黒猫と12人の王

病床の翁

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雪山

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 龍王・蒼龍と無事同流した銀狼と金獅子は、3人で最北東に位置する雪山へと来ていた。
 龍王と一緒に龍鳴山脈を下った銀狼達はその後立ち寄った村で1つの噂話を聞いたからだ。
 その噂話はこうだ。
「その昔、武神の加護を得た人物がいた。その人物は仙人になる為、1人雪山に籠り修行の日々を過ごしている。」
「その人物は仙人となって今もなお、その武を磨くため1人雪山で修行を繰り返している。」
 と言うのだ。
 武神の加護という言葉に引っかからないわけがない。
 そんなわけで3人は雪山を目指した。
 途中、麓の町で防寒着も購入した。
 なんでもイエティというAランクの魔物の毛皮を使った高級品らしく、獣王国から国庫の金を持ち出してきた金獅子でもびっくりするほどの額だった。

 雪山の道中はDランクの魔物、ブレードラビットのブレード部分が氷の結晶となっているアイスニードルラビットやCランクのジャイアントベア、Bランクのブルーベアなどが出没した。
 ブルーベアはレッドベアの近親種で炎の代わりに吹雪を吐く。
 氷属性の技を身に着けた銀狼にとってはそうでもないが、金獅子と蒼龍は寒さになれないようで、動きに切れがない。
 金獅子などは危うくブルーベアの爪に切り裂かれるところだったが銀狼が間に入ってきっちりブルーベアにとどめを刺した。
 銀狼達は吹雪により5m先も見通せないような環境下を山頂を目指して歩く。
 金獅子が言う。
「なぁ。本当にこんな猛吹雪が吹くような場所でずっと修行している奴なんていると思うか?」
「我なら1日も持たんだろうな。ここは寒すぎる。体が思うように動かせん。」
 そんなことを蒼龍も言い出した。
「でも他の神徒についての情報もないんだ。噂話でも確認しないわけにはいかないだろう。」
 銀狼は言う。
「あー。本当に寒いな!このイエティの毛皮で出来たコートも値段の割には寒いではないか!」
 金獅子がまたコート代の事を言い出した。
「わかった。わかった。出てくる魔物は全て俺が倒すから2人は取り敢えずついてくるだけでいいから。」
 銀狼はそう言って先頭を歩く。

 雪山を上り始めて早4時間。
 今は吹雪も収まっており、休憩するにはちょうど良かった。
 銀狼は1人焚火の準備をする。これも麓の町で購入した魔道具でボタン一つで3人が温まれるぐらいの火力の炎が出続けるものだ。
 寒冷地では必需品らしくこちらも相当な金額がかかっている。
 3人は携行食料と水分補給をする。
 普通の瓶では水が凍ってしまう為、保温が出来る魔法瓶という魔道具も購入していたのだ。
 同じくこちらも結構な金額がした。
 金獅子の財布も少し軽くなってしまった。

 それからもたまにの休憩を挟みながら山頂を目指す3人。
 時には猛吹雪で1m先も見えないほどであり、立ち止まる事もしばしばあった。
 そうして山頂に到着したのはほぼ夜になった時刻だった。
 夜は日中よりも気温が下がる。
 金獅子と蒼龍はもう動けないような状態だった。本当にこんなところに暮らす人間が居るのだろうか?
 もし居たとしたら本当に人間やめて仙人にでもなっているだろう。
 そんなことを3人で話ながら山頂を歩く。
 そして見つけた。

