異世界転移で巣ごもりごはん

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あちらの事情2

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一口食べて(あっっま……!)と思ったんだけど、なるべく、なるべく顔に出ないようにした。いや、出たかもしれない。神(推定)が付与したとかいうあれそれの中に、俺の表情筋の強化が含まれてるかによる。

そっと長髪の男の顔色を窺ってみたが、特に彼の表情は変わらなかった。バレてないか気にされてないか、どっちだ。

つややかな表面はどうやら蜜だ。小麦っぽい生地を噛み締めるとじゅわりと中から甘みが溢れて舌の上に広がっていく。その甘さが何というか、どろっとしてて濃くて強い。

揚げてあるのか焼いてあるのかいい感じの香ばしさが鼻をくすぐるし、甘いもんは決して嫌いな方じゃない。ないけど、限度ってある。舌が痺れるほどの甘さなんて体験したことねーぞ!

結局、ふるふる……とティーカップへと手を伸ばして紅茶で飲み下してしまった。
あれかな……砂糖の量で歓迎を表すタイプの場所……? もしかしたら違う意図かもしれないけども。単純に、味覚がめちゃくちゃ違う世界の可能性もあるけども。でもお茶はちゃんと俺でも美味しかった。

さてお茶で喉を潤した辺りで、長髪の男が話を始めた。
正直茶菓子の甘さでどんどん渇く気がしないでもないが、それはそれ。お茶が少なくなってきたら音もなく執事さん風の人がそばに来て、お代わりを注ぎに来てくれたりする。

長髪の男は、自分のことをセオドアと名乗った。

俺の案内役をしてくれるという、彼はこの城の文官らしい。
文官……っていうのも正直あんまり分かんねーけど、政治家とか事務官とか、そんな意味で良いんだろうか。ぞろぞろ人を引き連れた……ってか、あの集団甲冑の人たちがこの人に話を通したってことは、それなりに偉い人なのかもしれない。様付けで呼ばれてたし。

で、俺がアパートの一室ごとひょいっと出た……召還されたあの場所は、城の中に建設された神殿だった。

神殿って言っても特に神官が常駐してるとか決まった曜日に集会をしてるとか、そういうことじゃないみたいだった。
あの神殿の用途はひとつだけで……
世界に危機が迫った場合に、いろんな人や時間や宝玉とやらを投入して、異世界から救世主を召喚する儀式に使うものらしい。

ん、が。
しかして今は結構平和な部類なんだとか。もちろん内乱とか辺境とか諸外国とかそういうもろもろでの小競り合いは当たり前にあるらしいんだけど。(もちろん、とか、当たり前に、とか言われる度にちょっと俺はビビっていた。平和ボケしてる自覚はある)
しかし、世界の危機と呼ばれる事案には程遠いらしく。

大体にして召喚には大量の何かしらが必要になるはずなのに、その用意ひとつとしてした覚えがない、とセオドアは俺に説明した。
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