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10 盾は弟を箱庭師に紹介し、一人浮かれる。
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――カイルside――
村長の部屋へ通された俺たちは、一体何が始まるのかと首を傾げて顔を見合わせた。
村長は書類棚を漁り「あったあった」と言いながら、一通の手紙を俺に手渡した。
そこには、懐かしい母の字で俺とライトへ宛てた手紙であることが分かる。
「まずは読んでみるといい」
「それでは失礼致します」
「私も読ませて頂いても?」
「母さんからの手紙だ、ライトも読むべきだろう」
こうして手紙を読み進めていくと、驚くべきことが書かれていたのだ。
これが事実であれば、俺達の両親と言うのは――。
「お前さん達の両親が村に来た時、もうカイルは腹に宿っていたな」
「そう……なのですね」
「お前さん達も不思議に思っておっただろう。言葉遣いが丁寧であると」
「ではやはり」
「私たちは――貴族の血が流れているという事ですか?」
そう、母であるマナリアは伯爵令嬢だったようで、父はその護衛騎士だったようだ。
本来ならば共に生きることなどできない二人だったが、母は伯爵家を護衛騎士だった父と飛び出し、この村まで流れ着いた……。
そこで俺とライトが産まれ、両親は流行り病で死んでしまったが、最後まで愛情をかけて育ててくれた。
母がどこの伯爵家だったのかまでは分からないが、隣の王国より逃げてきたと書いてある為、今住んでいる王都での生活には支障はなさそうだ。
しかし――自分たちに貴族の血が流れているとしても、それが何になる。
俺はリディアとライトを守れれば、それでいい。
「お前さん達が村から出るというのなら、隣国へ行ってみるのもと思って手紙を出したが……その様子だと、行く気はないようだな」
「ええ、俺達には帰りを待っている人が居ますので」
「そうかそうか……ついにカイルも、妻となる女性を見つけたか」
「いえ、妻ではありませんが」
「恥ずかしがることは無い。お前たちの両親のように、心の底から愛し合う夫婦になっていけばよいのだから」
うん! 村長の中で話が完結しているようだ。
これ以上何かを言っても無駄だろう。
こうして、俺とライトは村長の家を後にし、もう物が殆ど置いていない家に戻ると、少しだけ仮眠し、昼過ぎに互いに目が覚めると、俺はリディアから受け取っていたライト専用の3回だけの使い切りブレスレットの説明をした。
ライトは強く頷くとブレスレットを装着し、俺の手を強く握りしめ、俺が家のドアに手を当てると、そこから波打つように扉が開き、ライトを連れて箱庭へと向かう。
ライトは無事箱庭へと入る事ができた安堵の息を吐いていたが、次にはヒュッと息を吸い込むように驚いている様子が伺える。
時間は昼過ぎ、この時間は居住スペースの作業場で作業をしているとリディアに聞いていたので、案内する前にライトを連れて居住スペースへと連れて行くと、そこでもライトは驚きのあまり身体が止まってしまったようだ。
「こ……これが箱庭師の……」
「ハハハ! 驚くにはまだ早いぞ」
「ええええ……」
「リディア――!! 弟を連れてきたぞ!」
「は――い!」
一日半ぶりに聞く美しい音色の声。
長い髪を一つのお団子状態にして作業用エプロン姿で現れたリディアに、ライトは背筋を伸ばした。
「お帰りなさい二人とも!」
「ただいま戻った」
「初めましてリディアさん! 私はカイルの弟、ライトです。コレからお世話になります!」
「ええ! ふふふっ カイルにソックリね。私はリディア、貴方を歓迎しますわ!」
そう言ってライトの頭を撫でるリディアに、ライトは顔から火でも出そうなほどに真っ赤になっている。
むう……ライバルが弟になったらどうするべきか。
イヤイヤ、こんな事は雇用主に考えるべきことではないな。反省せねば。
「丁度ライトくんが使う家具や寝具が一揃え出来た所ですの。カイル、後で運んでくださる?」
「分かった」
「その間にライトくんを箱庭の色んな所へ案内しますわ!」
「はい! 宜しくお願い致します!」
「それにしても可愛いですわ! ライトくん、わたくしの事を、リディアお姉さんって呼んでくれる?」
「え!」
「わたくし、一人っ子だったから兄弟が欲しかったの!」
照れながら伝えるリディア、可愛すぎないか?
いやいや、とにかく彼女が用意したライトの家具を持って行かねば。
だがその時……。
「えっと……リディア……お姉ちゃん」
「やだ、キュンってきちゃう! 可愛いらしいわ!! カイル、貴方の弟素晴らしいですわね!!」
「俺は?」
「え?」
「俺はどうなんだ?」
「カイルも素晴らしく素敵な男性ですわ!! 今まで出会った男性で一番でしてよ!」
「そうか!!」
――今まで出会った男性で一番でしてよ!
という破壊力抜群の言葉に俺は気を良くして、ライトの為に作ってくれた家具をアイテムボックスに入れると鼻歌を歌いながら店へと向かった。
こんなに嬉しい事はきっとないかもしれない!
いや、もっと嬉しい事がきっとあるかも知れない!
