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84 箱庭に住む為に必要な約束事と、箱庭師たちが守る事。
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――残るは革細工師の方々。
人数は多くは無いのですが、彼らは防具を作りたくないのだそう。
防具を作るにしても体力がもう持たないらしく、出来ればゆっくりと革製品を作りたいと言う事でしたの。
「流石に作り過ぎて手が震えますんじゃ……」
「もう老骨には応えます」
「少しずつでいいのであれば……小さなものから作れればと思っておりますが」
「では、冒険者ギルドから皮系を買い取りますから、冒険者が使うような皮の鞄なんかは作れまして?」
「それくらいでしたら」
「では、ちょっとお洒落な女性用男性用の皮の鞄も作れまして?」
「貴族様相手にやっておりましたのである程度は」
「では、ゆっくりでいいので作ってくださると助かりますわ」
そう言うと革細工の方々はホッとした様子。
長屋も完成し、ホッと安心したその夜――今回保護したご老人と避難してきた女性や子供さんを集めると、カイルとわたくしとで彼らにお話をする事となりました。
「改めてご挨拶しますわね。箱庭師のリディアです。道具店サルビアの影のオーナーと思って頂いて結構ですわ。まずは今回保護した方々には、一週間シッカリとした休養を求めます。
また、箱庭の規則には従っていただきますのでそこだけはご注意くださいませ」
そう言うと皆さん真剣に頷いていましたわ。
気候が良く、子供の遊び場も豊富で、衣食住に不自由しないと言うのであれば、彼らは絶対に箱庭の規則を守られるでしょう。
「また、一週間お休みして頂くに従い、一つ条件があります。こちらの温泉は好きに使って構いませんが、温泉に入る際の礼儀と言うものを壁に貼ってありますので、必ず守ってくださいませ。そして、余り長湯しすぎて湯あたりせぬよう心がけてください」
「「「「「はい!」」」」
「男性は女性に迷惑を掛けぬよう、女性は男性にあまり迷惑を掛けぬようお願いします。体調が悪い場合は直ぐにご連絡下さいませ。薬を提供しますが、いざと言う時はお医者様を直ぐお呼びします」
「そこまでして頂けるのですか?」
「あなた方はナカース国民となったのです。病気になればお医者様に掛かる権利が御座いますわ」
思いもよらなかったのでしょう。
前の国では医者は貴族のみしか見ませんでしたが、ナカース王国の属国となった今では、平民もまた医者に掛かる事が出来るのです。
すると今度はカイルが言葉を口にしました。
「今後、俺はナカース王国で商売を始める事となります。その際、スキルを持っているあなた方の力が必要となるでしょう。どうか、お力とお知恵をお借りしたい」
「「「カイルさん……」」」
「そして、今回保護した方々はお年を召した方がとても多いですが、もし仮にお亡くなりになった場合ですが……。道具店サルビアの名の許、亡くなった場合、葬儀を上げさせていただきます。そして、墓も用意します」
自分たちの死後の事を話されるとは思っていなかったのでしょう。
基本、庶民は墓など持たせてもらえません。
良くて川に流されるか、野山に捨てられるかのどちらか……。
ですが、ナカース王国では共同墓地として墓を設けることが可能なのです。
そして、毎年一年に一度、鎮魂祭を行う事になっておりますわ。
その事も含め彼らに話しをすると、むせび泣く声が聞こえてきました。
自分たちの死後、どうなるか分からなかったのでしょう。
「ですので、最後の時まで幸せに、幸せに生活して欲しいと願っています。気分転換に外に出たい時もあるでしょうが、その時はお知らせください」
「何と言って良いか……本当に有難う御座います」
「死後はその辺の草むらか川に流されるのだとばかり……」
「嗚呼……何とありがたい」
そう言って涙を拭うお年寄りとは別に、今度は保護された女性達と子供に向き合います。
「今回、夫の暴力及び、女手一つで子供を育てている女性達5人を保護しました。貴女方は既に住む部屋は用意されています。心の傷が深い方は、リディアの許にお越しください。それは子供も含めてです」
「あの、それはどういう事でしょうか?」
「特別なポーションを差し上げますわ。少しだけ心の負担が減る様なポーションですので、体に害はありません。一度だけしか使いませんし、不安でしたら是非、雪の園や朝の露の方に聞いてみて下さいませ。彼らは既に使っておりますわ」
国の英雄、朝の露と雪の園が使ったアイテムと聞けば女性達は安心し、子供達は怯えながらも憧れの英雄が使った薬と言う事で興味を示したようです。
「話は以上です。まずは一週間、ゆっくりと心と身体を癒してください。温泉は好きな時間に好きに入って構いません。疲労回復効果がお高い温泉ですので、生き返りますよ」
