泰二の青春物語

ヤマシヤスヒロ

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泰二の青春物語

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泰二の青春物語

 「結婚したいと思っている」 
泰二は、真剣な顔で言った。
 ちょっと間があり、 
「考えとくわ」
 と、その女性は、泰二に向かって言った。
 泰二が、大学を卒業して、大手コンピュータメーカーである大日本富士株式会社に入社して、初任給をもらってすぐの土曜日のことである。 
泰二は、初任給をもらい、はじめてその女性をデートにさそって、新宿駅東口の近くのパブセントラルに行った。
 その女性とは、大西昌代。
泰二が通っていた私立新宿東高校の、男子生徒から一番人気のマドンナである。
高校のテニス部のナンバーワンのプレーヤーであり、都大会ではいつも上位までかちぬいていた。
 高校の時には、何人もの男子生徒からデートを誘われていたが、
「わたし、部活があるの」
と言って、断っていた。
泰二もテニス部だったけど、高校の時は、デートに誘ったことはなかった。
しかし、テニス部の練習が終わると、いつもOBやOGといっしょに部員は、喫茶店に行くので、その中に大西昌代もいて、泰二は、それだけで、満足だった。
 泰二は、テニス部の活動以外に、勉強にも真剣にとりくんだ。
特に、数学と物理と化学。
将来、科学者になろうと決めていた。
それで、休み時間にも数学の問題を解いていた。
高校3年になったら、テニス部に出るのもやめ、受験勉強を始めた。
午後3時に授業が終わると、すぐに家に帰り、午後4時から7時までの3時間、数学の問題集、特に、大学への数学の解法の探究という問題集を解いた。
午後7時から8時に夕食を食べ、夜の8時から9時は、物理の問題集、9時から10時は、化学の問題集、10時から11時は英語の問題集、11時から30分は風呂などに入り、11時30分から12時30分まで、文化放送でやっていた大学受験ラジオ講座を聴いて、それから寝るという生活を1年間続けた。
 泰二は、早稲田大学理工学部物理学科に現役で合格した。
科学者になる第一歩である。
 高校の卒業式の後、テニス部で集まった。
OB,OGも来ていて、いっしょに新宿駅東口の近く紀伊国屋という本屋さんの地下のカトレアという喫茶店に行った。
大西昌代もいっしょだった。
女子は、OBの近くに座り、男子は、男子でかたまって座った。
 泰二は、大西昌代が、どこの大学に決まったのか知らなかったので、OBの近くに座っている昌代のところに、おそるおそる近づき、
「どこの大学に行くの」
と聞いた。
すると、昌代は、
「都内の薬科大学よ」
と言い、大学の名前は、教えてくれなかった。
泰二は、
「よかったね。決まって」
「ぼくは、早稲田に決まったよ」
と言いながら、マドンナと少し話しができ、ラッキーと思いながら、男子が集まって座っている席に戻った。
 2時間ほどカトレアでコーヒーや、バナナパフェなどをそれぞれ食べながら、ワイワイ話しをして、解散となった。
 OBとOGは、その後、厚生年金会館の向かいのヘッドパワーというパブに行ったようだ。
 大学に通い始めた泰二は、授業に出たりしたが、麻雀仲間もでき、近くの雀荘で麻雀をする日も多かった。
 実は、泰二は、男同士で遊ぶ方が気が楽であった。
 しかし、ときどき、マドンナの顔を見たくなり、同じ代のテニス部のOB,OGの集まりを開いたりした。
そのときも、大西昌代がいるだけで満足であった。
 話しをしなくても、いるだけで良かったのである。
 泰二は、大西昌代と、二人でデートしようなどとは、恐れ多くて誘うことができなかった。
心のマドンナでありさえすれば良かったのである。
ちょっと話しができれば、それで満足であった。
 でも、心の中では、大西昌代の存在は、ふくれあがっていった。
 泰二が、大学4年になり、卒業研究は、原子核理論の研究室に入った。
その研究室では、大型計算機で、原子質量公式についての研究をすることになった。
大型計算機で計算結果をプリントアウトする用紙には、タイトルが書かれるようにするのだが、泰二は、Massformula(質量公式)とするところを、Masayoとプリントアウトするように、プログラムしていた。
そのプリントアウトした用紙を見るだけでもMasayoから昌代を連想できるので満足であった。
毎日、プリントアウトされる用紙にMasayoと書いてあり、卒論にも精が出た。
 泰二は、大学院に行きたがったが、推薦入試で落ち、大学院に行くのをあきらめ、急遽、大型計算機を卒論で使ってた関係で、コンピューターメーカーに就職することにした。
泰二は、大手コンピューターメーカーの大日本富士株式会社に決まった。
そして、卒論発表は無事終わり、卒業した。
 大手コンピューターメーカー大日本富士株式会社に入って、川崎工場で、工場実習をしたあと4月25日に初任給が出た。
 この初任給で、今まであこがれだった、マドンナ、大西昌代を誘って、ごちそうしようと思い、初めて、電話して誘った。
 なぜ、今まで誘わなかったのか。
それは、泰二が、会話に自信がなかったのである。
女性と二人きりになったとき、何を話せばいいのか、分からなかったのである。
 それで、大学4年間で妄想がふくらみ、はじめてのデートで、いきなり、
「結婚したいと思っている」
と言ってしまったのである。
 大西昌代のテニス部でのことはわかるが、
二人で会ったこともなく、どういう性格で、どういうものが好きで、どういう趣味か全く知らなかったのである。
大西昌代に、
「考えとくわ」
と言われて、
 そのまま、返事をくれるのをずっと待っていたわけである。
次の日、一週間、一ヶ月、いっこうに返事がない。
泰二は、ひたすら返事を待っていたのである。
 そのうち、泰二は、自分がバカに見えてきて、会社を辞め、もう一度、いろいろ、女性のことも含めて、修行し直そうと思い、大学院に入り直したわけである。
 泰二は、まず、大学院で研究し、理学博士を取得した。
科学者のたまごとなり、いちおう一つの目的は果たせたと思い自信がついた。
 次は、女性だと思い、女性と会うことにおじけづかないようにしたいと思い、そのためには、風俗が最適だ、といろいろ考えたすえの結論である。
 高田馬場のさかえ通りにあるサテンドールというファッションヘルスに行くことにした。そこで、ついたリカさんという人。
いろいろ会話し、会うときには、ロッテリアのハンバーガーを2人前買っていって、二人で食べたり、中で、ラーメンをたのんで、いっしょに食べたりもした。
大学を出た後に勤めた会社の帰りに毎週、かよっていた。
おかげで、女性に対する変なおじけづくこともなくなった。
 泰二が、めざしていたものを手に入れた気がした。
そのおかげで、いろいろなことに対して、寛大さが身に付いたような気がする。
今、泰二は、90歳をこえた両親の介護をしている。
でも、泰二は、ヘルス通いでの修行のおかげで、介護が苦にならず、楽しめる心がめばえている。
 やはり、泰二は、仕事と、女性というのは、人生を豊かにしてくれる二大宝物だということに気がついた。



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