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一章
田舎の少年9
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ラブルがジックス商店で働き始めて数カ月が経った。
その数カ月の間に、剣技学校の仲間やバルト、ティナが町の学校へ通うため、引っ越しをしていった。
一方のラブルは、真面目に店の仕事をこなしていた。
先日まで暗かったラブルも、町に行けるかも。この言葉で表情を明るくした。
笑顔と挨拶。この数カ月でフルールに教えてもらったことだった。
人は明るくなれば自然と笑顔になる。
朝、店先の清掃を行いながら通りの人に挨拶をして、時に1言、2言と雑談を交わしていく。
もともと小さな村だ。
道行く人の顔を自然と覚えていく。
朝から、笑顔を向けられて煙たがる人はそういるものでもなく、ラブルに挨拶をされたものは気分良く各々の仕事へと向かって行った。
ラブルは、ジックス商会の朝の顔になりつつあった。
ある日、バイレンはお茶の入ったコップを片手に持ち、カウンターに座りながら帳簿を付けていた。
「明日、町へ買い出しに行って来ようと思うのだけど……」
バイレンは右手のペンを動かしながら視線を帳簿から上げず、フルールへ小さく声をかけた。
フルールは、ため息を一つ吐くと少しめんどくさそうな顔をして作業の手を止めてバイレンの方を向いた。
「またですか。 先週行ってきたばかりでしょうに」
愛娘のティナが、町の学校へ通うために家を出て行ってからずっとこんな感じだ。
娘に会いたいからだろう。何かと理由を付けて町へ行きたがる。
男親というものはこんな感じなんだろうと、ラブルは思っていた。
「いや、薬草の在庫が少ない気がしてね」
「ご主人様。 薬草の在庫はまだありますでしょうに。 それに先週もその前も薬草を買いに行くって言って町に仕入れに行っていたじゃないですか」
またかと呆れながらフルールは、バイレンに言った。
「……そうだよね。 たっぷり仕入れてあるからな……」
そう言い終えるとバイレンは、他に案もないのだろう。そのまま黙ってしまった。
行くほど時間が過ぎただろうか、店先に西日が差し込んできたころラブルは店の外で掃き掃除をしていた。
もうすぐ暗くなる通りには、ちらほら家路を急ぐ人が見えていた。
その中には、ラブルへ今日もお疲れと労いの言葉をかける者もいた。
ラブルもまた、お疲れ様ですと返事をしていた。
店内では、まだ帳簿を付けていたバイレンが何かを閃いたように声を出した。
「そうだ。 大事なことを忘れていた」
バイレンは、フルールに何かを伝えたそうに声をかけた。
フルールは、またかと興味なさそうにバイレンに返事をした。
「はい。 今度は何でしょうか」
バイレンは、これは名案だと言わんばかりに視線を上げフルールを見つめていた。
「そろそろ、ラブルへ仕入れとはどんなものか見せたほうが良いと思うんだ。 もう何カ月も頑張ってもらっているし、仕事への理解を深めるために必要な事だと思うんだ」
この人はいきなり何を言っているのだろうかと、フルールはぽかんとした顔をした。
「……そうかもしれませんが、こんな急じゃなくても良いんじゃないですか」
我に返ったフルールはバイレンの案に反論した。
「こういうことは、思いったったら即行動しないとダメなんだ。 商人としての直感だよ。 あぁ、聖女様の導きに感謝いたします」
バイレンはペンを置いて両の手平を組み、カウンターに肘を付け祈り始めた。
祈りを捧げているバイレンを横目に、もう何を言ってもダメだろうと諦めのため息を大きく一つ吐きフルールが言った。
「……ご主人様。 奥様にもきちんと許可を取って下さいまし。 日帰りで行ける場所ではないんですから。 こないだ無断で町に行き喧嘩なさっていたじゃないですか」
先週もバイレンは仕入れをすると言って、妻のミランダには継げずに町へ行っていた。
結果、夜になっても家に戻らないバイレンは、ミランダに浮気を疑われ散々な目に合っていた。
「わかっているよ。 あんな目にあうのはこりごりさ」
