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第3章 あなたは知っていたの?

ダイナハウン家の館

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「ね、ねぇ、アリア? さっきなんか言って――」
「お嬢様、到着いたしました」

 私がさっきボソッと聞こえた言葉の意味を聞こうとするとそれを遮るように、アリアは私に言った。

「そ、そう」

 聞いてほしくない、そんな雰囲気が私を襲う。
 頬に垂れていた少しの汗を、アリアに手渡されたハンカチをもってふき取る。

「アンナお嬢様、私はここで待っております。ダイナハウン家の者にはすでに伝えておりますので、場所だけお聞きくださいませ」
「え、えぇ、ありがとう」

 いつもは待っていない。基本的に夕暮れ時の30分前くらいに私を迎えに来ていたアリアは、今日は待つという。
 少し違和感を抱えながらも、階段を上り目の前には3mほどの大きな扉、その前にダイナハウン家のメイド長”リス・アーバウト”が綺麗な立ち振る舞いで待っていた。

「いらっしゃいませ。アンナ様。ランガ様はいつものお部屋でお待ちしております。現在お客様と話しておられますので、客間でお待ちいたしますか?」
「いえ、大丈夫です。サプライズで来たんですもの、待ってしまったらサプライズになりませんわ」
「…承知いたしました。途中までお送りいたします」

 いつもの部屋、全部で3階あるこの館。1階には基本的に道場があり、この館で働くものすべてに武の心得がある。
 それも、執事、メイド見習いのころから武の心得を持ち、礼節を学び、2年ほどの月日をもってやっと執事、メイドとして働くことができる。
 そして、2階の一番端から2番目の部屋がいつもランガとあっている部屋。一番奥はランガの武器などを置いており、一度だけ見させてもらったがその景色はまるで博物館のようだった。壁には剣が飾っており、防具立てには軽装ではあるものの防具が飾ってあった。
 いつもあっている部屋はランガの寝室で、綺麗に整えられていて控えめではあるものの青いベットが置かれていて、ソファーとひざ下くらいの木製の机が置かれている。

 リスが2階まで荷物も持ってくれ、2階につくとリスは「では、私はこの辺で…」と言って、1kgもないくらいの私の荷物が入ったカバンを手渡す。

「ありがとうね」
「いえ、ではごゆっくりと」

 45度くらい頭を下げてリスはまた階段を下りていく。

 2階は全部で8部屋ほどあり、メイド長の部屋、執事長の部屋、他にはダイナハウン家の物置や、資料室がある。
 いつもの足取りでランガの部屋の前につく。自然と微笑んでしまい、ノックをしようとしたとき――

「いいの? 時間?」
「…いいんだ。まだ30分はある」

 ランガと、誰かいる? 声的には女性、聞いたこともあるようなといった声だった。
 嫌な汗が出る。トラウマがよみがえるというのはこのことなんだろう。手には今までかいたこともないくらいのびっしゃりとした汗。背筋にも汗が垂れ、せっかく着てきたお気に入りのドレスは袖の部分が汗で引っ付く。
 服が肌に引っ付く不快感とともに、誰の声なのかという疑問がまたしてもよみがえってきた。

「ヴィン。君の肌は本当に美しいよ」
「あら、他の女にも同じこと言ってるんじゃないの?」

 フフっと笑う声とともに、わずかに聞き取れた名前”ヴィン”
 …確か、5つの王家が1つのアイルハント家の次女。現当主のトール・アイルハントの妹さんだった。
 前にランガと行った舞踏会でランガと親しそうに話していた、もしかしてその頃から?
 顔が自然と熱くなる。

「…もう、帰ろう…」

 私は前世でもそうだった。いつも裏切られて、現世では違うと思っていた。仮にも3歳の頃から互いに知っていたし、仲も良かったと思う。それなのに、また。
 嫌なことばかりを考えてしまう中、アリアの言葉を思い出してしまった。

”「アンナお嬢様、私はここで待っております。ダイナハウン家の者にはすでに伝えておりますので、場所だけお聞きくださいませ」”

 知っていたのだろうか? アリアは知っていって私にこんなことを?
 いや、違う。アリアはそんな人じゃない。それに、ボソッと言っていた時にわずかに聞こえたけれど”申し訳ございません”そう言っていた。
 私にこれを気づかせるために? いつもは言わないことを言って、遠回しに私に伝えてくれた?

 もしかして、アリア。あなたは――

「知っていたの?」

 せっかく整えた髪が変になっているが、それでも聞かずにはいられなかった。
 目の前にいる、アリアは赤い瞳を私の瞳に合わせ、静かに答える。

「…知っておりました」

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