9 / 30
まるで邪教の信徒のようだな(1)
しおりを挟む
「サトウ様。ミルフィーユのこと、くれぐれもよろしくお願いしますぞ」
奴隷商の館前。
アッサラームがサトウの両手を握る。
「まぁ、そうね。ところでミルフィーユちゃんはどこに?」
「ミルフィーユも乙女ですからなぁ。それなりに準備もあるのですよ」
ミルフィーユ(ケーキ屋さんの今年13歳になる看板娘を自称するスキンヘッドの大男)。
そんな乙女の準備待ちをするこの時間はあまりにも不毛である。サトウも思わず「うるせーな」と漏らした。
「待たせたな、お二人さん」
サトウが初めて奴隷商の館に来たとき、扉横でタバコをふかしていた男だ。
恐らく用心棒兼従業員なのだろう。男は館の裏から荷車を押して現れた。
その荷台にはミルフィーユが鎮座している。
「サトウ様。本日はミルフィーユをお買い上げいただき誠にありがとうございました。こちらの荷車はサービスとなります」
「サービス」
「えぇ。ミルフィーユは陽の光に晒されている状態では歩くことができませんからな」
「そんなこと聞いてないぞ」
「彼女が所属する教団の教義でして。陽の光に晒されている間は彼らのメッカに向けて祈り続けねばならんのです」
ミルフィーユは何やらブツブツ唱えながら土下座している。
彼女の土下座している方向がメッカなのだろう。
「ちょ、あの、売買の書類にサインしてたときにも言ったと思うんだけど。俺、冒険者でやっていくつもりなんだけど。こんなの連れて冒険できると思う?ねぇ?」
「当館史上最強の奴隷ですよ。ミルフィーユは」
それだけ言ってアッサラームは「では」と館の中に入り扉を締めた。
鍵の閉まる音。
「やれやれ、はぁ」
ため息をついたサトウは荷車を引いて歩き出す。
怪我も治ったことだし、改めて冒険者ギルドで何か仕事を探してみよう。
「ミルフィーユちゃんさ。さっきのどう思った?最後の方なんて追い払うみたいだったぜ」
「‥‥」
「絶対厄介払いされてるよ、あんた。きっと悪い奴隷商なんだろうな、あいつな」
「‥‥」
「ちょっとぉ!?ミルフィーユちゃん、会話はしようよ!」
「‥‥」
荷台のミルフィーユは土下座したままだ。
ただ出発時とは向きが変わっているので、メッカに合わせてちゃんと体勢を変えているらしい。
陽の下だからいけないのかとサトウは荷車を、建物の影になっている路地まで引いていく。
「ミルフィーユちゃん!ここもう日陰だし一回お話しよう!」
「御主人様。良い奴隷商、悪い奴隷商、そんな人の勝手だぞ」
「何?何の話をし出した突然」
開口一番、道中のサトウの愚痴に対しミルフィーユは苦言を呈す。
サトウには特に響かなかったようだが、ミルフィーユは首を回しストレッチするとまた口を開いた。
「それで御主人様。お話とは何をするのかな。私の好きなスイーツのことだろうか。申し訳ないが教義によって甘味は禁止されているんだ」
「いや、あんたの好きなスイーツはどうでもいい。ていうか甘味禁止されてんの?ケーキ屋さんの今年13歳になる看板娘なのに?」
「甘味を禁止されてる看板娘くらい居るさ。ほら、あの、虫歯とか」
「禁止されるくらい虫歯がある看板娘なんて嫌だろ」
「まったく、御主人様はまたも差別的な発言をするのか」
「これも差別的な扱いになるのか。生きづらすぎるだろ」
「当たり前だ。御主人様と今年13歳になる私。世間はどちらに味方するかな」
俺だろ。
そう言いかかったサトウだが、先程の館でのトラブルを思い出す。
この異世界はとにかく日本人に厳しい。自分の常識で物事を考えてはいけないのだ。
奴隷商の館前。
アッサラームがサトウの両手を握る。
「まぁ、そうね。ところでミルフィーユちゃんはどこに?」
「ミルフィーユも乙女ですからなぁ。それなりに準備もあるのですよ」
ミルフィーユ(ケーキ屋さんの今年13歳になる看板娘を自称するスキンヘッドの大男)。
そんな乙女の準備待ちをするこの時間はあまりにも不毛である。サトウも思わず「うるせーな」と漏らした。
「待たせたな、お二人さん」
サトウが初めて奴隷商の館に来たとき、扉横でタバコをふかしていた男だ。
恐らく用心棒兼従業員なのだろう。男は館の裏から荷車を押して現れた。
その荷台にはミルフィーユが鎮座している。
「サトウ様。本日はミルフィーユをお買い上げいただき誠にありがとうございました。こちらの荷車はサービスとなります」
「サービス」
「えぇ。ミルフィーユは陽の光に晒されている状態では歩くことができませんからな」
「そんなこと聞いてないぞ」
「彼女が所属する教団の教義でして。陽の光に晒されている間は彼らのメッカに向けて祈り続けねばならんのです」
ミルフィーユは何やらブツブツ唱えながら土下座している。
彼女の土下座している方向がメッカなのだろう。
「ちょ、あの、売買の書類にサインしてたときにも言ったと思うんだけど。俺、冒険者でやっていくつもりなんだけど。こんなの連れて冒険できると思う?ねぇ?」
「当館史上最強の奴隷ですよ。ミルフィーユは」
それだけ言ってアッサラームは「では」と館の中に入り扉を締めた。
鍵の閉まる音。
「やれやれ、はぁ」
ため息をついたサトウは荷車を引いて歩き出す。
怪我も治ったことだし、改めて冒険者ギルドで何か仕事を探してみよう。
「ミルフィーユちゃんさ。さっきのどう思った?最後の方なんて追い払うみたいだったぜ」
「‥‥」
「絶対厄介払いされてるよ、あんた。きっと悪い奴隷商なんだろうな、あいつな」
「‥‥」
「ちょっとぉ!?ミルフィーユちゃん、会話はしようよ!」
「‥‥」
荷台のミルフィーユは土下座したままだ。
ただ出発時とは向きが変わっているので、メッカに合わせてちゃんと体勢を変えているらしい。
陽の下だからいけないのかとサトウは荷車を、建物の影になっている路地まで引いていく。
「ミルフィーユちゃん!ここもう日陰だし一回お話しよう!」
「御主人様。良い奴隷商、悪い奴隷商、そんな人の勝手だぞ」
「何?何の話をし出した突然」
開口一番、道中のサトウの愚痴に対しミルフィーユは苦言を呈す。
サトウには特に響かなかったようだが、ミルフィーユは首を回しストレッチするとまた口を開いた。
「それで御主人様。お話とは何をするのかな。私の好きなスイーツのことだろうか。申し訳ないが教義によって甘味は禁止されているんだ」
「いや、あんたの好きなスイーツはどうでもいい。ていうか甘味禁止されてんの?ケーキ屋さんの今年13歳になる看板娘なのに?」
「甘味を禁止されてる看板娘くらい居るさ。ほら、あの、虫歯とか」
「禁止されるくらい虫歯がある看板娘なんて嫌だろ」
「まったく、御主人様はまたも差別的な発言をするのか」
「これも差別的な扱いになるのか。生きづらすぎるだろ」
「当たり前だ。御主人様と今年13歳になる私。世間はどちらに味方するかな」
俺だろ。
そう言いかかったサトウだが、先程の館でのトラブルを思い出す。
この異世界はとにかく日本人に厳しい。自分の常識で物事を考えてはいけないのだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる