竜の契約者

ホワイトエンド

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間章 勇者と森妖精の泡沫の鎮魂歌

第360話 巨人の腕

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屋上の二人はその巨人が見えた瞬間、顔を青ざめさせた。
なぜならその大きな拳には魔力を纏っており、それを結界に当てられてしまっては術者であるフィリアに途轍もないダメージが通ってしまうからだ。

魔法の結界は術者の放つ時に込めた魔力の量でそもそもの硬さが決まり、いくら攻撃されても破られない限りは術者にはダメージは通ることはない。
だが、魔術は違う。魔術で作られた結界は術者が解除を行う、もしくは術者が気を失わない限り結界は永遠に解かれない。
と、一見するとまさに上位互換ではあるのだが誰も使っていないのには理由がある。それは、術者に結界に与えられたダメージと同等のダメージが与えられるのだ。
つまり、魔法は魔力のあるものなら例え魔法使いのような体が貧弱なものでも皆を守ることが容易だ。
それに対して魔術は多少少ない魔力でも肉体が強固であればいくらでも守ることが可能だということだ。
今回、魔力を大量に持っていかれたのは結界の範囲が広かったため展開するのに必要な魔力が多くなってしまったのだ。
体が魔物や精霊である他の面子より弱いフィリアがアンデット達の攻撃を耐えられたのは魔法使い達の迅速な対応とアンデット達の攻撃の弱さのおかげなのだ。

だが今拳を振りかぶり始めている巨人の攻撃を受けてしまえばフィリアの体では、いや他の者でもミーリア、もしくはニイ達でなければ耐えられない。
腕を後ろに引き構える巨人。
結界を解こうとしたところで下の方に視線が吸い寄せられた。そこにはどこにそんなにいたのか結界が壊れるのを建物の影に隠れ待っているビーステッド達がいた。狼型、鳥類型、猿型、熊型等の数多の種類のビーステッドが立ち並ぶ。
それを見た瞬間、フィリアは覚悟を決めた。

「マリウスさん。」
「なんですか、今は話している場合ではないでしょう!今すぐに結界を…」
「結界は解けません。」
「なっ…!?」
「私の命に変えてでもこの結界は解きません。」
なぜ、と問いただそうとしたがフィリアの覚悟を決めた顔に言葉が詰まってしまった。

そして振るわれる巨人の一撃が。

大量の光の鎖が巨人に纏わりつく。束縛をかけるありとあらゆる魔法が巨人を止めるために放たれるだが巨人はそれを気にも止めず鎖を引き千切り腕を放つ。
結界に衝突する直前、幾重もの魔法の結界が結界の前に立ち並ぶ。だがそれもパリンパリンと0.1秒も保たず砕かれていく。その中で光と闇の結界が最後に立ちはだかる。ミーリアとマリウスの二人による結界だ。
ミーリア光の結界は巨人の腕を焼いたものの止めるには及ばず、
マリウス___従魔の結界は相手にダメージは与えられないものの相手の攻撃を5秒止めることに成功し勢いを失わせることに成功した。

成功したが、すぐにでも他の腕が放たれる。5本目の腕による攻撃でマリウスの結界も砕かれ最後の腕がフィリアの結界に迫る。

その腕を見たフィリアは世界がゆっくりになった感覚に襲われた。瞼の裏に今までの記憶が流れてくる。
(…これは…走馬灯と言うんでしょうか…)
父に褒められるために勉強を頑張った幼い頃。
母の喜んでもらうために色々な作法を学んだ子供の頃。
他にも様々な記憶が流れていく。
そんな中でマリウス達と過ごした日々も流れていく。
(ああ…)
自然と涙が流れる。今も視線の端で魔力が残っていないのに結界を貼ろうとしてくれているマリウス。下の方で攻撃をして止めようとしてくれているミーリアとリア。
中で自分達の無事を祈ってくれているレルトとキューア。
皆と過ごした日々は王女として過ごした日々よりもずっとずっと心に残っている。
そして最後に流れてきたのは初恋にして最愛の彼の姿だった。
沢山の後悔と罪の記憶が流れていく。
だけどその中で色濃く思い出したのは____

ニイとなった彼に助けられたあの日、あの瞬間だった。
自分自身のことまで忘れていた彼。
自分というものが思い出せなくなっていた彼。
それを聞いたときフィリア自身の事を忘れていたのを思い出して嬉しくなってしまったのだ。
だってそれはフィリア自身が彼にとって自分自身を形成するのに必要な存在であったということだから。

(ニイ様に謝罪、出来ませんでした…)
後悔が頭の中を過る。だけどそれ以上に、
(私が死んで怒ってくださるでしょうか…悲しんでくださるでしょうか…喜んだら嫌だなぁ…)
自分が彼にどれほどの影響を与えられるかが気になってしまった。
頭の中にニイの表情のあまり変わらないが分かる笑顔を思い出す。それと同時に満面の笑みを浮かべる勇者様の顔を思い出す。その2つに心が動かされるのを感じてフィリアは確信した。
(ああ…私、貴方にもう一度恋をしてしまっていたんですね。)

そうしてゆっくりとした時間は元へと戻る多数の妨害は意味をなさず彼女の結界にその剛腕は振るわれる。今にも結界に接触するその瞬間、結界が出現する。巨人の攻撃に一切揺るがない闇の結界が。

戦士達は見た。巨人の前に浮かぶその人影を。その姿に人、魔物、亜人問わず目を引きつけられる。
白と黒の髪をした彼は背に竜の羽を生やし巨人の正面に浮かぶ。彼の言葉に誰もが心から安堵を覚えた。彼に任せれば大丈夫だと。皆がそう確信した。

「よく耐えた。後は任せろ。」

ファルーグ・ニイ・デュアルが悲劇に幕を下ろすため舞台にあがった。一人の少女の願いを叶えるために。
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