上 下
43 / 71
1章・戦火繚乱編

44、ある兵士の手紙

しおりを挟む

 帝国兵の手紙の束。

――五月十日。
 カセイ侯がカセイ国とか名乗って帝都に侵攻してきた。
 俺の隊はエルグスティア様の指揮下で帝都待機になった。
 母さん、陛下の為にって家を飛び出したけど、まだ手柄は立てられそうにない。
 さすがに帝都まで攻められたりしないしな。

 五月十三日。
 ここ三日間、帝都で強盗やら殺人やらが多くなった。
 帝都の守りというより衛兵みたいな仕事ばかり続くよ。
 同僚にゃ徴兵された奴らも多くて皆、家族を心配してる。
 カセイ国よりも街のチンピラの方が怖いよ。

 五月十五日。
 旗色悪く、前線がだいぶ後退しているらしい。
 前頭指揮のハルアーダ様が帝都に帰還して作戦会議に出ているらしい。
 ピンチはチャンス! 敵が来たら活躍してやるぜ!

 五月十六日。
 母さん! 聞いてくれ! どうやら援軍が来てくれたらしい。モンタアナって所だ。
 同僚が言うには都の多くの人がモンタアナに向かったらしいよ。母さんも帝都から村に敵が来そうだったら、皆を連れてモンタアナに向かったらどうだろう。

 追記、エルグスティア様が隊を連れて出陣するそうだ。
 俺も行ってくるよ。

 五月(血と泥で読めない)日
 皆死んだ。俺も隊からはぐれた。
 砦に籠って戦ったけど、敵の数が多くてチクショウ。ガ・ルスっていったか。あの化け物! 城壁に雲梯で上がってきたところを十人以上で囲んだのに一瞬で皆殺された!
 それにモンタアナの連中は裏切ったんだ。
 そうじゃないと、なんで敵はいつまで経っても退かないんだ!? くそ! くそくそくそ!
 今は木の根っこに隙間があって、そこに隠れている。
 時々カセイの連中が行き交う音がする。
 
 五月十九日。
 ああ! クソッタレ!
 今日、落ちた砦を見に行ったら、はぐれた連中達が皆、槍に串刺しにされて掲げられてた!
 ケツから口にまで一直線にだ! それを見てあいつら笑ってやがった! 悪魔だ! 人じゃねえ!
 くそ! 足音がいつも行き交うと思ったけど、あいつら森に逃げた俺達残党を探してやがる。串刺しにするつもりか?
 生きてやる。くそ!

 五月二十日。
 帝都は落ちたと思う。
 助けは来ないだろう。
 昨日の夜から雨が降ってて、濡れた体が寒い。もう五月なのにだぜ?
 おまけに、木の根と地面のこの隙間に、足の沢山ある虫達が雨を逃れて入ってくる。
 時々顔の上に落ちてくるんだ。気持ち悪い。
 雨水が垂れてきて寝転んでる場所がぬかるんできた。
 腹も減ったよ。
 この近くにカセイの連中が陣地を張ってるから、食べ物もあるはずだ。着替えも。
 今夜、雨に紛れてあいつらの陣地から服と食べ物を盗んでやる。

 五月二十一。
 クソッタレ! 昨夜は結局バレた!
 あと少しだったのに。
 森の中を何とか逃げられないか? 無理だ。
 帝都の方に行ったらカセイの奴らに鉢合わせるだろう。
 北とか西はそれこそ無理だ。絶対に森道に迷う。
 下手すりゃ奴らに見つかって串刺しだ。
 
 五月.......なんにちだっけ。
 母さん。凄い熱が出てる。頭がぼうっとするんだ。
 腹も空いた。足の沢山ある虫を食べてみたけど、食えたもんじゃないね。
 苦いし、口の中がいまだにピリピリする。
 寒いよ。
 足音も凄い近い。
 この間、陣地に忍び込んだせいで、俺がいる方向がバレちまったみたい。
 なんでこんな所にいるんだろう。母さんと一緒に畑を耕してればこんな事にはならなかったのに。
 この数日、よく子供の頃を思い出すんだよ。
 隣の家のエリオットって覚えてる? あいつに何度も泣かされただろ?
 嫌な記憶なのに、やたらとあの時のことを思い出すんだ。そして、エリオットをぶん殴ってぶっ殺してやれば良かったってね。
 もう俺は泣き虫じゃないぜ。沢山訓練したからな。戦争で手柄をたてて、騎士にだってなれるさ。
(ミミズののたくったような字が続く)

(乱雑で解読不能)
 あしおとあしおとあしおと凄い近い
 バレた? なんで? なんで?
 声する。死にたくない死にたくない
 ここを見ないでどっかいって
(乱雑な字)かあさん――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...