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まるで邪教の信徒のようだな(2)

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「悪かったよ。この通り俺は何も知らないからさ。これからも色々と教えてくれると嬉しいな」
「任せたまへ。これからは私が君を導こう」

「これから冒険者ギルドに戻ろうと思うんだけど、それでいいかな」
「あぁ、構わないが。そろそろ日もくれる。ギルドでパーティー登録をして宿を探すのはどうかな」
「冒険は明日からか」
「先ほどの怪我のこともあることだ。今日はもう休むとしよう」

 ミルフィーユからの進言に「分かった」と返事をするとサトウはまた荷車を引く。
 彼の背後でまたメッカに向けた祈りの声が聞こえ始めた。

--

 ギルドのある区画の通りに出た。
 サトウがこの世界の金銭価値を把握するため、出店の店先に出された料金表を眺めながら進んでいると、すれ違う街の人々はギョッとした様子で荷車を見る。
 流石に土下座した大男を乗せた荷車は、この世界でも目を引くらしい。

 サトウはギルド前で荷車を止め、荷台のミルフィーユに声をかけた。

「ミルフィーユちゃん。着いたよ」
「‥‥」
「もうしんどいよ!そのルール!」

 陽の下に居る限り、ミルフィーユは土下座したままだ。
 しかし、ギルドの入り口をくぐるまでに日陰は見当たらない。

 冒険者だろうか、ギルド付近にいた屈強な男たちが「何だ何だ」と様子を見に来る。
 正直恥ずかしい。だが彼らに助けを求めなければこの先に進めないのも事実だ。

「あっ、あのぉ、すみませぇん」
「何だ何だ、兄ちゃん。どうしたどうした」

 呼びかけに応じてくれたのは革鎧にチェインヘルムを着込んだ一団だった。
 20人ほどが同じような武装をしているため、きっとこういうコンセプトで集まっているのだろう。

「連れなんだけど、陽の下を歩けなくてね。こう、円陣というか、スクラムというかを組んで日陰を作って一緒に歩いてくれないかな」
「スクラム?それなら俺達に任せておけ。最高のスクラムを魅せてやる」

 言うが早いか男たちは荷車を囲んだ。あっと言う間に荷車が人垣に隠れる。
 それにしても。

「いや、ガチすぎるな」



「ミルフィーユちゃん。これならどうだろう。動けるかな」

「あぁ!御主人様!これ、これ、すーっごいこれ。これ、すーっごいぞ。こんな屈強な男たちが私を取り囲んで!どうするつもりだ!13歳になる看板娘である私を取り囲んで!どうするつもりだ!」

「気にしないでほしい。この人ちょっとおかしいんだ。そのままギルド内まで進んでくれ」

 革鎧にチェインヘルムを着込んだ一団とギルド内まで移動する。
 ガチすぎるスクラムで現れたその一団にギルド内はやや騒がしくなっている。
 早く解散させたほうがいいだろう。サトウは最初に話したリーダーらしき男に声をかけた。

「助かったよ。後日ちゃんとお礼をさせてほしい」
「俺達は最高のスクラムを魅せたかっただけだ。気にしないでくれ」

 そう言うとリーダーらしい男は一団を率いてギルドを後にした。
 サトウは「格好良い」と言いかけたが、最高のスクラムを魅せたかったとは。

 騒ぎに駆けつけてきたのは最初に対応してくれた受付嬢だった。

「あ、お姉さん。買った奴隷が陽の下を歩けなくて、こんな騒ぎに」
「あの方々はいつも問題を起こしますし、お気になさらず。‥‥それにしても陽の下を歩けない・・・・・・・・・・ですか」
「何か問題でも。いや、ここまで問題しか無かったけど」

「まるで邪教の信徒のようだな、と」

 邪教の信徒?
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