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異世界人のアドバイス!
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こことは違う世界、緑広がり、大きな石積みの家が広がる場所。
王国キルエマシマャ。
その国の人々は勉学を慈しみ、知識を愛していました。
大きな一枚布を巻いたゆったりとする衣装を着た人々が行き交うのは、最も栄えた都のメインストリートです。
そんなメインストリートを二人の男がたくさんの人々に混じって歩いていました。
「それで、エクステア、どうするのだ?」。小脇に書物を抱え、ハゲた頭を撫でる男。
「さてどうしたものかね。パルトゥーン」
ほほ髭ともみあげが繋がった若い男が顎を撫でて、『歩き読み禁止』の看板を見ています。
「真面目に考えているかね?」。パルトゥーンと呼ばれたハゲの男が聞くと、エクステアは看板から視線を戻してパルトゥーンを見ました。
「いや、すまない。あれが気になってね」
エクステアが『歩き読み禁止』の看板を指さすと、「それが?」とパルトゥーンが聞きます。
「いや、歩いている時にあの看板の文字を読むのは『歩き読み禁止』に当たるのではないかと思ってね」
エクステアが言うと、パルトゥーンは深くため息を吐きました。
「はぐらかすのはやめてくれよエクステア。俺と君が話すべき内容は、『学習院生の学力差問題』だろう」
この二人はこの国の政治家です。
王の内務補佐官の一人なのでした。
この世界の人々といえばとにかく勉強が好きでした。
例えば国民の一般的な娯楽といえば数学的な思考を使ったパズルなのです。
なので勉学を学びたいという国民の要望に応えた学習院というものがそこら中にありました。
「しかしだね、学習院に入ってくる人の実力にバラつきがあると言われてもね」
学習院で今、問題となっているのは学力差です。
そもそも学習院には成人した人から文字を覚えたての子供までいました。
学力に差があり、できる人に合わせるとできない人はちっともできないままです。
ですが、できない人に合わせるとできる人が勉強できませんでした。
それをどうにかせねばなりません。
エクステアとパルトゥーンはその問題をどうにかするよう国王から仰せつかっていたのでした。
二人はあーでもない、こーでもないと話し合い、日夜議論を白熱させます。
そんな二人の議論が終わったのはある男のおかげでした。
その男は、ちょうど、噴水のある広場で、噴水際のベンチに座って二人が話し合っている時に現れます。
エクステアがその男に気付いたのは、服装がこの世界の人々と違かったらからです。
奇妙な黒い、そして体にピッタリと合った服です。
ゆったりとしたこの世界の服とてんで違いました。
不審に思ったエクステアとパルトゥーンがその男へ声をかけた所、その男は『異世界』から転移して来たのだと言うのです。
エクステアとパルトゥーンはおかしな男だと大笑いし、信じませんでした。
しかし、「行くあてがないのです。助けてください」と言うので、国家の運営する貧困者救済用の施設へ案内します。
そこは、例えば記憶喪失や親の分からぬ孤児が入るための施設でした。
そこで、エクステアとパルトゥーンは発見者として所定の書類を書きます。
どこで見つけたか? どんな状況だったか?
この書類は、身元不明者を探している人が見るので大事な書類でした。
「それで、学習院の件はどうするね?」
受付で書類に記入しているエクステアが聞きます。
パルトゥーンは羽ペンをインクにつけると、「どうしたものかね」と文字を綴るのでした。
「何かあったのですか?」
そんな二人の隣に座っている異世界の若い男が聞きます。
「学習院に入ってくる人の学力差をどうにかしなくちゃいけないのだよ。君の世界には学習院はあるかい?」
パルトゥーンが笑って聞きました。
本当に異世界人だったら、学習院のように勉強を推進する施設はないだろうと思いました。
ですが、その異世界人はにこりと笑って「学校という、若い子が勉強する場所がありますよ」と答えたのです。
「むう」
パルトゥーンは呻きました。
この世界ほど勉学を尊重する世界が他にあるでしょうか?
きっとないだろうとパルトゥーンは思っていたのですが、「どこの世界でも勉強というのは尊重されているのかね?」と酷く自尊心を傷つけられた様子でエクステアに聞くのです。
エクステアは笑って、「彼が本当に異世界人とは限らないだろう」と言いました。
「それはそうだが……」
パルトゥーンが納得できない様子で書類に目を落とした時、異世界人が「この世界に試験はありますか?」と聞きます。
「試験?」
エクステアとパルトゥーンが同時に異世界人を見ました。
「ええ、学力を測って実力別に分けるためのものです」
エクステアとパルトゥーンは同時に顔を見合わせました。
試験!
その手があったか!
というのも、学習院は誰にでも門戸を開いているものという先入観があったからです。
学習院ごとに教える内容の難しさを変えて、実力に応じて『入れなくする』という価値観がなかったのですから青天の霹靂でした。
エクステアとパルトゥーンは書類を書き上げると、異世界人を施設に預けて城へ飛ぶように戻ります。
そして、王へとそのように進言したのでした。
果たして王はその案を受け入れ、すぐに学習院の改革が行われます。
そして、頭の良い者、見識が広く深い者は高位の学習院へ。
頭があまり良くない者、知識のまだ浅い者は低位の学習院へと分けられ、問題は解決したのでした。
エクステアとパルトゥーンはこの功績で一財産が与えられます。
「なあパルトゥーンよ。これだけの財産を貰うと俺は一つ、思うところがある」
褒美を貰って三日後、パルトゥーンの屋敷に訪れたエクステアがそう言うとパルトゥーンもまた頷き、「実は俺もだ」と言うのです。
二人の思うのはあの異世界人です。
異世界の知識で問題を本当に解決したのは彼なのです。
なので二人は、この褒美のいくらかを彼に贈与し、感謝を伝えなくては気がすまなかったのでした。
さっそく二人が施設へ向かうと、施設の職員から「彼は姿を消しました」と言われます。
施設に入って翌日にはどこかへ行ってしまったと言うのです。
しかしそれを聞くと、エクステアとパルトゥーンは納得したような様子で静かに頷いて施設を出ていきました。
パルトゥーンが本を小脇に抱え、「帰った……のかも知れないぁ」と言います。
「うん。俺もそう思っていたところだよ」と、エクステアは『歩き読み禁止』の看板を見ながら言うのでした。
彼が一体何者だったのか? 本当に異世界人だったのか?
それはもう、エクステアとパルトゥーンには知るよしのない所です。
ですが、彼のおかげで学習院の問題は解決し、キルエマシマャの人々の学力はさらに大きくなって行くことでしょう。それは間違いない話なのでした。
——やがて、学習院で使われていた試験は色々な仕事にも使われるようになりました。
今まで、この国での採用方法といえば議論や会話を通して雇う人を決めていたのです。
ですが、これはどうしても店主の主観的な判断が入ってしまいます。
なので試験を行うことで客観的にして公平な選別が行われるようになったのです。
人々は口々に言いました。「勉強はしやすくなって、職業は公平性を得た。良い時代になったものだ」と。
……そう思われましたが、すぐに新たな問題がありました。
それは、全ての勉学が試験に出るかどうかで価値判断されるようになってしまったことでした。
勉学を慈しみ、知識を愛していた人々の姿は今となっては昔の話です。
何でもかんでも手当り次第に勉強し、新たな知識を考えた彼らの姿は……もう、ありませんでした。
良い学習院に入って、良い仕事につくことが重要視されるようになったのです。
人々は試験に出てくる問題かどうかで知識を学ぶか選びました。
以前のような、哲学的な話を通して新しい発見をしようとしても、「それが社会に出て何の役に立つの?」と、むしろ馬鹿にされるのです。
人々は知識を得て、その知識を使うことを忘れました。
知識を得たら試験さえクリアすれば良い。そう考えるようになったのです。
学力は確かに上がりましたが知識を使うことをすっかり忘れてしまったのです。
かつては誰も彼もが手当り次第に読書をしていたために掲げられていた『歩き読み禁止』の看板も、今ではすっかりインクが落ちて掠れていました。
そんなある日、隣の王国ロルマャがキルエマシマャへと攻めて来たのです。
キルエマシマャは抵抗しました。
ですが、なぜか負け続けます。
なぜなら、今までのキルエマシマャの強味とはその広い知識と深い知性が全ての国民に行き渡っていたことでした。
ですが、今となってはその強味は消え、人々は自分で考えるよりも与えられた指示を覚える方が得意になってしまったのです。
上の人は「今までこういう指示を出してきたから、今回も分かるだろう」といい加減な指示をするようになりました。
どうやったら分かりやすく伝えられるのだろうかと考えなくなったのです。
下の人も、「今までこういう指示だったから、こう動けば良いだろう」と過去のできごとをなぞるようになって、自分で考えなくはったのです。
考えることができず、臨機応変に動けなくなったキルエマシマャは酷い惨敗を喫し続けます。
なまじっか以前のキルエマシマャ人が優秀だったばっかりに……です。
以前なら指揮官の一人一人が明瞭な指示を飛ばして、兵士の末端までいざと言う時に自分で考えてきただけに、指揮官は曖昧な指示を飛ばすし兵士は言われた事しかできなくなった現状に対応できなくなったのでした。
