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僕は君に愛していると、そうただ言いたい

僕は今日も君を追いかける

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「待ってよ~、藍斗くん!」

 幼馴染の彼女の声を無視して僕は、友達のもとに向かう。

「も~」

 頬を膨らまして、私はただ不機嫌なアピールをする。
 それでも彼はこちらを向いてくれず、彼が向かう先には彼の友達がいる。

「もう、知らないもん」

 腕を組んで最大限の不機嫌アピールをしながら、私は自分の家に帰ろうとする。

「最近藍斗くん一緒に帰ってくれない」

 小学5年生。思春期に入って私たちはあまり話さなくなった。
 いや、私が彼に避けられている。でも、知っている。私と一緒に帰っているところをほかの友達にからかわれていることを。
 だから、藍斗くんは私を避けているし、私も昔のように藍斗くんに付きまとわなくなった。

「懐かしいな~」

 ふと思い出してみた。
 小学1年生のころ、人見知りが激しかった私はずっと藍斗くんの背に隠れていた。
 藍斗くんは、今ほどではなくても少しうざそうにしていたけど、それでも時々後ろを振り返って私がついてきているかを確認してくれる。

 信号が青になっていることを確認して私は歩いて渡る。
 昔の思い出もただ思い出しては、ニコニコと笑っていた私。

 ふとパトカーのサイレンの音がやけにうるさく聞こえる。
 なんだろうと思ってサイレンのほうを見た。
 見た先は左。そこにはものすごいスピードで迫ってきていた軽自動車。

 最後に見た光景は、顔に汗をかきまくった無精髭の男だった。


「誰か! 救急車をよべ!」
「何言ってんだ。もうこの子は死んでいる!」
「ままぁ、あの子どうしちゃったの?」
「駄目よ! 見ては、ダメなの…」




 公園で友達とサッカーをしていて、空は刻一刻と暗くなっていく。

「ごめーん、俺もう帰らなきゃ」
「あ、マジか。俺もだー」
「僕もそろそろ帰らないと」

 6人で遊んでいた中、3人はもう帰らないと、と帰っていって取り残された僕たちも流れで帰ることにした。

「はー、お腹減ったなー」

 公園から家まではそこまで距離はなくて、自宅が見えてきたころやけに家の前に人が集まっているなぁっと思って僕は少し速足で家に入った。

「ただいまー、家の前にいっぱい人いたけ…ど」

 靴を適当に脱いでリビングに入ると、黒いスーツを着た両親と、ハンカチで目元を押さえている藍海の両親がいた。

「藍斗、少しこっちへいらっしゃい」

 母さんは、僕を呼び僕はいつも座っている椅子に座った。

「なんだよ、藍海のお母さんにお父さん」
「…実はね…」

 先に話し出したのは藍海のお母さんだった。

「藍海がね、死んじゃったの…」
「は?」

 バカバカしい話だとその時は思った。そう思うしかなかった。
 そう思うことで、自分自身を楽にしようとした。

「嘘じゃないの、事故でね。それでね、藍斗くん。最後に藍海を見たのは、いつ?」

 涙をこらえながら、僕に優しく聞いてくるこの人をみて嘘じゃない、そう思った。

「一緒、に…かえろ、うって…いわれた、とき…で、す」

 とぎれとぎれで言葉にならなかった。

「そ、う…」
「藍斗くん、うちの娘と一緒に帰らなかったのかい?」

 藍海のお父さんが優しく言った。藍海のお父さんは少し強面だけど、それに似合わないくらいかっこよくて優しい人だ。

「友達と、遊びたく、て」
「そうか…」

 藍海のお父さんが無理して笑っていることに気づいてしまった。

「もしか、して。僕の…せ――」
「違うわ!」

 藍海のお母さんが、否定をしてくれた。それでも、僕は…ボク、は…。

 気が付いたら、ベットで眠っていた。
 夢だったんじゃないかって、本当は今家の前で一緒に登校しよう! と藍海が言ってくれるんじゃないかって。
 ただそんな非現実的な情景を、頭に浮かべて気持ちの悪い笑い声を出してしまう。

「へ、へへ」

 ボクの目尻から自然と垂れてきている涙に、この時のボクは気づけなかった。

『藍斗くん…』

 いまだに聞こえてくる幻聴に、ボクはただただ笑うしかなかった。

「あはははっは!!!!!」

 この時ボクは、最愛の人を亡くしたことにようやく気付くことができた。


岸辺藍斗きしべあいと   崖上藍海かけじょうあいみ
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