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ワイドショー(2)
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「いや、可愛いだろ。チ・ワーワ」
「結構近い距離で見たけど目とかガンギマってたし、何ていうの?アルカイックスマイル?みたいな顔で迫ってきて怖かったよ」
「まるで見てきたみたいだな。あの場で」
「まぁ、さっきまであの場に居たからねぇ」
イナガキとワンが飛び上がるようにサトウから距離を取る。
2人の突然の行動に、サトウが怪訝な顔で注意する。
「ちょっとー、はしゃがないでくださいよ。埃が舞うじゃないですか」
「サトゥ。噛まれてないだろうナ」
「は?」
「噛まれてないだろうな。あの犬に」
「噛まれてないから。そもそも狂犬病って人から人には感染しないらしいじゃん。Fランクでも知ってるよ」
サトウの言葉に「驚かせやがって」というようなリアクションをしながら2人がテレビ前に戻る。
イナガキは4Kテレビの電源ボタンを何度か押したり、背面を軽く叩いたりしてテレビの再起動を試みている。
「それにしてモ、あの場に居てよく戻ってこれたナ」
「どういうことです?」
「犬が脱走してすぐに公園が封鎖されテ、今は出入りできなくなってるゾ」
「何か緑色に光った女の子に助けてもらったんですよね」
「それハ、サトゥ。水分補給してたカ?」
「いや熱中症で見た幻覚じゃないですから!いや、幻覚だったのか?何だろう、そう言われてみると具合悪くなってきた気がする」
「点いたぞ。テレビ」
テレビにワイドショーが映し出された。
そこに車椅子の男の姿は無かったが、変わらずモンド運動公園での騒動が報道されていた。
「凄いことになってる」
映像は俯瞰するような画角に変わり、公園の全体を見ることができる。
そこには公園を丸ごと囲むように壁が出来上がっていた。ワンが言っていた封鎖とは壁のことのようだ。
あの少女の指示に従っていなければサトウは壁の内側に閉じ込められていただろう。
「さっきハ、テレビから警報が流れて驚いたナ」
「それで防犯用シャッターも下ろしてたんだ。店内にいた客にも帰ってもらったし」
「客で思い出したけど、イナガキ君。僕が昼休憩にいったときお客さんに絡まれてなかった?」
「そうそう。めちゃくちゃ難癖つけてきたぞ。あの客」
「何、どんなこと言われたの」
「初来店のくせして『いつもの』って言うから、番号で言えって伝えたらキレられた。腹立つ」
「だからさ。初来店かどうかは50:50だってば」
「黙れ。知らない客だって言ってたぞ。ワンさんも」
「知らン」
ワイドショーを眺めて、サトウたちの話を聞いていない風だったワンが一言だけ発する。
「今、黙れって言った?」
「言ってない。幻聴だろ」
「‥‥それにしても、今日は色々あるね」
モンド運動公園での犬の脱走騒動もだが、オウズマートに騒がしい客が来店したことも珍しい。
いくらIoT化を進めていない古びた小売店であっても、この店はAランクのワンがオーナーを務めている。
ワンが下・中級国民に甘いと言っても、上級国民とされるAランクが営む店で、わざわざ騒ぎ起こす輩は少ない。
せいぜいが精算時にレジを打っているサトウに嫌味を言っていく程度で、客層は比較的おとなしい。
暴れて相手の服を引き裂く輩。
騙されていたことに気づいて泣き叫ぶ輩。
常連のように振る舞う輩。
「こんなにヤバいやつらが店に集うのも珍しいね。これは何かあるぜ」
「一人で何言ってんのお前。ただの偶然だろ」
「結構近い距離で見たけど目とかガンギマってたし、何ていうの?アルカイックスマイル?みたいな顔で迫ってきて怖かったよ」
「まるで見てきたみたいだな。あの場で」
「まぁ、さっきまであの場に居たからねぇ」
イナガキとワンが飛び上がるようにサトウから距離を取る。
2人の突然の行動に、サトウが怪訝な顔で注意する。
「ちょっとー、はしゃがないでくださいよ。埃が舞うじゃないですか」
「サトゥ。噛まれてないだろうナ」
「は?」
「噛まれてないだろうな。あの犬に」
「噛まれてないから。そもそも狂犬病って人から人には感染しないらしいじゃん。Fランクでも知ってるよ」
サトウの言葉に「驚かせやがって」というようなリアクションをしながら2人がテレビ前に戻る。
イナガキは4Kテレビの電源ボタンを何度か押したり、背面を軽く叩いたりしてテレビの再起動を試みている。
「それにしてモ、あの場に居てよく戻ってこれたナ」
「どういうことです?」
「犬が脱走してすぐに公園が封鎖されテ、今は出入りできなくなってるゾ」
「何か緑色に光った女の子に助けてもらったんですよね」
「それハ、サトゥ。水分補給してたカ?」
「いや熱中症で見た幻覚じゃないですから!いや、幻覚だったのか?何だろう、そう言われてみると具合悪くなってきた気がする」
「点いたぞ。テレビ」
テレビにワイドショーが映し出された。
そこに車椅子の男の姿は無かったが、変わらずモンド運動公園での騒動が報道されていた。
「凄いことになってる」
映像は俯瞰するような画角に変わり、公園の全体を見ることができる。
そこには公園を丸ごと囲むように壁が出来上がっていた。ワンが言っていた封鎖とは壁のことのようだ。
あの少女の指示に従っていなければサトウは壁の内側に閉じ込められていただろう。
「さっきハ、テレビから警報が流れて驚いたナ」
「それで防犯用シャッターも下ろしてたんだ。店内にいた客にも帰ってもらったし」
「客で思い出したけど、イナガキ君。僕が昼休憩にいったときお客さんに絡まれてなかった?」
「そうそう。めちゃくちゃ難癖つけてきたぞ。あの客」
「何、どんなこと言われたの」
「初来店のくせして『いつもの』って言うから、番号で言えって伝えたらキレられた。腹立つ」
「だからさ。初来店かどうかは50:50だってば」
「黙れ。知らない客だって言ってたぞ。ワンさんも」
「知らン」
ワイドショーを眺めて、サトウたちの話を聞いていない風だったワンが一言だけ発する。
「今、黙れって言った?」
「言ってない。幻聴だろ」
「‥‥それにしても、今日は色々あるね」
モンド運動公園での犬の脱走騒動もだが、オウズマートに騒がしい客が来店したことも珍しい。
いくらIoT化を進めていない古びた小売店であっても、この店はAランクのワンがオーナーを務めている。
ワンが下・中級国民に甘いと言っても、上級国民とされるAランクが営む店で、わざわざ騒ぎ起こす輩は少ない。
せいぜいが精算時にレジを打っているサトウに嫌味を言っていく程度で、客層は比較的おとなしい。
暴れて相手の服を引き裂く輩。
騙されていたことに気づいて泣き叫ぶ輩。
常連のように振る舞う輩。
「こんなにヤバいやつらが店に集うのも珍しいね。これは何かあるぜ」
「一人で何言ってんのお前。ただの偶然だろ」
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