上 下
66 / 274

66 新たなる新商品と、新たなる雇用に乗り出す。

しおりを挟む
夜、カイルにサーシャさんやノマージュさんに話した【ガーゼ専門店】の話をする為に、二人が作ったのは箱庭で過ごす皆さん用の肌掛けタオルに敷きパッド、それにパジャマでしたわ。

そして皆さんで食事中、それらのアイテムを一人ずつ手渡すと、皆さん「ガーゼ?」と不思議に思っていらっしゃいましたが、サーシャさんやノマージュさんに話したプレゼンをすると、目から鱗とばかりに聞き入ってくださいましたの。


「なるほど……妊婦や出産したばかりの女性に優しいだけではなく、乳児や幼児にすら優しいアイテムを取りそろえた店か……」
「ええ、オムツかぶれの為のアイテムや、汗疹対策のアイテム、それにこれからの時期は保湿の為のアイテムも必要になってまいりますわ。乳児はとても弱いんですもの……。それらを一般庶民の方々に安く提供出来るようにする為にも、ガーゼシリーズは欠かせませんわ。それに少しなら子供用の風邪シロップも作れますし、乳児に触る際、もしくは幼児が手を洗う際に使う液体石鹸も作れますわ」
「ちょっといいかい? アタシたちも手は偶に洗うけど、石鹸なんて上等なものは使うのは専ら貴族ばかりで、アタシたちみたいなのは使ったことは無いよ」
「まぁ! では液体石鹸、もしくは石鹸を作りましょう! 手は病気になりやすいウイルスやばい菌と言ったものが多く存在していて、そう言った専用のもので洗うと予防になりますのよ?」
「へぇ……リディアは博識だな。是非石鹸や液体石鹸は道具店でも売ろう」
「そうですわね、普及には時間が掛りそうですけれど売りましょう。汚れも落ちやすいですからネイリストの皆さんは使っていると思いますわ。それに女性が喜ぶ香りのも用意しましょう」


こうして、石鹸の普及にも力を入れることにし、ガーゼ専門店は何とかなりそうですわ。
その為には沢山のガーゼ商品が必要で、更に言えば生まれたての乳児が使う服も取りそろえなくてはなりませんの。
そちらは綿をメインに作りますが、夏は柔らかいガーゼの物でも安心ですわね。「こんな服が欲しいですわ」とザッとメモ用紙に前世の世界にあった乳児服を描くと、メモを数枚欲しいと言われ、サーシャさんとノマージュさんに手渡し、布の薄さ厚さも大事であると言う事を伝えたうえで取り掛かって貰う事になりましたの。


さて、こうなると困るのは――裁縫師が少ないと言う事。


「ねぇカイルにロキシーお姉ちゃん。裁縫が出来そうな方って知り合いにいまして?」
「俺はそこまでは……」
「いるにはいるよ? ただ、サーシャやノマージュが受け入れるかは別だけど」
「どういう事ですの?」
「この世界にはね、体は男だけど心は女である……って人たちも一定数いてね。そう言う人たちは細々と、明日食べるものも必死と言う感じで働いているんだ。梟の羽にもそう言う話は何度か舞い込んできたよ」
「まぁ……わたくしはそう言う問題は受け入れますけれど、他の人はどうかしら?」
「少なくとも、神殿契約を結べる相手ならいいんだろう? だったら、今からちょっと聞いてこようか? そう言う奴らは夜にしか働かないから」
「何故ですの?」
「人目が嫌だとこの時間に溝拾いしてんのさ」
「そう……なの」
「ってことで、護衛にライトを連れて行くからいいね?」
「分かりました、つていきます」


こうしてロキシーお姉ちゃんはライトさんを連れて外へと向かいましたわ。
前世の世界では『オネェ』だの『ジェンダー』だので受け入れられつつあった方々ですけれど、こちらの世界ではとても受け入れてもらえないのでしょうね……。
ふむ……でしたら、女性として接し、彼女たちに神殿契約を結んで頂けたらスキルボードをみてから箱庭専門で働いてもらえるかどうか確認しましょう。
そもそも今は箱庭の手入れも儘ならぬ状態。
少しでも箱庭員が多くても問題ありませんわ。


「リディア、本当にいいのか?」
「何がですの?」
「相手は、心は女だといっても、男だぞ?」
「ならば女性として接するのが礼儀でしてよ?」
「女性として?」
「ええ。女に生まれたかったのに男に生まれてしまった不幸と言うのはありますわ。また、その反対も然りですわ」
「……不幸」
「助ける受け皿があってもいいではありませんの。それがわたくし達だったと言うだけの話ですわ」


そう言って微笑むと、カイルは溜息を吐いたのち「そう言うリディアだからこそ好きなんだよなぁ……」と呟いて頬にキスをされましたわ!


「分かった……受け入れよう。俺だって魔付きだったんだ。似たような物だろう?」
「カイルっ」
「そうなると、この居住エリアも狭くなってきたな……。二階建て、三階建てが欲しくなる」
「魔法を使えば作れなくはないですわ。作りましょうか」
「俺も魔法が使えればなぁ……」
「まぁ、ロキシーお姉ちゃんが連れてくる方々を見て決めましょう?」
「そうだな」


そう言うとわたくし達は今のうちに拡声器タイプにブレスレットを設定して、箱庭全部に拡がるように連絡を入れましたわ。


『業務連絡、業務連絡です。確定ではありませんが、箱庭に人が増える可能性がありますわ。その方々は、身体は男性でも心は女性と言う方々ですの。是非、女性として接して差別なく過ごして頂けると幸いですわ』


そう言って拡声器を切ってから二分もせず、サーシャさんとノマージュさんが駆け寄ってきましたわ。
どうしたのかしら?


「リディアさん! 私は賛成です!!」
「同じくそれは賛成です!!」
「まぁ! 賛成してくださるのね!!」
「「素晴らしい男女兼用のモデルとして一人こちらに下さい!!」
「オーケー、落ち着きましょう」
「ではでは! せめて彼女たちに素敵なワンピースを作っても宜しいでしょうか!」
「え、はい、どうぞお作りになって」
「萌えるわ」
「もうこれは萌えでしかないわ。カイルさんとライトくんに女装は無理でしたから」
「「………」」


もしかしたら……今度来る方々は、犠牲者となる可能性が高くなったことを、後で深くお詫びせねばならないかも知れないと思ったそんな頃――。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...