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オウズマート①(1)
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「‥‥ってことがあってね」
「どういうこと?何も入ってこなかった。話が」
「最初から聞く気なかったよね?」
職場にて。サトウは昨晩の出来事を同僚に話していた。
蝉で童貞を捨てるような、あまりに頭の悪い内容に早々に興味を無くした同僚は、品出し準備のためにバックヤードへ入っていく。
オウズマート。
ハッチョーボリ、ヤエス通りにある小売店。
帝国中の小売店がIoTで無人化したにも関わらず、この店では帝国法によってF・Eランクに位置づけられた青年たちを雇用している(日給500円)。
来店する客もないため暇を持て余したサトウは、新聞に目を通している。
「水道水の水質悪化ね。飲水なんて買う金ないのに」
自動ドアの開閉音が鳴った。
入店した人影に対し、サトウはレジの内側から小さな声で挨拶した。
「っしゃいませ」
バックヤードにいた同僚もサトウの声に続いて「らっしゃーせー」と声を出す。
「ンー、サトゥ。もうちょっト、元気に挨拶できるカ」
「すみません。朝一で声が出なくて」
「朝一というカ、いつも声が小さいヨ。ワタシがこの国きたトキ、挨拶は大事ト、教わったヨ」
サトウは申し訳無さそうに、だがどこか照れたように「へへっ」と言いながら鼻の下を擦る。
カタコトで喋る男の名はワン。
超高齢化施策以前、海の向こうの共和国からやってきた老齢の移民であり、この店のオーナー兼店長。
小売店を無人化せず下級国民を雇用する変人だが、サトウにとっては14年間も面倒を見続けてくれている恩人とも言える人物だ。
サトウが声の大きさで注意されるのはいつものことで、しばらく声を出していないと「あっあっあっ」しか言えなくなるため敢えてレジ打ちを担当させられていた。
「もう10年以上は言い続けてるナ。給料減らすカ」
「いやー、勘弁してください。もう4ヶ月近く休みなしですよ?いい加減に限界です。ずっと休んでるけど、ゴ君はどうしたんですか」
サトウは元から接客ベタだが、最近は特に調子が悪かった。
通常であれば週休1日制なのだが、出勤しなくなったゴという同僚の穴を埋めるためにシフトを増やされたことにより本日で117連勤目なのである。
彼は連日、血尿を出す夢を見ることにも悩んでいた。
「ゴ君は田舎の家族への仕送りが足らないとかデ、人体実験のバイトに行ってるヨ」
「前にも臓器売るとかで休んでませんでしたっけ。大丈夫なんですか、そのバイト」
「今回は何だったかナ。ロボ、何だっケ。大昔にあった性格を変える手術を再現するらしいヨ」
「絶対ヤバいやつですよね」
下級国民が生活苦のため怪しげな治験や、人体実験に参加することはそう珍しくもない。
サトウはそういったものに参加した経験は無かったが、参加したきり消息を絶った知り合いも多かった。
バックヤードから戻り、品出しをしていた同僚が通りかかる。
「もう戻ってこないかもな。ゴ君」
「あぁ、イナガキ君。戻ってこないかもしれないし、もっとシフトに入れない?」
「それは無理だな。兼業が忙しい」
兼業が忙しいとアピールする、長身眼鏡の男はイナガキ。左手の甲には「E」の文字が見える。
Fランクの国民は、ある条件をクリアすることで仮中級国民とされるEランクへの昇級が可能となる。
薄給・長時間労働のFランクへ課す条件にしては難易度が高く、多くの人々が昇級できずにいるため、あまり見かけない文字である。
「どういうこと?何も入ってこなかった。話が」
「最初から聞く気なかったよね?」
職場にて。サトウは昨晩の出来事を同僚に話していた。
蝉で童貞を捨てるような、あまりに頭の悪い内容に早々に興味を無くした同僚は、品出し準備のためにバックヤードへ入っていく。
オウズマート。
ハッチョーボリ、ヤエス通りにある小売店。
帝国中の小売店がIoTで無人化したにも関わらず、この店では帝国法によってF・Eランクに位置づけられた青年たちを雇用している(日給500円)。
来店する客もないため暇を持て余したサトウは、新聞に目を通している。
「水道水の水質悪化ね。飲水なんて買う金ないのに」
自動ドアの開閉音が鳴った。
入店した人影に対し、サトウはレジの内側から小さな声で挨拶した。
「っしゃいませ」
バックヤードにいた同僚もサトウの声に続いて「らっしゃーせー」と声を出す。
「ンー、サトゥ。もうちょっト、元気に挨拶できるカ」
「すみません。朝一で声が出なくて」
「朝一というカ、いつも声が小さいヨ。ワタシがこの国きたトキ、挨拶は大事ト、教わったヨ」
サトウは申し訳無さそうに、だがどこか照れたように「へへっ」と言いながら鼻の下を擦る。
カタコトで喋る男の名はワン。
超高齢化施策以前、海の向こうの共和国からやってきた老齢の移民であり、この店のオーナー兼店長。
小売店を無人化せず下級国民を雇用する変人だが、サトウにとっては14年間も面倒を見続けてくれている恩人とも言える人物だ。
サトウが声の大きさで注意されるのはいつものことで、しばらく声を出していないと「あっあっあっ」しか言えなくなるため敢えてレジ打ちを担当させられていた。
「もう10年以上は言い続けてるナ。給料減らすカ」
「いやー、勘弁してください。もう4ヶ月近く休みなしですよ?いい加減に限界です。ずっと休んでるけど、ゴ君はどうしたんですか」
サトウは元から接客ベタだが、最近は特に調子が悪かった。
通常であれば週休1日制なのだが、出勤しなくなったゴという同僚の穴を埋めるためにシフトを増やされたことにより本日で117連勤目なのである。
彼は連日、血尿を出す夢を見ることにも悩んでいた。
「ゴ君は田舎の家族への仕送りが足らないとかデ、人体実験のバイトに行ってるヨ」
「前にも臓器売るとかで休んでませんでしたっけ。大丈夫なんですか、そのバイト」
「今回は何だったかナ。ロボ、何だっケ。大昔にあった性格を変える手術を再現するらしいヨ」
「絶対ヤバいやつですよね」
下級国民が生活苦のため怪しげな治験や、人体実験に参加することはそう珍しくもない。
サトウはそういったものに参加した経験は無かったが、参加したきり消息を絶った知り合いも多かった。
バックヤードから戻り、品出しをしていた同僚が通りかかる。
「もう戻ってこないかもな。ゴ君」
「あぁ、イナガキ君。戻ってこないかもしれないし、もっとシフトに入れない?」
「それは無理だな。兼業が忙しい」
兼業が忙しいとアピールする、長身眼鏡の男はイナガキ。左手の甲には「E」の文字が見える。
Fランクの国民は、ある条件をクリアすることで仮中級国民とされるEランクへの昇級が可能となる。
薄給・長時間労働のFランクへ課す条件にしては難易度が高く、多くの人々が昇級できずにいるため、あまり見かけない文字である。
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