情けない少年の英雄譚

耳ふく 耳

文字の大きさ
上 下
7 / 14
一章

田舎の少年6

しおりを挟む
 何時間寝たのだろうか。
 朝が来た。なんの変哲もない、ただの朝だ。
 ただ一つ昨日と違うのは、今日からラブルは何をしたら良いのかという事だ。

 さて。どうしようか。ラブルは考えた。
 とりあえず、働き口を探さなくては。
 昨晩、たっぷりと寝たせいか、ドン底から底くらいに気持ちは回復していた。

 とりあえず、ギルドに求人を見に行こう。
 ラブルは、支度を整えて家を出た。

 ギルドといえば一般的に冒険者へ仕事を斡旋しているところであるが、数は少ないが一般職の求人も行なっている施設である。

 ドアを開けて中に入ると、丸テーブルが何個かとそれに見合う数の椅子がならべられ、奥にカウンターがあった。
 カウンターからは受付の女性が珍しそうなのがやってきたと、珍獣でも見るような目でラブルを眺めていた。

 「求人を見たいのですが……」

 「あっちの壁に貼ってありますよ」

 受付嬢の指差す壁を見ると1枚の紙が貼ってあった。
 近づいて見ると、まだ新しいその紙には、ジックス商店 店員募集 お気軽にご応募ください……と書かれていた。

 「すみません。求人って、この1枚しかありませんか?」

 受付嬢に尋ねた。

 「そうですね。今はそこだけですよ。 それは今朝新しく貼ったものですよ。」

 受付嬢は、事務的に滑らかに答えた。

 そうですか……。
 ラブルはガッカリした。
 ジックス商店の求人に、気が進まなかった。
 ティナの家だからだ。

 「あなた、ずいぶんと若そうだけど働くのかい? 剣技の学校はどうしたの?」

 やはり、この年で求人を探すことは珍しいらしく、受付嬢はラブルの触れられたくない部分に触れてきた。

 「いや、剣技の試験に落ちてしまって……年は13です」

 「あらそうなの。残念ね。 なら、なおさらジックス商会がいいわよ。 たしか、あなたぐらいのお嬢さんがいたはずよ」

 ラブルは迷っていた。このままジックス商会を受けてもいいものか。
 試験に落ちたら自分のうちで使ってやる。
 ティナの言った通りになってしまいそうで、シャクだった。
 しかし、他に求人もなくラブルはジックス商店を受けることにした。
 ラブルは受付嬢にお礼を言って、ギルドを後にした。

 家に戻り、一通りの身なりを整えたラブルは、すぐにジックス商店へと足を向けた。

 ミリテロム村の中心、商店街の更に真ん中にジックス商店はあった。
 他の商店よりも一回り大きな店構えは、まさにここが村の中心だとアピールしているように思えた。
 このお店には子供のころから、買い物やらティナを遊びに誘うやらで何回も通っていて、もう通い慣れたものだ。
 ラブルは子供の頃から何回も来たことのあるドアを開け、初めて襟を正して入った。

 中に入ると日用品や農機具の並べられた棚が目に入る。
 カウンターには誰もいない。
 何か作業でもしているのだろうか。
 通い慣れてはいるものの、今日は要件が違う・
 ラブルは緊張をしながら無人のカウンターに声をかけた。

 「ごめんください」

 すると、カウンターの死角になっている場所から、中年の女性が出てきた。
 フルールさんだ。
 フルールさんは、昔からジックス商会に勤めていて子供のころから顔なじみな存在だ。

 「いらっしゃいま……なんだ、ラブルかい。 今日はどうしたんだい? 買い物かい?」

 フルールは、カウンター越しのラブルへ声をかけながら、カウンターへ手をつき体重をかけた。

 「いえ、今日は別の用事で……」

 「じゃあ、どうしたんだい。」

 いくら顔なじみとはいえ、緊張をしてなかなか要件を言わないラブルへフルールは

 「わかった。 お嬢様をデートに誘いに来たんだろう。 ラブルもやるね。 お嬢様は奥にいらっしゃるよ」

 と、冗談を言って見せた。
 この冗談に少し緊張の取れたラブルは、本題を切り出した。

 「いや、違いますよ。 僕は、ギルドでここの求人の紙を見て……」

 「おや、あの求人を見ての応募かい。 なら採用はお嬢様が行っているから、お嬢様を呼ぶわね」

 そう言い終えるとフルールは、1つ大きく息を吸い込んで大きな声を上げた。

 「おじょうさまーーー」
 
 いきなりの大声にラブルはびっくりして耳を押さえた。
 フルールは大きな声を出したてストレスが発散されたのか、満足そうな顔をしていた。

 「何の騒ぎよ。 うるさいわね」

 店の奥からティナが耳に人差し指を少し詰めて出てきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...