そんな事を思いながら、自分の部屋の隣にライトの家具を設置しながらも、ニヤつく顔を抑えることができなかった。
村長の部屋へ通された俺たちは、一体何が始まるのかと首を傾げて顔を見合わせた。
村長は書類棚を漁り「あったあった」と言いながら、一通の手紙を俺に手渡した。
そこには、懐かしい母の字で俺とライトへ宛てた手紙であることが分かる。
「まずは読んでみるといい」
「それでは失礼致します」
「私も読ませて頂いても?」
「母さんからの手紙だ、ライトも読むべきだろう」
こうして手紙を読み進めていくと、驚くべきことが書かれていたのだ。
これが事実であれば、俺達の両親と言うのは――。
「お前さん達の両親が村に来た時、もうカイルは腹に宿っていたな」
「そう……なのですね」
「お前さん達も不思議に思っておっただろう。言葉遣いが丁寧であると」
「ではやはり」
「私たちは――貴族の血が流れているという事ですか?」
そう、母であるマナリアは伯爵令嬢だったようで、父はその護衛騎士だったようだ。
本来ならば共に生きることなどできない二人だったが、母は伯爵家を護衛騎士だった父と飛び出し、この村まで流れ着いた……。
そこで俺とライトが産まれ、両親は流行り病で死んでしまったが、最後まで愛情をかけて育ててくれた。
母がどこの伯爵家だったのかまでは分からないが、隣の王国より逃げてきたと書いてある為、今住んでいる王都での生活には支障はなさそうだ。
しかし――自分たちに貴族の血が流れているとしても、それが何になる。
俺はリディアとライトを守れれば、それでいい。
「お前さん達が村から出るというのなら、隣国へ行ってみるのもと思って手紙を出したが……その様子だと、行く気はないようだな」
「ええ、俺達には帰りを待っている人が居ますので」
「そうかそうか……ついにカイルも、妻となる女性を見つけたか」
「いえ、妻ではありませんが」
「恥ずかしがることは無い。お前たちの両親のように、心の底から愛し合う夫婦になっていけばよいのだから」
うん! 村長の中で話が完結しているようだ。
これ以上何かを言っても無駄だろう。
こうして、俺とライトは村長の家を後にし、もう物が殆ど置いていない家に戻ると、少しだけ仮眠し、昼過ぎに互いに目が覚めると、俺はリディアから受け取っていたライト専用の3回だけの使い切りブレスレットの説明をした。
ライトは強く頷くとブレスレットを装着し、俺の手を強く握りしめ、俺が家のドアに手を当てると、そこから波打つように扉が開き、ライトを連れて箱庭へと向かう。
ライトは無事箱庭へと入る事ができた安堵の息を吐いていたが、次にはヒュッと息を吸い込むように驚いている様子が伺える。
時間は昼過ぎ、この時間は居住スペースの作業場で作業をしているとリディアに聞いていたので、案内する前にライトを連れて居住スペースへと連れて行くと、そこでもライトは驚きのあまり身体が止まってしまったようだ。
「こ……これが箱庭師の……」
「ハハハ! 驚くにはまだ早いぞ」
「ええええ……」
「リディア――!! 弟を連れてきたぞ!」
「は――い!」
一日半ぶりに聞く美しい音色の声。
長い髪を一つのお団子状態にして作業用エプロン姿で現れたリディアに、ライトは背筋を伸ばした。
「お帰りなさい二人とも!」
「ただいま戻った」
「初めましてリディアさん! 私はカイルの弟、ライトです。コレからお世話になります!」
「ええ! ふふふっ カイルにソックリね。私はリディア、貴方を歓迎しますわ!」
そう言ってライトの頭を撫でるリディアに、ライトは顔から火でも出そうなほどに真っ赤になっている。
むう……ライバルが弟になったらどうするべきか。
イヤイヤ、こんな事は雇用主に考えるべきことではないな。反省せねば。
「丁度ライトくんが使う家具や寝具が一揃え出来た所ですの。カイル、後で運んでくださる?」
「分かった」
「その間にライトくんを箱庭の色んな所へ案内しますわ!」
「はい! 宜しくお願い致します!」
「それにしても可愛いですわ! ライトくん、わたくしの事を、リディアお姉さんって呼んでくれる?」
「え!」
「わたくし、一人っ子だったから兄弟が欲しかったの!」
照れながら伝えるリディア、可愛すぎないか?
いやいや、とにかく彼女が用意したライトの家具を持って行かねば。
だがその時……。
「えっと……リディア……お姉ちゃん」
「やだ、キュンってきちゃう! 可愛いらしいわ!! カイル、貴方の弟素晴らしいですわね!!」
「俺は?」
「え?」
「俺はどうなんだ?」
「カイルも素晴らしく素敵な男性ですわ!! 今まで出会った男性で一番でしてよ!」
「そうか!!」
――今まで出会った男性で一番でしてよ!
という破壊力抜群の言葉に俺は気を良くして、ライトの為に作ってくれた家具をアイテムボックスに入れると鼻歌を歌いながら店へと向かった。
こんなに嬉しい事はきっとないかもしれない!
いや、もっと嬉しい事がきっとあるかも知れない!
そんな事を思いながら、自分の部屋の隣にライトの家具を設置しながらも、ニヤつく顔を抑えることができなかった。
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