こうして、キルエマシマャは滅んでしまうのです。
エクステアとパルトゥーンも城へと突入した敵に捕まり、処刑される事となりました。
敵兵士に絞首台へと連れてかれる二人は、「何が良くなかったのだろうか」と死の迫るその時まで哲学に耽ります。
哲学を失ったキルエマシマャ、最後の哲学でしょう。
絞首台への階段を登るパルトゥーンは「試験というものは良かったのだ。それだけは間違いない」と断言します。
エクステアも頷きました。
その首にロープが掛けられると、「試験自体は良かったが、我らは価値観を学力だけに頼り過ぎたのかもしれない」とエクステアが答えます。
「そうだなエクステア。学力は価値判断の一つでしかなかったのだ」
「うん、パルトゥーン。思えば、学力の必要ないあらゆる仕事まで学力を重視する試験を行っていた時点で、この異様なまでの学力偏重社会の弱点に気付くべきだったのだな」
「そうだな」
二人の会話はそこで終わりました。
次の言葉を発する前に足下の板が開いて二人の体が落ちたからです。
伸びたロープに首の骨がへし折れる直前、エクステアはあの異世界人を見ました。
処刑を見学する聴衆たちより高い段上。
ロルマャの将軍を始めとした敵国の偉い人達の中に、この世界の人々と同じゆったりとした服を着たあの異世界人がいたのです。
エクステアは死の目前、異世界人の口の動きを見ました。
「異世界なんてあるわけないだろ」と。
——ああ、そうか。異世界人なんて嘘で、最初からロルマャの計画だったのだな——
エクステアとパルトゥーンは死に、国は滅びました。
王国キルエマシマャ。
その国の人々は勉学を慈しみ、知識を愛していました。
大きな一枚布を巻いたゆったりとする衣装を着た人々が行き交うのは、最も栄えた都のメインストリートです。
そんなメインストリートを二人の男がたくさんの人々に混じって歩いていました。
「それで、エクステア、どうするのだ?」。小脇に書物を抱え、ハゲた頭を撫でる男。
「さてどうしたものかね。パルトゥーン」
ほほ髭ともみあげが繋がった若い男が顎を撫でて、『歩き読み禁止』の看板を見ています。
「真面目に考えているかね?」。パルトゥーンと呼ばれたハゲの男が聞くと、エクステアは看板から視線を戻してパルトゥーンを見ました。
「いや、すまない。あれが気になってね」
エクステアが『歩き読み禁止』の看板を指さすと、「それが?」とパルトゥーンが聞きます。
「いや、歩いている時にあの看板の文字を読むのは『歩き読み禁止』に当たるのではないかと思ってね」
エクステアが言うと、パルトゥーンは深くため息を吐きました。
「はぐらかすのはやめてくれよエクステア。俺と君が話すべき内容は、『学習院生の学力差問題』だろう」
この二人はこの国の政治家です。
王の内務補佐官の一人なのでした。
この世界の人々といえばとにかく勉強が好きでした。
例えば国民の一般的な娯楽といえば数学的な思考を使ったパズルなのです。
なので勉学を学びたいという国民の要望に応えた学習院というものがそこら中にありました。
「しかしだね、学習院に入ってくる人の実力にバラつきがあると言われてもね」
学習院で今、問題となっているのは学力差です。
そもそも学習院には成人した人から文字を覚えたての子供までいました。
学力に差があり、できる人に合わせるとできない人はちっともできないままです。
ですが、できない人に合わせるとできる人が勉強できませんでした。
それをどうにかせねばなりません。
エクステアとパルトゥーンはその問題をどうにかするよう国王から仰せつかっていたのでした。
二人はあーでもない、こーでもないと話し合い、日夜議論を白熱させます。
そんな二人の議論が終わったのはある男のおかげでした。
その男は、ちょうど、噴水のある広場で、噴水際のベンチに座って二人が話し合っている時に現れます。
エクステアがその男に気付いたのは、服装がこの世界の人々と違かったらからです。
奇妙な黒い、そして体にピッタリと合った服です。
ゆったりとしたこの世界の服とてんで違いました。
不審に思ったエクステアとパルトゥーンがその男へ声をかけた所、その男は『異世界』から転移して来たのだと言うのです。
エクステアとパルトゥーンはおかしな男だと大笑いし、信じませんでした。
しかし、「行くあてがないのです。助けてください」と言うので、国家の運営する貧困者救済用の施設へ案内します。
そこは、例えば記憶喪失や親の分からぬ孤児が入るための施設でした。
そこで、エクステアとパルトゥーンは発見者として所定の書類を書きます。
どこで見つけたか? どんな状況だったか?
この書類は、身元不明者を探している人が見るので大事な書類でした。
「それで、学習院の件はどうするね?」
受付で書類に記入しているエクステアが聞きます。
パルトゥーンは羽ペンをインクにつけると、「どうしたものかね」と文字を綴るのでした。
「何かあったのですか?」
そんな二人の隣に座っている異世界の若い男が聞きます。
「学習院に入ってくる人の学力差をどうにかしなくちゃいけないのだよ。君の世界には学習院はあるかい?」
パルトゥーンが笑って聞きました。
本当に異世界人だったら、学習院のように勉強を推進する施設はないだろうと思いました。
ですが、その異世界人はにこりと笑って「学校という、若い子が勉強する場所がありますよ」と答えたのです。
「むう」
パルトゥーンは呻きました。
この世界ほど勉学を尊重する世界が他にあるでしょうか?
きっとないだろうとパルトゥーンは思っていたのですが、「どこの世界でも勉強というのは尊重されているのかね?」と酷く自尊心を傷つけられた様子でエクステアに聞くのです。
エクステアは笑って、「彼が本当に異世界人とは限らないだろう」と言いました。
「それはそうだが……」
パルトゥーンが納得できない様子で書類に目を落とした時、異世界人が「この世界に試験はありますか?」と聞きます。
「試験?」
エクステアとパルトゥーンが同時に異世界人を見ました。
「ええ、学力を測って実力別に分けるためのものです」
エクステアとパルトゥーンは同時に顔を見合わせました。
試験!
その手があったか!
というのも、学習院は誰にでも門戸を開いているものという先入観があったからです。
学習院ごとに教える内容の難しさを変えて、実力に応じて『入れなくする』という価値観がなかったのですから青天の霹靂でした。
エクステアとパルトゥーンは書類を書き上げると、異世界人を施設に預けて城へ飛ぶように戻ります。
そして、王へとそのように進言したのでした。
果たして王はその案を受け入れ、すぐに学習院の改革が行われます。
そして、頭の良い者、見識が広く深い者は高位の学習院へ。
頭があまり良くない者、知識のまだ浅い者は低位の学習院へと分けられ、問題は解決したのでした。
エクステアとパルトゥーンはこの功績で一財産が与えられます。
「なあパルトゥーンよ。これだけの財産を貰うと俺は一つ、思うところがある」
褒美を貰って三日後、パルトゥーンの屋敷に訪れたエクステアがそう言うとパルトゥーンもまた頷き、「実は俺もだ」と言うのです。
二人の思うのはあの異世界人です。
異世界の知識で問題を本当に解決したのは彼なのです。
なので二人は、この褒美のいくらかを彼に贈与し、感謝を伝えなくては気がすまなかったのでした。
さっそく二人が施設へ向かうと、施設の職員から「彼は姿を消しました」と言われます。
施設に入って翌日にはどこかへ行ってしまったと言うのです。
しかしそれを聞くと、エクステアとパルトゥーンは納得したような様子で静かに頷いて施設を出ていきました。
パルトゥーンが本を小脇に抱え、「帰った……のかも知れないぁ」と言います。
「うん。俺もそう思っていたところだよ」と、エクステアは『歩き読み禁止』の看板を見ながら言うのでした。
彼が一体何者だったのか? 本当に異世界人だったのか?
