黒猫と12人の王

病床の翁

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大剣4

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 金獅子は昨日からショウリャンの工房に入り浸っていた。
 夕食も朝食も昼食もショウリャン達と同じ物を食べた。
 すでに大切な大剣を預けた相手であるから食事に何か入れられる心配もしていない。
 ただただ見ているだけで何かをするわけではない。
 修復作業を見届けたいだけだから別にそれで構わなかった。
 最初の方こそショウリャンも気を遣って暑くないかとか暇じゃないかとか聞いてきたが、全て問題ないと答えている。
 ちなみに観賞用か実戦用かを聞いた意図は、初日に説明された。
「観賞用なら折れた所を同素材でくっつけて少し形成すれば終わりだが、実戦用となるとそれだけではどうしてもくっつけた箇所が弱くなっちっまってまたすぐに折れちまうんだ。だから折れちまった元の大剣は芯として使う。」
 いまいちピンと来ていなかった金獅子はショウリャンに問う。
「芯にするとはどういう意味だ?」
「つまり折れち待ってるカ所には刃を形成しない板状の厚めにした合板で切っ先と根元をくっつけて、その上から新たに刃とするアダマンタイトを形成するのさ。」
「それでは元のままと言う訳には行かないのか。」
「あぁアダマンタイト溶かしながら頭を捻ってみたが、どうやってもこの方法以外にこの大剣を実戦に対応出来るように蘇らせる方法は浮かばなかった。」
「そうか。では重さが変わると言う事よな?」
「あぁ。元のを芯にしてその周りにアダマンタイト製の刃を付けるからね。でもできる限り元の重量に近いような作りにする事を考えてる。」
 悩みながらも金獅子は言った。
「多少重さが変わるぐらいならいいだろう。この大剣は元々獣王に受け継がれてきた物でな。その息吹を俺様の代で途切れさせるのは忍びない。」
「よし。あんたならそう言うと思ってね。型とかはアダマンタイト溶かしながらもう作ってある。後は形成して刃を打つだけになってるよ。」
 牛系獣魔人のショウリャンは自身の角を触りながら言う。
 それを聞いた金獅子は不思議そうに聞いた。
「なぜ俺様ならそう言うと?」
「あんたのこの大剣にかける想いってやつは痛いほどわかったからね。別の大剣を新しく打つだけじゃ納得しないだろうってね。だから芯としてでも元の大剣を活かそうと思ったのさ。」
「うむ。ありがとう。色々と考えてくれたのだな。助かる。」
「なに。新領主様の依頼だからね。その分工賃は高くつくよ。」
「あぁ。国庫が空になる程度なら出す準備はあるぞ。」
「流石にそこまでは要求しないさ。」
 そんな会話が初日に行われている。
 その日1日はただ熱したアダマンタイトと同じく熱した大剣の根元と切っ先との間にくっつける作業を見て過ごした金獅子だった。

 明けて翌日、この日は新しい刀身となる周りの目アダマンタイトを型に流し込み、改めて熱した大剣と結合させる作業と結合した箇所の打ち込みが行われた。
 刃を形成してから、さらに次の外郭となるアダマンタイトで包み込み、さらに刃形成の為に叩く。これを数回繰り返すらしかった。
 この日も金獅子は飽きもせずただただ作業を見て過ごした。

 ショウリャンの元に来て4日目となる日。
 外郭となるアダマンタイトが固まった後の打ち込み作業の時にショウリャンから金獅子に提案があった。
「あんた、獣気は使えるかい?」
「獣気?闘気みたいなもんか?」
「あんたらは闘気って言うのかい。それをこの剣に込めてみないか?使い手の獣気が宿ると使い勝手がよくなるってのが古くから言われてるんだ。」
「なに?俺様が直接他叩くのか?壊したりしないだろうか?」
「あんたが叩いたくらいで壊れるほど柔なもん作ってないさ。どうだい?やるかい?」
 そんな提案されたらやらない手はない。
「もちろんやる。」
 金獅子は答えていた。

