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19話 体育祭の朝

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体育祭当日の朝、太郎は少し緊張した面持ちで学校に向かっていた。青空が広がり、絶好の体育祭日和だ。校門に近づくにつれ、すでに集まっている生徒たちの声が聞こえてくる。

「おはよう、太郎!晴れてよかったね!」

後ろから明るい声がした。振り返ると、花子が笑顔で手を振っていた。

「ああ、おはよう。ホントに、一安心だよ」太郎も笑顔で返す。

二人で歩いていると、前方に見覚えのある後ろ姿が見えた。

「あ、神崎だ」太郎が声をかける。「神崎おはよう」

神崎美咲が振り返り、柔らかな笑顔を見せる。「おはよう、鳴海くん、結城さん」

三人揃って校門をくぐる。校庭には既に多くの生徒が集まっており、活気に満ちていた。紅白の幕が風になびき、応援団の太鼓の音が響いている。

「わぁ、すごい熱気!」花子が目を輝かせる。

神崎も静かに頷いた。「みんな、やる気に満ちてるね」

太郎は深呼吸をして、心を落ち着かせようとする。今日という日のために、みんなで一生懸命準備してきたのだ。

「よーし、今日は思いっきり楽しもう!」花子が元気よく言う。

「ああ」太郎も頷く。「みんなで頑張ろう」

「うん、頑張りましょう」

その時、マイクを通した声が校庭に響き渡る。

「おはようございます。生徒会長の東雲翔子です」

艶やかな声に、生徒たちの視線が一斉に向けられる。東雲は白いブラウスに紺のスカート姿で、颯爽と壇上に立っていた。

「今日という日を、精一杯楽しんでください。皆さんの熱い闘志と団結力で、素晴らしい体育祭にしましょう」

東雲の力強い言葉に、生徒たちから歓声が上がる。

「実行委員の皆さん、準備お疲れ様でした。今日は自信を持って運営に当たってください」

その言葉に、太郎と花子は顔を見合わせて頷いた。苦労が報われる気がして、少し胸が熱くなる。


着替えをすまし開会式が始まる。

校長先生の話を聞きながら、太郎の頭の中では様々な思いが渦巻いていた。借り物競争のこと、そして...隣に立つ花子と美咲のこと。

(今日一日、どんなことが起こるんだろう...)

太郎のそんな思いをよそに、体育祭は華々しく幕を開けた。

最初の種目は大縄跳びだ。太郎も参加し息を合わせてみんなで跳ぶ。

回数こそは多くないものの、本番でも練習の成果が発揮されて満足の結果がでた。

次は障害物競走。クラスメイトたちの奮闘ぶりに声援を送る。

「頑張れー!」花子が声を張り上げて応援する。

神崎も「みんな、がんばって!」と珍しく大きな声で声援を送る。

そして、いよいよ借り物競争の時間が近づいてきた。

「よし、準備はできてるな」太郎が花子に確認する。

「バッチリ!」花子が親指を立てて答える。

神崎も「二人とも頑張ってね」と励ます。

太郎と花子は運営側として、競技の準備や進行を担当する。参加はできないが、自分たちが企画した競技が成功することへの期待で胸が高鳴る。

しかし、その時である。

「おや、みなさん準備は順調?」

振り返ると、そこには東雲翔子が立っていた。

「あ、東雲先輩...」太郎が少し驚いて応じる。

東雲は意味ありげな笑みを浮かべながら言った。「楽しみにしているわ。特に...『気になる人』の項目がね」

その言葉に、太郎は思わずドキリとした。花子も少し落ち着かない様子。

「それじゃ、頑張ってね」

そう言い残して去っていく東雲。残された三人は、複雑な思いを抱えながら借り物競争の準備に取り掛かる。

太郎の頭の中では、「気になる人」という言葉が繰り返し響いていた。クラスメイトたちは誰を選ぶのだろうか。

花子を見る。明るくて元気な花子。いつも自分を励ましてくれる大切な存在。

神崎を見る。静かで優しい神崎。最初に好きになった女の子。


借り物競争の開始の合図が鳴り響いた。

「よーし、始まるよ!」花子の声が太郎の耳に届く。

「うん、しっかり運営しよう」太郎も気合を入れ直す。

神崎も「私も手伝えることがあったら言ってね」と微笑む。

三人の視線が交差する。その瞬間、太郎は不思議な感覚に包まれた。この二人との関係が、今日を境に何か変わるのかもしれない。そんな予感と共に、借り物競争が始まろうとしていた。
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