黒猫と12人の王

病床の翁

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獣魔6

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 九大魔将の1人、七尾の菜々緒を討ち破った獣王であったが、自身の流血も激しくその場に倒れ込んでしまう。
 その際に王化も解けてしまう。
 そんな中やってきたのが牙王と龍王に守られながら戦場を移動してきた緑鳥である。
「親愛なる聖神様、その比護により目の前の傷つきし者に最大なる癒やしの奇跡を起こし給え。ハイヒーリング!」
 緑鳥の持つ錫杖から温かな光が溢れ出し獣王の体を包み込む。
「おぅ。緑鳥か。助かった。」
 全身から流れる血が止まり、傷口も塞がっていった獣王は緑鳥への礼を言うと再び立ち上がる。
「まだまだ敵はおるからな。休んでる暇はないわ。」
 折れた大剣を片手に戦場へと戻ろうとする獣王。
 それを止めたのは牙王だった。
「兄貴。ここからはオレと交代だ。神通力使い過ぎて王化も解けてるぞ。代わりに緑鳥達の守護は任せた。」
 そう言うなり戦場へと駆けていく牙王。
「うむ。行ってしまったな。これでは俺様がここを離れる訳にもいかんな。」
 獣王はそう言うと緑鳥達の守護に回ったのであった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 獣魔人との戦闘においては勇者パーティーも大いに貢献した。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。火炎の力へとその姿を変えよ。魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。我が目前の敵を火炎となりて打倒し給え!ファイアボール」
 ドリストルが呪文を唱え終えると短杖の先に描かれた魔法陣より直径30㎝程度の大きさの火球が生まれ、豹系獣魔人へと命中した。
 燃え上がる豹系獣魔人。
 そこに七尾の菜々緒のものとは比べものにならないが、人族が持つには十分巨大な斧を持ったライオネルが斬りかかる。
「てりゃー!」
「グォォォォオ!」
 怯む豹系獣魔人の背後からバッシュが長剣で斬りつける。
「えい!」
「グワッ!おのれ!背後からとは卑怯な!」
「ふっ。戦闘においては卑怯もなにもないのさ!」
 振り返った豹系獣魔人の胸に長剣を突き刺すバッシュ。
 豹系獣魔人は力なくその場に倒れた。
「ふぅ。今回は順調だね。」
「そうっすね。勇者様!」
「あたしの魔術も効いてるしね。」
「怪我の治療は私にお任せください。」
 バッシュは近くで戦う帝国軍兵士と猫系獣魔人に目をとめる。
「次はあいつだ!行くぞ、ライオネル!」
「はい!勇者様!」
 その後も帝国軍兵士達では手に負えないが、そこまで強敵ではなさそうな相手を見つけては討伐していく勇者パーティーであった。

 バルバドスに特例兵士の2人もよく戦った。
 バルバドスが最初に相手にしたのは牛系獣魔人だった。
 牛系獣魔人は凧楯に長剣を持った剣士風な魔人だったが、やはり牛らしく突進してくる攻撃が多かった。
 長剣を突き出して己の角も突き出しつつ、突っ込んでくる牛系獣魔人を凧楯で押さえながら片手斧で攻撃しようとするバルバドス
「ぐぬぬぬ。」
 だが、その突進力に負けて吹っ飛ばされてしまう。
 何度目かの突進を受けた歳にその力の殺し方が分かってきた為、それから数回吹っ飛ばされた後は見事に受け止める事に成功し、その背中に片手斧でざっくりと切り傷を与えた。
 それからは牛系獣魔人も剣士らしく楯で攻撃を防ぎながら長剣で攻撃を繰り出す戦術に変更してきた。
 牛系獣魔人の長剣による斬り込みをバルバドスが凧楯で受け、片手斧で攻撃を繰り出すも牛系獣魔人の凧楯に防がれるといった攻防を何度も繰り返しているうちに、最初に背中に与えた傷が原因で牛系獣魔人の動きが悪くなってきた。
 血を流しすぎたのだ。
 その隙を見逃さずに片手斧を左首筋へと潜り込ませるバルバドス。
 これが致命傷となり牛系獣魔人は倒れていった。
 その後も猫系獣魔人や犬系獣魔人を始めとした数々の獣魔人を倒していったバルバドスであった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ヨルが100体目の獣魔人を倒し終えた所で、魔人側で立っている者はいなくなっていた。
 獣魔人は強さがまちまちだったらしく、帝国軍兵士達だけで討ち取れる魔人もいた為、戦闘自体は1時間も経たずに終了した。
 戦闘終了と判断したヨルは王化を解いた為、俺は緑鳥達に合流した。
 桃犬に持たせた水晶でバルバドスに連絡を取ってみる。
「おい。バルバドス。生きてるか?」
『うむ。どうにか生き延びたわ。』
「そうか。じゃあ帝国軍兵士達を1カ所に集めてくれ。また緑鳥がエリアヒールをかけてくれるそうだ。」
『うむ。それはありがたい。すぐに集めるから少々待ってくれ。』
「集まったら連絡をくれ。」
 そう言って通信を終えた。