 その人物は猿を連想させる兜に紅色の全身鎧を身に纏い、2m程度の棍を持ち、1人棒術の訓練をしていた。
 その人物が動くたびに陽炎のように空気が揺らぐ。
 どうやらその人物自身が発熱しているらしかった。
 3人が近づいてもその人物は棒術の型を延々繰り返している。
「すいません。貴方が武神の加護を授かった王で間違いないですか?」
 銀狼が代表して聞くも反応はない。
 よほど訓練に没頭しているようだ。
 心なしかその人物に近づいたら寒さが軽減した。
 かなりの高温をその人物が発しているとわかる。
 しばらくしてその人物は動きを止めた。
「なんだその方らは?こんななにもない雪山になにしに参られた?」
 その声はしわがれておりかなり高齢な人物と思えた。
「オレ達は武神の加護を持つ王を探しにやってきた神徒です。貴方がその王で間違いないですか?」
「いかにも。拙者は80年前に武神様の加護を受けし王、武王である。」
 その発言を聞いて金獅子が呟く。
「80年前ってそこからずっとこの雪山で生活してたってのかよ。」
 武王はその呟きにも反応した。
「いかにも。武神様の加護を得てから拙者は山に籠り、己の武を磨いてきたのである。」
「80年間、一度も山から下りずに?水は?食事はどうしたんだ?」
 蒼龍が疑問を口にする。
「いかにも。拙者も最初のうちは魔獣の肉を喰らい、吹雪く雪を口に入れ水分を補給しておったが、年々その回数も減り、今はなにも口にせずとも生きて行けるようになった。」
「まじで?本当に人間やめて仙人になったってことか?」
 思わず銀狼も敬語をやめる。
「いかにも。拙者、仙人となる為に山に籠ったが、まだまだ己の武を高める為に修行の日々を過ごしているのである。」
「にしても80年って凄いな。」
 飽きれたように金獅子が言う。
「してその方らは何をしに参られた?」
 武王が問う。
 まだ自己紹介もしていなかったことに気付き話始める銀狼。
「オレは戦神の加護を持つ王、牙王。こっちが獣神の加護を持つ獣王、でこっちは龍神の加護を持つ龍王だ。ここへは貴方を迎えに来た。オレ達と一緒に来て欲しい。」
「はて?何故にその方らと共に行く必要がある?」
 武王が問う。
 どうやら神託を聞いていないようだ。
「神託があったんだ。邪神の復活を目論む邪神の神徒がいて、そいつを止める為に11人の神徒を集めろって。なんで貴方の元にはその話がいってないんだ?武神から神託があっただろう?」
 銀狼が簡単に説明する。
「いかにも。神託はあった。が俗世を捨てた身よ。拙者は残りの人生を自身の武を追求するのに使いたい。」
「なんだよ!神託聞いてるじゃないか!」
 銀狼が憤る。
 金獅子が言う。
「武を追求するにも相手があってのもんだろ?俺様達と一緒にくれば存分にその武を示せるぜ?」
 これには武王も唸る。
「確かに己だけでの修行にも限界はあるか。俗世に戻ってみるのも一興か。」
「そうだぞ。我らと一緒に来るがいいさ。」
 蒼龍も後押しする。
 金獅子といい蒼龍といい自分が早く雪山をおりたい一心で猛烈にアプローチする。
「この銀狼は魔人と戦ったんだ。それはもう強かったそうだ。そんな強者相手に武を振るってみたいだろ?」
「そうだぞ。魔人は他にも沢山いるはずだ。こんなところに籠っているよりもよっぽど修行になるだろうて。」
 金獅子と蒼龍は畳みかける。
「なぁ。俺様達と一緒に行こうぜ。」
「そうだぞ。我らと共に来るがいい。」
 そして武王が首を縦に振る。
「いかにも。拙者も己の武がどこまで通じるものか試してみたい気持ちはある。その方らと共に行くのも吝かではない。」
 説得が通じたのである。
 だが武王は言う。
「しかし、まずはその方らを相手に己の武がどこまで通じるか試すこととしよう。さあ勝負しろ。」
 いきなりの方向転換である。
 これには金獅子と蒼龍は肩を落とす。
 3人の中でこの雪山で普通に動けるのは銀狼だけであった為、代表して銀狼が相手する流れとなった。

「そのままで良いのか?」
 すでに王化状態の武王が言う。
「もちろんオレも王化させて貰うさ。王化!牙王!!」
 そう言うと左手中指にしたリングにはまる銀色の王玉から銀色に輝く靄が銀狼を包みこんだ。
 そして靄は全身に吸い込まれるように晴れ、残ったのは狼を想起させる兜に銀色の全身鎧を身に着けた牙王が立っていた。
「準備はよいか?いざ参る!」
 武王は急激に距離を詰め、棒術の間合いに入る。
猿炎連突きえんえんれんづき!」
 棍の先端に炎を纏った連続突きが牙王を襲う。
 牙王は咄嗟に飛び下がり、
「氷塊弾!」
 牙王の持つ双剣からそれぞれ1つずつこぶし大の氷塊が生まれ武王へと向かっていく。
猿炎回転棒えんえんかいてんぼう!」
 武王は手にした燃え盛る棍を自身の目の前で回転させ、氷塊を遮ると牙王に向かって走る。
猿炎蹴牙突えんえんしゅうがとつ!」
 燃え盛る棍を手に牙王へと突貫する。
「氷結狼々剣!」
 左右から双剣で切りかかり、ちょうど棍へと激突した斬撃はその名の通り燃え盛る炎すらも凍り付かせる。
「なんと!?拙者の炎が凍らされただと?」
 驚愕に慄く武王、その手から棍が落ちた。
「拙者の磨いてきた武が、猛吹雪の中でも燃え盛っていた炎が凍らされてしもうた。」
 膝から崩れ落ちる武王。
 よほどのショックだったのだろう。
 銀狼は声をかける。
「もう終わりってことでいいよな?実力は見せたわけだし。」
「いかにも。拙者、己の未熟さを知った。世界は広いな。」
 2人して王化を解く。
 武王はその声の通り老人だった。
 聞けば20代で神の加護を授かったらしいので100歳は越えている計算である。
 そんな老体の動きではなかった。
 さすが仙人である。
「じゃあ。改めて自己紹介を。オレは牙王・銀狼。こっちの金髪の鬣が獣王・金獅子で、こっちの蒼髪が龍神・蒼龍だ。」
「ふむ。拙者は紅猿こうえんだ。よろしく頼む。」
「自己紹介も終わったのだ。早く山を下りよう。俺様もう限界だ。」
 そういう事で4人で下山することになった。

