黒猫と12人の王

病床の翁

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巨人1

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 巨人とはそもそもは巨神の眷族として巨神の比護の元、人族として存在していた種族である。
 しかし200年前の聖邪戦争の引き金となった邪神による巨神殺害を機にその比護を失い、巨神を破った邪神の眷族となり、魔族化した者達である。
 その寿命はエルフに並ぶほどであり、1000年とも2000年とも言われている。
 つまり個の力が大きいが為に種の存続の為に子孫を残す事が少ない。
 そのため40体弱の個体数にも関わらず、その半数は200年前の聖邪戦争を生き抜いた猛者達で構成されていた。
 四腕の四谷はそんな猛者達の中で族長を務める男であり、その力は悪魔族に獣魔族、海魔族に竜魔族と言った旧4大魔王に匹敵するほどであった。
 しかしながら魔族に加わったのが200年前と言う事もありその支配領地を広げる事が出来ずに険しい岩山にその住み家を得ていたのである。
 つまりその力は強大であり、今まで戦った単眼種、有角種、多眼種と異なりその種族全てが人語を操る魔人と化している稀有な種族でなのであった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 灰虎が駆け出し九大魔将の1人、四腕の四谷と名乗った巨魔人に迫る。
 ヨル達もそれに遅れて走り出した。
 敵の数は40体弱、1人は魔将の相手をするとして、緑鳥とそれを守る銀狼を除いて残り7人で対応するとなれば1人あたり7体は相手にしないといけない計算だ。
 しかも近付いてみるとその全てが人語を話している。
 つまり魔物ではなく魔人化していると言うことであり、その脅威度は跳ね上がる。

 灰虎が魔将の元に辿り着き大きく跳躍した。
 相手が5m超えと言う事もあり跳躍しないと足にしか攻撃出来ないのである。
 王化した際の身体能力向上効果もあり、灰虎は5m以上跳び上がり、魔将の顔面に向けて両腕の鉤爪を振り下ろした。
「喰らえ!」
 が、その攻撃は4本腕の1つに止められた。
 そしてお返しとばかりに残った3本の腕で灰虎に殴りかかる。
「それ。お返しよ。」
 空中にいてしかも攻撃を繰り出した直後でもあり、四腕のパンチが灰虎にぶち当たる。
 弾き飛ばされる灰虎。

 そんな灰虎を横目にヨル達も巨魔人達に近付き戦闘を開始した。
 俺の視界はヨルが制御している為、その後の灰虎の様子を確認する事は出来ないが、唯一の8m級の巨魔人には金獅子が向かっていったのが横眼に見えた。

 ヨルは左右に持った黒刃・右月と黒刃・左月で目の前に迫ってきた5m級の巨魔人に斬りかかる。
 1度すれ違っただけで、巨魔人の左足に十数カ所の切り傷がつく。
 肉は斬れたが太い骨に阻まれて切断には至らない。
 だが今まで戦ってきた魔人の感じから言うと巨魔人は魔法を放たない身体能力強化のパターンになるだろう。
 しかしヨルの持つ黒刃・右月と黒刃・左月はその皮膚を簡単に切り裂いた。
 一体何で出来ているのか。
 後で聞いてみようと思う。

 1体目の後方に回り込んだヨルは先程前面を切り裂いた左足に狙いを定めてまた斬りかかる。
 またしても骨に阻まれて切断には至らなかったがアキレス腱を切り裂く事に成功する。
 あまりの激痛に蹲る巨魔人。
 狙いやすい位置まで首元が下がった。
 首筋を狙ってヨルが跳び上がったところで2体目の巨魔人が横やりを入れてきやがった。
 跳び上がったヨルに叫びながらパンチを放ってきたのだ。
「人間!殺すだ!」
 ヨルは咄嗟に両手に持ったナイフでガードするも空中にいた事もあり1、2m程飛ばされた。

