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診療記録 ー
患者・住吉カナデ1-2
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真夏の日差しがアスファルトにあたって
跳ね返って目に入ってくる感覚がある。
目から紫外線が入って日焼けすると聞いたことがあるけど、
気にしていない。
日焼け止めも、焼けると痛いから塗るという程度だ。
色白のかわいい友人を羨ましいとは思うけど、
日焼けしたって、色白だったって
私の人生には関係ない。
私は
ただ、惰性で生きている
別に、今すぐ死んだっていい。
そんな思いで今まで生きてきた。
樋口先生に会ってからは、少しだけ、考え方がかわった。
「じゃあ、今日のカウンセリングは以上。
しかし、毎日暑いね。カナデくんは体調、崩してない?」
あまりクーラーをきかせていないからか、
おでこにうっすら汗をかいて、樋口先生は私をみた。
カウンセリングルームにも、セミの鳴き声が聞こえてくる。
もうすぐ、夏が終わる。
「私は大丈夫です…あ、悪くはないです。
普通というか。」
「うん、普通、良し。」
「ふふ。樋口先生は、熱中症とか、大丈夫ですか?
あ、この大丈夫ですか、は良いですか?」
樋口先生には、なるべく、大丈夫という言葉を使わずに会話をしようね、
と最初の頃に言われた。
「あはは。そうだね。ぼくのことを心配しての大丈夫ですか?だから、良しとしよう。」
「ふふ。はい。」
「僕も、普通かな。最近は?何してるの?」
「んー、普通に会社行って、家帰って、テレビみて、寝る。ですかね。」
「何か面白い番組、あった?」
「興味もったのは、イヤーワーム?でしたっけ?それについてやってる番組があって。」
「脳内で、音楽が流れるあれだね。」
「ふふ。そうです、あれです。
朝からサザエさんの歌ずっと頭に流れてるんだよね~とか日常で話すことありますけど、深く考えたことなんてなくて。
イヤーワームっていう名前があるんだって初めて知りました。」
「不思議な現象だよね。原因なんかはわかってないからね。
人間の脳みそってのは、未知だね。」
「ほんとに。そうですね。」
樋口先生はわたしに、
ただ生きる、というのは生物にとって正解だと言ってくれた。
惰性で生きる私を、肯定してくれた。
ただ、植物も動物も、生きようとして生きている。日光を効率よくあびにいったり、タネをとばしたり、他の動物から命をもらったり、奪われまいと守ったり。
だから、生きることを否定して欲しくはないな。
僕たち人間も、生きるために生まれてきたんだと思うんだ。
そう、言ってくれた。
目的を持って生きようとしなくてもいい。
生きるために生きてほしい。
その言葉は、私に新鮮な空気を吸わせてくれた。
「カナデくん。夢は、まだ見続けてるんだね?」
樋口先生は何かを考えながら、ふと、私に聞いてきたように思えた。
「あ…はい。」
「夢を見ることが日常を送るのに支障をきたしているなら、ひとつ、紹介できる治療があるけれど、聞いてみるかい?」
「治療…」
「夢を、プログラミングする治療なんだ。」
跳ね返って目に入ってくる感覚がある。
目から紫外線が入って日焼けすると聞いたことがあるけど、
気にしていない。
日焼け止めも、焼けると痛いから塗るという程度だ。
色白のかわいい友人を羨ましいとは思うけど、
日焼けしたって、色白だったって
私の人生には関係ない。
私は
ただ、惰性で生きている
別に、今すぐ死んだっていい。
そんな思いで今まで生きてきた。
樋口先生に会ってからは、少しだけ、考え方がかわった。
「じゃあ、今日のカウンセリングは以上。
しかし、毎日暑いね。カナデくんは体調、崩してない?」
あまりクーラーをきかせていないからか、
おでこにうっすら汗をかいて、樋口先生は私をみた。
カウンセリングルームにも、セミの鳴き声が聞こえてくる。
もうすぐ、夏が終わる。
「私は大丈夫です…あ、悪くはないです。
普通というか。」
「うん、普通、良し。」
「ふふ。樋口先生は、熱中症とか、大丈夫ですか?
あ、この大丈夫ですか、は良いですか?」
樋口先生には、なるべく、大丈夫という言葉を使わずに会話をしようね、
と最初の頃に言われた。
「あはは。そうだね。ぼくのことを心配しての大丈夫ですか?だから、良しとしよう。」
「ふふ。はい。」
「僕も、普通かな。最近は?何してるの?」
「んー、普通に会社行って、家帰って、テレビみて、寝る。ですかね。」
「何か面白い番組、あった?」
「興味もったのは、イヤーワーム?でしたっけ?それについてやってる番組があって。」
「脳内で、音楽が流れるあれだね。」
「ふふ。そうです、あれです。
朝からサザエさんの歌ずっと頭に流れてるんだよね~とか日常で話すことありますけど、深く考えたことなんてなくて。
イヤーワームっていう名前があるんだって初めて知りました。」
「不思議な現象だよね。原因なんかはわかってないからね。
人間の脳みそってのは、未知だね。」
「ほんとに。そうですね。」
樋口先生はわたしに、
ただ生きる、というのは生物にとって正解だと言ってくれた。
惰性で生きる私を、肯定してくれた。
ただ、植物も動物も、生きようとして生きている。日光を効率よくあびにいったり、タネをとばしたり、他の動物から命をもらったり、奪われまいと守ったり。
だから、生きることを否定して欲しくはないな。
僕たち人間も、生きるために生まれてきたんだと思うんだ。
そう、言ってくれた。
目的を持って生きようとしなくてもいい。
生きるために生きてほしい。
その言葉は、私に新鮮な空気を吸わせてくれた。
「カナデくん。夢は、まだ見続けてるんだね?」
樋口先生は何かを考えながら、ふと、私に聞いてきたように思えた。
「あ…はい。」
「夢を見ることが日常を送るのに支障をきたしているなら、ひとつ、紹介できる治療があるけれど、聞いてみるかい?」
「治療…」
「夢を、プログラミングする治療なんだ。」
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