婚約者の浮気現場を目撃してしまったので、叩き潰して差し上げます！！

第5章 叩き潰す相手は

ヴィン・アイルハントの姉とは

　残り３日。
　どうすればいいのかわからない。
　昨日のランガの対応。リスの話それがどうしても気がかりだった。
　昨日のランガからは嫌悪感を１ミリも感じなかった。ランガは自分から浮気を進んでしているのか、リスの救ってほしいとは何なのか。
　私はただ焦ってしまう。残り３日しかないなかで、私はランガを完全に嫌いになれていない。だからこそ、リスの話が本当ならば私は彼を救いたい。彼は決して悪い人間ではない。昨日のデートでわかった。

　そして、もっと気がかりなのが私とランガの婚約の話を知っているはずの王家の５つがひとつアイルハント家の次女さんがなぜランガに近づいたのか。

　そう思って、準備を済ましアイルハント家の館へ向かった。



「ようこそ、ヴァルヘイム家のお嬢様”アンナ様”」
「ど、どうも…」

　すっごいお迎えだなぁ。
　頬に冷や汗でもない、妙な汗をかいていた。

「あ、アリア。あれを…」
「あ、はい」

　どうやらアリアでさえびっくりして、立ち尽くしていた。

「こ、これを」

　アリアが右手に持っていた紙袋を、先頭に立っていた執事長のような老人に渡した。

「おぉ、これはこれは。誠にありがとうございます」

　執事長はもらった紙袋を後ろに控えていた若い執事の方に渡していた。

「では、こちらへ」

　執事長の方は私たちを客室に案内してくれた。



「む、どうもどうも。ヴァルヘイム家のアンナさん」

　伊達メガネを掛け机に向かってどうやら仕事をこなしているようだった。
　すると、私に気が付くと伊達メガネを外し服の胸ポケットにしまった。

「自己紹介をさせていただこう。僕の名は”トール・アイルハント”です」

　かっこよく綺麗にお辞儀をしたのは、ヴィン・アイルハントの姉のトール・アイルハント。
　綺麗な青い髪を後ろでまとめ、しゅっとなっている綺麗な細い足をスーツでまとっている。

　女の私はただかっこいいと思ってしまった。
　気押されてしまった。だが、この女性は夫さんがいらっしゃるそうで、憧れの女性とはこの人のことなんじゃないかと思ってしまうほどに。

「あ、わ、私はアンナ・ヴァルヘイムです。こっちは私のメイドの」
「アリア・マークヴィスでございます」
「存じておりますとも、ささ、お座りください」

　そう言って、トールさんは目の前のソファーに座るように言った。

「さて、今回はどうなさりましたか？」

　私たちが入ってきた入り口からさっきの執事長の方が、お盆にお茶を乗せ運んできてくれた。

「うん、ありがとうハイク」
「いえ、では失礼します」

　綺麗なお辞儀をして部屋を去っていった。

「あ、あの。今回お話させていただきたいのは、ヴィンさんについてのお話なのですが…」
「ふむ、妹についての話と。どういった話を聞きたいのですかな？」
「はい、ヴィンさんに付き合っている男性がいるのか、という話なのですが…」
「妹に男？」

　少し怖い顔をしたと思ったら、すぐにニコニコしだして。

「いないでしょう！　いたら…ねぇ？」

　私たちが座っているソファの背後の壁に飾られていた剣を、ﾁﾗｯとみて、私たちに向かって微笑んだ。

　どうやら、トール・アイルハントはシスコンのようだった。