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21 箱庭師と盾は、新たな従業員を三人ゲットした!

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翌朝、カイトと二人で王都にある絵を専門に扱う工房を何件か回る事にしましたの。
とは言っても、絵と言う技術職の方が、爪と言うキャンバスに絵を描けるものかしら?
いいえ、前世では小学生だろうが中学生であろうが、女子ならばある一定数はやっていた事だもの、出来る筈ですわ!
とは言ったものの……有名な絵画を扱う工房は皆さん忙しそうで話しかけるのも気が引けますわね。
そんな事を思いつつ、5つ目の工房にいくと、そこはとても小さな工房で働いている人も3人くらいしか見当たりませんわ。
言っては何ですけど……傾きかけてる工房って感じかしら。


「すみません、少しお話をお聞きしたいんですが」
「はい! お仕事の依頼ですか!?」


駆けてきたのはわたくしとあまり年の変わらない女性でしたわ。
よくよく見ると、働いている三人は皆さんお若い女性の様子……親方みたいな方はいらっしゃらないのかしら?


「実は、爪に色を塗る、もしくは、爪に絵を描くことができる方を探しているんですが」
「爪に色を塗る……ですか?」
「この様な感じですわ」


そう言ってわたくしが手を出すと、爪に輝くパールピンクのマニキュアに奥の女性陣も集まって見入ってますわ。


「今度、店の二階に爪専門のマニキュアを塗る場所を作るんだが、その職人が見つからなくてな。君たちは出来るだろうか?」
「爪をキャンバスに置きかけて……ですか?」
「詳しい話をさせて頂いても?」
「奥へどうぞ」


こうして店の奥へと入ると、やはり傾きかけの工房のように感じられますわ。
お話を伺ってみると、やはり先代の親方が亡くなり、娘さんである今の親方――ファルンさんが切り盛りをしていたものの、男性の絵師さんたちは皆別の工房へ移ってしまい、残ったのは女性の絵師一人と、最近別の工房から女性差別で追い出されて行く当てのなかった絵師さんだとか。


「もう店を畳むしかないのか悩んでいて……もし可能でしたら、私達三人、そちらのお店で働かせて頂けたらと」
「絵を描くのは好きなんです。色を塗るのだって」
「色々な文様や絵を描いてきましたが、女性の絵では買い手がないと追い出されました」
「なんて酷い……カイル、是非雇いましょう」
「リディアが良いなら別にいいが。だが三人には研修を受けて貰わなくちゃならない。まずは俺の店に来てもらってもいいか?」
「「「はい!」」」


こうしてファルンさん、エリンさん、ミレさんの三人を連れて道具店サルビアに到着すると、「朝から開けるんですか?」と何人かに聞かれたものの、「オープンは昼からです」とお断りを入れて三人を中に招き入れました。
そして、まだ改装していない二階のリビングルームにて、わたくしが鞄からマニキュアセットを出すと、三人は身を乗り出して見入ってましたわ。


「ここからは、わたくしがお話ししますわ。こちらの瓶に入っているのがマニキュアと呼ばれる、爪の補強薬と言えば良いかしら? わたくしが使っているモノを今日は持参いたしましたけれど、色に関しては本当に多種多様様々、注文があれば作ることは簡単ですわ。それで、誰か一人付けてみたい方はいらっしゃらないかしら?」
「私にお願いします」


最初に声を上げたのはファルンさん。
彼女の手をとり、まずは少し磨いてからベースコートを塗り、扇を使い軽く乾燥させる。速乾させるものがロストテクノロジーに無かったのが悔やまれますわ。
続いてパールホワイトを塗り、色を固定させるために扇で仰ぎながら整え、乾いてから最後のトップコートを塗り仕上げて乾燥させると、三人から声が上がりましたわ。


「凄い、とても爪が補強された気がします。それにとても綺麗……」
「指先がオシャレになるだけで気分が上がるなんて凄いわ!」
「10本ある訳だから、一人につき10個のキャンバスがあるってことね!」


三人は大興奮で、爪の触り心地や光沢を楽しみ、更に昨夜のうちに簡単に作った【ネイルチップ】にはちょっとした絵を描いておきましたの。


「爪に直に書けない場合は、おしゃれ道具としてこの様な物もありますわ。これは付け爪……ネイルチップと呼んでますわ。元は何の色も絵もかいてないモノなんですけれど、これは補強用と言うより、見た目を楽しみたい方向けですわ。一日しか持たないから、その日気合を入れてデートに勤しみたい方向けですわね」
「この様なものまであるんですね……」
「皆さんが工房でこのまま過ごすのもアリではありますけれど、出来れば三人には、このネイル専門職人になって頂いて、この二階を近々改装しますから、そこで働いて貰えたら助かりますわ。給料はどれくらいあれば宜しいかしら?」
「私たちの今までの給料は月銀貨5枚です。それ位頂けたら……」
「分かりました。では月銀貨30枚、固定給でお出ししますわ」


わたくしがそう言うと、三人は驚きのあまり固まってしまいましたが、カイルが即座にフォローに入ってくださいましたわ。


「君たちが行う事は専門職だ。専門職ならば月30貰うのは当たり前だろう?」
「そ……そうなんでしょうか?」
「そうなんですわ! ただし、明日はこちらの改装がありますから、来て頂くのは明後日から研修を始めて宜しいかしら? ネイルの外し方やネイルチップの外し方もこちらで道具を揃えて教えますから安心してくださいませ。また、店に出るようになったら少しだけオシャレすると宜しいですわ。爪先からオシャレと言うことで、服や髪型も少しオシャレにするとお客様も安心ですもの。それで、明日三人には投資と言う事でお金をお渡ししますから、見た目を整えてきてくださる?」


そう言うと三人に金貨1枚ずつ手渡し、彼女たちは涙を拭いながら「有難うございます」と口にしていらっしゃいました。
分かりますわ……。
年頃の娘がオシャレもせず、今後どう生活していけばいいのか悩んでいたんでしょう。
これで三人がこちらで末永く生活してくだされば嬉しいんですけれど……。


「一つだけ空いている部屋がある。そこを三人の休憩室にするのはどうだ?」
「そうですわね、女性に気を配れるのは素敵な事ですわカイル」
「そ、そうか?」
「二階は女性が安心してリラックスできるようにいたしましょう。香りも用意しなくてはなりませんわね!」
「という訳で、女性が居心地良いと思える場所にする予定だ。三人とも、明後日から研修を頼む」
「「「はい!」」」


こうして、三人は道具店サルビアの新しい従業員になりましたの。
さて、急ぎ改装しなくてはなりませんわ!


「カイル、時間との勝負でしてよ!」
「分かっている、無理せず頑張ろうな!」
「ええ!」


――これが後に、【ネイルサロン・サルビア】と呼ばれるようになり、別店舗が増えるようになるのはまだ先の事。
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