こうして解散となったのですが、直ぐに女性達は子供を連れてわたくしの許に集まり、皆さんに一瓶ずつ『破損部位修復ポーション』を飲ませると、胸や頭から光が湧き出ては消え、悲しみに暮れていた表情が生き返るように変わりましたわ。
それは子供たちも一緒で、薬を飲んだ後は「ママ?」と不思議そうにご自分たちのお母さんの手を握っておられました。
暴力を受けたら身体も心も傷つきます。
言葉の暴力も同じこと。
それを見て育った子供は、もっと心に傷を負っていたのでしょう。
ホッとした皆さんは何故か笑いながら涙を流し、わたくしにお礼を言って先人の保護されたママさんたちに連れられ、アパートへと向かわれましたわ。
「お疲れリディア」
「カイルもお疲れさまです」
「まさか箱庭がまたレベルアップするとはな。畑なんて凄いぞ。最初に来た時の4倍だ」
「まぁ、そんなに広がりましたのね! これでここに住む全員、衣食住に困らず生活が出来ますわ」
「子供達のスキルも見たんだろう。どうだったんだ?」
「まずは子供達にはスキルを楽しみながら上げて貰い、一般教養の勉強も教えていこうと思いますの。実は『家庭教師』をしていたお婆様方が結構いらっしゃって、わたくしが年齢に合わせた教科書と筆記道具を用意すれば、勉強も捗るでしょうね。なので、子供用の青空教室を作ろうと思いますの」
「青空教室?」
「ええ、海辺に沢山の机と椅子を並べて、黒板とチョークを用意いして、いくつかの年齢別のクラスに分けて勉強させますの。せめて読み書きや計算が出来なければ、外に仕事に行ったときに苦労しますもの」
「リディア……」
「子供には遊ぶ時間、勉強の時間は大切ですわ! ついでに絵本や本も沢山用意しようと思ってますわよ?」
「ははは、リディアらしいな」
「心も体も大きく育つ今だからこそ、頭ごなしに勉強なさい! じゃなく、勉強はそこそこで、それよりも知恵や知識を蓄えた方がいいですわ。それに経験も」
「リディアは良い母親になれるよ」
「そうありたいと思いますわ」
こうして一週間、保護した皆が各々好きに過ごす中、早く働きたい方には午前中はのんびりと、午後は仕事で構わないと言うことにしましたわ。
お年寄りの中には孫が居た方も多く、沢山の子供達の世話をしてくれますわ。
此処で育つ子供たちは、大好きなママやお爺ちゃんお婆ちゃんたちに見守られ、スクスクと成長するでしょう。
そして、何時か箱庭を卒業する時の財産になってくれたらと思いますわ。
それから一週間後――。
独り身用のアパートが出来上がり、こうして残るは作業小屋だけになりまして。
各々建築師の方々にどんな小屋が良いかを説明し、図面を書き、一つずつ作られていく様は中々壮観でしたわ。
一先ずは安心。
そう思っていたのですが――。
人数は多くは無いのですが、彼らは防具を作りたくないのだそう。
防具を作るにしても体力がもう持たないらしく、出来ればゆっくりと革製品を作りたいと言う事でしたの。
「流石に作り過ぎて手が震えますんじゃ……」
「もう老骨には応えます」
「少しずつでいいのであれば……小さなものから作れればと思っておりますが」
「では、冒険者ギルドから皮系を買い取りますから、冒険者が使うような皮の鞄なんかは作れまして?」
「それくらいでしたら」
「では、ちょっとお洒落な女性用男性用の皮の鞄も作れまして?」
「貴族様相手にやっておりましたのである程度は」
「では、ゆっくりでいいので作ってくださると助かりますわ」
そう言うと革細工の方々はホッとした様子。
長屋も完成し、ホッと安心したその夜――今回保護したご老人と避難してきた女性や子供さんを集めると、カイルとわたくしとで彼らにお話をする事となりました。
「改めてご挨拶しますわね。箱庭師のリディアです。道具店サルビアの影のオーナーと思って頂いて結構ですわ。まずは今回保護した方々には、一週間シッカリとした休養を求めます。
また、箱庭の規則には従っていただきますのでそこだけはご注意くださいませ」
そう言うと皆さん真剣に頷いていましたわ。
気候が良く、子供の遊び場も豊富で、衣食住に不自由しないと言うのであれば、彼らは絶対に箱庭の規則を守られるでしょう。
「また、一週間お休みして頂くに従い、一つ条件があります。こちらの温泉は好きに使って構いませんが、温泉に入る際の礼儀と言うものを壁に貼ってありますので、必ず守ってくださいませ。そして、余り長湯しすぎて湯あたりせぬよう心がけてください」
「「「「「はい!」」」」
「男性は女性に迷惑を掛けぬよう、女性は男性にあまり迷惑を掛けぬようお願いします。体調が悪い場合は直ぐにご連絡下さいませ。薬を提供しますが、いざと言う時はお医者様を直ぐお呼びします」
「そこまでして頂けるのですか?」
「あなた方はナカース国民となったのです。病気になればお医者様に掛かる権利が御座いますわ」
思いもよらなかったのでしょう。
前の国では医者は貴族のみしか見ませんでしたが、ナカース王国の属国となった今では、平民もまた医者に掛かる事が出来るのです。
すると今度はカイルが言葉を口にしました。
「今後、俺はナカース王国で商売を始める事となります。その際、スキルを持っているあなた方の力が必要となるでしょう。どうか、お力とお知恵をお借りしたい」
