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08 盾は今日の出来事を振り返る。

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――カイルside――


奴隷商に魔付きの身体を売りに行こうとしていたその時出会った美しい少女。
彼女に言われるがまま向かった先は、王都では禁忌とさえ言われている箱庭だった。

――箱庭師は国を滅ぼした裏切りのスキル。

平民でも知っているこの箱庭と言うのを実際に見るのは初めてだった。
だが、国を滅ぼしたスキルと言うからには恐ろしいスキルなのかと思っていたら違う。
目の前に広がる薬草園は程よく手入れされていて、冒険者御用達の薬草からレアな薬草まで幅広く育てられていた。

彼女――リディアの箱庭は、まるでダンジョンのようだった。
軽く一回りした際に気づいたが、採掘所には鍛冶師や彫金師が喉から手が出るほど欲しがるアイテムが無造作に山積みにされていて、伐採エリアは最早森と言って過言ではない。
茂みを見れば食べられるブルーベリー等もあり、モンスターの出ない森の宝箱のような場所だった。

中央の畑には青々とした野菜と、レベルの高い冒険者が偶に手に入れるという『宝石のなる木』と呼ばれるレアな木が30本も植えられていて腰を抜かしそうになったのは内緒にしたい。
宝石のなる木は一本売るだけで2年は冒険者ならば働かなくても食べて行けるだけの値段がするのだ。
そして、その畑の隅に無造作に置かれた籠の中には、山盛りの宝石がいくつも置かれていた。

池にも秘密があるようで、定期的に魚が取れるらしい。更に湧き水にもなっているこの池からは、外の様子も見られるのだとか。
声は聞こえないにしろ、覗き見ができるという事で外の世界にあまり出たがらないリディアの娯楽場所らしい。
そして海からは無論魚は取れる。
箱庭に海があることに驚くが、そんな箱庭に雇いたいと言われた時は、直ぐに頷いた。

あらゆるモノに驚いたからではない。
絶対にこの力を悪用されないよう、盾にならねばと思ったからだ。
囲い込もうとする輩は、山ほどいるだろう。
だが、それは彼女の望む生活ではないと判断した。

何より、彼女がロストテクノロジー持ちと言う事が世間にバレれば、彼女は直ぐに連れていかれるだろう。
これだけは、絶対にバレてはならない。
彼女の両親が、よくロストテクノロジー持ちであるリディアを追い出したなと呆れる程だったが、リディアは箱庭師と言うスキルから家族との縁が薄かったというし、レアスキルであるロストテクノロジーの事を話すことはしなかったのだろう。

何より、彼女がもう一人雇いたいというのなら、口が堅く信用できる者の方が良い。
それならばと――弟のライトの事を話すと、即了承して貰えた。
弟のライトは気立てが良く口も堅い。何より俺と同じで義理堅い人間だ。
恩ある相手を裏切る真似など絶対にしないだろう。

この王国に来て、たった一日で冒険者ギルドとの定期契約を俺の名で結び、更にリディアへの護衛依頼を毎月更新で受けることになり、更に商業ギルドで俺の名義で家を借りることなど、まるで夢の中にいるような気分だった。

自分が何故、魔付きになったのかを話さずにいるというのに、リディアはそんなことは関係ないとばかりに俺の事を大事に思ってくれる。
まるで聖女のような美しい心を持つ彼女の為にも、そして彼女が愛する箱庭の為にも、俺は出来るだけの事をすべきだろう。


(リディア……)


自分とは違う、美しい黄金の髪に優しい明りのような瞳。
あの美しすぎる彼女が一人で今まで生活できたのは、偏に引き籠りだったこともあるだろうが、街に出ても直ぐに箱庭にいっていたからだろう。
そうでなければ、今頃どうなっているか分からない。
だからこそ、自分が三日ほど彼女の傍を離れる際には、箱庭から出ない様に伝えた。
目を離したすきに奪われでもしたら堪ったものではない。
いや、違う。
彼女を守る為だろう?

自分の中で言葉にしてはいけない感情が渦巻き、深く深呼吸をする。
リディアを守らねば。
彼女の愛する場所を守らねば。
それは、弟のライトにも強く伝えなくてはならない。
兄の恩人を無下には絶対にしない子だ。
村に帰るのも一年ぶりだが、両親が亡くなってから五年……。
弟には苦労ばかり掛けてきた。

出来る事ならば――これからはリディアと三人で生活し、弟とリディア二人を守れるようになりたい。
そう願わずには居れなかった……。
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