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6章 魔王と英雄モドキ
第282話 エピローグ 私の英雄
しおりを挟む「んぅ…」
ディレードはなにか柔らかい物の上で目を覚ました。
「ここは…」
キョロキョロと周りを見渡そうとした時左側から声が聞こえた。
「起きたんだねディレードさん。」
「この声は…」
そちらを振り向くとそこには読んでいたであろう新品の本を閉じて横にあるテーブルに置いた普段着のアリスがいた。
「アリスさん…」
「一応どうなったか、説明いるかな?」
「お願いします。」
「えっとそれじゃああの後なんだけど…」
アリスの話を纏めるとこんな感じだ。
イズナを断ち切ったディレードは空中で気を失い、地面に落ちそうになったところをフルルに抱き抱えられたらしい。
その後会場だけが穴あきになった思いの外無事だったあの町よりこちらのブレイリータウンの方が治療しやすいと言うこともありフルルに背負われてこちらに戻ってきた。
それから一週間の間ディレードは眠っていたようだ。交代で見守りを付けていてたまたまアリスが見守り役だったらしい。
「一週間…」
「うん。教皇が旅立たれたから教団はもうシッチャカメッチャカだよ。」
「今はどうなってるんです?」
「ハリエスさんとルガードさんの二人が今混乱を落ち着けようとしてるけど流石に無理みたい。」
「そうですか…」
そんな大変な時に自分は寝ていたのかと下唇を噛む。動こうとした瞬間アリスに止められた。
「あっ、動かない方がいいよ。」
「なぜです?」
「体が全部ぼろぼろ魔法も使えないくらいなんだよ。半月くらいは動いちゃだめだよ。」
「そんなに、ですか?」
「うん。自分に適正のない中級魔法の行使、無い魔力の捻り出し、そして英雄昇華と同じタイプの数ランク上の消耗。ここらへんが全部重なってちょっとしばらくは本当に無理かなぁ。」
「…無茶の代償、ですか…」
「まあ、この中だと英雄昇華みたいなやつの消耗が一番酷いよ。えーと英雄覚醒だっけ?これはしばらく休まないと動けないやつだよ。」
「はぁ…」
もはやため息しか出ない。無茶に無茶を重ねて勝ったと思ったら組織が大変な時に寝たきりなのだ。責任感の無いリーダーそのものだ。
「これは…騎士団長失格ですかね…」
「ふふっ、そうかも。」
「はぁ…無茶なんてするもんじゃないですね…」
「あの、さ。」
「?なんです?」
「あの英雄覚醒のあとの戦いなんだけど…」
そこまで言うと少し深呼吸してアリスは改めて口を開いた。
「かっこよかったよ。」
「??」
「一人で立ち向かうなんて英雄みたいだった。」
「!…やめて下さい私は…」
「モドキって言いたいんでしょ?」
「はい、私には英雄なんて…」
「でもあの日言ってくれたよね。英雄に助けて貰った女の子が感謝をするってシーンがあるって。」
「言いましたけど…」
「私は貴方にまた助けて貰った。だから私にとっては英雄、なんだよ。」
「…」
ぱくぱくと口を開けたり閉じたりを繰り返すことしか出来なくなってしまった。
「皆の英雄では無いかもだけど私にとっては英雄なんだよ。」
「…そう、ですか…」
「うん。」
「アリスさん…」
「なに?」
「…これからもしばらく留まって貰ってもいいですか?」
「もちろんそのつもりだけどどうしたの?」
突拍子もない事を言われ少し動揺しながらアリスは言葉を返す。
「しばらく魔物も制御が効かないでしょうから手が欲しいんてすよ。」
「そういうことなら。」
アリスがディレードの手に自分の手を絡ませた。そして握手の形に手を変えると笑顔でこう言った。
「これからもよろしくお願いします、ディレード・セインさん!」
その後皆に教えてくると部屋からアリスがいなくなった後ディレードは横たわり天井を見ながらポツリと呟いた。
「貴女が眩しいですアリスさん…」
その後、本音をこぼして眠りにつくのだった。
「すみませんアリスさん、本当の理由は…眩しい貴女がいれば私はこれから先のやることが正しいことだと誤認出来るから、なんです…どうかあれをやるまで私の側にいてください。そうすれば私は正義になれるはずだから…」
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