「「「カイルさん……」」」
「そして、今回保護した方々はお年を召した方がとても多いですが、もし仮にお亡くなりになった場合ですが……。道具店サルビアの名の許、亡くなった場合、葬儀を上げさせていただきます。そして、墓も用意します」
自分たちの死後の事を話されるとは思っていなかったのでしょう。
基本、庶民は墓など持たせてもらえません。
良くて川に流されるか、野山に捨てられるかのどちらか……。
ですが、ナカース王国では共同墓地として墓を設けることが可能なのです。
そして、毎年一年に一度、鎮魂祭を行う事になっておりますわ。
その事も含め彼らに話しをすると、むせび泣く声が聞こえてきました。
自分たちの死後、どうなるか分からなかったのでしょう。
「ですので、最後の時まで幸せに、幸せに生活して欲しいと願っています。気分転換に外に出たい時もあるでしょうが、その時はお知らせください」
「何と言って良いか……本当に有難う御座います」
「死後はその辺の草むらか川に流されるのだとばかり……」
「嗚呼……何とありがたい」
そう言って涙を拭うお年寄りとは別に、今度は保護された女性達と子供に向き合います。
「今回、夫の暴力及び、女手一つで子供を育てている女性達5人を保護しました。貴女方は既に住む部屋は用意されています。心の傷が深い方は、リディアの許にお越しください。それは子供も含めてです」
「あの、それはどういう事でしょうか?」
「特別なポーションを差し上げますわ。少しだけ心の負担が減る様なポーションですので、体に害はありません。一度だけしか使いませんし、不安でしたら是非、雪の園や朝の露の方に聞いてみて下さいませ。彼らは既に使っておりますわ」
国の英雄、朝の露と雪の園が使ったアイテムと聞けば女性達は安心し、子供達は怯えながらも憧れの英雄が使った薬と言う事で興味を示したようです。
「話は以上です。まずは一週間、ゆっくりと心と身体を癒してください。温泉は好きな時間に好きに入って構いません。疲労回復効果がお高い温泉ですので、生き返りますよ」
こうして解散となったのですが、直ぐに女性達は子供を連れてわたくしの許に集まり、皆さんに一瓶ずつ『破損部位修復ポーション』を飲ませると、胸や頭から光が湧き出ては消え、悲しみに暮れていた表情が生き返るように変わりましたわ。
それは子供たちも一緒で、薬を飲んだ後は「ママ?」と不思議そうにご自分たちのお母さんの手を握っておられました。
暴力を受けたら身体も心も傷つきます。
言葉の暴力も同じこと。
それを見て育った子供は、もっと心に傷を負っていたのでしょう。
ホッとした皆さんは何故か笑いながら涙を流し、わたくしにお礼を言って先人の保護されたママさんたちに連れられ、アパートへと向かわれましたわ。
「お疲れリディア」
「カイルもお疲れさまです」
「まさか箱庭がまたレベルアップするとはな。畑なんて凄いぞ。最初に来た時の4倍だ」
「まぁ、そんなに広がりましたのね! これでここに住む全員、衣食住に困らず生活が出来ますわ」
「子供達のスキルも見たんだろう。どうだったんだ?」
「まずは子供達にはスキルを楽しみながら上げて貰い、一般教養の勉強も教えていこうと思いますの。実は『家庭教師』をしていたお婆様方が結構いらっしゃって、わたくしが年齢に合わせた教科書と筆記道具を用意すれば、勉強も捗るでしょうね。なので、子供用の青空教室を作ろうと思いますの」
「青空教室?」
「ええ、海辺に沢山の机と椅子を並べて、黒板とチョークを用意いして、いくつかの年齢別のクラスに分けて勉強させますの。せめて読み書きや計算が出来なければ、外に仕事に行ったときに苦労しますもの」
「リディア……」
「子供には遊ぶ時間、勉強の時間は大切ですわ! ついでに絵本や本も沢山用意しようと思ってますわよ?」
「ははは、リディアらしいな」
「心も体も大きく育つ今だからこそ、頭ごなしに勉強なさい! じゃなく、勉強はそこそこで、それよりも知恵や知識を蓄えた方がいいですわ。それに経験も」
「リディアは良い母親になれるよ」
「そうありたいと思いますわ」
こうして一週間、保護した皆が各々好きに過ごす中、早く働きたい方には午前中はのんびりと、午後は仕事で構わないと言うことにしましたわ。
お年寄りの中には孫が居た方も多く、沢山の子供達の世話をしてくれますわ。
此処で育つ子供たちは、大好きなママやお爺ちゃんお婆ちゃんたちに見守られ、スクスクと成長するでしょう。
そして、何時か箱庭を卒業する時の財産になってくれたらと思いますわ。
それから一週間後――。
独り身用のアパートが出来上がり、こうして残るは作業小屋だけになりまして。
各々建築師の方々にどんな小屋が良いかを説明し、図面を書き、一つずつ作られていく様は中々壮観でしたわ。
一先ずは安心。
そう思っていたのですが――。
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