 緑鳥のそばに皆の集まってきた。
 聞けば九大魔将を討ったのは金獅子だったそうだ。
 敵は強大で自慢の大剣が半分程度に折れてしまっていた。
 アダマンタイト製の大剣が折れるとは相当な膂力を持った相手と戦ったのだろう。
「よく折れた剣で勝てたな?」
「む?あぁ。俺様の奥の手を使ったからな。だが緑鳥が来てくれなかったら俺様も共倒れしておっただろうな。」
「そうか。相当強かったんだな。」
「あぁ。獅子系獣魔人でな。その膂力が半端なかった。俺様でも持ち上げるのが精一杯の巨大な斧を持っておったよ。これがその斧だ。」
 金獅子は折れた大剣の先と共に敵の武器であろう巨大な斧も持ってきていた。
「大剣の代わりにこれ使うのか?」
「いや。大剣を直す歳にアダマンタイトが必要になると思ってな。アダマンタイト製の大剣を折るくらいだ。これもアダマンタイト製の斧なんだと思う。」
「あぁ。直すのに使うのか。」
 俺は納得した。
 影収納に、折れた大剣と共にその巨大な斧を仕舞ってやる。
「でも直すとなればあの鍛冶師の村に戻る事になるだろ?」
「うむ。ひとまずは街の中に入ってみよう。もしかしたら鍛冶師がいるやもしれん。」
 と言う事で緑鳥が帝国軍兵士達に癒やしの奇跡を与えた後は街に入ってみる事にした。

 まだ街中には獣魔人がいるかもしれない。
 襲ってこられても大丈夫なように戦闘を紫鬼と灰虎、中衛を金獅子と白狐と黄豹で、残りは緑鳥を守るようにして街に入る。
 すると、
「新しい領主様のご帰還だ。」
「新領主様!」
「前領主様を破るとはお強いですな。」
「新領主様!バンザイ!!」
 何事かと思っていると金獅子が市民の1人に聞いてみる。
「新領主ってのは俺様の事か?九大魔将を倒した俺様達人間が憎くないのか?」
 すると市民達が口を揃えて言う。
「俺等獣魔人は強さが全てなんだ。」
「前領主様が最強だったが、その領主様を倒したんだ。貴方が新しい領主様に相応しい。」
「種族なんか関係ないだ。強いは正義だ。」
「そうだ。そうだ。」
 どうやら街の獣魔人達は戦う意思はなく、獅子系獣魔人を倒した金獅子を新領主として認めているらしかった。
「確かにあいつは自分に勝ったら街をくれてやるとか言うとったな。こう言う事か。」
 金獅子は1人納得した様子だった。
「お前達は戦う意思はないんだな?」
「獣魔王様に戦士団もやられちまったんだ。今更おら達が戦ったって勝てっこないからね。」
「新領主様に従うまでだべ。」
 と言う事で獣魔人の街は金獅子の物になったのだった。

 そうなれば外の帝国軍にも手出ししないように伝える必要がある。
 便利な水晶でバルバドスにこの事を伝える。
『わかった。街の市民は戦う意思がないのだな。それなら我々も手出ししないように通達しよう。』
 と言う事で帝国軍も街に入ってきた。
 帝国軍は先程の戦いによる死傷者は500名弱、いたようで今は5500名程度になっていた。
「この街に宿泊施設はあるか?」
 金獅子が市民の1人に問うと兎系獣魔人が答える。
「街に宿泊施設は沢山ありますだ。ばらけて貰うことにはなるけど、全員泊まれるだけの施設はあるだよ。」
 と言う事で帝国軍兵士達にはばらけて宿泊施設に泊まって貰う事になった。
 俺達と言えば、
「ささ。新領主様。領主邸にご案内しますだ。」
 と狸系獣魔人に言われてその後を着いていく。
 待ちの中はやはり人族領の街と大差ない。
 家々が並び、ところどころに店がある。
 どんな種族でも人が集まれば同じようなコミュニティを作るんだな。

 狸系獣魔人に連れられて到着したのは一際大きな邸宅だった。
 城とまではいかないが十分巨大な邸宅だ。
「ささ。新領主様、中へどうぞ。」
 俺達は言われるがままに中に入る。
 邸宅内は掃除が行き届いており、調度品も豪華すぎず、だが金がかかってそうな高級品で揃えられていた。
 邸宅内にはメイドが十数人待機していた。
 皆、兎系獣魔人や山羊系獣魔人、キリン系獣魔人など草食動物の獣魔人だった。
「やっぱり、肉食獣の獣魔人の方が戦闘向きなのかな?」
 俺がポツリと呟いた言葉にメイドの1人が答えてくれる。
「はい。戦士団はほとんどが肉食獣の獣魔人で構成されておりました。我々草食獣の獣魔人はあまり戦闘に向かない種族になります。」
 との事。
 戦士団の中には象系やら馬系やらもいたが少数派だったようだ。

「本日はお疲れでしょうからまずはお部屋でお休みください。お仲間の方々もゲスト用の部屋がございますのでそちらでお休みください。領主としてのお仕事については明日ご説明させて頂きます。」
 執事らしき格好の羊系獣魔人に言われ、俺達は個々に部屋があてがわれた。
 完全に気は抜けないがひとまずはベッドに横になる。
「なぁ。ヨル。魔人も人間も大差ないんだな。」
『なに言ってる。魔力を持つ人間が魔人だって前にも言っただろう?』
「確かに言われたけどさ。こうして普通の町並みとか見るとやっぱり実感するよ。」
『まぁここは無能の街と大差ない作りだしな。』
「人間にも戦えるやつと戦えないやつがいるように、魔人も戦えるやつと戦えないやつがいるって事だよな。」
『そうさな。帝国軍兵士達も魔人殺すべしって最初の勢いはなくなったしな。』
「だよな。戦いは避けられないけど、不要な戦いは避けるべきだよな。やっぱり。」
『なんだ。最初の方の集落での事を言ってるのか?』
「まぁね。もう過ぎたことだから後悔役にたたずだけどな。」
『あまり難しく考えるな。ひとまずは今日のところは寝ておけ。儂ももう寝る。』
 そう言うとヨルは枕元で丸くなった。
 俺も布団に入り眠りにつくのだった。

 こうして獣魔人達との戦闘は終わったのである。
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