 闘気の入れ方はもちろんわかる。
 断頭斬などの技を放つ時には常に闘気の膜を武器に纏わせているからだ。
「闘気を纏わせたこのハンマーで叩けばいいんだな?」
「あぁ。叩く位置はあたいが指示するからあんたは闘気入れたハンマーで叩いてくれればいい。」
「わかった。」
 それから暫くは技を出す時同様に闘気纏わせたハンマーで大剣を叩く作業に没頭した。
 で、ちょっと慣れてきたところで思ってしまった。
 神通力を込めたらどうなるのだろうと。
 普段は王玉を通じて神通力で王鎧を召喚しているような形だ。
 なら神通力をそのままハンマーに込める事も出来るのではないだろうか。
 思い立ったらやってみないと気が済まない。
 金獅子は闘気を込めるのをやめて神通力をハンマーに込め始めた。
 最初の方こそあまり上手くは行かなかったが次第にきちんとハンマーに神通力が通り始めた。
 これならいけると思った矢先、それは起こった。
 神通力を通したハンマーで叩いた大剣に電撃が走ったのだ。
「な?!あんた何した?」
 ショウリャンも突然の事に目を丸くした。
 確かに王化した際に金獅子は雷撃を纏った攻撃が行えるようになる。
 つまりは神通力が雷の性質を持っていたと言う事になる。
 そんな神通力を通したのだ。
 大剣に電撃が走るのも納得出来る。
「む。これは俺様の力の性質が雷だからだ。」
「なに?雷の性質だ。ちょっと待った。そんなに電撃を通されたらハンマーがダメになっちまうよ。」
 言われて気付いたが金獅子が持つハンマーから煙が上がっていた。
「ちなみにこのハンマーの材質は?」
「もちろんアダマンタイトを打つんだ。アダマンタイト製だよ。」
「なら問題あるまい。今までもアダマンタイト製の大剣に雷撃を流して使っていたでな。」
「壊さないでおくれよ。うちにはそれと合わせて2本しかアダマンタイト製のハンマーはないんだから。」
「うむ。任せておけ。」
 そうして神通力を込めたハンマーでの打ち込みが再会された。
 打つ度に大剣に雷撃が走る。
「いいぞ。いいぞ。大剣も俺様の力に呼応しているではないか!」
「あーもう好きにやっとくれ。あんたが打った後はしばらくは誰も触れないからね。責任もって打ち込みしてちょうだい。」
「おぉ。任せろ。段々慣れてきた。」
 そう言いながらも神通力を込めたハンマーでアダマンタイトを討ち続ける金獅子。
 しばらく見ているだけだったので自分が出来る事ができて嬉しかったのもある。
 午後から始めた金獅子による打ち込みは夜まで続いた。
「もうそろそろかね。よし。仕上げ作業に入るからあんたはまた見ててくんな。」
「む?そうか。終わりか。」
 名残惜しそうにハンマーをショウリャンに返す金獅子。
 ただ大剣にはまだ電撃が走っており、金獅子以外が叩ける状態ではなかった。
「こりゃ続きは明日だね。明日には仕上げだ。今日は早く寝るよ。」
 という事で就寝となった。

 5日目。元々ショウリャンが仕上げるのに必要だと言っていた期日となった。
 一晩おいて電撃も放出されたアダマンタイトをショウリャンが大剣として本格的に形成していく。
 金獅子は自分が叩いた時にはまだアダマンタイトの板のようだったものがだんだんと刃を持ち、剣となっていく様に見惚れていた。
 そしてその夜、『真・獣王剣』が誕生したのであった。
『真・獣王剣』はその重量が今までの1割増し程度で収まっている。
 今まで通り金獅子は片手で振り上げると振り下ろす動作を繰り返している。
「どうだい?持った感想は?」
「うむ。少し重みは増したがその分、振り下ろす際の速度も向上しておるな。悪くない。」
「んー。感想は悪くないか。最高だと言って貰えるのが一番だったんだがね。」
「いや。すまん。最高だよ。またこの大剣を振るえる日が来るとはな。折れた際には考えられなかった事だ。」
 牛系獣魔人の店主、ショウリャンは自身の角を触りながら言う。
「まぁ。あたいに出来る限りの事はしたさ。折れたところの補強も出来てる。ちょっと重くなっちまったのは申し訳ないが、その芯はあんたの大剣のそれだ。ちゃんと持ち主に帰る事が出来てそいつも満足だろうさ。」
「うむ。見た目も綺麗だな。」
 うっとりと自身の大剣を眺める金獅子にショウリャンが言う。
「それで、形成に使わなかったアダマンタイトだけど、持っていくだろ?」
「む?いや。それは必要ない。お前の方で有効活用してくれ。もう1本ハンマーを作るとかな。」
「いいのかい?結構な量がまだ残っているけど。」
「うむ。インゴットの状態で持っていても使い道もないしな。お前に預けた方がよかろう。」
「ふうん。そういう事ならありがたく貰っておくよ。」
「うむ。して、この大剣の修復代はいくらになる?」
「大量のアダマンタイトも貰っちまったしね。今回はタダでいいよ。」
「なに?無料だと?」
「あぁ。この分量のアダマンタイトを貰えるんじゃ対価はトントンさ。」
「本当に良いのか?きちんと金なら払うぞ?」
 ショウリャンは自身の角を撫でながら言う。
「いや。本当に大丈夫だ。それだけアダマンタイトはここでは希少なんだよ。」
「そうか?なら好意に甘えさせて貰おうか。」
 そう言うと金獅子は大剣をいつもの如く背負う。
「では。俺様はそろそろ行く。世話になったな。」
「なに。こっちもいい仕事させて貰ったよ。また何かあった際にはごひいきに。」
 そう言うショウリャンに手を振り金獅子は領主邸に戻るのであった。
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