異世界転移で巣ごもりごはん

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事の始まり3

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アパートの通路には1mほどの柵があって、通常時、その柵の向こうは生活道路に面している。はずなのに。

外の世界は灰色だった。
もう少し正確に言うと、重厚な石の壁で覆われた、見たこともない施設の中に居た。
賢治の住む部屋の階下にも、もう1フロアあるはずだったが、それもない。

「…………何だこりゃ…………」

思わず口から洩れてしまった言葉は、圧迫感のある石壁へと吸われていった。
ドアノブに手をかけて体の半分だけ出ていたはずが、ずるりと脱力するような思いで玄関から出る。

(夢かそれとも幻覚か……? そこまでの深酒はしてないつもりだったけど……)

昨夜飲んだ安いハイボール缶を思い出す。
もはや週末の習慣になってしまっている寝酒が、昨日に限ってたちの悪いものに変わってたのだろうか。
ベタな手段としてほっぺを摘んで横に引いてみるが、肉付きの薄い頬はしっかりとしびれて痛かった。

「いて……」

やや赤くなった頬をさすさすと掌で撫でながら、まずは一歩を踏み出してみる。
しっかりとした地盤だ。底が抜ける事はなさそうに見えた。

ぐるりと見渡す壁も天井もごつごつとした岩で組み立てられていて、明り取りの窓も照明も見当たらないが周囲はほのかに明るかった。
部屋の中でまだカーテンを開けていなかった賢治が、朝だと勘違いしたのはこの明るさのせいだろう。

外に出てアパートを振り返ると、またひとつとんでもないことが分かる。

ないのだ。
二階も三階もない。隣室もない。

憲治の部屋は二階の角部屋だった。
おそるおそる部屋の側面に回ってみると、奇妙なほどにすっぱりと斬れた壁がある。

直接触るのはどうにも不気味で、あるはずの隣室との境……今となっては空中になってしまったそこで、ひらひらと手を振ってみた。何もなかった。

上階があったはずの頭上も見上げてみるが、この分だと似たようなものだろう。
憲治の住んでいた一室分だけを残して、きれいさっぱり消えてしまっているようだった。

(……さっぱり意味が分からん……)

大家に連絡する? 一度部屋に帰って寝直すか?
案外と、起きたら元通りになっているという可能性だってある。

が、まあ。何となく寝起きで、現実感が無く、夢見心地だったがために。
ふらふらと、その屋内を観察する方に興味が行ってしまった。
護身になるかは微妙なところだが無いよりマシと、玄関に立ててあったビニール傘を片手に持ってその場を歩く。

(……お)

四方に見える壁のひとつ……玄関からちょうど正面に当たる場所だ。
そこに、大きな切れ目が見える。

(扉、か……?)

取っ手も枠もあったものじゃないが、それが外界につながるように見えたのは、ただの勘だった。
見た目は岩に見えたのだが、ぺた、と触ってみると熱くもなく冷たくもない不思議な材質で出来ている。
軽くこぶしを握ってノックの要領で叩いてみると鈍い音が出たが、これが外に響いているかも分からない。

掌をあてて、ぐっと押してみる。
すると、切れ目が周囲の壁とずれて行き……蝶番もないように見える扉が、不可思議としか思えない原理でゆっくりと開いていった。

そして部屋の外で西洋甲冑の二人組と出会い、そのうちの一人を投げ、受け止め、気絶するに至り……
起きたら目の前に現れた長身の文官に連れられて、王との謁見をすることになる。
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