上 下
43 / 52

42話 友情と嫉妬の狭間で

しおりを挟む
授業が終わり、教室に静かな時間が流れ始めた。美咲は窓際の席で、ぼんやりと外を眺めていた。その瞳には、何か物思いに耽るような色が宿っている。

「ねえ、結城さん」

美咲が小さな声で呼びかけると、近くまで来ていた花子が返事をする。

「どうしたの、美咲?」

美咲は少し躊躇いながらも、口を開いた。

「最近、太郎くん...東雲先輩の話ばかりだよね」

その言葉に、花子は意外そうな表情を見せた後、すぐに理解したように頷いた。

「そうだね。確かに東雲先輩の話題が多いかも」花子は少し考え込むような仕草をしてから続けた。「私たちももうちょっとかまってほしいよね」

美咲は少し慌てたように否定する。「か、かまってほしいっていうのは、ちょっと...」

花子はくすりと笑う。「美咲ったら、素直じゃないなぁ」

美咲は顔を赤らめながら俯く。その表情には、言葉にできない複雑な感情が浮かんでいた。

突然、花子が明るい声を上げる。「そうだ、太郎を誘って遊びに行こうよ」

「え?」美咲は驚いて顔を上げる。

「大丈夫だって。みんなで楽しめばいいんだよ。どこに行こうか?」

二人は頭を寄せ合い、行き先を相談し始める。カラオケ、映画、遊園地...様々な案が飛び交う中、美咲の表情が少しずつ明るくなっていく。

「あ、太郎だ」

花子の声に、美咲は慌てて振り向いた。確かに、太郎が教室の入り口から入ってくるところだった。

「よし、確保しちゃおう!」

花子が立ち上がり、勢いよく太郎に近づく。

「太郎ー!」

花子は太郎の腕に抱きつくようにして、体を寄せた。

「うわっ!」太郎は驚いて声を上げる。「な、なんだよ急に」

「ねえねえ、今度美咲と三人でで遊びに行こうよ」花子が甘えるような声で言う。「太郎、暇でしょ?」

「え?あ、ああ...」太郎は戸惑いながらも、嬉しそうな表情を隠せない。「別に...暇だけど」

花子はさらに体を寄せる。「じゃあ決まりね!」

太郎は顔を赤らめながら、どう対応していいかわからない様子だ。しかし、その表情には確かな喜びが浮かんでいる。

一方、美咲はその光景を複雑な思いで見つめていた。太郎と花子の距離の近さに、胸が締め付けられるような感覚を覚える。

同じように太郎と接したいが美咲には勇気がない。ただ、もどかしそうに二人を見つめるばかりだ。

しかし、そんな美咲の様子を見逃さなかった人物がいた。

「美咲もおいでよ!」

花子が明るく声をかける。

「え?」

「ほら、みんなで行くんだから」

そう言いながら、花子は美咲の手を引っ張る。

「ちょ、ちょっと...」

美咲が戸惑っていると、花子は太郎の腕を離し、今度は美咲を太郎に押し付けるように近づけた。

「ほら、美咲も太郎と仲良くしなさい」

「えっ!?」

美咲と太郎の声が重なる。二人の体が接近し、互いの体温を感じられるほどの距離になる。

「ちょっと待ってってば!」美咲が真っ赤な顔で抗議する。

花子は二人の反応を見て満足したようにうなずく。

「よし!じゃあ、遊びに行く予定を立てましょう!」

しかし、太郎が少し心配そうな顔をして口を開いた。

「でも、テストは大丈夫なのか?」

花子は一瞬焦ったような表情を見せる。「もう、太郎ったら!そんなこと言わないでよ」

「え?」太郎は首を傾げる。

花子は大げさなため息をつきながら説明する。「これはね、最後の息抜きなの。テスト前だからこそ、リフレッシュが必要なのよ」

「なるほど...」太郎は半信半疑といった様子だ。

花子が続ける。「もう暑くなってきたし、プールとかどう?」

その言葉に美咲は俯き、太郎も驚きながらも、どこか嬉しそうな表情を隠せない。

「プール...か」太郎が呟く。

花子はニヤリと笑う。「太郎、エッチな顔してる」

「そ、そんなことないよ!」太郎は慌てて否定するが、その顔は明らかに期待に満ちている。

美咲は小さな声で言った。「でも...水着...」

花子が思い出したように言う。「そっか、水着用意しなきゃいけないんだ。今度にしよ」

花子は、太郎の表情が残念そうなのを見て、くすくすと笑い出した。

「太郎ったら、そんなに水着が見たいの?」

「え!? ち、違うよ!」太郎は慌てて否定する。

美咲も太郎の反応を見て、少し複雑な表情を浮かべる。

花子は大きく手を叩いた。「じゃあ、とりあえずカラオケでも行こうか!」

太郎も頷く。「そうだな。カラオケなら準備もいらないし」

美咲も頷いた。「うん...カラオケ行こう」

「よーし、じゃあ決まり!」花子が元気よく言う。「来週の土曜日、みんな空いてる?」

太郎と美咲が頷くのを確認すると、花子は満足そうに笑った。

三人は楽しげな表情で自分の席へと戻っていった。太郎は自分の席に腰を下ろすと、花子と美咲を交互に見つめた。二人の笑顔に、太郎の胸は温かな期待で満たされていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

私の話を聞いて頂けませんか?

鈴音いりす
青春
 風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。  幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。  そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。

2度めの野球人生は軟投派? ~男でも野球ができるって証明するよ~

まほろん
青春
県立高校入学後、地道に練習をして成長した神山伊織。 高校3年時には、最速154キロのストレートを武器に母校を甲子園ベスト4に導く。 ドラフト外れ1位でプロ野球の世界へ。 プロ生活2年目で初めて1軍のマウンドに立つ。 そこで強烈なピッチャーライナーを頭部に受けて倒れる。 目覚めた世界で初めてみたプロ野球選手は女性たちだった。

処理中です...