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やる気が出るまち出ないまち

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「やあ、大津君、久しぶり」 
「久しぶり、山下君」 
と、大津君と山下君は、1年ぶりに、大学の構内で会った。1年前から日本で流行していた感染症が収まり、1年間自宅でリモートで授業をうけていたので、1年間2人は、まったく会っていなかったのである。
「どうしてた、山下君」
と大津君は、ニコニコした顔で山下君に言った。
「たいへんだったよ、大津君」
と山下君は、ちょっとまじめな顔で大津君に言った。
「ぼく、一人暮らしだろ、だから朝食、外で食べてるんだ」
「そして、朝食の後、家に帰って、リモートの授業を受けてたんだ」
「ぼくの家って、2つの駅に近くて、A電鉄の駅と、B電鉄の駅に近いんだ」
「それで、A電鉄の駅のまちの定食屋に行ったり、B電鉄の駅のまちの定食屋に行ったりしてたんだ」
「1年間そうやってて、気が付いたんだけど、A電鉄の駅のまちの定食屋で朝食を食べたときは、やる気が出て、家に帰ってリモート授業もすんなり頭に入るんだけど、B電鉄の駅のまちの定食屋で朝食を食べたときは、なんかあんまりやる気が出ないようなんだ」
「なんだろね、これって」
と山下君は、不思議そうな顔をして、大津君に言った。
「ぼくは、両親といっしょで、朝食は、家で食べてるので、あまり分からないけど」
と大津君は、やっぱり不思議そうな顔をして、山下君に言った。
「山下君は、大学に来るときは、どっちの駅、使ってるの」
と大津君は、山下君に聞いた。
「A電鉄の駅を使ってるんだ」
と山下君は、大津君に言いながら、2人は、研究室に向かった。
 次の日、大津君は、助手として働いているサンエイ科学研究所で、コーヒータイムに所長の市山博士に、昨日の親友の山下君との大学での話をした。
「所長、昨日、友達と大学で1年ぶりに会って、いろいろ話しをして、リモートで授業を受けてたときに気が付いたそうなんですが、朝食を食べるまちによって、やる気が出るまちとやる気が出ないまちがあるということなんです。A電鉄の駅のまちの定食屋で食べた後は、リモート授業のやる気が出るそうなんですが、B電鉄の駅のまちの定食屋で食べた後は、やる気が出ないと言うんですね」
「不思議ですよね」
と大津君は、市山博士にコーヒーカップを手にして言った。
市山博士は、
「その友達は、大学に行くときは、どっちの駅を使ってるのですか」
と大津君に聞いた。
「A電鉄の駅の方を使ってるって言ってました」
と、やはり、コーヒーカップを手にして、大津君に言った。
「大津君」
と市山博士は、突然真面目な顔になり、言った。
「前にも言ったかもしれないけど、実は、ぼくは、脳についても興味があり、少しずつ研究しているんです」
「大津君、脳には、神経細胞、すなわち、ニューロンがぎっしりつまっているということは知っているって言ってたよね」
と市山博士は、大津君に得意げに言った。
「はい、所長」
と大津君は、市山博士に、興味深そうに言った。
市山博士は、
「ここからは、ぼくの考えだが」
と言った。
市山博士は、続けて大津君に話した。
「前にも話したかもしれないけど、ニューロンには、振動状態があって、その振動状態は、基底状態と励起状態の2つの状態があると考えられるんだ」
「さらに、励起状態には、第一励起状態と第二励起状態があると考えるとする」
「人が生きている状態だと36℃程度の体温があるので、ニューロンの振動状態は、第一励起状態にあると考えるんだ」
「もし、人が、目にしたものがこれまでやる気が出てたような光景、例えば大学に行くためのA電鉄の駅のまちを目にしたとき、大学で研究しているときの記憶の部分のニューロンが活性化され、第一励起状態から第二励起状態になると考えるんだ」
「そのニューロンが第二励起状態から第一励起状態に遷移するときに、第二励起状態と第一励起状態のエネルギー差のエネルギーを持つ量子が放射されると考えるんだ」
「ぼくは、その量子を励起脳波量子、エキサイトブレイノンと名付けたんだ」
「そのエキサイトブレイノンが、脳の記憶された部分から放射され、脳の前頭葉のやる気を出す部分のニューロンが共鳴吸収して、やる気が出るんだと思う」
「ところがB電鉄の駅のまちの場合は、友達は、大学に行くときは使ってなくて、休みのときだけ行っていた駅のまちなので、エキサイトブレイノンが放射されずやる気が出ないと考えるんだ」
と市山博士は、説明した。
「大学に行くとき使っていた駅のまちの記憶が、友達の脳で活性化されて、エキサイトブレイノンというのが放射されたのですね」
と大津君は、市山博士に驚いた顔で言った。
市山博士は、続けて、大津君に言った。
「それで、ぼくは、考えたんだ」
「ニューロンの振動状態の第一励起状態と第二励起状態との間のエネルギー差に等しい光を放射する発光デバイスを作り、その発光デバイスからの光が前頭葉の部分にあたるようにヘルメットに設置し、その光を前頭葉の部分に照射し、前頭葉のやる気がでるためのニューロンを活性化しやる気が出るようなヘルメットができると考えられるんだ」
と市山博士は、大津君に言った。
「それは、すごいですね」
「人のやる気を出させることができるのですね」
 大津君は、市山博士に感心した顔で言った。
 市山博士は、大津君に、言った。
「大津君、仕事だ」
「この発光デバイスを用いたやる気が出るヘルメットの特許明細書を書いてください」
「そして、特許出願するんだ」
「さっ、はじめよう」
と市山博士は、言い、
「はい、分かりました」
と大津君は、言い、自分の席に戻り、パソコンに向かって、書類の作成を始めた。
 こうして、サンエイ科学研究所のコーヒータイムは、終わりました。

 

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