9 / 16
事の始まり3
しおりを挟む
アパートの通路には1mほどの柵があって、通常時、その柵の向こうは生活道路に面している。はずなのに。
外の世界は灰色だった。
もう少し正確に言うと、重厚な石の壁で覆われた、見たこともない施設の中に居た。
賢治の住む部屋の階下にも、もう1フロアあるはずだったが、それもない。
「…………何だこりゃ…………」
思わず口から洩れてしまった言葉は、圧迫感のある石壁へと吸われていった。
ドアノブに手をかけて体の半分だけ出ていたはずが、ずるりと脱力するような思いで玄関から出る。
(夢かそれとも幻覚か……? そこまでの深酒はしてないつもりだったけど……)
昨夜飲んだ安いハイボール缶を思い出す。
もはや週末の習慣になってしまっている寝酒が、昨日に限ってたちの悪いものに変わってたのだろうか。
ベタな手段としてほっぺを摘んで横に引いてみるが、肉付きの薄い頬はしっかりとしびれて痛かった。
「いて……」
やや赤くなった頬をさすさすと掌で撫でながら、まずは一歩を踏み出してみる。
しっかりとした地盤だ。底が抜ける事はなさそうに見えた。
ぐるりと見渡す壁も天井もごつごつとした岩で組み立てられていて、明り取りの窓も照明も見当たらないが周囲はほのかに明るかった。
部屋の中でまだカーテンを開けていなかった賢治が、朝だと勘違いしたのはこの明るさのせいだろう。
外に出てアパートを振り返ると、またひとつとんでもないことが分かる。
ないのだ。
二階も三階もない。隣室もない。
憲治の部屋は二階の角部屋だった。
おそるおそる部屋の側面に回ってみると、奇妙なほどにすっぱりと斬れた壁がある。
直接触るのはどうにも不気味で、あるはずの隣室との境……今となっては空中になってしまったそこで、ひらひらと手を振ってみた。何もなかった。
上階があったはずの頭上も見上げてみるが、この分だと似たようなものだろう。
憲治の住んでいた一室分だけを残して、きれいさっぱり消えてしまっているようだった。
(……さっぱり意味が分からん……)
大家に連絡する? 一度部屋に帰って寝直すか?
案外と、起きたら元通りになっているという可能性だってある。
が、まあ。何となく寝起きで、現実感が無く、夢見心地だったがために。
ふらふらと、その屋内を観察する方に興味が行ってしまった。
護身になるかは微妙なところだが無いよりマシと、玄関に立ててあったビニール傘を片手に持ってその場を歩く。
(……お)
四方に見える壁のひとつ……玄関からちょうど正面に当たる場所だ。
そこに、大きな切れ目が見える。
(扉、か……?)
取っ手も枠もあったものじゃないが、それが外界につながるように見えたのは、ただの勘だった。
見た目は岩に見えたのだが、ぺた、と触ってみると熱くもなく冷たくもない不思議な材質で出来ている。
軽くこぶしを握ってノックの要領で叩いてみると鈍い音が出たが、これが外に響いているかも分からない。
掌をあてて、ぐっと押してみる。
すると、切れ目が周囲の壁とずれて行き……蝶番もないように見える扉が、不可思議としか思えない原理でゆっくりと開いていった。
そして部屋の外で西洋甲冑の二人組と出会い、そのうちの一人を投げ、受け止め、気絶するに至り……
起きたら目の前に現れた長身の文官に連れられて、王との謁見をすることになる。
外の世界は灰色だった。
もう少し正確に言うと、重厚な石の壁で覆われた、見たこともない施設の中に居た。
賢治の住む部屋の階下にも、もう1フロアあるはずだったが、それもない。
「…………何だこりゃ…………」
思わず口から洩れてしまった言葉は、圧迫感のある石壁へと吸われていった。
ドアノブに手をかけて体の半分だけ出ていたはずが、ずるりと脱力するような思いで玄関から出る。
(夢かそれとも幻覚か……? そこまでの深酒はしてないつもりだったけど……)
昨夜飲んだ安いハイボール缶を思い出す。
もはや週末の習慣になってしまっている寝酒が、昨日に限ってたちの悪いものに変わってたのだろうか。
ベタな手段としてほっぺを摘んで横に引いてみるが、肉付きの薄い頬はしっかりとしびれて痛かった。
「いて……」
やや赤くなった頬をさすさすと掌で撫でながら、まずは一歩を踏み出してみる。
しっかりとした地盤だ。底が抜ける事はなさそうに見えた。
ぐるりと見渡す壁も天井もごつごつとした岩で組み立てられていて、明り取りの窓も照明も見当たらないが周囲はほのかに明るかった。
部屋の中でまだカーテンを開けていなかった賢治が、朝だと勘違いしたのはこの明るさのせいだろう。
外に出てアパートを振り返ると、またひとつとんでもないことが分かる。
ないのだ。
二階も三階もない。隣室もない。
憲治の部屋は二階の角部屋だった。
おそるおそる部屋の側面に回ってみると、奇妙なほどにすっぱりと斬れた壁がある。
直接触るのはどうにも不気味で、あるはずの隣室との境……今となっては空中になってしまったそこで、ひらひらと手を振ってみた。何もなかった。
上階があったはずの頭上も見上げてみるが、この分だと似たようなものだろう。
憲治の住んでいた一室分だけを残して、きれいさっぱり消えてしまっているようだった。
(……さっぱり意味が分からん……)
大家に連絡する? 一度部屋に帰って寝直すか?
案外と、起きたら元通りになっているという可能性だってある。
が、まあ。何となく寝起きで、現実感が無く、夢見心地だったがために。
ふらふらと、その屋内を観察する方に興味が行ってしまった。
護身になるかは微妙なところだが無いよりマシと、玄関に立ててあったビニール傘を片手に持ってその場を歩く。
(……お)
四方に見える壁のひとつ……玄関からちょうど正面に当たる場所だ。
そこに、大きな切れ目が見える。
(扉、か……?)
取っ手も枠もあったものじゃないが、それが外界につながるように見えたのは、ただの勘だった。
見た目は岩に見えたのだが、ぺた、と触ってみると熱くもなく冷たくもない不思議な材質で出来ている。
軽くこぶしを握ってノックの要領で叩いてみると鈍い音が出たが、これが外に響いているかも分からない。
掌をあてて、ぐっと押してみる。
すると、切れ目が周囲の壁とずれて行き……蝶番もないように見える扉が、不可思議としか思えない原理でゆっくりと開いていった。
そして部屋の外で西洋甲冑の二人組と出会い、そのうちの一人を投げ、受け止め、気絶するに至り……
起きたら目の前に現れた長身の文官に連れられて、王との謁見をすることになる。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

転移したのでその世界を楽しむ事にした
青い牡丹
BL
ある男が地球で死をとげる。
その男は神様にあい転移を勧められる。
その男は了承し異世界へ転移する事になる。
だが身体は5才児の身体になってしまった。

優しくしなさいと言われたのでそうしただけです。
だいふくじん
BL
1年間平凡に過ごしていたのに2年目からの学園生活がとても濃くなってしまった。
可もなく不可もなく、だが特技や才能がある訳じゃない。
だからこそ人には優しくいようと接してたら、ついでに流されやすくもなっていた。
これは俺が悪いのか...?
悪いようだからそろそろ刺されるかもしれない。
金持ちのお坊ちゃん達が集まる全寮制の男子校で平凡顔男子がモテ始めるお話。


せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。


傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!
京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優
初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。
そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。
さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。
しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる