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1章・戦火繚乱編
44、ある兵士の手紙
しおりを挟む帝国兵の手紙の束。
――五月十日。
カセイ侯がカセイ国とか名乗って帝都に侵攻してきた。
俺の隊はエルグスティア様の指揮下で帝都待機になった。
母さん、陛下の為にって家を飛び出したけど、まだ手柄は立てられそうにない。
さすがに帝都まで攻められたりしないしな。
五月十三日。
ここ三日間、帝都で強盗やら殺人やらが多くなった。
帝都の守りというより衛兵みたいな仕事ばかり続くよ。
同僚にゃ徴兵された奴らも多くて皆、家族を心配してる。
カセイ国よりも街のチンピラの方が怖いよ。
五月十五日。
旗色悪く、前線がだいぶ後退しているらしい。
前頭指揮のハルアーダ様が帝都に帰還して作戦会議に出ているらしい。
ピンチはチャンス! 敵が来たら活躍してやるぜ!
五月十六日。
母さん! 聞いてくれ! どうやら援軍が来てくれたらしい。モンタアナって所だ。
同僚が言うには都の多くの人がモンタアナに向かったらしいよ。母さんも帝都から村に敵が来そうだったら、皆を連れてモンタアナに向かったらどうだろう。
追記、エルグスティア様が隊を連れて出陣するそうだ。
俺も行ってくるよ。
五月(血と泥で読めない)日
皆死んだ。俺も隊からはぐれた。
砦に籠って戦ったけど、敵の数が多くてチクショウ。ガ・ルスっていったか。あの化け物! 城壁に雲梯で上がってきたところを十人以上で囲んだのに一瞬で皆殺された!
それにモンタアナの連中は裏切ったんだ。
そうじゃないと、なんで敵はいつまで経っても退かないんだ!? くそ! くそくそくそ!
今は木の根っこに隙間があって、そこに隠れている。
時々カセイの連中が行き交う音がする。
五月十九日。
ああ! クソッタレ!
今日、落ちた砦を見に行ったら、はぐれた連中達が皆、槍に串刺しにされて掲げられてた!
ケツから口にまで一直線にだ! それを見てあいつら笑ってやがった! 悪魔だ! 人じゃねえ!
くそ! 足音がいつも行き交うと思ったけど、あいつら森に逃げた俺達残党を探してやがる。串刺しにするつもりか?
生きてやる。くそ!
五月二十日。
帝都は落ちたと思う。
助けは来ないだろう。
昨日の夜から雨が降ってて、濡れた体が寒い。もう五月なのにだぜ?
おまけに、木の根と地面のこの隙間に、足の沢山ある虫達が雨を逃れて入ってくる。
時々顔の上に落ちてくるんだ。気持ち悪い。
雨水が垂れてきて寝転んでる場所がぬかるんできた。
腹も減ったよ。
この近くにカセイの連中が陣地を張ってるから、食べ物もあるはずだ。着替えも。
今夜、雨に紛れてあいつらの陣地から服と食べ物を盗んでやる。
五月二十一。
クソッタレ! 昨夜は結局バレた!
あと少しだったのに。
森の中を何とか逃げられないか? 無理だ。
帝都の方に行ったらカセイの奴らに鉢合わせるだろう。
北とか西はそれこそ無理だ。絶対に森道に迷う。
下手すりゃ奴らに見つかって串刺しだ。
五月.......なんにちだっけ。
母さん。凄い熱が出てる。頭がぼうっとするんだ。
腹も空いた。足の沢山ある虫を食べてみたけど、食えたもんじゃないね。
苦いし、口の中がいまだにピリピリする。
寒いよ。
足音も凄い近い。
この間、陣地に忍び込んだせいで、俺がいる方向がバレちまったみたい。
なんでこんな所にいるんだろう。母さんと一緒に畑を耕してればこんな事にはならなかったのに。
この数日、よく子供の頃を思い出すんだよ。
隣の家のエリオットって覚えてる? あいつに何度も泣かされただろ?
嫌な記憶なのに、やたらとあの時のことを思い出すんだ。そして、エリオットをぶん殴ってぶっ殺してやれば良かったってね。
もう俺は泣き虫じゃないぜ。沢山訓練したからな。戦争で手柄をたてて、騎士にだってなれるさ。
(ミミズののたくったような字が続く)
(乱雑で解読不能)
あしおとあしおとあしおと凄い近い
バレた? なんで? なんで?
声する。死にたくない死にたくない
ここを見ないでどっかいって
(乱雑な字)かあさん――
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