異世界転移して仲間にするなら美少女よりもムキムキのオッサンでしょう

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あいつらのどこが「どこにでもいる普通の高校生」だ(1)

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 メッカに向けて祈りを捧げるミルフィーユ。
 ゴブリンは、そんな彼女を二度三度と殴りつけると尻を撫でる。

 ゴブリンはなぜか彼女を殴打しては尻を撫でるという奇行を繰り返していた。

「そんなにミルフィーユちゃんの尻に興味が?」
「ゴブリンというのはそういう魔物だ!人間を見つけると殴って昏倒させ、なぜか尻をズタズタにする習性がある」

 サトウの疑問に、ミルフィーユが殴られながら答える。
 ゴブリンの尻を撫でるような行動も、よく見れば指の先まで力を込め、抉るような一撃を加えていた。

 ゴブリンの殴打も、尻への一撃もミルフィーユには全くダメージを与えられていないことから、両者のステータスにはかなり開きがあることが分かる。

「こんな極悪生物、初心者の森にいちゃダメだろ」
「そんなことより御主人様。ゴブリンは今、私に魅了チャームされている。私が囮になっている間に戦闘の練習をしてみてはどうだろう」

「戦闘の練習ったって。どうすりゃいいんだ。いや、そうか」

 サトウは「冒険のしおり」を取り出す。ゴブリンの生態のページに討伐のヒントがないかと思ったのだ。

 先ほど教わった、討伐証明部位についての情報もちゃんと記載されている。
 やはり注意書きや説明書には目を通すべきだ。
 ページを捲っていくと、ゴブリン討伐のセオリーという見出しが目に付く。

 ページには腕が抜けやすい、とあった。
 ゴブリンを複数人で囲み、隙をついて片腕を強く引っ張るといいらしい。

「脱臼しやすい生き物ってことか」

 サトウは、ミルフィーユの尻に夢中のゴブリンの背後に回る。
 子どものような大きさというゴブリン。近づいてみると思ったより大きい。
 腕を振り回す音、ミルフィーユへの殴打音、どれをとっても殺意100%だ。

 5歳児よりも貧弱なステータスのサトウは、ゴブリンを前につい立ち尽くす。

「大丈夫。この勢いで振り回している腕だ。少し掴んでやればゴブリン自身の力で勝手に抜けるさ・・・・

 ミルフィーユに励まされ、サトウはさらに一歩ゴブリンに近づく。
 あとは鋭い爪や、鱗などで怪我をしないよう気をつけつつ、その腕を掴んでただ引っ張るだけだ。

「ええいままよ!」

 タイミングを図ってゴブリンの右腕を掴んだ。
 勢いを落とさずゴブリンが動くと、ゴリュゴリュという肉や骨が擦れるような独特な振動が、手のひらから伝わる。
 あまりの不快さに手を離すと、ゴブリンはそのまま倒れ込んだ。

「いやぁあああああああああああああああああああああああ!!!?」

 倒れたゴブリンを改めて見て、サトウは乙女のような悲鳴をあげる。

 サトウが掴んだ右腕は約2倍に伸びていた。
 その逆の左腕は縮み、体内に飲み込まれた指先が僅かに覗いている。

 筋が伸び切ってしまったのかもう腕を動かせないようだ。ゴブリンは恨めしそうにサトウを睨んでいた。

 この状態になったゴブリンは戦意を喪失し、もう襲ってはこないらしい。
 無抵抗ながらコチラを睨むゴブリン。サトウがその胸に果物ナイフを突き刺すと、ゴブリンは動かなくなった。

「ゴブリン初討伐おめでとう。いい練習になったかな」
「へ、へへ。やれやれ。余裕だったわ、マジで」

 土下座したままのミルフィーユは「そうか」と短く言うと、祈りを続けた。

 初めて自分の手で命を奪うという感覚に、サトウの体が震えだす。
 吐き気をもよおし、汗も止まらない。インフルエンザくらい辛い。

 サトウが見たアニメでは、異世界転移した高校生は簡単そうに魔物を殺せていたし、スキルの効果を確認するために大量殺戮したりもしていた。

 実際はめちゃくちゃ怖いし、1匹殺すだけでもしんどいじゃないか。
 あいつらのどこが「どこにでもいる普通の高校生」だ。
 実家がマタギか、と殺場でも営んでないと説明がつかないぞ。
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