ていて、炭焼き小屋が全部で5つ出来ており、更に別の場所には陶芸師が使う窯が6つも出来ていた。

山は、更にレベルアップしたとしか言えない。
木材の種類が増えていた。


「お……おぉ……」
「えっと……レベルアップしたと言うことよね?」
「レベルアップの瞬間に立ち会うとは思わなかったけど、凄いレベルアップしたな」
「住居エリアはどうなったのかしら!」
「急ごう!!」


こうして俺とリディアは急ぎ走って住居エリアへとむかったのだが――。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...