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長寿遺伝子を活性化するウイルス

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「ねー、もっと、こっちにいらっしゃいよ」
「もっと、近くよ」 
「そうそう、そうよ」
 和子は、強引に、道夫を引き付けた。  
2060年、A国から入ってきたウイルスは、10cm程度の距離に近づくと感染するウイルスであった。
1月には、国内で2,3人の感染者数であり、2月にも、2,3人、3月も、2,3人と、感染者数は、あまり増えなかった。
感染症研究所が、そのウイルスを研究したところ、そのウイルスは、細胞内に入り、ウイルスが増殖するときに、人の細胞の長寿遺伝子を活性化するウイルスであることが分かった。また、増殖して細胞外に放出するときも、細胞は、いくらか傷をつけられるが、長寿遺伝子が活性化しているため、すぐに細胞は修復されることが分かった。
結果として、人がそのウイルスを取り込むと、寿命が長くなることが分かり、長寿大国を狙っているときの政府は、国民全員が、そのウイルスを取り込むことを奨励した。
そのため、政府は、感染奨励宣言を発令し、大いに外出することを、国民に要請した。
学校は、生徒一人一人が近づくことができるように、机をぎっしり詰めて並べ、多人数で授業を受けるようにし、会社も、机をぎっしり詰めて並べ、一人一人が近づくことを要請した。
「これじゃ、だめだな」
と、市山博士は、がっかりした顔をして、助手の大津君に言った。
続けて、市山博士は、言った。
「このウイルス、この距離だととどかないな」
「もっと接近しないと、だめだ」
 感染症研究所から、委託を受けて、サンエイ科学研究所の市山博士と助手の大津君は、その研究所で、実験をしていたのである。
実験の結果、やはり、人と人の距離が10cm以内にならないと、そのウイルスに感染しないことが分かった。
 次の日、サンエイ科学研究所の所長の市山博士と助手の大津君は、朝から、これまでの実験の結果を議論した。
「50センチじゃだめだね」
と市山博士は、大津君に言った。
「そうですね」
と、大津君は、市山博士に言った。
「じゃ、どうすればいいと思う?」
と、市山博士は、大津君に言った。
すると、大津君は、笑みを浮かべて、
「簡単なことですよ」
「人と人の距離50センチ以上はやめて、人と人の距離10センチ以内にすればいいんですよ」
「もっと、効果を出すには、キスをすることです」
と大津君は、市山博士に言った。
「そうだ、そのとおりだよ、大津君」
と、市山博士は、ニコニコして、大津君に言った。
「それじゃ、さっそく、政府の専門家会議の議長にメールしよう」
と、市山博士は、
「人と人との距離50センチ以上ではなく、人と人との距離10センチ以内にすること」
「もっと効果を出すには、キスをすること」
という内容で、送った。
 その次の日、政府の専門家会議は、間部首相に、人と人との距離10センチ以内、もっと効果を出すには、キスをすることということについて提言し、
さっそく、間部首相は、テレビ番組で、
「人と人との距離50センチ以上ではなく、人と人との距離10センチ以内にすること」
「もっと効果を出すには、キスをすること」
と放送したのである。
いわゆる、間部のキッス。
その間部のキッスのおかげで、5月には、国民全員が感染し、国民全員の長寿遺伝子が活性化され、この国は、長寿大国となった。
その年から、高齢者オリンピック、高齢者パラリンピックが開催されることになったのである。


 
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