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102 あちらの道具屋と道具店サルビアの格の違い。

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――カイルside――


翌日からは、道具屋と見切りをつけた冒険者が多数押しかけていた。
質の悪い冒険者はあちらに回しておいたので、特に困るようなことは無いだろう。
しかし――朝から凄い人の数だった。

洋服店は箱庭から保護された女性達もヘルプにやってきていたが、既に長蛇の列。
『ひんやり肌着』や『ひんやり糸』を使った洋服を買う為に並んでいるようだ。
布団店には、朝から子供を抱えた母親たちが長蛇の列を作っていた。
こちらはガーゼシリーズを求めて、そしてガーゼシリーズの横に並べた、汗疹対策の乳児用品や幼児用品、他、おもちゃを並べているので、それを求めてだろう。

列の真ん中は開けておいてもらい、冒険者や買い物が終わった客が行き来出来る様にして貰っているが――道具店サルビアも大変な賑わいだった。


「おうおう、このハッカ水ってのを使ったら地下神殿でもサッパリと過ごせたぜ!」
「俺もだ! このハッカ水は俺達冒険者の為の商品に違いない!」
「いえいえ、ハッカ水は子供が体に触れても大丈夫なように作っているんです。虫も寄ってきませんからアッチでは子供にと買って行く主婦の方々も多いんですよ」
「なるほど、ガキにも使える商品ってなると、体に優しいってことか」
「こっちのポーションはあっちの道具屋よりも効果が高いって話だぜ」
「それを言ったら、ちょっとした傷だったらこの傷薬がありゃ治っちまう。スゲー店だぜ」


そうなのだ、冒険者が多すぎて、仕事をしている平民にまで必要なアイテムが回らないのが問題だ。
そこで、傷薬などは洋服店や布団店でも取り扱って貰うようにしたので、きっと夫の為にと買って行く主婦も多くいる事だろう。
無論、洋服店と布団店にもハッカ水はオープニングセールという事で、一本オマケでつけさせて貰っている。説明書も書いてあるので大丈夫だろう。
それに、各店舗には手洗い石鹸や液体石鹸のポスターを貼らせてもらっている。
それらも効果があるようで、石鹸や液体石鹸も飛ぶように売れているようだ。



「ところで、このポスターにあるボディーソープってのは、そんなに身体が綺麗になるのか?」
「シャンプーってのも気になるよな」
「ええ、女性だけではなく男性にも人気の商品ですね。体の体臭も抑えてくれますし、此れを使った男性が女性から『貴方からは良い香りがするわ』と言われたそうですよ」
「「「「へぇ……」」」」
「シャンプーを使うと、より効果的なようで。アチラでは両方身体を洗う際の必須アイテムです」
「ふん! 属国の奴らめ……。俺達だって先にアンタの店がこっちにあればもっと身綺麗にできたんだ」
「すみません、こちらに来るのが遅れてしまいまして。アチラの王国が潰れてからは、何かと忙しい日々を送っていたもので」
「別に店長を責めてるわけじゃねぇよ。ただ、こんな良い店を属国の奴らが独占してたと思うとモヤモヤするっていうかさ」
「そう言って頂けると嬉しいですね。是非、アチラに負けない様に皆様も、もっともっと身綺麗になる事を願っています」
「当たり前だ! こっちはダンノージュ侯爵領で活動している冒険者だぞ!」
「それより店長、俺達全員で周辺の宿屋に直談判したんだ。寝具を変えてくれとな」
「流石に人数で押しかけてやったから、近いうちに宿屋から話がくるだろうよ」
「でないとストライキ俺達が起こすからな!」
「ははは! 有難い事です」


一つずつ、あちらの道具店との癒着が周りの冒険者達によって潰されているようだ。
宿屋は冒険者がいるからこそ成り立っている。
その冒険者に『質の悪い寝具』と罵られて大勢で直談判されれば、否応にも動かねばならないだろう。


「是非、店の奥には商談スペースも置いていますので、お話でしたら早めにお聞きしますとお伝えください」
「そいつはありがてぇ!」
「やっぱあっちの道具屋とこっちのサルビアは店長の器が違うぜ!」
「これからもよろしく頼むぜ!」
「ええ、こちらこそ是非御贔屓に」


笑顔で答えながら商品を捌いていくと、Sランク冒険者の鳥の瞳のメンバーがやってきた。
そうなると他の冒険者も少しだけ静かになる。


「店長、君の店の商品は実に素晴らしいな!」
「有難うございます」
「付与アクセサリーについても全く問題がない。作りも丁寧だが効果も抜群だ」
「そう言って頂けますと、付与師や彫金師たちは喜ぶでしょう」


このダンノージュ侯爵領で驚いたことは、冒険者の儲けがアチラよりも多いのか、皆が付与アクセサリーを買うだけの余裕がある事だ。
皆と言っても、ランクの低い冒険者は中々手が出せるものではないのだが、それでもCランク冒険者からは付与アクセサリーを持っている。