 麓の町まで戻り、やっと一息ついた3人だったが、雪山に慣れた紅猿からすると少し下界は暑いらしい。
「ふむ。暑いな。久々に水が飲みたくなったわい。」
 そういうと1リットルの水を一気飲みする。
 何十年かぶりの水だ。
 本人は平気なつもりでも体は水分を欲していたのかもしれない。
「さて、これで4人が集まった。聖都にいる聖王も含めれば5人。約半分だ。」
 金獅子が言う。
「どうだろう。他の神徒が聖王国に集まっているかもしれん。一度戻ってみるのは?」
 これに対して銀狼が反論する。
「いや。せっかくこんな最東まで来たのだ。近くの旧王国領にも足を運んでみるべきだろう。」
 これには蒼龍も紅猿も口を揃えて言う。
「我は外の世界に詳しくない。地理もよくわからぬ故、お主らに任せよう。」
「いかにも。拙者が下界にいた頃は旧王国領などという場所はなかった。その方らに任せよう。」
 無効投票2票に1票ずつでは決まらない。
 ここは公平にジャンケンで決めることとなった。

 3本勝負。
 まず1回戦。
 銀狼は右手を自身の後ろに隠し、出す手を読ませないようにする。
 対する金獅子は両手を前に出し、どちらの手でジャンケンするのかわからないように工夫する。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 どちらも出した手はグー。
 あいこである。
 銀狼は今度は左手を自身の後ろに隠す。
 対する金獅子は先ほど同様に両手を前に出す。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 銀狼、パー。
 金獅子、グー。
 銀狼の勝ちである。
「くっそー!」
 悔しがる金獅子。
「同じ手を続けて出す癖は治ってないようだな。」
 銀狼が金獅子に向かって言う。
「なに?俺様の癖だと?狡いぞ!そんな手を持っていたとは!正々堂々と勝負しろ!」
 金獅子が憤る。
「勝ちは勝ちだ。まずは俺の1勝だな。」
 得意になって銀狼が言う。
「くっそがー!」

 続く2回戦。
 銀狼はまた右手を自身の後ろに隠し、出す手を読ませないようにする。
 対する金獅子も両手を自身の後ろに隠し、出す手を読ませないようにする。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 どちらも出した手はチョキである。
 また最初はあいこだ。
 銀狼はまた右手を自身の後ろに隠し、出す手を読ませないようにする。
 対する金獅子も両手を自身の後ろに隠し、出す手を読ませないようにする。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 どちらも今度はパー。
 あいこである。
 銀狼は今度は左手を自身の後ろに隠し、出す手を読ませないようにする。
 対する金獅子も両手を自身の後ろに隠し、出す手を読ませないようにする。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 銀狼、パー。
 金獅子、チョキ。
 金獅子の勝ちである。
「あぁー続けて同じ手なんかだすんじゃなかったー!」
 悔しがる銀狼。
 対して金獅子は、
「ふっふっふっ。これが大人な男のジャンケンよ。」
 訳が分からないことを言う。

 これで1対1、次の手で勝負が決まる。
 見守る2人も手に汗握る展開だ。
 銀狼は両手をだらりとさげて力を抜く。
 対する金獅子はまたも両手を自身の後ろに隠し、出す手を読ませないようにする。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 お互いグー、あいこである。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 お互いチョキ、あいこである。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 お互いグー、あいこである。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 お互いパー、あいこである。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 お互いチョキ、あいこである。
 ここまで5連続であいこである。
 2人はふっと息を吐く。
 金獅子はよほど力が入っていたのであろう。
 顔が真っ赤である。
 見守る2人も生唾を飲み込む。
「「ジャン!ケン!!ポン!!!」」
 銀狼、パー。
 金獅子、グー。
 銀狼の勝ちである。

 こうして銀狼達一行は旧王国領へと向かう事となったのである。
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