 そこで3体目の巨魔人が手にした巨大な長剣で斬りかかってくる。
 が、ヨルは逆手に持った左手の黒刃・左月で受け流し、斬りかかってきた事で中腰になっている3体目の顔面に向けて右手の黒刃・右月を突き出す。
「うぎゃー!」
 その黒刃・右月は見事に3体目の左目に突き刺さり悲鳴を上げさせるが、傷が浅く脳を破壊するには至らない。
「うぉー人間!殺す!!」
 そんな中4体目の巨魔人が声を上げながら、どこぞの大木を引き抜いて来たかのような太く巨大な棍棒で横殴りに襲いかかって来た。
 片や長剣を受け流し、片や3体目の眼球に差し込んでいる状態で手が足りないヨルは右脇腹に強打を受けてしまう。
「ぐっ!」
 薄い幕を張ったような感覚しかない俺にもその打撃の強さが伝わってくる。
 王鎧を纏ってはいてこれだ。生身なら確実に骨がいっていただろう。

 強打を受けて吹っ飛ばされたヨルだったが、何事もなかったかのように華麗に着地すると、屈んで影収納から4本の名も無きナイフを取り出す。
 一般的にサバイバルナイフと呼ばれる種類のナイフだ。
 ヨルは1本目のナイフを1番近くでまた、殴りかかろうとしてきた2体目の巨魔人の影に向けて投げ放つ。
「影縫い。」
 静かにヨルが言うのとナイフが2体目の巨魔人の影に刺さるのが同時だった。
 するとまるで縫いつけられたように2体目の巨魔人がパンチを繰り出した姿勢のまま固まる。
 2本目のナイフは長剣持ちの3体目の影に向けて投げ放つ。
「影縫い。」
 またしてもヨルが言うのと同時にナイフが影に刺さり3体目の巨魔人の姿勢を固める。
 そんな中近付いてきた棍棒持ちの4体目の影に3本目のナイフを投げる。
「影縫い。」
 またしても影にナイフが刺さるのと同時にヨルが言うと、4体目の巨魔人は棍棒を振りかぶった状態で固まる。
 最後の1本をアキレス腱を斬られながらもどうにか立ち上がってきた1体目の巨魔人の影に向けて投げた。
「影縫い。」
 ヨルが言いナイフが影に刺さる。
 1体目の巨魔人も立ち上がったポーズのまま固まる。
 そうだ。
 ヨルにはこの技があった。
 影を縫い付ける事で本体の動きも止めてしまうとんでもない代物だ。
 対象の動こうとする力の強さで縫い止めておける時間が変わると言うが、こんな混戦の中であれば30秒も止めておけば事が済む。

 ヨルは両手に持ち替えた黒刃・右月と黒刃・左月で縫い止めた巨魔人達を近い順にその首筋を切り裂いて行く。
 一撃で太い血管まで到着出来なければ2度、3度と切り刻む。

 やがて影縫いの効果が切れると共に4体の巨魔人は倒れて行った。
「「「「ぐぁー!」」」」
 影縫いで口元まで固められていた巨魔人達が一斉にうめき声を上げ始める。
 そして皆一様に首元を押さえながら痙攣している。このまま放って置けば出血多量で死に絶えるだろう。
「ふう。次行くか。」
 ヨルは呟くと別の棍棒持ちの巨魔人に向けて走りだした。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 爪王は最初に跳びかかってから3本の腕で殴られ数m転がされた。
 だがインパクトの瞬間に体を捻った事でダメージはあまりなかった。
 転がりながらも体勢を立て直して再度四腕に向かって駆け出す。
「風刃・虎空斬!」
 駆けながらもクロスした両腕を一気に振り下ろし風の刃を生み出す。
 生み出した風の刃の後を追うように駆ける爪王。
 対する四腕の四谷は、風の刃に向けて左脇の下から生えた拳を突き出す。
 拳圧で吹き飛ばそうと言うのだ。
 四腕の四谷の左拳と風の刃が激突する。
 勝ったのは風の刃で、四腕の四谷の左拳を切り裂く。
 と同時に風の刃の後から走り寄ってきた爪王が跳躍。
 今度は大きく両手を広げ、回転しながらその爪撃を顔面へと放つ。
「風刃・虎々回転斬!」
 必殺の回転斬撃も残った左腕に防がれてしまうが、大きくその腕を切り裂いた。
 しかしやはり太い骨に阻まれて肉を斬るばかり。
 さらに空いていた右の2本腕から放たれる拳を再度受けて後方に飛ばされてしまう爪王。
 明らかに腕の数だけ不利であった。