そう言い終えるとバイレンは視線を落とし、帳簿付けの作業に戻った。
その数カ月の間に、剣技学校の仲間やバルト、ティナが町の学校へ通うため、引っ越しをしていった。
一方のラブルは、真面目に店の仕事をこなしていた。
先日まで暗かったラブルも、町に行けるかも。この言葉で表情を明るくした。
笑顔と挨拶。この数カ月でフルールに教えてもらったことだった。
人は明るくなれば自然と笑顔になる。
朝、店先の清掃を行いながら通りの人に挨拶をして、時に1言、2言と雑談を交わしていく。
もともと小さな村だ。
道行く人の顔を自然と覚えていく。
朝から、笑顔を向けられて煙たがる人はそういるものでもなく、ラブルに挨拶をされたものは気分良く各々の仕事へと向かって行った。
ラブルは、ジックス商会の朝の顔になりつつあった。
ある日、バイレンはお茶の入ったコップを片手に持ち、カウンターに座りながら帳簿を付けていた。
「明日、町へ買い出しに行って来ようと思うのだけど……」
バイレンは右手のペンを動かしながら視線を帳簿から上げず、フルールへ小さく声をかけた。
フルールは、ため息を一つ吐くと少しめんどくさそうな顔をして作業の手を止めてバイレンの方を向いた。
「またですか。 先週行ってきたばかりでしょうに」
愛娘のティナが、町の学校へ通うために家を出て行ってからずっとこんな感じだ。
娘に会いたいからだろう。何かと理由を付けて町へ行きたがる。
男親というものはこんな感じなんだろうと、ラブルは思っていた。
「いや、薬草の在庫が少ない気がしてね」
「ご主人様。 薬草の在庫はまだありますでしょうに。 それに先週もその前も薬草を買いに行くって言って町に仕入れに行っていたじゃないですか」
またかと呆れながらフルールは、バイレンに言った。
「……そうだよね。 たっぷり仕入れてあるからな……」
そう言い終えるとバイレンは、他に案もないのだろう。そのまま黙ってしまった。
行くほど時間が過ぎただろうか、店先に西日が差し込んできたころラブルは店の外で掃き掃除をしていた。
もうすぐ暗くなる通りには、ちらほら家路を急ぐ人が見えていた。
その中には、ラブルへ今日もお疲れと労いの言葉をかける者もいた。
ラブルもまた、お疲れ様ですと返事をしていた。
店内では、まだ帳簿を付けていたバイレンが何かを閃いたように声を出した。
「そうだ。 大事なことを忘れていた」
バイレンは、フルールに何かを伝えたそうに声をかけた。
フルールは、またかと興味なさそうにバイレンに返事をした。
「はい。 今度は何でしょうか」
バイレンは、これは名案だと言わんばかりに視線を上げフルールを見つめていた。
「そろそろ、ラブルへ仕入れとはどんなものか見せたほうが良いと思うんだ。 もう何カ月も頑張ってもらっているし、仕事への理解を深めるために必要な事だと思うんだ」
この人はいきなり何を言っているのだろうかと、フルールはぽかんとした顔をした。
「……そうかもしれませんが、こんな急じゃなくても良いんじゃないですか」
我に返ったフルールはバイレンの案に反論した。
「こういうことは、思いったったら即行動しないとダメなんだ。 商人としての直感だよ。 あぁ、聖女様の導きに感謝いたします」
バイレンはペンを置いて両の手平を組み、カウンターに肘を付け祈り始めた。
祈りを捧げているバイレンを横目に、もう何を言ってもダメだろうと諦めのため息を大きく一つ吐きフルールが言った。
「……ご主人様。 奥様にもきちんと許可を取って下さいまし。 日帰りで行ける場所ではないんですから。 こないだ無断で町に行き喧嘩なさっていたじゃないですか」
先週もバイレンは仕入れをすると言って、妻のミランダには継げずに町へ行っていた。
結果、夜になっても家に戻らないバイレンは、ミランダに浮気を疑われ散々な目に合っていた。
「わかっているよ。 あんな目にあうのはこりごりさ」
そう言い終えるとバイレンは視線を落とし、帳簿付けの作業に戻った。
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