床ずれ防止ベッド

ヤマシヤスヒロ

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床ずれ防止ベッド

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 「最近どう、おばあちゃん。床ずれ治りましたか」
 と管理人さんが、マンションの2階に住んでいる佐々木さんの奥さんに言った。
 「それがねー、なかなか治らないのよ」
 「毎日、訪問看護の看護師さんに来てもらって、床ずれのところに、薬をつけてもらってるんだけど」
と、佐々木さんの奥さんは、困った顔をして、管理人さんに言った。
「私、発明家の市山さんていう博士先生を知ってるので、ちょっと相談してみましょうか」
と管理人さんは、佐々木さんの奥さんに自慢げに言った。
「お願いします。いい方法があったら、教えてくださいね」
と佐々木さんの奥さんは、管理人さんに言いながら、階段を上がっていった。
「市山先生、私が管理人をしているマンションの奥さんのあばあさんが、床ずれがなかなか治らないそうで、たいへんそうなんです」
「なにかいい方法ないですか、先生」
と管理人さんは、サンエイ科学研究所の所長の市山博士に言った。
 管理人さんは、管理人の仕事が夕方終わり、帰りに駅前の喫茶店でコーヒーを飲んでから家に帰るのが習慣になっていた。
 その喫茶店には、夕方、いつも市山博士もコーヒーを飲みに来ているので、管理人さんは、市山博士と、ちょっとした知り合いになっていた。
「そうですか、床ずれ、たいへんですね」
「褥瘡というんですね」
と市山博士は、管理人さんに言った。
「じょくそ、ですか」
と管理人さんは、きょとんとした顔で市山博士に言った。
「じょくそ、ではなくって、じょくそう、です」
と市山博士は、管理人さんに言った。
 市山博士は、続けて、管理人さんに話し始めた。
「褥瘡は、体の動きが困難になり、寝たきりの状態になったときに、よくなるものなのです」
「寝たきりで、仙骨などのところに、ふとんから圧力を受けるようになると、その圧力を受けたやわらかい組織のところの血液の流れが悪くなって、発生すると言われているんです」
「だから、褥瘡をできなくしたり、悪化しないようにするためには、皮膚に圧力がかからないようにすればいいのです」
「これまで、寝たきりの人が褥瘡ができないようにするには、クッションなどを使って、定期的に、体の向きを変えるようにする方法があります」
「また、ベッドでも、一定の時間間隔で、自動的に体位を変換するベッドも出ています」
「病院では、だいたい、看護師さんが、定期的にクッションを入れる個所を変えて体位を変えるようにしているようです」
「在宅で介護するときは、家族の人がクッションを入れ替えるのは、大変だから、自動的に体位変換してくれるベッドを使うのがいいと思います」
「レンタルでありますよ」
と市山博士は、管理人さんに説明した。
「先生、どうもありがとうございます」
「明日、佐々木さんの奥さんに言ってあげようと思います」
と管理人さんは、言いながら、レジを済ませて、喫茶店を出て行った。
 次の日、マンションでは、管理人さんは、佐々木さんの奥さんに、昨日の市山博士との話をした。
佐々木さんは、喜んで、さっそく、体位変換付のベッドをレンタルすることにした。
 一方、市山博士が所長であるサンエイ科学研究所では、市山博士は、コーヒータイムに昨日の喫茶店での管理人さんとの床ずれの話を助手の大津君に話した。
「所長、床ずれができないようにするには、圧力がかからないようにすればいいんですね」
「それでは、体を浮かせるようにすればいいのではないでしょうか」
と大津君は、市山博士にまじめな顔をして言った。
市山博士は、
「そうだよ。じゃ、どうやって、体を浮かせようか」
と、市山博士は、やはりまじめな顔をして、大津君に言った。
「磁場を利用するのはどうでしょう」
と大津君は、市山博士に言った。
大津君は、さらに、続けて、
「シーツの裏側に磁石アレイを設けて、シーツの下方のベッドにも磁石アレイを設けるというのはどうでしょう」
と、市山博士に言った。
市山博士は、
「シーツの下方のベッドの磁石アレイとシーツの裏側の磁石アレイで生じる反発磁力で、シーツを空間に浮かせるってことだね」
と大津君に、ニコニコして言った。
「そうすることで、体に圧力がかからないようなり、床ずれが生じないという、床ずれが絶対に生じないベッドということになるね」
と、市山博士は、さらにニコニコして、大津君に言った。
「でも、体への磁場の影響は、どうする」
と市山博士は、まじめな顔に戻り、大津君に言った。 
「体がのる上部には磁場を遮蔽する上部シーツを設けて、体に磁場の影響を受けないようにするというのはどうでしょう」
と大津君は、市山博士に言った。
「それはいいね」
と市山博士は、また、ニコニコした顔で、大津君に言った。
「床ずれが絶対に生じない床ずれ防止ベッドのできあがりだね」
と市山博士は、大津君に言った。
「この発明は、すごいですね」
「これが売り出されれば、寝たきりの高齢者の床ずれはなくなりますね」
と大津君は、市山博士に感心した顔で言った。
 市山博士は、大津君に、言った。
「大津君、仕事だ」
「この床ずれ防止ベッドの特許明細書を書いてください」
「そして、特許出願するんだ」
「さっ、はじめよう」
と市山博士は、言い、
「はい、分かりました」
と大津君は、言い、自分の席に戻り、パソコンに向かって、書類の作成を始めた。
 こうして、サンエイ科学研究所のコーヒータイムは、終わりました。

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