それはもう、エクステアとパルトゥーンには知るよしのない所です。
ですが、彼のおかげで学習院の問題は解決し、キルエマシマャの人々の学力はさらに大きくなって行くことでしょう。それは間違いない話なのでした。
——やがて、学習院で使われていた試験は色々な仕事にも使われるようになりました。
今まで、この国での採用方法といえば議論や会話を通して雇う人を決めていたのです。
ですが、これはどうしても店主の主観的な判断が入ってしまいます。
なので試験を行うことで客観的にして公平な選別が行われるようになったのです。
人々は口々に言いました。「勉強はしやすくなって、職業は公平性を得た。良い時代になったものだ」と。
……そう思われましたが、すぐに新たな問題がありました。
それは、全ての勉学が試験に出るかどうかで価値判断されるようになってしまったことでした。
勉学を慈しみ、知識を愛していた人々の姿は今となっては昔の話です。
何でもかんでも手当り次第に勉強し、新たな知識を考えた彼らの姿は……もう、ありませんでした。
良い学習院に入って、良い仕事につくことが重要視されるようになったのです。
人々は試験に出てくる問題かどうかで知識を学ぶか選びました。
以前のような、哲学的な話を通して新しい発見をしようとしても、「それが社会に出て何の役に立つの?」と、むしろ馬鹿にされるのです。
人々は知識を得て、その知識を使うことを忘れました。
知識を得たら試験さえクリアすれば良い。そう考えるようになったのです。
学力は確かに上がりましたが知識を使うことをすっかり忘れてしまったのです。
かつては誰も彼もが手当り次第に読書をしていたために掲げられていた『歩き読み禁止』の看板も、今ではすっかりインクが落ちて掠れていました。
そんなある日、隣の王国ロルマャがキルエマシマャへと攻めて来たのです。
キルエマシマャは抵抗しました。
ですが、なぜか負け続けます。
なぜなら、今までのキルエマシマャの強味とはその広い知識と深い知性が全ての国民に行き渡っていたことでした。
ですが、今となってはその強味は消え、人々は自分で考えるよりも与えられた指示を覚える方が得意になってしまったのです。
上の人は「今までこういう指示を出してきたから、今回も分かるだろう」といい加減な指示をするようになりました。
どうやったら分かりやすく伝えられるのだろうかと考えなくなったのです。
下の人も、「今までこういう指示だったから、こう動けば良いだろう」と過去のできごとをなぞるようになって、自分で考えなくはったのです。
考えることができず、臨機応変に動けなくなったキルエマシマャは酷い惨敗を喫し続けます。
なまじっか以前のキルエマシマャ人が優秀だったばっかりに……です。
以前なら指揮官の一人一人が明瞭な指示を飛ばして、兵士の末端までいざと言う時に自分で考えてきただけに、指揮官は曖昧な指示を飛ばすし兵士は言われた事しかできなくなった現状に対応できなくなったのでした。
こうして、キルエマシマャは滅んでしまうのです。
エクステアとパルトゥーンも城へと突入した敵に捕まり、処刑される事となりました。
敵兵士に絞首台へと連れてかれる二人は、「何が良くなかったのだろうか」と死の迫るその時まで哲学に耽ります。
哲学を失ったキルエマシマャ、最後の哲学でしょう。
絞首台への階段を登るパルトゥーンは「試験というものは良かったのだ。それだけは間違いない」と断言します。
エクステアも頷きました。
その首にロープが掛けられると、「試験自体は良かったが、我らは価値観を学力だけに頼り過ぎたのかもしれない」とエクステアが答えます。
「そうだなエクステア。学力は価値判断の一つでしかなかったのだ」
「うん、パルトゥーン。思えば、学力の必要ないあらゆる仕事まで学力を重視する試験を行っていた時点で、この異様なまでの学力偏重社会の弱点に気付くべきだったのだな」
「そうだな」
二人の会話はそこで終わりました。
次の言葉を発する前に足下の板が開いて二人の体が落ちたからです。
伸びたロープに首の骨がへし折れる直前、エクステアはあの異世界人を見ました。
処刑を見学する聴衆たちより高い段上。
ロルマャの将軍を始めとした敵国の偉い人達の中に、この世界の人々と同じゆったりとした服を着たあの異世界人がいたのです。
エクステアは死の目前、異世界人の口の動きを見ました。
「異世界なんてあるわけないだろ」と。
——ああ、そうか。異世界人なんて嘘で、最初からロルマャの計画だったのだな——
エクステアとパルトゥーンは死に、国は滅びました。
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