 しかし爪王は諦めない。
 何度も駆けだし跳躍しては顔面を狙い両腕の鉤爪を振るう。
 都度1本の腕で防がれて残り3本の腕で殴られ、吹っ飛ばされる。
 何度となく繰り返した鉤爪による斬撃は四腕の四谷の上側の両腕を激しく切り裂いた。
 四腕の四谷の2本の腕から血が滴る。

 が、ここでこれまで受け手に回っていた四腕の四谷が攻めに転じた。
 5m超えの巨体から放たれる下段突きの雨あられ。
 腕が4本もある為、それは絶え間なく隙間なく地上を襲う。
 爪王はなんとかそのスピードを活かし次々と放たれる下段突きを回避していた。
 が、そこで四腕の四谷が予想外の攻撃を仕掛けてきた。
 まるでボールでも蹴るかのような動作でつま先蹴りを放ってきたのだ。
 爪王の意識は完全に上から襲い来る4本の腕に注がれており、正面からの蹴りは予想出来ていなかった。
 その為、なんとか右腕を下げてつま先が胴体に刺さるのは回避したものの、数十mふっ飛ばされて転がった。
 爪王の右腕が王鎧ごとあらぬ方向を向いている。
 完全に折れてしまっているのだ。

 しかし、爪王は運がいい事に数十m吹き飛ばされたことで聖王の術の圏内に入ったのだ。
「灰虎様!ただ今治療を!」
 牙王に守られていた聖王が近づいてくる。
「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者に最高の癒しの奇跡を起こし給え。ハイヒーリング!」
 その詠唱が終わると聖王の持つ錫杖に付いた魔石からやさしい光が放たれ、爪王を包みこむ。
 すると明らかに折れ曲がってしまっていた爪王の右前腕が元の場所へと王鎧ごと戻っていく。
 聖術による癒しは本人の治癒力を高めることでその傷を癒すものである。
 爪王は数カ月かかる骨折の治療を一瞬のうちに完了させると聖王に向かって言う。
「ありがとう緑鳥!これでまだ戦えるっ!」
 そう言うと爪王は四腕の四谷に向かってまた駆け出す。

 その頃になって帝国軍も巨魔人達に肉迫していた。
 その中でも大楯持ちのシャラマンと細剣持ちのフェリオサは四腕の四谷に向かって走っていた。
「フェリオサよ!あの4本腕の攻撃をおれが楯で防ぐ!お前はその隙をついて脚の関節を破壊してくれ!」
「了解ですわ。シャラマン!」
 いつも通りの連携を行うつもりで四腕の四谷に近付く2人組。
 しかし、
「楯持ちか。小賢しいわっ!」
 四腕の四谷が右脇から生えた下右腕でシャラマンの大楯をぶん殴る。
 すると今までどんな攻撃も跳ね返してきたはずの大楯が大きく歪み、シャラマンが宙を舞った。
「ぐわーっ!おれの腕がぁ!」
 宙を舞い、地を転がったシャラマンの縦を持っていた方の腕が完全に向いてはいけない方向を向いている。
 四腕の四谷の打撃に体がついて行かなかったのだ。
 防御担当のシャラマンを失ったフェリオサもまたその無防備な左腕に左脇の下から生えた下左腕から放たれた拳を受け、吹き飛ばされる。
「あぁー!ワタシの腕がぁ!」
 宙を舞い、地を転がったフェリオサの左腕が完全に折れ曲がっていた。
 2人組は近くにいた兵士に連れられて衛生兵のいる後方へと連れていかれた。
 恐らく帝国軍の衛生兵であれば骨折くらいは治せると思われたが、この戦いの中で復帰することは難しいと考えられた。
 その為、特別な装備を持った特別な2人組が有無を言わさず吹き飛ばされるのを目撃した他の帝国兵士達は5人1組になりながらも四腕の四谷からは大きく距離を置いた位置に陣取っていた。
 誰も近づこうとしない。
 
そんな帝国軍兵士に向けて四腕の四谷は動き出したのだった。
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