「流石ダンノージュ侯爵家の傘下と言う訳か」
「皆さん働きものですから、丁寧な仕事を徹底されております」
「そうだろうとも。あちらの道具屋で買っていた付与アクセサリーは何時壊れるか分かったものではなかったが、こちらは長持ちしそうだ」
「壊れるとは……身代わりの華のようにですか?」
「身代わりの華などアチラが作ったら、その日の内に壊れるぞ」
「高い金を支払っても、身代わりにならずに散っていくな」
「でしたら、現在身代わりの華を作れるようになった彫金師及び付与師が居ますので、商談次第ではお取り寄せが出来ますが」
「「「「「なんだと!!」」」」」


この一言に鳥の瞳以外の冒険者ですら声を上げた。


「ですが、作るのに時間が掛りますので」
「それはそうだろう」
「出来れば我々男性陣はブローチで欲しいのだが」
「では、ブローチの身代わりの華を作って貰う様頼んでおきましょう」
「実に助かる! もしよければ5つ、用意して欲しい」
「分かりました。鳥の瞳様からのご依頼として承ります。出来上がりましたらお越しの際に奥の商談スペースでお話します」
「頼む。後は難しいだろうが……アイテムボックスをお願いしたい」
「そちらも5つですか?」
「ああ、何せあちらの道具屋で買ったものはすぐに壊れる」
「分かりました。ご用意させて頂きます」


そう言うと鳥の瞳のリーダーであるナインさんは笑顔で店を去ろうとしたが――。


「む、このシャンプーとボディーソープとやらは何かね」
「はい、そちらのポスターにも書いてあるように、」
「なるほど、風呂に入る際に使う身綺麗にするものか。各自一つずつ買って行くように」
「「「「はい」」」」
どうやら統制がとれているようだ。
鳥の瞳のメンバーは石鹸や液体石鹸の他、ボディーソープやシャンプーを買って帰っていった。

そうなると――あやかりたい冒険者達も我先にと商品に手が伸びる。
三回ほど補充に走って貰い、何とか品切れだけは避けることができた。
そして、鳥の瞳のメンバーが頼んだ『身代わりの華のブローチ5つ。アイテムボックス5つ』とメモした紙をライトに手渡し、ライトは箱庭に向かい今から作業に入って貰う事だろう。

そんな慌ただしい中、八百屋や魚屋に肉屋のタイムセールには群れを成して主婦たちが押し寄せてくる時間帯だ。


「そろそろ八百屋と魚屋と肉屋のタイムセールが始まります。冒険者の皆様は主婦と喧嘩なさらぬようお願いします」


と、俺が店内で言うと――。


「よし、そろそろ俺達も帰ろう」
「買えるものは買った!」
「あの主婦の猛獣たちと戦える気はしねーよ……」


と言って、買い物を素早く終わらせた冒険者達は我先にと帰っていく。
此処からは少しだけのんびりできそうだ。
そう思った途端、ガランガランと鐘の音が聞こえ、タイムセールが始まった様だ。
主婦の雄叫びと甲高い悲鳴が木霊すこの時間だけは、冒険者も少ない。
昨日から始めた店ではあるが、タイムセールになるとあっという間に野菜も果物も、そして魚さえも消えていくのだという。
魚に関しては、二回目のタイムセールの時にまた新鮮な魚を並べるらしいが、その二回でも売り切れるらしく、雇った人たちは「商売ってやり方次第なんですね」と感心していたようだ。

また、肉屋ではコロッケが爆発的に売れているようで、夕方前には売り切れるらしい。
量を増やして欲しいという声が既に上がっているらしいが、これ以上は無理だという事で「早い者勝ちだと言っただろう? 俺でもこれ以上は無理だ」と嬉しい悲鳴でお手上げ状態らしい。

商店街に元気が戻ったというより、元気すぎて止められない状態になっているのだが、あちらの道具屋はどうなっているんだろうな。
リディア辺りが調べているだろうから今日にでも聞いてみよう。
そう思いながら一日の仕事を商店街全員が終わらせ、売り上げを教えに来てくれた各店舗及び、あらゆる情報を聞きながらメモしていくと――。


「角打ちに新しい酒が欲しいっていうんだよ。何かないかね」
「リディアが何か酒を作ってましたね。満を持して出したいと言っていたので、焼肉屋が出来る前には出してもらえると思いますよ」
「そりゃええわ。それとホレ、客から聞いた情報だ」
「ノートを取ってくださっていたんですね、有難うございます」
「ああ、日記だといって書かせて貰ってたわ」


そういて笑うバグ爺さんに笑いながらノートを受け取り、朝返しに行くと言うと「一本でいいから酒をくれとリディア様にいっといてくれ」と言われた為、伝えておこうと思う。
そして、皆が帰り、俺も店を閉めようとしたその時だった――。
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